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第2827号 2009年4月20日


interview
網野寛子氏(東京都ナースプラザ所長)に聞く

“後輩の養成”という専門職としての役割を果たすには,看護職のさらなる自立が必要


 近年の社会変化に伴い,看護職にはより高度化した技術力や判断力,コミュニケーション能力が求められるようになってきた。看護基礎教育の4年制化の論議も進むなか,職業教育の場であった看護学校にとって,パラダイムシフトは喫緊の課題となっている。

 本紙では,昨年12月に発刊された『看護教員のための学校経営と管理』の執筆者のお一人である網野寛子氏(東京都ナースプラザ所長)に,今看護学校の教員に求められている力と,それを学校経営に十分に生かすためのマネジメントの秘訣についてうかがった。


教育力,研究力,実践能力,マネジメント能力

――医療に対する社会的な関心が非常に高まるなか,どのような看護師が求められているでしょうか。

網野寛子(あみのひろこ)氏
網野 今,医療のみならず福祉,教育,産業などあらゆる場で看護が必要とされています。また,医療も多様化し,各病院の機能によって,医療レベルもさまざまです。

 高度医療などの最先端の現場では非常にハイレベルな技術が求められる一方,慢性疾患中心の病院,高齢者が多い施設などでは,対象に即したアセスメント能力,それを解決するための看護技術が求められます。ですから,自分が所属している機関がどのような特性を持つのかをよく理解して,組織目標に適うような能力を身につけていくことが重要です。

――そのような看護師を育成するために,教員にはどのような力が必要でしょうか。

網野 教員にいちばん必要なのは教育力です。さらに,看護師としての実践能力,自分の教育活動を検証するための研究力,それから後輩の育成や学校をよりよくしていくための役割を担うマネジメント能力,この4つの能力が必要です。

 実践能力については,都立看護専門学校では2003年に教員の臨床研修を制度化しました。長期の臨床研修は3か月間,短期は12日以内で,最新の医療に接して実践能力を磨くとともに,そこで出合う医療技術や事例を授業に生かすための学びの場としています。この制度をつくったのは,学生から「先生たちは昔の話はできるけれど,今の話ができない」と言われたことや,教員歴の長い人ほど臨床から離れている年数が長いという調査結果がきっかけでした。

 教員が自ら学ぶという姿勢で臨床現場に入るようになったことで,臨床の方たちとの交流も深まったと感じます。

――教育力の向上について個々の教員ができることはどのようなことでしょうか。

網野 個々の教員がいちばん努力すべきことは,自分が教える科目,単元のコマ数のなかで何を教え込まなければいけないか,何のためにこの要素を盛り込まなければいけないのかをきちんと認識することです。次に,学生の力に応じて,一斉の講義を行えばいいのか,グループワークを入れたほうがいいのかといった方法論を,自分で選択できること。さらに,自分の授業を他の教員に見てもらって批判を浴びるのを厭わないこと。その積み重ねによって,教員自身も伸びていくと考えています。

看護職のさらなる自立を

――組織として最大限の力を発揮するために,網野先生は管理者としてどのようになさってきましたか。

網野 まず,各教員がどの程度の力を持っているかを冷静にみていきます。その上で,教員の能力を向上させるための支援を行うと同時に,他の教員との組み合わせのなかでよい相互作用が生まれるように取り計らっていました。

 例えば,1年生は入学式直後に講義が始まり,たくさんの知識を頭に入れていかなければいけません。ですから,1年生の担当には基礎看護学を専門とし,よく指導できる,責任感の強い教員が適任です。その分,2年生の担当は温かみのある人,というように,各教員の個性を見極めながら,役割を与えます。えも言われぬさじ加減があるんです(笑)。

――学校経営の大きな柱や目標を組織全体に浸透させるためにはどのようなことが必要でしょうか。

網野 私は,看護師にとっていちばん大切なことは,常に自分の足りない部分を勉強し続けていく人であること,困ったときに自分自身で問題解決できる人であることだと考えています。ですから,私は教員全員に対して,あらゆる機会に「看護以外の教養学習も積み重ねることを大事にするように」と働きかけてきました。努力していれば,自身の立ち位置がわかり,必然的に取るべき役割も理解できるからです。

 もう一つ,今はいい学校でなければいい学生は集まらなくなっています。ですから,社会からの評価を敏感にキャッチしていかなければ,学校運営はうまくいきません。実習先の病院から「どうしてもお宅の学生がほしい」と言われるような学生を育てることが重要です。学校が抱える現状の課題を常に検証しながら,教員に過大な要求をすることなく少しずつ改善していくことが管理職には求められています。

