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第3159号 2016年1月25日


おだん子×エリザベスの
急変フィジカル

患者さんの身体から発せられるサインを読み取れれば,日々の看護も充実していくはず……。本連載では,2年目看護師の「おだん子ちゃん」,熟練看護師の「エリザベス先輩」と共に,“急変を防ぐ”“急変にも動じない”フィジカルアセスメントを学びます。

■第1夜 呼吸数

志水 太郎(東京城東病院総合内科)


 J病院7階の混合病棟,時刻は夜10時-。今日の夜勤は,2年目ナースのおだん子ちゃんです。ラウンドの最中,女性患者が苦しそうにしているのを発見しました。患者は赤垣さん(仮名),68歳。卵巣がん(術後)の既往がある方です。大腿骨頚部骨折に対する骨頭置換術後の入院で,ちょうど今日,離床したところ。経過は順調だったはずなのに……!


(患者) 「なんか息が苦しいんです……ハァハァ……」
(おだん子) 「だ,大丈夫ですか? (ど,どうしよう)」

 急にこんな場面に出くわしたら,オロオロしたくもなりますよね。でもこういうときこそ基本に戻って,まずは病歴の把握が大切です。夜間急変といっても入院している患者さんですから,カルテを見ればすぐに患者情報はわかります(施設によっては,見回りにカルテを携帯するところもあると聞きます)。まず,目の前で急変している患者さんを見つけたときに押さえておきたいのは,下記の4つのポイントです。

急変ポイント❶
「ドクターコール“前”に押さえておきたいポイント」

⓪まずは人(助手,上級者がベター)を呼ぶ
①既往歴などの患者さんの背景情報は?
②入院理由は何か?
③現在の治療(内服薬含む)とその経過は?

 一瞬でマズいとわかる急変なら,「自分一人でなんとかしよう」と無理せずに⓪周囲の人に助けを求めるのがよいでしょう。

 その上で,ドクターコールを念頭に置いて,①-③の情報を確かめましょう。これらは,コールを受けた医師が「急がなければならない状態か,また原因(診断)が何か」を突き止めるための手掛かりの中でも最重要情報になります(入院患者のことをあまりよく知らない“非常勤のドクター”が当直している場合ではさらに重要です!)。ドクターから聞かれたとき,サッと答えられるようにしておきたい情報とも言えるでしょう。

 さて,前置きはここまで。ケースに戻りましょう。今回の赤垣さん,息が苦しそうにしていますね。「呼吸困難」の状態です。ここで先に挙げた3つのポイントに沿って,振り返りましょう。患者の赤垣さんは①卵巣がん術後(半年前)で,②大腿骨頚部骨折の手術後で,今日から離床を始めたところでした。なお,本文中にない追加情報ですが,③特に薬は飲んでいない,ようです。

 手術後に臥床していて,離床した当日に急な呼吸困難を訴えている――。「離床直後」「呼吸困難」という点から,経験豊かな看護師さんであれば,下肢静脈の血栓が肺血管に詰まった「肺塞栓症」などを考えたくなるかもしれません。しかも,半年前にがんの既往があるならなおさら。がんの既往は深部静脈血栓のリスクも高めますからね。肺塞栓症の可能性がより高まるでしょう。それでは,おだん子ちゃんはこの後どう対応するのでしょうか。経過を追ってみましょう。

(おだん子) 「(とりあえず,ベッドに腰かけて起座位になってもらって,と)。それで,ここからどうすれば……あ,エリザベス先輩!」
(エリザベス) 「あら,どうなさって?」
(おだん子) 「赤垣さんが胸を押さえて,息苦しそうに呼吸していて……」
(エリザベス) 「呼吸数はどのくらいですの?」
(おだん子) 「へっ?」

 おだん子ちゃんの前に現れたのは,J病院で“夜勤専従ナース”として働くエリザベス先輩でした。

 先輩は呼吸困難の患者さんであることを聞くと,一番に「呼吸数」を確認しました。患者の状態を把握する上では,病歴とともに,このような「フィジカルアセスメント」で得られる情報もとても重要です。身近なものを挙げれば,視診による“見た目”でわかる情報がそうですよね。つらそうなのか,悶えているのか,落ち着いて笑顔を作れるぐらいなのかといった表情。これも立派なフィジカルアセスメントになります。さらにもう一歩踏み込むと,患者の身体に積極的に触れる触診,打診,聴診などで得られる情報が挙げられます。

 こうしたフィジカルアセスメントは,器械や人手の有無に制限されず,どんな環境だろうと現場の看護師の五感だけで得られるもの。患者さんの状態をサッと察知する有効な手段とも言えるのです(もちろん,急変発生時,危険度・緊急度が高い状況なら,看護師が優先すべきことは他にもあるのも事実ですが)。

 さて,今回の「呼吸困難」は,“ある臓器に特異的な症状”です。どこの臓器だかわかりますか? そう,「肺」です。であれば,その部分によりフォーカスし,アセスメントしていくのがよいでしょう(逆に臓器が特定しづらいような症状,例えば「顔色が悪い」「言っていることがおかしい」といった訴えに対しては,身体のどこかワンポイントに絞って観察するより,全体的な外観を観察することが大事)。だからエリザベス先輩も呼吸困難の患者を見て,「呼吸器(肺)に問題があるかもしれない」と察知し,まずは「呼吸数」をチェックしようと考えたわけですね。

