医学界新聞

連載

2014.06.02

在宅医療モノ語り

第50話
語り手:液体と固体を全力でキャッチ 
介護用オムツさん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりであるが,往診鞄に特別な関心を持ち全国の医療機関を訪ね歩いている。往診鞄の中を覗き道具を見つめていると,道具(モノ)も何かを語っているようだ。今回の主役は「介護用オムツ」さん。さあ,何と語っているのだろうか?


意外にも選択肢は豊富
あるドラッグストアでは,私と仲間はこんな感じで陳列されています。選択肢が多くなるほど,サイズとニーズに合った私と出会うのは至難の業。専門職にもぜひアドバイスをもらってください。
 赤ちゃんのお尻がテレビコマーシャルでアップになっても不快に感じないのは不思議ですね。なんというもち肌,柔らかいんだろうな,なんだか懐かしいな,そんな気持ちになる人もいるのではないでしょうか? 赤ちゃんも人間なので出されるモノは大人と同じだと思いますが,イメージはかなり違います。

 私は介護用オムツで,主に大人が対象です。紙オムツと呼ばれることもありますが,最近のモノは高性能で,素材は紙だけではありません。私は人間さまが不要になって出されたモノを確実に受け止める使命があります。液体の場合も固体の場合も,あるいは両方の場合もあり,受け止めた後はそのまま一緒に捨てられる運命です。人間の世界では,液体を尿,固体を便と言っているようですね。1回で排出される量やその頻度は,かなり個人差があるように思います。

 私たちの種類は大きく分けてリハビリパンツとも呼ばれ,ゴムのパンツ型とテープ型の2種類があります。パンツ型は動ける方,トイレに行ける方にお勧めです。トイレに行くけど間に合わない,人間のほうで制御が難しい場合にご使用いただきます。一方で,ベッドに寝ている時間が長くてトイレに行けない方や,私の交換を他人が行わなければならない方の場合であればテープ型がお勧めです。腰周りのテープで着脱するので,調節もでき,繰り返しの交換にも対応しやすいのです。

 先日テープ型の仲間がお会いした人は,固体のほうが出てこなくてお悩みでした。在宅主治医からゲザイと称して,便を柔らかくするお薬や腸の動きをよくするお薬を処方されましたが,うまくいかなかったようです。その日は座薬を入れてもらったり,看護師さんに肛門付近を押してもらったりしてもダメで,結局,指を穴に入れてもらい,固体を壊しながらかき出してもらったそうです。その後,仲間はその個体と一緒に丸められ,さらに新聞紙に包まれ捨てられました。

 もちろん液体に関しても,一滴も漏らさず受け止めたいと思っています。最近では「尿とりパット」さんとの協働作業が多くなっています。内側で小さなパットさんが頑張って確実にキャッチしてくだされば,パットさんを包む大きな私は綺麗なままでいられます。するとパットさんだけの交換で済むため,かかる手間もコストも小さくなるのです。

 「最近おばあちゃん,失敗が多くてね。この季節でしょ,匂いも強いんですよ」。玄関先で,在宅チームは介護するお嫁さんに呼び止められました。「でも,オムツを使ってと私から頼んだらカドが立つでしょう?」。確かに,言うほうも言われるほうもきついでしょうね。小声での相談が続きます。「最新のパンツ型オムツは薄くてムレないし,肌触りもいいらしいですよ」。自分で試したわけでもないのに医療者は無責任なことを言います。「オムツと呼ばず,使い捨てパンツとして,布製の下着と一緒に引き出しに入れてみたらいかがですか?」。チームの誰かがアイデアを出しました。「それいいわね,やってみます」。2週間後の訪問診療で,玄関先からまた会話が聞こえてきました。「参りました。使ってくれたけど,使用後のオムツが洗濯カゴに入れてあって,一緒に洗っちゃったの」。なるほど。「使い捨てでいいんだよと言っても,ほうら,なんでも大事にする人でしょ?」。そうですねえ,と皆でうなずき合いながら,新たな知恵をまた絞っていました。

つづく

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