医学界新聞

2014.04.14

Medical Library 書評・新刊案内


《眼科臨床エキスパート》
オキュラーサーフェス疾患
目で見る鑑別診断

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
西田 幸二,天野 史郎 編

《評 者》坪田 一男(慶大教授・眼科学)

角膜疾患診療に自信を持てるようになる教科書

 本書は角膜分野の診療を切り開いてきた阪大眼科と,東大眼科が総力を挙げて作った「オキュラーサーフェス疾患」の教科書である。西田幸二教授,天野史郎教授の情熱が伝わる力の入った書となっている。タイトルに「目で見る鑑別」とあるように,鮮明な写真が豊富に使われており,ひと目で疾患が理解できるように構成されている。また内容も具体的な鑑別に加えて,実際の治療まで懇切丁寧に書かれているので,日々の臨床に大いに役立つこと間違いない。

 従来は「角膜疾患」としてひとくくりにされていた眼表面疾患だが,最近では「オキュラーサーフェス疾患」として一つの独立した分野として認識されるようになった。涙腺から涙液が分泌され,眼瞼による正常な瞬目によって涙液が眼表面に供給され,そして涙道から排出されるダイナミックな側面も重要な一つの概念になっている。そして角膜および結膜上皮とそれを定常的にサポートするそれぞれのステムセルに,ゴブレットセルなどの機能細胞群が互いに助け合ってオキュラーサーフェスの健常性を維持しているのである。それぞれの機能の一つでも破綻するといわゆる“病態”となるわけだが,オキュラーサーフェスの診断においては,どの部分が破綻しているのかをしっかりと把握する必要がある。

 本書では西田教授,天野教授のしっかりとした診療への哲学の下に考え方も整理されており非常にわかりやすい。また本教科書では最新のオキュラーサーフェスの概念をいち早く取り入れており,現在最も臨床に役立つテキストと言えるだろう。例えばドライアイの領域では,涙液の層別診断,層別治療の概念が既に記されており,非常にアップデートな内容となっている。

 以上のように,オキュラーサーフェス疾患の教科書として素晴らしいものだが,さらには「角膜」の教科書としても成り立つほど,実質,内皮疾患の記載まで丁寧に記載されている。本教科書一冊があれば,オキュラーサーフェス疾患ばかりでなく,角膜疾患全般に対して自信を持って診療にあたれるようになると思う。研修医の先生方から実地臨床医家の先生方,そして角膜を専門とする先生にもお薦めの一冊である。

B5・頁320 定価:本体15,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01873-9


認知症ハンドブック

中島 健二,天野 直二,下濱 俊,冨本 秀和,三村 將 編

《評 者》朝田 隆(筑波大教授・精神病態医学)

初心者から熟達者まで座右の書として薦めたい

 私は多少とも医学書出版の企画に関与した経験から,「類書がない」ということが新しい企画が審査委員会をパスする重要要件だと知った。ところが近年の認知症本はやりともいえる状況においては類書だらけである。大型書店の認知症コーナーに立つと,多くの編集・企画者は「似たものをどうやって差別化するか?」に相当な努力をされているなという印象さえ抱くようになっていた。つまり個性の乏しい認知症関連書籍の出版がこの数年多過ぎるのではないかと思っていたのである。

 ところが本書はその印象を久々に打ち破ってくれた。まず認知症時代にマッチしたエンサイクロペディア風に仕上がっている。すなわち認知症を扱う医学書としての基本は踏襲しつつ,従来の書では記載の乏しかった多職種の連携や介護保険制度といった地域ケアのポイント項目もしっかりと扱われている。認知症医療に携わる者が「はてな?」と思ったときに,すべての疑問に応じられる漏れのない目配りがなされている。また4大認知症(アルツハイマー型認知症,血管性認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭葉変性症)とよく言われるが,本書ではそれ以外の変性疾患や感染症による認知症も詳述してある。こうした点は,初学者はもとより専門医にとってもありがたい。さらに本書の執筆者はこれまでの成書の執筆者に比べて若く気鋭の先生が多い。それだけに発想や記述が新鮮である。

