医学界新聞

連載

2014.12.15



ユマニチュード通信

[その6(最終回)]目で語る,手で語る,声のトーンで語る

認知症ケアの新しい技法として注目を集める「ユマニチュード」。フランス発の同メソッドを日本に導入した経緯や想い,普及に向けての時々刻々をつづります。

本田 美和子(国立病院機構東京医療センター総合内科)


前回よりつづく

 2012年の夏から始まった日本でのユマニチュードの研修を通じて,より良いケアを実践したいという看護師の仲間が徐々に増えてきました。自分たちのこれまでの経験を語ることから始まり,看護や介護の歴史を振り返り,ケアをする人とは何者か,ケアとは何か,という観点から自分の仕事の内容を考え直し,理論に基づいて新たなケアの技法を学ぶ。こうした研修は,実際にベッドサイドで患者さんを対象にしたケアを行い,その結果をみんなで振り返るという過程を経ることで,実践者としてのトレーニングを重ねることができるよう工夫されています。

 研修を終えた看護師さんは自分の職場で実際にケアを行うことでその技術を磨き,再び研修に戻って次のステップを学ぶ,という経験を重ねました。このようにしてユマニチュードの基本を身につけ,実際のケアの現場で適切な技術を選択して実践することができる看護師さんが日本にも誕生し始めました。また,研修生の中から選抜された看護師さんは,2013年の冬にはジネスト先生の前でのケアの実践,ユマニチュードの内容に関する口頭試問,さらには教育用資材を利用して自分で講義を行う試験など,3段階のインストラクター選考試験を受験する機会を得ることになりました。

 この一連の試験に合格した7人の看護師さんが,日本で初めてのユマニチュード・インストラクターとして認定されました。インストラクターは自施設はもちろん,招聘された医療・介護施設での指導を行うことができ,また講演活動もできます。ケアの内容の質の担保の点から,この資格を持っていない方々によるユマニチュードに関する教育活動はフランスの本部から許されておりません。今後はこのような日本の指導者を養成することも重要になってくると考えています。

 

 今年の夏,ユマニチュードを学んでいる看護師さんたちが,フランスを訪れました。ユマニチュードを導入している南フランスのリハビリテーション専門病院と高齢者介護施設の2か所を訪問する旅です。今回の旅の特徴は,単に施設を見学するのではなく,2人ずつのグループに分かれ,フランスの看護師・介護士の方々と一緒に実際のケアに参加する機会を持ったことでした(写真)。残念ながらフランス語は誰も話すことができません。しかし,フランスの看護師さん,介護士さんと共に行うケアの内容は,日本で行っていることと同じです。私は当初,うまくいくだろうかと少々心配していました。しかし,そんなことは全くの杞憂であることがすぐにわかりました。看護師さんたちは,とても自然に,そして堂々と優しくケアを行っていきました。とりわけ驚いたのは,ケアを行う者が掛ける言葉が日本語であっても,目で語り,手で語り,そして声のトーンや調子で語ることで,その意図は十分にフランスの患者さんたちに伝わるのだ,ということでした。

 高齢者介護施設は南フランスの世界遺産に選定された街の中心にあります。入居者の方々の散歩に同行したこともとてもよい思い出になりました。街を訪れる観光客や,街に住む方々と施設にお住まいの方々がごく自然にコミュニケーションをとれるような工夫も随所に見られ,今後の日本の街づくりにも参考になることをたくさん学んだ旅となりました。

 

 さて,ユマニチュードを学びたいというご要望を広くいただくようになり,私が勤務する東京医療センターで継続的に研修を実施することが,多くの方々のご支援によって実現することになりました。2015年の1月に第1回目の研修が開催される予定です。高齢者に限らず,何らかの手助けを必要とする方々へケアを提供することについて,単に技術的な内容にとどまらず,「ケアをする人とは何者か」という考えに常に立ち返りながらケアを学べる機会にしていきたいと考えています。優しさを伝える技術は,どなたでも学ぶことができます。これから始まる研修が,高齢社会を迎えた日本で,必要とされるケアの質の向上を図るための一助となればうれしいと思っています。

(了)


i】ユマニチュードに関するお知らせを,ジネスト・マレスコッティ研究所日本支部のウェブサイトから発信しています。

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