外来編(2)継続外来カルテの書き方(佐藤健太)
連載
2013.03.11
「型」が身につくカルテの書き方
【第9講】外来編(2) 継続外来カルテの書き方
佐藤 健太(北海道勤医協札幌病院内科)
(3014号よりつづく)
「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」(by立川談志)。
本連載では,カルテ記載の「基本の型」と,シチュエーション別の「応用の型」を解説します。
カルテ記載例患者:56歳,女性(第8講の症例の2年後,2013年5月) | ||||||||||
問題リスト(1) | ||||||||||
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マイナートラブルリスト(4) | ||||||||||
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(1)メジャープロブレムリスト:日付とともに更新経過を備考欄に残す。病期やリスク分類などを併記。
(2)推奨される定期検査間隔を,○か月ごとよりも,「毎年○月」と書いてあるほうが直感的に対応しやすい。
(3)健康管理シート:独立した用紙がない場合,大文字アルファベットで問題リストに登録し,チェックリストを備考欄に列記する。
(4)マイナートラブルリスト:小文字アルファベットで登録し,zまで行ったらまたaに戻す。
(5)咳嗽を特定の季節に繰り返す「受診パターン」が読み取れ,花粉症を疑うきっかけにつながった。
(6)短い期間にさまざまな症状での受診が続いており,潜在する疾患を疑うことで抑うつ状態の早期発見につながった。
(7)経過記録:できるだけ簡潔に記載。月1回受診すれば1年で12倍,5年で60倍の情報量になる。短さとキーワードの見つけやすさが重要。
(8)健康行動に対する態度・雰囲気の情報は次回の健康教育時に重要な情報になる。
(9)教育プランを毎回書くことで継続的に患者の動機付けをめざす。
(10)ネクストプランで「次回最低限行うこと」を書いておくと,次回外来が混雑して時間がなく,前回経過記録や問題リストを読みこむ時間が取れなくても「とりあえず」の診療はできる。
第8講の「初診外来カルテ」に引き続き,今回は慢性疾患で定期受診する患者に対して,将来の健康保持まで見据えて診療していくための「継続外来カルテ」について解説します。
■「継続外来」で求められること
主目的である「慢性疾患管理」と,受診時に偶然発見された「マイナートラブル対応」,そして今後も健康を維持するための「健康管理」の3つです。忙しい外来でこの3つを実践していくことは容易ではありませんが,本稿で紹介する「継続外来のカルテの型」を身につけることで基本的な診療パターンを習得し,生涯学習のスタイルを確立することが可能になります。
■「問題リスト」を軸とした記載
継続外来では,長い経過の中でも,エビデンスと患者の事情に応じて「個々に設定した慢性疾患の管理目標」を見失わず最適な医療サービスを提供し続ける必要があります。この目標を達成するためには,その日の診療で気になったことを場当たり的に記録するだけではなく,患者の長期管理のために特化した「問題リスト」を最大限活用していきます。ここでは問題リストを「メジャープロブレムリスト」「マイナートラブルリスト」「健康管理シート」の3つに分けて説明します。
1)メジャープロブレムリスト
慢性疾患や既往歴など「疾患」のリストであり,どの医療機関でも使われていると思います。作成のポイントとは「標準的な病名」での登録と,「備考欄」の活用の2点です。ICD(国際疾病分類)やICPC(プライマリ・ケア国際分類)などに登録されている「標準的な病名」を使うことで,診療の質評価,研究のためのデータ収集,医療事務業務の負担軽減などに役立ちます。また自己流の病名よりも関連文献・診療ガイドラインが検索しやすく,自己学習も円滑にできます。病型・病期分類や治療目標,標準治療の実施状況などを「備考欄」に記載することでより妥当な診療を行える可能性が高まります。
2)マイナートラブルリスト
臨時受診時や定期受診のついでに相談されたマイナートラブルは,通常の問題リストにすべてを載せていると数年後には雑然としたリストになってしまいます。しかし「小さなイベントの積み重ねやパターン」から読み取れる情報は思った以上に多くあります(カルテ記載例の解説(5)(6)参照)。経過の長いカルテでもパターンを読み取れるよう,独立した「マイナートラブルリスト1)」を作っておくと便利です。仮プロブレム名(症状名など)のままの登録で構いませんし,医学的な問題以外(離婚や失業などのライフイベントは健康への影響が大きい)もどんどん登録しましょう。専用の記入欄がない場合でも,経過記録内からマイナートラブルを見つけやすいように記載ルールを工夫する(色を変える,☆マークを付けるなど)だけでも十分効果的です。
3)健康管理シート
がん検診などの予防医療は「まだ疾患が成立していない」ため通常の問題リストでは見逃されがちです。「健康管理シート」も作りリストアップ2)しておけば,忙しい外来でも忘れずに「一歩先を読んで将来の健康にまで責任を負う診療」を行うようになれます。
■経過記録記載のポイント
「問題リストは濃厚」に作成しますが,「経過記録はあっさり」と記載します。研修医の間は膨大な記録を書きがちですが,次回以降の外来で読む負担が大きくなります。数年後でも読みやすいことを目標に書きましょう。
●S/O:診療しながら同時並行で書くため,問題リストごとでなく患者が話した順に,また文章ではなくキーワードの羅列で十分です。紙カルテならマル付けやアンダーライン,電子カルテならコピペの利用で後で直せます。また,記載すべき内容は,前回と変化のある項目や,慢性疾患の管理指標(運動・食事状況やHbA1c値など)に絞り,判断に影響しないことまですべて残す必要はありません。
●A:慢性疾患は,事前に患者ごとに設定したコントロール指標に沿って記載します。評価・介入を行わなかったプロブレムは記載しないほうが,後でそのときに話題になったトピックスを把握しやすくなります。
●P:継続外来では,長い期間患者が主体的に療養生活に取り組めるよう,Exでの患者教育・動機付けが重要になるため,毎回必ず記載するよう努力しましょう。行動科学などの手法・理論的背景を意識して,伝えた内容だけでなく伝え方と患者の反応も記載しておくとよいでしょう。
■「診療しながら学ぶ」ために
短時間で多くの問題点を扱うため,カルテ記載と問題リスト作成をきちんと行うのは困難です。また継続外来の診療方法を十分学んだ指導医は少ないため,適切なフィードバックを受ける機会も少ないでしょう。効率よく診療経験を積みながら継続外来のスタイルを学ぶために,外来診療中は「患者の診察」と「経過記録の記載」に集中し,外来診療後に「問題リスト」作成のための時間を取りましょう。病名登録,備考欄記入,マイナートラブルのリストアップと健康管理項目の設定を順番に行っていけば,自然とその患者の管理に必要なことが明確になり次回以降の診療に活きてきます。また「自分は今どこの知識が欠けているのか」が明らかになり,自発的に勉強する態度が身につきます。もちろん最初は時間がかかりますが2-3か月程度で慣れてきます。
(つづく)
参考文献
1)Ian R. McWhinney. Textbook of Family Medicine. 3rd ed.Oxford University Press;2009.
2)Agency for Healthcare Research and Quality. Electronic Preventive Services Selector.
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