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第2992号 2012年9月3日


Medical Library 書評・新刊案内


帰してはいけない外来患者

前野 哲博,松村 真司 編

《評 者》仲田 和正(健育会西伊豆病院長)

思いもよらない症状から始まる重大疾患を学ぶ

 この本は後半の「ケースブック」から読み始めることをぜひお勧めする。思いもよらない症状から始まる重大疾患のオンパレードで,日ごろ,自分は見過ごしてきたのではないかと不安に駆られること必定である。

 過呼吸症候群と思ったらケトアシドーシス,若い女性のvasovagal syncopeと思ったら子宮外妊娠による出血,28歳,やせた女性で神経性食思不振症と思ったら胃癌,腹痛で腹部疾患と思ったら心不全によるうっ血肝,ただの肩コリと思ったらSAH(クモ膜下出血)など,悪夢のようなどんでん返しの連続で息継ぐ暇がない。大変心臓に悪い本である。

 私自身,外来で「肩コリ」を主訴としたwalk-inの正常血圧患者で,翌日警察から「自宅で死亡している」と電話があり驚愕した経験がある。死後CTではSAHであった。

 SAHの97%は人生最大の突発性頭痛で始まるが,残り3%はそうではないのである。私は,急性頸部痛ではcrowned dens syndromeや頸長筋石灰化性腱炎をルールアウトするために頸椎CTも撮ってきたが,この件以来,頭部CTを上位頸椎を含めて撮るようになった。最初の思い込みの恐ろしさ,自分の経験のみに頼ることの恐ろしさを知った。医学は誠に広く奥深い。

 また,縮瞳した意識障害の患者で「橋部出血かな?」と思っていたら,検査技師が「縮瞳」の一言でChE(コリンエステラーゼ)を測定してくれて有機リン中毒と判明したこともあった。嘔吐して初めて農薬臭に気付くこともあるが,独特の臭いに気付いていれば診断できたはずであった。

 東京から腹痛で来た患者さんの腹部エコーを行ったところ,肝臓内に石灰化した線状のものが複数あったので「もしかしてお生まれは山梨ですか?」とお聞きしたところ「えっ,何でわかるんですか?」とひどく驚かれたことがあった。日本住血吸虫の既往のある患者であった。このときだけは,横にいたナースにひどく尊敬された。刑事コロンボになった気分であった。エッヘン。

 この本の前半は臨床決断についての総論と,症候別のルールである。臨床決断はあまり成書を読むこともなかったので,私にとっては目新しく参考になった。

 情報収集するためにOPQRST(Onset, Provocation, Quality, Radiation, Severity, Time course)で網羅的に病歴を取り,鑑別診断の絞り込みにはVINDICATE(Vascular, Inflammatory, Neoplasm, Degenerative, Intoxication, Congenital, Autoimmune/Allergy, Trauma, Endocrine)で,病理学的,解剖学的に網羅し,最終的に3-5つ,最大でも7つの鑑別診断に絞り込むのである。

 症候別ルールの項は咽頭痛,浮腫,意識障害など主要症候で留意すべき重要なルールを説明している。

 この本は昔,医局で聞いた先輩医師たちの失敗談,武勇伝の集大成のような本である。失敗した症例こそ,あらゆる角度から徹底的な反省を行い,できる限り多くの教訓をくみ取らなければならない。そして医師仲間に話し経験を皆の共有知識とすべきである。

 通読して,あらためて患者さんの主訴によく耳を傾けること,日ごろから常に本を読み自分の水平線を広げ続けることの重要性をひしひしと感じた。つくづく「医師は一生勉強し続けなければならないのだなあ」と謙虚になれる本である! お薦めです!!!