 さて,本書の最大の特長は,各疾患の一般的な記述の後に,「患者・家族への指導・アドバイス」と「看護師・コメディカルなどへのアドバイス」というユニークなコーナーが設けられていることだろう。臨床家にとってこのようなアドバイスは日常的な行為であるはずなのだが実は容易でないだけに,何ともありがたい。恐らくはこのようなコーナーを設けた「類書はない」だろう。

 認知症臨床にかかわられる方なら,初心者から熟練者まですべての医師に座右の書として本書をぜひともお薦めしたい。

A5・頁936 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01849-4


ジェネラリストのための内科診断リファレンス
エビデンスに基づく究極の診断学をめざして

酒見 英太 監修
上田 剛士 著

《評 者》林 寛之(福井大病院教授・総合診療部)

後期研修医にお薦め『生きた』知識の内科診断リファレンス

 これだけのボリュームを一人で書きあげるなんて驚愕の事実! なにしろこれでもかこれでもかとコンパクトにエビデンスが書き連ねてある。

 特筆すべきは症候学や疾病各論のみならず,日本の現状に合わせたテーラーメイドな解説が微に入り細に入り記載されていることだ。エビデンスというと,どうしても「『では』の神」(アメリカでは~,アメリカでは~)となってしまうところだが,多くの海外の論文を参考にしながら,日本で医療をしていくにはどうしたらいいのかがきちんと書いてある。また単純に事実の羅列にとどまらず,上田剛士先生による「解釈」が入っており,『生きた』知識になっている。大学教授が机上でこねくり回した机上の知識じゃないのがいい。……って大学教授が言っちゃっていいのかしらン??

 上田先生の単著によるところが何より素晴らしい。グタグタと長ったらしい記載が一切なく,わかりやすい。紙面も見やすく,エッセンスをギュッと詰めた感じでありながらも,単著ならではの統一性があり読みやすい。本書を上梓するまで7年かかったというが,血と涙と努力の結晶ということがすぐにわかる。上田先生の日頃からの勉強姿勢に頭の下がる思いだ。

 特に日本のさまざまな場において専門医研修を積んでいる後期研修医にぜひ本書をお薦めしたい。忙しさにかまけてどうしても経験則的な診断や治療に陥りがちな落とし穴にはまらないためにも,世界のスタンダードはどうなっているのか,エビデンスとしてはどこまでわかっていることなのかを確認しつつ,臨床をこなしていくと必ず血や肉となって力がついてくる。病院の徒弟制度もそれはそれで力がついていいが,世界に目を向けて勉強する姿勢は本書から学ぶことができる。その道標を上田先生が示してくれるとも言える。まさしく本書にさらなる新しいエビデンスを後期研修医自身が書き加えて,自分の臨床にあったデータベースを歳月をかけて作り,本書と共に成長していくことができる。近年まれにみる良書だ。

 内科にとどまらずマイナー科や整形外科,産婦人科にも言及している点でまさしく総合的に役立つ書と言えよう。当直で専門外を見ないといけない当直医にとっても十分役に立つ。初期研修医なら勉強会の資料作りに役に立つし,各分野の専門医なら自分の専門領域の知識の整理のみならず,自分の不得意とする分野の復習,さらなる勉強に非常に役に立つこと請け合いだ。とにかく紙面は読みやすく,専門医の貴重な時間を無駄にはしない満足のリファレンスになっている。ぜひ一度手に取ってみてほしい。簡単に通読できる厚さではないが,それ以上の見返りが必ずあるはずだ。

B5・頁736 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-00963-8


米国SWOGに学ぶ
がん臨床試験の実践
第2版(原書第3版)

