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第2993号 2012年9月10日


外来診療
次の一手

第6回】「下腹部が痛いんです……」

前野哲博(筑波大学附属病院 総合診療科教授)=監修
小曽根早知子(筑波大学附属病院 総合診療科)=執筆


2989号よりつづく

本連載では,「情報を集めながら考える」外来特有の思考ロジックを体験してもらうため,病歴のオープニングに当たる短い情報のみを提示します。限られた情報からどこまで診断に迫れるか,そして最も効率的な「次の一手」は何か,ぜひ皆さんも考えてみてください。


【症例】Sさん 22歳女性


ややつらそうな表情で入室してきた。
Sさん「下腹部が痛いんです……」
Dr. M「いつから,どんな感じですか?」
Sさん「夜中から痛くて,だんだんひどくなっています」
Dr. M「痛みに波はありますか?」
Sさん「あまりないです」

バイタルサイン:体温37.4℃,血圧112/64 mmHg,脈拍74回/分(整)。

⇒次の一手は?

■読み取る

この病歴から言えることは?

 若い,妊娠可能年齢の女性の下腹部痛である。下腹部痛といえば,部位からは虫垂炎,腸炎,膀胱炎,骨盤内炎症性疾患(PID),子宮外妊娠,などが挙がる。痛みに波がないことから間欠痛ではなく,胃腸炎の可能性は低そうだ。「夜中から」と急性発症であり,37℃台の微熱を伴っている点から,何らかの感染性疾患は考慮したい。発熱以外にバイタルサインの異常は見られず,少なくとも急性出血などの緊急性の高い疾患の可能性は低そうだ。ただ,つらそうで「だんだんひどくなっている」と増悪傾向でもあり,重症疾患を確実に除外する必要がある。

■考える

鑑別診断:「本命」と「対抗」に何を挙げる?

 「本命」は急性虫垂炎。頻度が高く,微熱を伴い比較的急性に進行する下腹部痛であり見逃せない。心窩部痛から始まり,右下腹部に移動するような典型的な痛みであればさらに可能性が高くなるだろう。

 「対抗」はPID。尿路感染症より頻度は低いが,若い女性の発熱を伴う下腹部痛では,婦人科臓器の感染症は外せない。さらに「大穴」として尿路感染症を挙げたい。主訴として下腹部痛よりむしろ,排尿困難,排尿時痛などの膀胱炎症状を訴えることが多いだろうが,若い女性では圧倒的に頻度が高い。発熱を伴えば腎盂腎炎など上部尿路感染症であり,CVA(肋骨脊椎角)叩打痛の確認も必要だろう。

■作戦

ズバッと診断に迫るために,次の一手は?

「吐き気や食欲の低下はありますか?」

 急性虫垂炎は消化管疾患であり,腹痛に加えて嘔気,嘔吐,食欲低下など,何らかの消化器症状を伴うので,まずこれらを確認する。もし認められなければ虫垂炎の可能性は低くなる。なお急性虫垂炎では,必ず腹痛の後に嘔気が出現する。もし嘔気が腹痛より先に出現している場合は,虫垂炎はほぼ除外できる。一方,PIDや尿路感染症では消化器症状は伴わず,虫垂炎のような痛みの移動もまずない。PIDの評価には,直腸診でcervical motion tenderness()を確認したい。

その後

 患者には嘔気,嘔吐,食欲低下は認めず,痛みの移動もなく,診察ではCVA叩打痛も認めなかった。直腸診ではcervical motion tendernessがあり,婦人科診察にてPIDの診断となった。

■POINT

消化器症状のない若い女性の下腹部痛は,PIDを疑い直腸診を行う!

つづく

:内診で子宮頸部を動かすことにより誘発される痛み。骨盤内での炎症を示唆する所見であり,PIDのほか骨盤内での虫垂炎でも陽性となり得る。一般医は内診の代わりに直腸診を行うとよい。

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