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自分を支える心の技法

対人関係を変える9つのレッスン

著:名越 康文

  • 判型 四六
  • 頁 202
  • 発行 2012年06月
  • 定価 1,512円 (本体1,400円+税8%)
  • ISBN978-4-260-01628-5
対人関係のカギは“自分の心”にある
仕事や友人・家族関係のなかで生じるストレスの多くは、突き詰めれば“対人関係”に行き着く。気鋭の精神科医・名越康文が病院勤務時の経験とその後の研鑽のなかで培ってきた、対人関係・セルフコントロールに役立つ心理的技法をコンパクトにまとめた1冊。医療看護などの対人援助職はもちろん、「人と人とが交わる現場」で生きるすべての人に贈る9つのレッスン。

●各界から賞賛のコメントが!
■内田樹氏(思想家)
「怒りに甘い日本文化」のところで胸を衝かれました。
(以下、本書からの引用)
「ブログやツイッターの炎上、あるいは口論などをみてもそうです。文脈を超えて、過剰に怒っている人のほうが支持を得る、ということが往々にして起きる。冷静な議論よりも、怒っている人、感情的な人のほうが場の空気を支配してしまう傾向がある。
この背景にはやはり、僕らが文化的に、解離的なあり方を好んできたし、許容してきたということがあるんだと思います。ある種の”トラウマ”を抱えている(ようにみえる)人が、抑圧された感情を爆発させる。そうした『解離的な怒り』を僕らの文化はもてはやしてきた部分があり、現実社会でも力を持つに至っています。」(引用おわり、本書56頁より)
なぜ自分が怒っているのかわからない人の怒りを前にすると、私たちは無力になる。
ほんとにそうだよな、と中空を見上げてしまいました。
名越先生、お教え、ありがとうございます!

■岩田健太郎氏(神戸大学病院医師)
対人関係の要諦は、自分の「怒り」にかかっている。

他者を他者として認めること。謙虚であること。
本を読むという「他者の言葉の傾聴」行為を通して、
対人関係の要諦を学ぶことができる。

■平川克美氏(リナックスカフェ代表取締役、『俺に似たひと』著者)
怒りにも悩みにも根拠がある。しかしひとはそれを取り違える。
本当の根拠を知ったとき、怒りも悩みも消えている。
こんなことを教えてくれる一家に一冊の救助本。

■甲野善紀氏(武術研究家)
「優越感も怒りの一種」という著者の指摘に、
あらためて「怒りとは何か」という考察を深めざるを得なくなった。

自分のものでありながら、容易に制御しづらい自分の心、
その心を何らかの方法を介して、いかに乗りこなすかを、本書は説いている。

■twitterより
名越先生の新刊読了。
私のために書いたんじゃないか?
と思うけどそんなわけはないので、
日本人だか地球人だか女性だか都会人だか、
とにかく私と似たような属性の人が
多く抱える問題なのでありましょう。
序 文
オリエンテーション 対人関係のカギは「自分の心」にある

 テレビのお仕事をさせていただく前、僕は精神科医として十三年ほど病院で働き、その後は個人クリニックで患者さんをみてきました。最近ではメディアの仕事のほうが忙しくなってしまっているのですが、その一方で年齢を重ねてくると、後輩と...
オリエンテーション 対人関係のカギは「自分の心」にある

