認知症ハンドブック

もっと見る

今やその患者数が国内で300万人を超える認知症。その診療の現場で必要となる情報を網羅した実践書が遂に完成。診断や薬物療法・非薬物療法、リハビリやケアなど、臨床家が知っておきたい知識を 「認知症疾患治療ガイドライン」 の内容に沿って解説。また基礎研究に関する情報もポイントを整理してコンパクトに紹介しており、まさに「臨床のエンサイクロペディア」と呼ぶにふさわしい1冊。
編集 中島 健二 / 天野 直二 / 下濱 俊 / 冨本 秀和 / 三村 將
発行 2013年11月判型:A5頁:936
ISBN 978-4-260-01849-4
定価 11,000円 (本体10,000円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く



 わが国における認知症者数がこれまで予想されていた以上に増加していることが明らかになり,社会的関心も増大している.2012年9月に「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」も示され,行政の取り組みも進められてきている.一方,血管性危険因子の管理の進歩などもあって,欧米では認知症発症率がすでに低下した可能性を指摘する報告もあり,わが国においても認知症発症抑制が期待される.認知症の病因・病態・原因蛋白などに関する基礎研究の進歩は目覚ましく,画像検査・バイオマーカーなどの診断の発展や治療薬の進歩なども含め,認知症医療が大きく変貌しようとしている.
 2011年にNational Institute on AgingとAlzheimer’s Association(NIA-AA)により新しい診断基準が示された.アルツハイマー病は,その病理学的状態を指す場合と,認知症症状が明らかになった臨床症候群に対して用いる場合がある.NIA-AAの診断基準では,アルツハイマー病は根底にある病態生理学的過程を包含する用語として定義され,その病態に基づく臨床的な認知症であるAlzheimer disease dementiaや軽度認知障害mild cognitive impairment(MCI due to AD)のみならず,臨床的に認知症を示さないpreclinicalな段階をも含めた用語として提案されている.わが国では認知症の臨床的状態に対してはアルツハイマー型認知症の用語が用いられてきており,本書ではアルツハイマー病による認知症症状を示す臨床的状態をアルツハイマー型認知症Alzheimer’s disease(AD)として表記した.また,わが国では痴呆から認知症に変わったが,2013年に公開されたDSM-5では“dementia”が使用されなくなり,“neurocognitive disorders”という用語が用いられ,認知機能障害による日常生活支障によりmajorとmildに分けられている.これらの用語の整理は,認知症における今後の課題の1つである.
 わが国ではAD治療薬として,1999年からドネペジルが使用可能であったが,2011年にガランタミン,リバスチグミン,メマンチンが認可された.薬剤の変更や使い分けなども可能となり,治療選択の幅が広がっている.一方,わが国の認知症診療現場において非定型抗精神病薬も実際に使用されてきているが,2005年にFDAから死亡率の増加が指摘され,警告が出された.2011年に一部の非定型抗精神病薬を“器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性”などに対して使用した場合に審査上認める通知も出された.非定型抗精神病薬の使用にあたっては,適応外使用であることを理解し,また有害事象の出現にも注意し,患者・家族に十分な説明を心掛けながら,必要に応じて使用される.2012年度の厚生労働科学特別研究事業として作成された「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」も公開されている.さらに,症状改善薬のみならず,進行抑制を目指した疾患修飾薬の開発も期待されている.
 このような認知症診療の変化を踏まえ,「認知症疾患治療ガイドライン」も発行され,臨床現場で活用されている.治療ガイドラインは,エビデンスレベルに従って作成されているが,認知症診療においてはエビデンスが乏しくても重要と考えられることも少なくない.そこで,認知症臨床におけるエンサイクロペディアを目指して,本書「認知症ハンドブック」を発刊することとした.本書が臨床現場で活用され,認知症診療に役立つことを願い,認知症診療の一層の発展を期待したい.