A5・頁228 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01494-6


自分を支える心の技法
対人関係を変える9つのレッスン

名越 康文 著

《評 者》名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック)

まずは形から入ってみる

 読みやすい。一気に読める。読んでいて感情的になるところがない。書いてあることがすんなり入ってくる。そして,読み進めていくうちに,まさにそれがこの本のねらいであったのだとわかる。

 わかりやすさに乗じて,この本を乱暴に要約してみる。コミュニケーションの原点は赤ちゃんの怒りと母親の甘やかしにある。その怒りを認識し,怒りを鎮め,網の目的世界観を実感できれば,対人関係がもっとうまくいくに違いない,というようなことだろうか。

 網の目的世界観というのはなかなかの表現である。自分自身を相対化し,付き合いにくい隣人だと定義し,自分自身が知らないことも含め,網の目のような多要素で世の中ができていることに思いをはせる。確かにそこまで到達できれば,怒りは鎮まっているだろう。

 実証的な記述を好む私としては,それはちょっと論理に飛躍があり過ぎるだろうと思うところもしばしばではあるが,表題にあるように,具体的な技法として怒りの鎮め方を提示して,まずそのようにやってみれば,その効果が実感できる,ということなのだろう。その多くはすぐにでも実践可能なことばかりなので,私もちょっとやってみようかという気になる。

 一例を挙げよう。本書では,怒りを解消し,心の基準点にリセットするために,以下のような技法を提示している。

(1)背筋を伸ばして座る。
(2)15秒かけて,ふーっと息を吐き切る。
(3)吐き切ったところで,すうっと息を吸い込む。
(4)10回程度繰り返すと,視界が開けてくる。

 これだけである。技術的にできないという人はいないだろう。あとは実際に継続してできるかどうかである。皆さんもこの本を読んで,実際にやってみよう。怒りが解消され,視界が開けてくるかもしれない。

四六判・頁202 定価1,470円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01628-5


てんかん学ハンドブック 第3版

兼本 浩祐 著

《評 者》中里 信和(東北大大学院教授・てんかん学)

簡潔・明瞭かつ楽しい教科書

 本書の著者,兼本浩祐先生にはファンが多い。患者や同僚たちのほか,彼の講演を聞いた聴衆たちが次々とファンになるのである。著者の豊富な知識と経験だけではなく,人間的な魅力に惚れていくのである。直感的とも感じられる鋭い洞察力,患者に対する優しさ,そして軽妙な語り口。同じ理由で本書『てんかん学ハンドブック』は,前版から多くのファンを抱えていた。簡潔・明瞭で,かつ楽しい教科書というものは,そうあるものではない。

 てんかんは有病率約1%の「ありふれた病」であるが,けっして安易に診療できる疾患ではない。日本の患者の約8割は,てんかん診療の専門的トレーニングを受けていない医師によって治療されているといわれる。したがって一部の専門医のためだけの教科書よりは,非専門医や医学生,あるいは患者が手に取ってみたくなるような教科書が必要とされていた。

 てんかんという疾患に対して,本書は基礎・診断・治療までの広い範囲をカバーしつつも,簡潔かつ明瞭にという著者の執筆方針が貫かれている。専門的な最新情報に関しても,改訂を重ねるたびに組み込まれ,決して専門医を飽きさせることがない充実度である。この第3版では新規に登場した抗てんかん薬についても掲載されている。2010年の国際分類に対する戸惑いについても触れられており,これは多くの臨床医が同意するところであろう。

 本書のファンになる近道は,コラム「事例」に紹介された物語に目を通すことである。「排尿後失神のため失職しそうになったお抱え運転手」から「フェノバール中毒のため2年間這って暮らしていた女性」までの30例に,てんかん学の面白さが凝縮されている。オリヴァー・サックスの名著『妻を帽子とまちがえた男』と同様の技法である。正しい知識と丁寧な診療が一人の患者の人生を次々に変えていく。この「事例」を読めば,本書の中身をもっと詳しく読みたいと思うようになるだろう。てんかん診療医には,別のコラム「臨床メモ」と「視点論点」も面白いはずだ。著者はこのコラムを書きたいが故に,本書を出版したのではないかと私は勝手に想像している。