 テレビのお仕事をさせていただく前、僕は精神科医として十三年ほど病院で働き、その後は個人クリニックで患者さんをみてきました。最近ではメディアの仕事のほうが忙しくなってしまっているのですが、その一方で年齢を重ねてくると、後輩となる若い医師や、医学生、看護師をはじめとした医療従事者の方々に向けて、自分なりの考えを伝えておきたいという思いがありました。
 なかでも、ストレスの強い医療現場で仕事を続けていくために必要な、対人関係やセルフコントロールにつながる心理学的な技法についてまとまった話をしたいと考えていたところ、医学書の老舗出版社である医学書院で、医療現場でのコミュニケーションや対人関係にかかわる連続講座を持たせていただく機会を得たのです。
 ところが、その内容を文字起こししたものがインターネット(看護師のためのwebマガジン「かんかん!」)に掲載されると、思いのほか、医療従事者以外の方からも反響がありました。「医療従事者向けと書いてあるけど、就職活動中の学生にも読んでもらいたい」「仕事や日常の人間関係にもすごく役立つ」といった声をいただいたのです。本書はその声を受ける形で、webに掲載した講義録に大幅な加筆修正を加えて対人関係の実践論としてまとめたものです。
 医療者向けの講演録であるにもかかわらず、一般の方からこうした声をいただくというのは、実は僕にとって「我が意を得たり」という部分もありました。医者と患者の関係、あるいは医療職内の職種間の関係性など、医療現場には「対人関係の難しさ」を凝縮したような状況があります。そこで通用する対人関係の方法論であれば、もっと幅広い人たちにとっても役立つのではないか、という感覚があったのです。
 カウンセラーやマッサージ師などのセラピスト、介護・福祉職、接客業、さらには空港職員やホテル・旅館のスタッフといった“人が交わるプラットフォーム”で働く人たちは、医療職と同じかそれ以上に対人関係のストレスを抱えやすいといわれています。こうした人たちには、本書で紹介する対人関係の心の技法をそのまま活用していただけるのではないかと思います。
 しかし実は、そうしたいかにも対人関係が課題となりそうな職業についていない人であっても、日ごろ抱えている仕事やプライベートの懸案事項をひもといていくと、同じような対人関係の問題に行き当たる、ということが多いのです。
 たとえば専業主婦の方であっても「PTAの会合でどうふるまえばいいか」「ママ友とのコミュニケーションをどうしていいかわからない」ということが多々あります。もちろん、そういう日常レベルの対人関係であれば、経験やいわゆる“ハウツー”で何とか対処できることが多いでしょう。しかしその一方で、「経験論やハウツーでは根本的な解決につながらない」という感触を抱いている人は、意外とたくさんおられます。Webに掲載した講義録が、医療現場を対象としたものであったにもかかわらず幅広い人に読んでいただけた背景には、そういうニーズがあったのではないかと考えています。
 実際問題、僕らが仕事やプライベートの中で悩んだり困ったりしていることの大半は、実は対人関係にかかわることです。もちろん仕事や人生について「ひとりで思い悩んでいます」という方もおられます。しかし、その悩みをひもといていくと、結局は対人関係の問題に集約することが多い。「仕事がうまくいかない」という悩みの根っこには、ある同僚の行動がどうしても許せないということがあったり、「生きていくのが辛い」という悩みの背景には、家族など身近な人との葛藤があったりするものです。
 では、そうした対人関係の問題を根本のところから解決していくにはどうしたらいいのか。僕が病院での現場経験と、その後の自分なりの研究の中でいたった結論は、「対人関係の問題を解決するには、結局のところ“自分の心”に向き合うしかない」というものです。これは一見常識的なようで、実際にはあまり省みられていない方法論です。対人関係を改善するハウツーは世の中にたくさんあり、そのなかにはそれなりに効果的なものもあります。しかし僕は、目先の手段をいくら講じたところで、根本的なところで自分自身の心が抱えている問題を解決しないかぎり、長い目でみると対人関係の問題を解決することはできない と考えています。
 いまの時点では、この結論にピンとこない方も多いでしょう。でも、少しでも気になった方はぜひ、レッスン1から順を追って読み進めていただきたいと思います。全部で9つのレッスンを実践しながら読んでいただければ、皆さんの対人関係、ひいては世界の見え方に少なからず変化をもたらすことができると自信を持っています。
 それでは、講義を始めましょう。
書 評
  • ハウツーだけど,ハウツーじゃない。名越流対人関係改善法
    書評者:岩田 健太郎(神大院教授・感染治療学/感染症内科)

     人間関係,対人関係に悩む人は多い。外来患者が抱えているストレスも,たいていは職場や家庭での人間関係が原因である。よって,対人関係に関する書物もとても多い。その多くは,コミュニケーションや作法の「スキル」を伝授するものである。

     名越康文先生の『自分を支える心の技法』も,「技法」と書かれている...
    ハウツーだけど,ハウツーじゃない。名越流対人関係改善法
    書評者:岩田 健太郎(神大院教授・感染治療学/感染症内科)

     人間関係,対人関係に悩む人は多い。外来患者が抱えているストレスも,たいていは職場や家庭での人間関係が原因である。よって,対人関係に関する書物もとても多い。その多くは,コミュニケーションや作法の「スキル」を伝授するものである。

     名越康文先生の『自分を支える心の技法』も,「技法」と書かれているのだから,スキルを伝授する本である。しかし,そのスキルはアメリカなどのビジネス本にありがちなスキル,ハウツー本的なスキルとは違う。かなり,違う。