Stephanie Green,Jacqueline Benedetti,Angela Smith,John Crowley 著
JCOGデータセンター 訳
福田 治彦 訳者代表

《評 者》北川 雄光(慶大教授・外科学/同大腫瘍センター長)

がん臨床試験における行動哲学を学ぶために必携の書

 SWOG(The Southwest Oncology Group)は,1956年に創設され,400以上の医療機関,延べ4000人以上の医師が臨床試験に参加し,2000を超える学術発表を行ってきた米国最大のがん臨床試験グループである。本書は,SWOGの統計家が臨床医に向けて発刊した臨床試験方法論の解説書の和訳書第2版であり,訳者は,国立がん研究センター多施設臨床試験支援センター長,福田治彦氏を代表とするJCOG (Japan Clinical Oncology Group)データセンターのメンバーで構成されている。JCOGは1978年に発足し,現在16研究グループ,約200の医療機関が参加するわが国最大のがん臨床試験グループである。したがって本書は,わが国最大のがん臨床試験グループJCOGが最も信頼を寄せ,同様の「哲学」を共有すると考えている米国SWOGの臨床試験方法論を渾身の力を込めて紹介した教科書であるといえよう。

 原書では,「conservativeな」行動哲学が一貫して貫かれている。この厳格なポリシーは訳者が序文で紹介しているように,「真にはよくないものをよいと誤って判断する偽陽性の誤りを小さくすることを優先する立場」であり,分子標的薬をはじめとする高額な薬剤が相次いで開発されるがん臨床試験の現場では極めて重要な哲学といえる。本書は単なる統計学的方法論の解説書ではなく,臨床試験を立案遂行する上でのまさに行動哲学を示した骨太の教科書となっている。この第2版(原書第3版)では,分子標的薬の試験デザインの特殊性などに関する新たな記述が加わり,臨床試験方法論は,時代の趨勢,要請に応えて刻々と進化するものであることを痛感させられる。

 本書の傑出した信頼性を支えているのは,原書の厳格な記述のみならず,訳者の厳密なまでに原著に忠実な和訳と綿密な推敲である。翻訳に際して,さまざまな用語を原書の主旨を忠実に読み解いて厳密に定義し,原書よりもむしろ明確な使い分けがなされている。例えば,原書において単に「survival」と表現されている場合,広義の概念を包含する「survival time」を意味する場合には「生存時間」と訳し,「overall survival」を意図した表現の場合には「生存期間」と翻訳されている。まさに,臨床試験方法論のプロならではの厳密な翻訳といえよう。

 随所にみられる訳注からは,訳者らの究極の「こだわり」が伝わってくる。原書では各章の冒頭に,象徴的なエピソードや意味深な名言が掲げられている。その意味するところを読み解くために読者は各章の記述に吸い寄せられていくという粋な構成になっている。時には日本人に馴染みの薄いキリスト教社会の慣用的表現などが登場するが,訳者は丹念な調査の上で,正確な訳注を加え,原書の格調を損なうことなく読者の理解を導いてくれている。統計用語にはあえて原語が併記され,読者が国際舞台において英語で討論する際や,論文を執筆する際の大きな助けとなっている。

 教育機関,センター施設でacademicな活動に携わる臨床医にとって基礎研究業績を積み重ねることも重要であるが,最終目標である「よりよい治療を届ける」ためには研ぎ澄まされた「臨床研究機能」を体得することが必須であり,最重要な要素であることは言うまでもない。本書は,これから日本のがん臨床試験に携わるすべての若手臨床医が正確なエビデンスを世界に向けて発信するための道標となる必携の書であると考える。評者自身は,早速本学のがんプロフェッショナル養成コース大学院生たちのために本書を購入したが,その後,本書印税がJCOG運営資金に充てられると聞いて,臨床試験方法論の「布教」のために労を惜しまない訳者らの決意と献身にあらためて感服した次第である。

B5・頁256 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01864-7

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