 教科書の本文には,よく整理された目次と包括的な索引が用意されている。医師も学生も疑問が生じた時点で辞書のように使うのが良いと思う。読んだところには,次々と赤鉛筆でアンダーラインを引き,ポストイットを挟み,あるいは自分のメモを書き込むのが良い。これから私は大学病院てんかん科に臨床実習でやってくる学生たちに,初日に本書を紹介したいと考えている。実習期間内に本書の全部を読み終える必要はないが,てんかん学とはこのように奥深く,かつ楽しいものであることを理解して欲しいからである。さらに私は,ツイッターとフェイスブック上でフォロワーたちにも本書を薦めている。そのうち患者が本書にしおりを挟んで病院にやってくる日がくるかもしれない。

A5・頁368 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01539-4


大腸内視鏡挿入法 第2版
軸保持短縮法のすべて

工藤 進英 著

《評 者》上西 紀夫(日本消化器内視鏡学会理事長/公立昭和病院長)

大腸内視鏡の基本となる教科書

 待ちに待った本が刊行された。大腸内視鏡の世界のトップリーダーである著者による,質の高い大腸内視鏡診療をめざすすべての消化器内視鏡医のための教科書である。序文に書かれているように,“初版時の時代背景と異なる内視鏡の世界が到来しており,診断・治療面でのドラスティックな変化の中で,大腸内視鏡挿入法が万古不易のままではありえない”というコンセプトでまとめられた本書は,まさに軸保持短縮法を軸とし,安全で確実な大腸内視鏡挿入法について,豊富なイラストや内視鏡像を用いてわかりやすく解説している。また本書は,『大腸内視鏡挿入法』と題しているが,内容としては大腸内視鏡に関する基礎のみならず,大腸内視鏡の診断,治療に関する最新の情報もコンパクトに掲載されている。

 さて,初版の発刊以来15年が経過し,この間に蓄積された豊富な経験に基づき,そして機器の改良,進歩により挿入法も進化しているが,その基本はone man methodであることに変わりがない。そして,挿入技術とともに変わらないのが心構えである。確かに以前に比べると,新しい機器の登場,適切な上級医による指導,シミュレーターやコロンモデルによる修練などにより挿入が比較的容易になったことは事実である。しかしながら,上部消化管内視鏡に比し大腸内視鏡検査は難しい手技であり,また,ベテランであっても挿入困難例に遭遇することはまれではない。そこで重要なのは著者が強調している“熱意と忍耐”である。すなわち,“急がば廻れ”であり,基本に立ち返る心構えである。その難しさを安全,確実に乗り越えていくための解説が具体的に,わかりやすく書かれている。そのわかりやすさは,“現場のみが教える珠宝の言葉・真実(序文より)”に裏打ちされているためである。これに加えて,もう1つの本書の特色は,豊富なCOLUMNとして記載されたコメントである。基本は外科医であり,またスポーツマンである著者ならではのコメントであり,スポーツになぞらえた含蓄のある内容であり,大変楽しく読める。

 一方,大腸内視鏡手技の難しさから,新たな大腸の検査法としてカプセル内視鏡やCTC(CT colonography)が開発され,臨床応用されてきている。しかしながら,適切な大腸疾患の診断,治療のためには内視鏡のスムーズな挿入と操作が不可欠なことは自明であり,その意味で,本書はまさに大腸内視鏡の基本となる教科書である。本書を手にすると,豊富なイラスト,写真,そして適切な解説のおかげで具体的なイメージが想起され,すぐにでも大腸内視鏡ができそうな気になってくる。その意味で,DVDが付いていればもっと……,と願うのはやや欲張りなのかもしれない。しかしながら,内視鏡診療の基礎や応用に関する教育法として,DVDなどを用いたe-learningが今後の検討課題として考えられるが,その場合,本書の内容はその第一候補になることは間違いない。

 いずれにしても,本書は,消化器内視鏡の初心者にとっては大腸内視鏡の入門書であり,同時にベテランにとっても自己の研鑽,そして若手の教育のための指導書として必須の本である。すべての消化器内視鏡医に強く推薦したい。

B5・頁164 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01314-7


脳卒中の下肢装具 第2版
病態に対応した装具の選択法

渡邉 英夫 著

《評 者》森中 義広((株)リハライフ取締役/装具の分野の生活支援系専門理学療法士)