     通常のハウツー本は「こうすればうまくいくんですよ」といきなりスキルを伝授する。ハウツー本の読者は「結局どうすればよいのか,早く教えてよ」といつも考えているからだ。しかし,本書は違う。のっけから読者に問いを立てるのである。それも難しい問いを。

     例えば,「心とは何か」「赤ちゃんはなぜ泣くのか」。一見,対人関係とは関係なさそうなところから謎かけをする。本の文章と読者は対話をする。ついに「怒り」の概念に突き当たる。

     ここでの「怒り」は,ぼくらが通常用いる怒りとはちょっと違う。例えば,「不安」も怒りの一亜型であると名越先生は言う。「リアリズム」も怒りの一亜型であるとも言う。また,自己卑下は「見下し」の一種だとも言う。

     なぜ,こんな逆説が成り立つのか? 読書という名の対話を通じて,その謎が次第に明らかにされていく。

     ぼくらが対人関係で失敗するのは,たいていは「怒り」のせいであると本書は説く。相手の怒りじゃない。「私の」怒りである。私の心に怒りが宿り,これが対人関係をぎくしゃくさせる源泉になるのである。「私は怒ったりしない」と信じている人も,多くはやっぱり(われわれが信じている「怒り」とは異なるやり方で)怒っている。

     ぼくらは「もっとも自分のことを気遣ってくれる人に ,もっとも感情的な怒りをぶつけてしまうことを宿命づけられた存在」(本書42ページより。強調表示は原典では傍点)なので,人が怒りから完全に自由になることは,ほとんど不可能に近い。そしてこの怒りこそが,われわれを消耗させ,そして対人関係を難しくするのだ。では,ぼくたちの心にビルドインされ,容易に消去はできない怒りの感情を,ぼくらはどう扱ったらよいのだろう。

     本書は,自分の心に宿る怒りの扱い方を教える。自らの怒りの感情に自覚的であること。そして他者の存在を他者として(私と同じ存在ではなく),他者たる他者として認めること。つまりは謙虚であること。他者の言葉に耳を傾けること……本を読むという「他者の言葉の傾聴」行為と,本の内容とがシンクロしていく。そして,他者とのあり方について具体的なスキルがいくつも開示されていく。

     それはどういうものか……と,ここでは言わぬが花。ぜひ本書を手に取って読んでいただきたいと思う。柔らかく,温かい文章で,気軽に読み通すことができますよ。
  • まずは形から入ってみる
    書評者:名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック)

     読みやすい。一気に読める。読んでいて感情的になるところがない。書いてあることがすんなり入ってくる。そして,読み進めていくうちに,まさにそれがこの本のねらいであったのだとわかる。

     わかりやすさに乗じて,この本を乱暴に要約してみる。コミュニケーションの原点は赤ちゃんの怒りと母親の甘やかしにある...
    まずは形から入ってみる
    書評者:名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック)

     読みやすい。一気に読める。読んでいて感情的になるところがない。書いてあることがすんなり入ってくる。そして,読み進めていくうちに,まさにそれがこの本のねらいであったのだとわかる。

     わかりやすさに乗じて,この本を乱暴に要約してみる。コミュニケーションの原点は赤ちゃんの怒りと母親の甘やかしにある。その怒りを認識し,怒りを鎮め,網の目的世界観を実感できれば,対人関係がもっとうまくいくに違いない,というようなことだろうか。

     網の目的世界観というのはなかなかの表現である。自分自身を相対化し,付き合いにくい隣人だと定義し,自分自身が知らないことも含め,網の目のような多要素で世の中ができていることに思いをはせる。確かにそこまで到達できれば,怒りは鎮まっているだろう。

     実証的な記述を好む私としては,それはちょっと論理に飛躍があり過ぎるだろうと思うところもしばしばではあるが,表題にあるように,具体的な技法として怒りの鎮め方を提示して,まずそのようにやってみれば,その効果が実感できる,ということなのだろう。その多くはすぐにでも実践可能なことばかりなので,私もちょっとやってみようかという気になる。

     一例を挙げよう。本書では,怒りを解消し,心の基準点にリセットするために,以下のような技法を提示している。

     (1)背筋を伸ばして座る。
     (2)15秒かけて,ふーっと息を吐き切る。
     (3)吐き切ったところで,すうっと息を吸い込む。
     (4)10回程度繰り返すと,視界が開けてくる。

     これだけである。技術的にできないという人はいないだろう。あとは実際に継続してできるかどうかである。皆さんもこの本を読んで,実際にやってみよう。怒りが解消され,視界が開けてくるかもしれない。
  • 他人と過去は変えられないが,自分と未来は変えられる (雑誌『看護管理』より)
    書評者:中島 美津子(南東北グループ教育看護局長)