 2013年10月
 編者一同

開く

第1章 認知症診療の基本
 進歩する認知症診療
  1 認知症とは?
  2 認知症領域で使用される用語の歴史的変遷
  3 認知症の医療経済分析
第2章 認知症の症候
 認知症の症候について
  1 中核症状(認知機能障害)
   A 記憶障害・見当識障害
   B 失語・失行・失認
   C 視空間認知障害
   D 遂行機能障害
  2 周辺症状(BPSD)
   A 幻覚・妄想
   B 誤認妄想
   C 徘徊
   D 不穏・興奮
   E 概日リズムの変化と不眠
   F うつ・意欲低下
第3章 認知症の診断
 認知症診断のポイント
  1 診断の流れ
  2 問診
  3 評価尺度
  4 診察
   A 神経学的診察
   B 精神医学的診察
  5 鑑別診断
  6 画像診断
  7 その他各種検査
第4章 認知症の治療と管理
  1 認知症治療の基本的な姿勢・流れ
 認知症は予防できるのか
  2 認知症の危険因子と予防
   A 高血圧と認知症の関係
   B 糖尿病と認知症の関係
   C 脂質異常症と認知症の関係
   D 肥満やその他の生活習慣病と認知症の関係
   E 運動習慣と認知症の関係
   F 教育歴と認知症の関係
   G 食事,飲酒,喫煙,薬剤・サプリメントと認知症の関係
   H 社会参加・余暇活動と認知症の関係
 BPSDへの対応の原則
  3 BPSDへの対応(薬物療法を中心に)
   A 精神症状:幻覚・妄想,不安・焦燥
   B 精神症状:うつ症状とアパシー
   C 精神症状:睡眠障害
   D 行動障害:多動・興奮・暴力
   E 行動障害:徘徊・脱抑制
  4 せん妄への対応
  5 非薬物療法
   A 認知リハビリテーションのエビデンス
   B 現実見当識訓練法
   C 回想法
   D デイサービス・デイケア
   E 音楽療法
   F 作業療法
   G 光療法
   H 家族への接し方,および本人への接し方(パーソンセンタードケア)
 合併症の予防と対策の基本
  6 高齢者における合併症の予防と対応
   A 脳血管障害
   B 摂食・嚥下障害,誤嚥性肺炎
   C 失禁と便秘
   D 脱水症・浮腫
   E 運動障害,パーキンソニズム
   F 不随意運動
   G 痙攣発作
   H 転倒・骨折と寝たきり
   I 低栄養と褥瘡
   J 周術期への対応
 認知症医療における終末期の位置づけとその意義
  7 終末期の対応と課題
   A 口腔ケア
   B 胃瘻,経管栄養
   C 尊厳死
第5章 認知症をめぐるその他の諸問題,地域連携,支援
 認知症をめぐる諸問題について
  1 社会資源の活用(介護保険制度を中心に)
  2 地域連携のあり方(地域包括支援センターを中心に)
  3 在宅医療が果たすべき役割
   A 医療連携システム
   B かかりつけ医,サポート医の役割
   C 認知症疾患医療センター
   D 身体合併症対策の医療連携
  4 介護負担と介護者支援:介護者への情報提供を中心に
  5 法律的諸問題
   A 車の運転
   B 刑事・民事
   C 銃刀法
第6章 軽度認知障害
 軽度認知障害の臨床のポイント
   A 臨床で必要となる基本事項
   B 疫学
   C 臨床症状
   D 検査
   E 診断(鑑別診断)
   F 治療・効果判定・リハビリテーション
