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第3022号 2013年4月8日


「型」が身につくカルテの書き方

【第10講】訪問診療編 老年医学・臨床倫理を応用したカルテの書き方

佐藤 健太(北海道勤医協札幌病院内科)


3018号よりつづく

 「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」(by立川談志)。

 本連載では,カルテ記載の「基本の型」と,シチュエーション別の「応用の型」を解説します。


カルテ記載例

患者:89歳,女性

(1)問題リストは,介護に影響する精神・心理機能と身体機能,生命予後や心身の苦痛に直結する疾患,のように在宅生活への影響を考慮して記載する。実際の生活状況や介護・治療の必要性を判断できるよう,重症度の記載も行う。
(2)認知機能の評価は,実際の生活状況や介護負担度と相関しやすいFAST5)が使いやすい。
(3)Polypharmacy(多剤服用)は,特に高齢者ではADL・QOLを損なう原因となることも多い。副作用・相互作用を意識して減量していくために問題リストに載せる。
(4)患者の生活やQOLを支えるためには「患者の意向」がとても重要になる。意思決定能力や事前指示は毎年評価する。
(5)家族・介護サービスを中心に周辺情報を列挙しておく。
(6)生命予後ではなくQOLの維持向上が目的となるためとても重要な項目。いくつかの評価指標があるが,「本人がどう考えているか」を直接聞くことが重要。
(7)特記事項。チェックリスト以外で患者や家族が自発的に話し始めた話題は重要なことが多く,記録に残しておく。
(8)「薬は指示通り飲めているか」と,予想される副作用があればそれもチェック。処方内容の一覧は毎回確認する。
(9)五快は◯・×で。快重(体重変化)と快動(ADL変化)はO欄に具体的に記載。
(10)介護者のケア。「娘さんは最近どうですか?」など話題にする。
(11)ADL等については年数回,または見た目や家族の訴えで変化があればきちんと評価する。普段はトイレや洗面所まで歩かせて様子を観察する程度としている。


 今回は訪問診療の際のカルテの書き方について解説します。訪問診療は内科学の知識だけでは対応が難しく,老年医学やリハビリテーション医学,緩和医学,臨床倫理などに基づく診察・判断能力が必要とされます。今回紹介する「カルテの型」を活用しながら診療を重ね,わからないところは多職種への相談や自己学習を行っていけば,自然と必要な視点が身についてきます。

■訪問診療の特徴

 病棟や外来とは患者層が異なり,虚弱から終末期段階の患者が対象となるため,かかわり方や治療目標も異なります。急性疾患の治癒や慢性疾患に対する生命予後延長のための治療よりも,「生活機能維持・穏やかな看取り」をめざしたかかわりが重要になってきます(表1)。

表1 高齢者の各段階に適した診療モデル
参考文献1より著者改変

■訪問診療で有用な「カルテの型」

 患者診察や家族の相談に乗りながらでも,訪問先の机がない環境でも,短時間で記載できるフォーマットが求められます。訪問診療カルテの書き方として確立されたものは見当たりませんが,高齢者診療の質改善に一定のエビデンスのある「高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment ; CGA)2)」が参考になります。当院では,これを初学者教育用に簡素化したチェックリスト形式の経過記録3)と「臨床倫理四分割法4)」を応用した問題リストを採用しており,研修医が訪問診療の観察ポイントを学ぶ上で有用と感じています。

■包括的な問題リスト

 生物・心理・社会的側面にわたるプロブレムを整理し,さっと問題点を把握するために,「臨床倫理四分割法」のフレームを活用した問題リストを採用しています。

 これにより,特定の問題(自分の専門領域の疾患や,特に目立つ家族・生活状況など)に目を奪われすぎずに全体を把握できるようになります。特に,急変時の対応に関する希望や本人の考えるQOLなど,病状が安定しているときには意識しづらい臨床倫理に関係する情報を普段から意識できるようになる効果は大きいと感じています。関係するスタッフがいつでも自由に閲覧・記入ができるように,カルテの目立つ位置に配置します。

■初回訪問時の経過記録

 初回訪問の際には,10分程度で実施できる「Start-up CGA(表2)」を利用して必要最低限の情報を集めています。漏れなく短時間で埋めるために項目を印刷して◯×でチェックすると便利です。得られた情報は問題リストに転記し,不足分は次回訪問時の診察やケアマネジャーなどへの情報収集で埋めていきます。

表2 Start-up CGA(s-CGA)

■定期訪問時の経過記録

 内科的な病態は安定している患者が多いため挨拶と雑談だけで終わりがちですが,潜在的に進行しADL・QOLを損ない得る変化がないかを毎回評価する必要があります。老年医学や家庭医療の視点から必要なチェック項目を抽出した「Modified CGA(表3)」が便利です。

表3 Modified CGA(m-CGA)

 副作用を起こしている可能性のある薬剤の減量・中止検討や,患者の五快や苦痛の確認はより安楽な在宅生活に重要です。また普段意識されづらい介護者の腰痛や不眠などは,介護者の燃え尽きによる緊急入院や施設入所につながることもあるため忘れずに確認しましょう。これも印刷したチェックリストや電子カルテのテンプレートを活用すれば速やかに記入でき,項目数も少ないため研修医でも3-4回の訪問診療実習で自然に覚えられます。

 実際には,訪問診療経験豊富な医師や看護師からのフィードバックや,老年医学・リハビリテーション医学の学習などなしには訪問診療の質向上は難しいですが,今回紹介したカルテの型に沿った記録をしていけば独学でもかなりの力がつくと考えています。

 次回はセッティングを変えて,「救急外来」でのカルテの書き方について解説する予定です。

つづく

参考文献
1)宮下淳.病院総合医の臨床能力を鍛える本.カイ書林;2012.
2)長寿科学総合研究CGAガイドライン研究班.高齢者総合的機能評価ガイドライン.2003.
3)佐藤健太,他.在宅診療の場で簡便にCGAを行うための教育ツール『modified-CGA』.日本プライマリ・ケア連合学会学術大会抄録集.2010;1:45.
4)臨床倫理の4分割法
5)Functional Assessment Staging(FAST)

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