    ◆医療や日常の場面をとおして「怒り」の本質への理解が深まる

     「他人のせいで自分の心が乱されたら損だし,悔しいでしょう? とにかくむかついたりイライラしたりしていること自体が自分にとって損だとわかれば,生きるのが楽ちんになるよ!」

     何年前だろうか。まだ一人目の子どもを産んで間もないころ...
    他人と過去は変えられないが,自分と未来は変えられる (雑誌『看護管理』より)
    書評者:中島 美津子(南東北グループ教育看護局長)

    ◆医療や日常の場面をとおして「怒り」の本質への理解が深まる

     「他人のせいで自分の心が乱されたら損だし,悔しいでしょう? とにかくむかついたりイライラしたりしていること自体が自分にとって損だとわかれば,生きるのが楽ちんになるよ!」

     何年前だろうか。まだ一人目の子どもを産んで間もないころ,子育てと仕事に疲れていた私に,尊敬する先輩がこんなアドバイスをくれたことがあった。実はこの言葉が,今でも私を支えてくれている。決して相手のことを排除するのではなく,相手と自分との価値判断基準が違うことを受け入れ,現状を受容していくということ。

     本書が多くのページを割いて説いている「怒りのコントロール」というテーマは,あの先輩の言葉に通じている,と思った。前半では,仏教哲学に則しながら,「怒り」とはそもそも何なのか,その本質に迫っている。といっても,あまり哲学書のように小難しいこともなく,医療や日常の場面を例示しながら解説されているため,「あ~そういうことある!ある!」と,すとんと腑に落ちる。読み進めていくうちに,仏教哲学が説く「怒り」の本質についていつの間にか理解が深まっていく構成は,憎いくらいのうまさだ。

    ◆状況が異なっても対応できる本質的なコツが学べる

     本書では「怒りは百害あって一利なし」と言い切っており,後半では,それをコントロールするための対処法が説かれている。でも,単に方法論を列挙しただけでは,巷間にあふれるいわゆる「HOW TOもの」になってしまい,つまらなかっただろう。しかしそこは読み手の心の機微にも通じた精神科医の著者だ。「こういうときにはこうすればよい」という単純なHOW TOかと思って読んでいると,いつの間にか状況が異なっても対応できる,より本質的なコツを学ばせるような構成になっている。

     最後にプラスアルファとしながらも,対人関係の根本的な問題となりうる相手に対する先入観や思い込みを克服していく試みとして,“名越式性格分類”が紹介されている。強いて指摘するなら,ここまで一見「簡単!」に見せながら実は複雑な内容を学ばせる計算されつくした本書の構成に唸らされてきたが,この性格分類の解説には,幾分大雑把なところがあると思った。

     とはいえ,最初から最後まで一気に読み通すことができるぐらい平易でありながら,対人関係の根本的な問題がす~っと心の中に入ってくる本だった。本書のカバー袖には「心というものは自分自身ではなく,『付き合いにくい隣人』のような存在です」とある。「他人と過去は変えられないが,自分と未来は変えられる」というのは昔からよく言われる言葉だが,その真意をあらためて教えてくれる一冊である。

    (『看護管理』2012年9月号掲載)
  • 心の取り扱い説明書に学ぶ自分の心を「他者化」するという技法 (雑誌『精神看護』より)
    書評者:大島 寿美子(北星学園大学文学部 心理・応用コミュニケーション学科)

     医療現場で働く読者の中には、コミュニケーションの指南書を読む人もいるだろう。たとえば、話の仕方や共感の表し方というような他者に働きかける技術を教えてくれる実践本だ。

     タイトルが示すように、本書も対人関係を変えるための技法を紹介した本である。しかし、本書が働きかけようとしているのは上司や同僚...
    心の取り扱い説明書に学ぶ自分の心を「他者化」するという技法 (雑誌『精神看護』より)
    書評者:大島 寿美子(北星学園大学文学部 心理・応用コミュニケーション学科)

     医療現場で働く読者の中には、コミュニケーションの指南書を読む人もいるだろう。たとえば、話の仕方や共感の表し方というような他者に働きかける技術を教えてくれる実践本だ。

     タイトルが示すように、本書も対人関係を変えるための技法を紹介した本である。しかし、本書が働きかけようとしているのは上司や同僚でも患者でもなく、「自分の心」である。それは著者によれば「根本的なところで自分自身の心が抱えている問題を解決しないかぎり、長い目でみると対人関係の問題を解決することはできない」からであるという。