   G 経過・予後
   H 患者・家族への指導・アドバイス
   I 看護師・コメディカルなどへの指導・アドバイス
第7章 アルツハイマー型認知症
 アルツハイマー型認知症の臨床のポイント
   A 臨床で必要となる基本事項
   B 疫学
   C 臨床症状
   D 検査
   E 診断(鑑別診断)
   F 治療・効果判定・リハビリテーション
   G 経過・予後
   H 患者・家族への指導・アドバイス
   I 看護師・コメディカルなどへの指導・アドバイス
第8章 レヴィ小体型認知症(PDDも含む)
 レヴィ小体型認知症の臨床のポイント
   A 臨床で必要となる基本事項
   B 疫学
   C 臨床症状
   D 検査
   E 診断(鑑別診断)
   F 治療・効果判定・リハビリテーション
   G 経過・予後
   H 患者・家族への指導・アドバイス
   I 看護師・コメディカルなどへの指導・アドバイス
第9章 前頭側頭葉変性症とその他の変性性認知症疾患
 前頭側頭葉変性症の臨床のポイント
  1 前頭側頭葉変性症
   A 臨床で必要となる基本事項
   B 疫学
   C 臨床症状
   D 検査
   E 診断(鑑別診断)
   F 治療・効果判定・リハビリテーション
   G 経過・予後
   H 患者・家族への指導・アドバイス
   I 看護師・コメディカルなどへの指導・アドバイス
 進行性核上性麻痺の臨床のポイント
  2 進行性核上性麻痺
   A 臨床で必要となる基本事項
   B 疫学
   C 臨床症状
   D 検査
   E 診断(鑑別診断)
   F 治療・効果判定・リハビリテーション
   G 経過・予後
   H 患者・家族への指導・アドバイス
   I 看護師・コメディカルなどへの指導・アドバイス
 大脳皮質基底核変性症の臨床のポイント
  3 大脳皮質基底核変性症
   A 臨床で必要となる基本事項
   B 疫学
   C 臨床症状
   D 検査
   E 診断(鑑別診断)
   F 治療・効果判定・リハビリテーション
   G 経過・予後
   H 患者・家族への指導・アドバイス
   I 看護師・コメディカルなどへの指導・アドバイス
 ハンチントン病の臨床のポイント
  4 ハンチントン病
   A 臨床で必要となる基本事項
   B 疫学
   C 臨床症状
   D 検査
   E 診断(鑑別診断)
   F 治療・効果判定・リハビリテーション
   G 経過・予後
   H 患者・家族への指導・アドバイス
   I 看護師・コメディカルなどへの指導・アドバイス
  5 嗜銀顆粒性認知症
  6 神経原線維変化型老年期認知症
  7 石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病
第10章 血管性認知症
 血管性認知症の臨床のポイント
  1 概念と分類
  2 血管性認知障害
  3 混合型認知症
  4 白質病変
  5 皮質下血管性認知症
  6 血管性認知症の臨床症状
  7 血管性認知症の診断基準
  8 血管性認知症の画像診断と検査所見
  9 脳小血管病と遺伝子異常
  10 予防と治療
第11章 その他の認知症疾患
  1 内科疾患
  2 クロイツフェルト-ヤコブ病などプリオン病
  3 正常圧水頭症
  4 脳外科疾患に伴う認知症