(おだん子) 「呼吸数を測るのであれば,ええっと時計が必要だから……」
(エリザベス) 「いやねぇ,あなたは学生? 呼吸数なんて一瞬で判断するものですってよ!」

エリザベス先輩のキラキラフィジカル❶
「瞬間呼吸数チェック」

① 1秒で「アイウエオ」を言えるようにする
② 1回の呼吸の間に何回アイウエオが入るかを数える
③ 60をその回数で割るとそれが呼吸回数

(おだん子) 「(あいうえお,あいうえお)……! [60÷2]だから30回くらいでしょうか?」
(エリザベス) 「そう,30回よ」

 エリザベス先輩の紹介した「瞬間呼吸数チェック」。この方法は,ざっくりと患者さんの状態像を把握するために有効な手段です。まず,呼吸数の基準値は,「15回程度/分」と言われています。ですから,赤垣さんの30回は非常に多く,何らかの異常があると判断できます。じゃあ呼吸数が21回/分や22回/分だったらって? それなら,あまり大きな問題ではないかもしれません。実はここで強調したいのは,“呼吸数が30回を数えるくらい多かった”ということです。

 というのも,医師にとって,呼吸数は患者の状態をとらえる一つの情報源なのです。コールを受けたとき,もし看護師から「呼吸数は30回くらい」と言われたら,「呼吸状態がまずい!」と一瞬で判断できます。ちなみに30回以上なら原因もそれほど多くなく,危険な状態に絞られます。緊急度が高く,かつ頻度が高いものに絞ると,①敗血症,②低酸素血症(肺塞栓や心不全),③疼痛でしょう。なお,不安感でも呼吸数は上がりますが,軽視することなく伝えましょう。医師が重篤な状況を想定できるように伝えるわけですから,呼吸数を報告すること自体に意味があるのです

(おだん子) 「SpO2は84%。指を変えて測り直しても一緒なので,明らかに異常です!」
(エリザベス) 「ひどい低酸素ね。胸の音は……特にクラックル(ラ音)は聞こえないわ。肺の音がきれいだとすると……やっぱり“アレ”かしらね。とりあえず,すぐにドクターコールが必要よ。私が連絡するから,あなたは今のうち酸素投与なさって!」
(おだん子) 「はい! (先輩は聴診器まで……手際がすごい!)」

 エリザベス先輩はすぐに夜勤のドクターにコール。68歳のがん既往のある女性,大腿骨頚部骨折の手術離床後の急な呼吸困難と胸痛,呼吸数30回/分程度でSpO2も低下。さらに聴診上は正常肺胞音であることから,「急性肺塞栓を疑っている」ことまで電話口で伝えました。当直の医師はすぐに駆けつけ,点滴,採血,心エコーを行い,エリザベス先輩のアセスメントどおり,急性肺塞栓症を疑って造影CTを施行。そのまま確定診断となり,治療が開始されました――。

 今回のポイントは,「呼吸困難」を見たら呼吸数をチェックするということです。瞬間呼吸数チェックを紹介しましたが,この「見て,すぐ回数を判断する」ということを繰り返すと,自然と「30回以上か否か」を判別することはもちろん,大体の回数まで見た瞬間に把握できるようになるはずです。身につけることで,患者さんの状態像がよりクリアに見えてくると思いますよ。

 現場では「時計を使って測るから時間がかかる」「SpO2で代用できる」と思われているからか(?),呼吸数は他のバイタルサインほど測定されていなかったり,記録されていなかったり,ということが見受けられます。しかし,SpO2が98%で呼吸数が40回/分だったら,大丈夫とは言えませんよね。呼吸数抜きの報告では,危険な状態を見落としかねません。呼吸数は大切なバイタルサインの一つです。脈拍や血圧と同じく,呼吸数も大事にしてあげてください。

 さて,第1夜はいかがでしたか? 本連載では,急変例に加え,「一見重症そうには見えないけど実は急いで対応すべき例」を通し,フィジカルアセスメントのポイントを解説していきます。看護師によるフィジカルアセスメントが治療やケアに資する点で重要なのは言うまでもありません。しかしそれ以上に,患者さんの発するささやかなサインに気付き,身体に触れることで安心と優しさを届けるという点で,実にナースらしい技術だと考えています。これから,そんな“キラキラ”と光るフィジカルアセスメントの技を紹介していきます。どうぞお楽しみに☆

おだん子のメモ

1月25日
●呼吸困難を見たら,呼吸数も要チェック!
●エリザベス先輩はすごい。今後も先輩の技に注目していこうと思う。

つづく


しみず・たろう
2005年愛媛大医学部卒。江東病院,市立堺病院,米国カリフォルニア大サンフランシスコ校,カザフスタン・ナザルバイエフ大,練馬光が丘病院を経て,14年より現職。11年米国エモリー大ロリンス公衆衛生大学院MPH,12年豪州ボンド大MBA修了。臨床業務と並行し,ベッドサイド教育を重視した臨床教育に注力する総合診療医。

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