医学界新聞

2012.06.04

第98回日本消化器病学会開催


 第98回日本消化器病学会が4月19-21日,菅野健太郎会長(自治医大)のもと,「トランスサイエンス時代の消化器病学」をテーマに,京王プラザホテル(東京都新宿区)にて開催された。

◆薬剤起因性消化管障害に関する予防策が検討される

菅野健太郎会長
 高齢社会の到来とともに,多種多様な薬剤を服用・併用する患者は増加しており,薬剤に起因する消化管障害に関するエビデンスの構築,予防策の確立は急務だ。パネルディスカッション「薬剤性消化管障害(NSAIDs,抗癌剤,ビスホスホネート,PPI,抗菌薬他)」(司会=日医大・坂本長逸氏,獨協医大・平石秀幸氏)では,基礎研究や横断的研究,症例対照研究などに基づき,薬剤起因性消化管障害の現状とその予防策について考察された。

 県立広島病院の宮本真樹氏は,上部消化管出血(UGIB)に対するプロトンポンプ阻害薬(PPI)予防処方の意義について言及した。同院で過去12年間に見られたUGIB 253例の追跡調査結果から,「UGIBの発見率はPPI処方率と逆相関の関係を示している」と指摘。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や低用量アスピリン(LDA)を含む抗血小板薬の処方例に対し,UGIB予防を目的にPPIを併用することでUGIBが減少したという。また,広島県北部の10万人当たりの年間UGIB発生率は,PPI処方率の増加とともに減少している点についても言及。UGIB予防にPPIが有用であることを示した。

 2009年10月に刊行された『消化性潰瘍診療ガイドライン』では,NSAIDsやLDAによる消化管障害の予防に関するステートメントが示されている。津山中央病院の竹中龍太氏は,ガイドライン刊行前後で同院におけるNSAIDs,LDA投与患者の消化性潰瘍診療がどのように変化しているかを考察。刊行後には,消化管障害予防を目的としたPPI処方が増加しており,胃十二指腸潰瘍合併例に顕著な減少,出血性胃十二指腸潰瘍合併率の低下が見られたと報告した。

 主に小腸の粘膜上皮細胞内に存在するDiamine Oxidase(DAO)は,腸管上皮に損傷があると活性が低下する。その際,血中濃度も相関して低下することから,血清DAO活性が抗癌剤による消化管粘膜障害の指標になると考えられている。三好人正氏(徳島大)は,初回治療Docetaxel+CDDP+S-1の3剤併用化学療法を施行した16例の血清DAO活性値を継続的に測定。消化管症状が出現した患者の血清DAO活性値は,薬剤投与後は消化器症状の出現に先行して低下し,さらに投与終了後では増加が認められたという。この結果から,血清DAO活性値が抗癌剤による消化器症状を早期に評価する指標となり得ると主張した。

 腸間膜静脈硬化症に起因した還流障害による慢性虚血性大腸病変である特発性腸間膜静脈硬化症(IMP)。近年,その原因として,漢方薬との関連が指摘されている。大津健聖氏(福岡大筑紫病院)は,自験例および医中誌で検索した報告例から,漢方薬内服とIMPの関連性を検証した。その結果,自験例13例中12例,報告例24例中19例において漢方薬の長期服用が認められ,特に山梔子を含有する漢方薬の頻度が高かったという。重症度は漢方薬内服歴との相関は見られなかったとしながらも,漢方薬長期服用がIMP発症の一因となっている可能性があることを明らかにした。

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