索引

開く

新しく詳しく実践的な認知症ハンドブック
書評者: 東海林 幹夫 (弘大大学院脳研教授・脳神経内科学/附属病院神経内科)
 認知症患者が増加している。2012年の筑波大の発表では既に460万人に達し,その予備軍と言われる軽度認知障害は400万人と発表された。2010年の厚生労働省統計でも認知症高齢者は440万人(日常生活自立度I, II)で軽度認知障害の人は380万人で,65歳以上の高齢人口2,874万人の実に約29%を占めている。この病気には介護する人が少なくとも1人以上は必要であることを考えると,既に高齢人口の2人に1人は認知症とかかわりを有していることが推定できる。このようなわが国の認知症診療の劇的な変貌は,かかりつけ医,一般内科や整形外科などの従来専門ではなかった医師,介護,行政,家族会などそれぞれにかかわる膨大な人々の参入を引き起こしており,この流れは世界各国でも同様である。

 このような状況において,早期診断,適正な薬物治療と長期的な対応と介護の重要性が広く認識されてきており,支援のための法的整備も整いつつある。2010年には日本神経学会と関連5学会による「認知症疾患ガイドライン2010」が公表され,その後日常臨床のためのコンパクト版2012も出版された。編者らはこのガイドラインの主要作成委員でもあり,本著はガイドライン2010やコンパクト版2012で簡潔に提示されたエビデンスに加えて,実際の日常診療に即した諸問題に対してより実践的な解答を提示している。この特徴から,本著は認知症診療の具体的指針の新しい辞書として仕上がっている。

 内容を詳しく見ていくと,診断と疫学,症候などの総論は簡潔にまとめ,第4章からの「認知症の治療と管理」,第5章「認知症をめぐるその他の諸問題,地域連携,支援」の記載に重点がおかれている。ここでは,治療,リハビリ,介護,地域ネットワークや法的整備などの急展開する新たな分野の確実な情報が盛り込まれており,日常臨床に必要な最新知識を網羅的に参照できる。特に,BPSDへの対応の原則,合併症の予防と対策の基本,認知症を巡る諸問題については一読の価値がある。

 著者はいずれもそれぞれの分野で際立っている若手で,それぞれの記述は最新で具体的である。編者の狙いもこの2点にあったのではないかと推察している。これ以後は軽度認知障害,アルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭葉変性症,進行性核上性麻痺,大脳基底核変性症,ハンチントン病,嗜銀顆粒性認知症などの超高齢期認知症,血管性認知症,プリオン病と正常圧水頭症などの各論のup-to-dateが示されている。

 従来,スタンダードとされてきたさまざまなテキストブックやガイドライン2010とコンパクト版2012と比較すると,新しく,詳しく,より実践的なハンドブックであり,もの忘れ外来ばかりではなく一般外来にも常備すると,とても便利な一冊としてお薦めできる。
初心者から熟達者まで座右の書として薦めたい
書評者: 朝田 隆 (筑波大教授・精神病態医学)
 私は多少とも医学書出版の企画に関与した経験から,「類書がない」ということが新しい企画が審査委員会をパスする重要要件だと知った。ところが近年の認知症本はやりともいえる状況においては類書だらけである。大型書店の認知症コーナーに立つと,多くの編集・企画者は「似たものをどうやって差別化するか?」に相当な努力をされているなという印象さえ抱くようになっていた。つまり個性の乏しい認知症関連書籍の出版がこの数年多すぎるのではないかと思っていたのである。

 ところが本書はその印象を久々に打ち破ってくれた。まず認知症時代にマッチしたエンサイクロペディア風に仕上がっている。すなわち認知症を扱う医学書としての基本は踏襲しつつ,従来の書では記載の乏しかった多職種の連携や介護保険制度といった地域ケアのポイント項目もしっかりと扱われている。認知症医療に携わる者が「はてな?」と思ったときに,すべての疑問に応じられる漏れのない目配りがなされている。また4大認知症(アルツハイマー型認知症,血管性認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭葉変性症)とよく言われるが,本書ではそれ以外の変性疾患や感染症による認知症も詳述してある。こうした点は,初学者はもとより専門医にとってもありがたい。さらに本書の執筆者はこれまでの成書の執筆者に比べて若く気鋭の先生が多い。それだけに発想や記述が新鮮である。

 さて,本書の最大の特長は,各疾患の一般的な記述の後に,「患者・家族への指導・アドバイス」と「看護師・コメディカルなどへのアドバイス」というユニークなコーナーが設けられていることだろう。臨床家にとってこのようなアドバイスは日常的な行為であるはずなのだが実は容易でないだけに,何ともありがたい。恐らくはこのようなコーナーを設けた「類書はない」だろう。

 認知症臨床にかかわられる方なら,初心者から熟練者まですべての医師に座右の書として本書をぜひともお薦めしたい。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。