     ところが、自分の心はやっかいな代物であり、取り扱いに注意がいる。そのためには人の心の特徴を知り、自分の心に働きかける方法を身につけることが必要だ。本書はいわば「心の取り扱い説明書」である。著者は精神科医としての分析や経験に仏教の教えを折り込みながら、心の成り立ちと扱い方を1つひとつ伝授していく。

     心を取り扱ううえで鍵になるのが「怒り」である。著者によれば、私たちがコミュニケーションに苦労するのは、その根底に怒りがあるからだという。怒りの起源は生まれたときにさかのぼる。赤ん坊は泣くとその都度誰かが世話を焼いてくれ、不快を解消してくれる。この経験のくり返しから、私たちは「怒ることによって人を動かすことができる」という誤ったコミュニケーション技法を身体化してしまう。しかも自分にとって大切な人や身近な人に対するときほど、怒りのコミュニケーション装置が発動する。

     大人になった私たちは赤ん坊のように泣きわめくことはない。しかし、日常的に小さな怒りを蓄積したり爆発させたりして生きている。仏教では、軽蔑や自己卑下、不安や暗い気持ちも怒りに含まれる。このような怒りは人を疲れさせ、本来発揮すべき能力を損なわせる。逆に、怒りを静め、心を落ち着けると、自然に共感もできるし、人の立場にも立てる。

     本書で最も特筆すべきなのは、そのための方法として、自分の心を「他者化」することの重要性を指摘していることだろう。自分の心は「自分では制御しきれないくらいの暴れ馬」のようなもので、心のエネルギーの嵐は一瞬のうちに変わってしまう。私たちは暴れ馬の飼い主であり、「心」を「自分」と同一視する必要はない。このことを知るだけでも心が少し軽くなる。

     本書ではさらに具体的な技法として、瞑想や性格分類なども紹介されている。著者が言うように、これらの方法を身につけるには時間がかかるかもしれない。しかし、ただ読むだけでも、これまでよりは楽に怒りとつき合えるようになるはずだ。

     コミュニケーションは自己と他者とのかかわりから生み出される営みだが、それがもたらすものを自分がどう受け取り、応えるかでコミュニケーションの行方が決まることを本書は教えてくれている。

    (『精神看護』2012年9月号掲載)
  • 対人関係の改善には,小さな怒りを細かく取り除いていくこと (雑誌『看護教育』より)
    書評者:太田 加世(C-FEN(シーフェン)代表)

     看護師や教員等,人を相手に仕事をしている者の悩みの多くは対人関係に起因することではないだろうか。世の中にはコミュニケーションに関するハウツーが多く出回っているが,単なるハウツーでは根本的な解決は難しい。では,対人関係やコミュニケーションの問題を解決するためにはどうしたらよいのか。カギは「自分の心」...
    対人関係の改善には,小さな怒りを細かく取り除いていくこと (雑誌『看護教育』より)
    書評者:太田 加世(C-FEN(シーフェン)代表)

     看護師や教員等,人を相手に仕事をしている者の悩みの多くは対人関係に起因することではないだろうか。世の中にはコミュニケーションに関するハウツーが多く出回っているが,単なるハウツーでは根本的な解決は難しい。では,対人関係やコミュニケーションの問題を解決するためにはどうしたらよいのか。カギは「自分の心」にあると著者はいう。人の心はひっきりなしに想念が渦巻いており,自分の意思と無関係に一瞬で変わる。自分では制御しきれない心は暴れ馬であり,これを認識することが対人関係の対応力を高めるうえで重要なのだ。

     赤ちゃんは言葉を話せないが,「おぎゃー」と泣くことによってお腹がすいた,オシメを換えてほしいと自分の欲求を訴える。この「おぎゃー」と泣くことは「怒り」の表明であり,「人間のコミュニケーションは怒りによって他者を動かすというところからスタートする」,これこそが,人間関係,コミュニケーションの難しさをもたらしていると著者はいうのだ。

     自分自身のものであるにもかかわらず制御するのが難しい心,そして,「怒り」にとらわれやすい心を抱えているという著者の主張は,私にとって意外であると同時に腑に落ちるものであった。過去の自分を振り返るとそこには確かに「怒り」が存在し,制御していない自分がいたからである。

