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第3023号 2013年4月15日


〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第243回

タイム誌史上最長記事に見る米国医療事情(2)

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


3021号よりつづく

 前回のあらすじ:タイム誌3月4日号(米国版)に,患者が法外な診療費を請求される米国医療の実態が詳細に報告された。


 米国の患者がなぜ法外な診療費を請求されるのかというと,その大本の理由が,「医療が民を主として運営されているため,価格を自由に設定できる」ことにあるのは言うまでもない。

 しかも,にも示したとおり,米国の病院が患者・保険会社等に請求する診療費と,コスト(原価)の差額はここ30年近く上昇の一途をたどってきた。1980年代前半の「利幅」はコスト比で約20%にすぎなかったのに2000年には100%を突破,2007年時点で約180%に達し,コストの約3倍の価格が請求されるまでになった。図に「ネガティブ・コントロール」としてメリーランド州の例を示したが,同州では,利幅がほぼ横ばいで推移してきたことがおわかりいただけるだろうか。前々回(3019号)に述べたとおり,同州では公的機関が診療報酬を決定,価格が厳格に規制されているおかげで,患者が法外な診療費を請求されるという害を被らずに済んでいるのである。

 病院診療報酬における利幅の推移(1980-2007年)

高額の「つけ」が患者に回る「商慣習」

 では,なぜ,メリーランド州以外では利幅が上昇し続けてきたのかというと,そのきっかけは1980年代後半以降マネジドケアが席巻,保険会社が診療報酬の大幅な値引きを要求するようになったことにあった。診療側は,対抗処置として,あらかじめ定価を高めに設定して保険会社との値引き交渉に臨むようになったのだが,いつのまにか,コストを大幅に上回って定価をつけることが「商慣習」として定着するようになったのである。

 に私が2007年5月にボストンの某病院に8日間入院した際の診療費請求額と実際の支払い額(保険会社の査定額)を示したが,すでに6年前の時点で請求額(定価)が「実勢価格」と大幅に乖離(かいり)していたことは明らかだろう。ホスピタル・フィーとドクター・フィーの合計で5万5416ドルに達した請求総額が,保険会社の査定によって84%値引きされ,8987ドルまで減額されたのである。私の場合,このうちの自己負担分3000ドルを支払うだけで済んだが,もし無保険だったら,急病になったがために,5万5416ドルの医療負債を抱えるところだったのである(しかも,前回も述べたように,最近は「低保険」故に診療費の大半を自己負担させられるケースも増えている)。

 請求額と支払い額の乖離(自己体験例)

 さらに,前回,抗がん薬初回投与に1万3702ドルの前払いを要求された事例を紹介したが,最近は,新薬にとんでもない高価格がつけられることも常態化している。薬価が公的に決められている他の先進国と違って,米国では製薬会社が自由に価格を決めることができるため,ここでも患者に高額の「つけ」が回る仕組みとなっている。製薬企業の利益率が他業種に比べて著しく高いことは周知の事実であるが,「米国の患者に法外な価格で薬剤を売りつけることで高収益体質を支えている」といっても過言とはならないのである。

混合診療解禁なら日本の医療市場も米国化の危機

 ここまで,「自由診療制」の下,患者がべらぼうに高い診療費を請求される米国の実態を紹介したが,気がかりなのは,日本における混合診療解禁の動きである。混合診療解禁論者は,「新規の治療は高くつくので,公的保険ですべてを給付することはできない。高額の新規治療については保険外(自由診療)とし,自己負担にする」と主張するが,米国医療の実態を見る限り,これほど恐ろしい主張もない。例えば,製薬会社が新規の抗がん薬を保険外で患者に提供すると決めた場合,米国と同様,1回の投与に100万円を越えるような,とんでもない高価格をつけることが可能となるからである。

 混合診療の解禁(=自由診療の拡大)は,医療市場を米国化することにほかならず,「命が惜しければ金を出せ」式の,強盗まがいの医療が日本でも横行することが懸念されるのである。

この項おわり

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