脳卒中の下肢装具とその療法を網羅的に分析,解説

 わが国のリハビリテーション医療の4大疾患の一つである脳血管障害を対象とした「脳卒中治療ガイドライン2009」において,急性期より早期立位歩行に装具を用いることがグレードAとして強く勧められている。しかし,推奨のグレードは高いものの漠然としたものである点は否めない。脳卒中と下肢装具は多彩な病態により,おのずと装具のデザインの違いや足継手,膝継手の機能性も多種となる。そのため,どのような装具を選択すればよいのか迷うことも少なくないのが現状であろう。

 本書はこのような実態を踏まえ,脳卒中の多彩な病態に対して,いかに適切な下肢装具を選択すればよいのかに重点が置かれた書である。著者の長年の豊富な臨床と研究活動(世界義肢装具学会,日本リハ医学会,日本義肢装具学会ほか,多くの書籍や論文)を通じて,諸家の公表された下肢装具はもとより,公表されなくとも価値ありと思われる装具についても紹介している。著者自身が学会の商業展示で実物を見聞したり,入手したパンフレットを分析,さらに開発者に直接情報収集を行っているので,その評価は正確性が高い。装具使用の地域性にも偏ることなく,公平に紹介されていることもよく理解できる。

 私は38年来,脳卒中の下肢装具の臨床にかかわっているが,本書を読めば読むほどに,緻密な調査の積み重ねからなる記述や,歴史的価値のある装具から最新の装具までが網羅されていること,強度別,機能別などが順序よくまとめられていることがわかる。それはまさに脳卒中に焦点を当てた下肢装具と下肢装具療法の辞典ともいうべきレベルの高さと精度の極みと考えられる。

 以下に本書の一部ではあるが特徴を述べてみたい。

(1)脳卒中の下肢装具を世界的視点で網羅している。
(2)脳卒中に用いられている下肢装具を病態に応じて分類している。
(3)下肢装具デザイン(材質も含めて)の特徴と足継手機能がSVA(shank to vertical angle)を基に,「固定,遊動,制限,制動,補助」と理論的に分類,解説されている。
(4)脳卒中の下肢装具に用いる用語の意味と,正しい使い方が統一され説明されている。また,日本語と英語の両方が多く記載されており勉学に便利である。
(5)脳卒中の短下肢装具について全国アンケート調査を実施した結果が示され,シューホーン型AFO(ankle foot orthosis)が約54%,調節式足継手付きAFOが約31%であったこと,何はともあれ多く使われている装具の正しい使い方が強調されている。
(6)6章「脳卒中の下肢装具療法」は臨床現場の理学療法士にとって,多くの示唆と反省点が明記されており,特に興味深く目からうろこであり参考になる。
(7)どの章を読んでも,絶えず関連したページ参照が随所に加えられているため,直ちに知りたい内容が確認でき読み進めることができる。これは便利でありモチベーションアップとなろう。
(8)脳卒中の下肢装具とその療法が高い精度で仕上がっているのにもかかわらず,卒業間もない理学療法士や義肢装具士,学生でも理解できるように解説されている。
(9)28章「各AFOおよび足継手の機能」については47タイプの装具が紹介され,うち20種が外国製,27種が日本製である(世界的レベルで網羅)。例えば,「足継手のない後方支柱の装具デザインにおいて,尖足には効果があるが内反足には効果が少ない」,逆に「足底板や下腿支持部が短い装具は,尖足矯正は弱いが側方支持のため内反足には効果を出す」など病態に合わせた装具デザインと,足継手あり/なしなどの機能と病態の選択がわかりやすく解説してある。

 以上,まだまだ多くの特筆すべき事象はあるが,その一部をPTの立場から書評した。脳卒中に下肢装具を処方する医師をはじめ,義肢装具士の方々など,それぞれの立場で辞典としたり,製作上でのデザインの参考とするためにもお役に立つ一冊である。

A5・頁200 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01535-6

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