     ここでの「怒り」は,ちょっとした日常生活での「小さな怒り」のことである。私の頭に浮かんだのは,教員時代に,学生がレポートの締め切りを守らないことや実習の準備不足等について,叱るべきところを怒ってしまっていたという体験だ。実は,このような「小さな怒り」が私たちの心を少しずつ疲弊させて,徐々に積み重なっていく。

     著者は,心を疲れさせず,対人関係を改善していく最も効果的で実践的な方法は,小さな怒りを細かく取り除いていくことだという。具体的には,「いま自分が怒っているな」と気づくこと。「気づく」あるいは「認識する」ということ自体に行動的な意味があり,それだけで人は変われると著者はいう。怒りを消して,もう一度目の前の現実をみると,自然に相手の立場に思いが至り対応も変わる。私の場合ならば,学生の行動に怒っている自分の怒りに気づき観察したならば,怒るのではなく冷静に叱ることができたのだろう。ただし,著者は,「自分の怒りは他人のせい」という考えから徹底的に抜け出さないと怒りを消すのは難しいともいっている。

     本書はもともと医療者向けの講演録を再構成したもので,平易な文章で大切なことが繰り返し丁寧に書かれている。多様化する学生とどう接すればよいのか悩んでいる教員に,著者の提示するレッスンを試みてもらいたい。

    (『看護教育』2012年10月号掲載)
目 次
オリエンテーション 対人関係のカギは「自分の心」にある

レッスン1 心を見つめる
 心のコントロールがカギ
  〈エクササイズ〉心を見つめる
 誰も「心とは何か」を知らない
 心は一瞬で変わる
 心の速度は光の十七倍ある
 水面に映った月
 暴れ馬である心をどう制御するか

レッスン2 「怒りの起源」を知る
 赤ちゃんはなぜ「泣く」のか、親はなぜ「謝る」のか
 コミュニケーションの最初の間違い
 親は赤ちゃんに謝りつづける-もうひとつの間違い
 不幸な生い立ちを認める
 怒りと愛情欲求

レッスン3 なぜ「怒っている人」に弱いのか
 突然怒り狂うゴモラ
 怒りに甘い日本文化
 僕らは怒っている人に弱い
 自分の中にある解離性を認識しておく
 もっと「怒り」に厳しくなろう

レッスン4 怒りは百害あって一利なし
 怒りは百害あって一利なし
 怒りはパフォーマンスを下げる
 リアリストは必ず引きこもる
 「偶然」と「陰謀」
 必然性は「網の目的世界観」の中で立ち上がる
 まずは「怒りを消す」ことから

レッスン5 怒りに気づく
 仏教に学ぶ「怒り」の分析
 欲にはかぎりがない
 「世の中わかった気になる」のは無知であるということ
 小さな怒りに注目する
 「不安」とは何か
  〈エクササイズ〉「不安」を見つめる
 「見下し」「傲慢」「自己卑下」
 朝の自動思考が生む「暗さ」

レッスン6 「明るさ」は自分でつくる
 怒りを観察する-一日百回は怒っている
 「心の基準点」をつくる
  〈エクササイズ〉心の基準点をつくる
 リセットのためのエクササイズ
  〈エクササイズ〉木に抱きつく
  〈エクササイズ〉深呼吸
  〈エクササイズ〉念仏を唱える
 「朝の過ごし方」が一日を決める
  〈エクササイズ〉シャワーを使う
 百回のうち一回でも怒りを消せれば、運気が変わる
 心には毎日が効く
 心を明るくするのは「一瞬」でもいい
 心の明るさは自分でつくる

レッスン7 対人関係をストレスにしない
 怒らせる人は苦しんでいる
 「便利さの追求」としての他者からの撤退
 私だけの神様
 俯瞰で見る
 グループから“頭ひとつ”出しておく
 無理してお付き合いしない
 嫌いな人のために祈る
  〈エクササイズ〉苦手な人のポートレートを思い浮かべる
  〈エクササイズ〉嫌いな人のために祈る
 学びの触媒としての他者
 相談はあっさり、淡々と

レッスン8 日常のための暝想法
 本当の知恵を得る方法
 暝想の基本
 世界選手権の決勝戦に臨むような気持ちで座る
 暝想も毎日が効く
 暝想の落とし穴
 現実世界に足場を置き続ける
 揺り戻し
 身体と他者を碇とする

レッスン9 プラスアルファの学びとしての性格分類
 同じ感受性を共有しているという思い込み
 デメリットを越えるメリット
 自分たちの主観性の強さに気づく
 入門に最適の「類人猿分類」
 名越式性格分類
 性格分類と怒り
 プラスアルファの学びとして

あとがき