――現在の看護学校経営の課題を教えてください。

網野 戦後60年間,看護師の養成は,ほとんど専門学校,養成所が担ってきました。しかし平成に入って大学における養成が急速に増加するなかで,養成所において,「本当にこれでいいのだろうか」という疑問が出てくるようになりました。例えば,都立看護学校のように病院から独立した機関として看護職の校長をあてている養成所はまだ少数です。これだけ看護職が自立を求められ,医療訴訟などでも看護職が対象になるなど責任ある行動が求められる時代に,いつまでも学校長が医師のままでは看護師の魅力が薄れてしまうと感じます。

――看護職の自立が大事ということですね。

網野 はい。専門職には後輩を養成するという重要な役割があります。そのためには,看護モデルで教え,しかも看護師が看護師の考え方で対象の看護問題を判断する,すなわち看護過程を展開することが必要なのです。ですから,看護職が経営に従事することがあってしかるべきだと考えています。そうでなければ,長い目で見たときに本当にいい職業人は育たないでしょう。

■根拠あるデータをもとにした学校経営

――学校を改善しようとする際,自分たちだけの力で進めていくのは難しい点も多いと思います。そういう環境のなかでもできることは何かあるでしょうか。

網野 例えば,他校の教員と交流することは,教員自身が学び続けていくためにも非常に重要です。そのなかで,現状の課題について,他の学校ではどういうふうに実践しているか,それを自分の学校に適応できるかどうかを問い続ける必要があります。

 東京都の場合は,都立看護学校そのものが独立した1つの組織ですが,7校もあり,しかも行政が運営しているので,「このようなデータが得られたので,こういうふうに改善したい」ということを,7校と行政とが一体的に考えることのできる環境にあります。この環境下だからこのようなことが可能なのだと思われがちですが,これは民間の学校も同じです。自分の学校で得られた客観的なデータを日々病院長(学校長)に提示し,同意を得て予算を獲得し,実践していくことで,理想の学校像の実現が可能です。そのためにも,教員の研究力やマネジメント能力が非常に重要なのです。さらに,それをやり続けることも重要です。

――看護教育の4年制化は避けて通れない問題です。4年制に段階的に移行していくということにおいて,今の3年制の専門学校の先生方は,どういう目標を持って進めていけばいいとお考えですか。

網野 医学をはじめ隣接科学が日々進歩し高度化するなか,現在求められている教育内容を3年で修得させるには実質的に総量が多すぎます。大学であろうが,専門学校であろうが,世の中に出て生涯にわたって看護師として,自分の持てる力を存分に発揮できるようになるためには,基礎教育で,科学的思考すなわち問題解決能力を育てることが最も大事ではないでしょうか。

 今,教員には総合力が求められていますが,常に時代に遅れないように勉強をし続けるのは生半可なことではありません。しかし,だからこそやりがいのある仕事でもあります。目標は各自によって違いますが,それに向かって毎年評価をしながら階段を焦らず少しずつ昇っていくことです。

――最後に,『看護教員のための看護学校の経営と管理』の読者の方々へ,メッセージをお願いいたします。

網野 この本は,近未来にふさわしい都立看護専門学校を創造するために,校長をトップに,学校を横断的に組織した“校長会プロジェクトチーム”で検討した内容の結果を著したものです。プロジェクトチームの活動は,大学改革で言われてきた学校統治(ガバナンス)の統治責任,説明責任,情報公開,結果平等の要素を含んでおり,方向性は同じであることがわかりました。ですから,専門学校の先生はもちろんですが,看護大学の先生方にも読んでいただきたいと思います。それから,高校の進路指導の先生方にも参考になるのではと思っています。

――ありがとうございました。

(了)

網野寛子氏
JA長野厚生連佐久総合病院高等看護学院・東京都立公衆衛生看護専門学校保健学科・東京福祉大社会福祉学部卒。明星大大学院教育学博士前期課程修了。佐久総合病院,慶大病院,保健師として練馬区石神井保健所など地域保健,衛生局母子保健課など行政に従事。1993年より看護職養成に転じ,2002年都立北多摩看護専門学校校長,07年都立板橋看護専門学校校長を経て現職。

現在の仕事についてひと言】「看護師等人材確保法」による無料職業紹介(ナースバンク),研修,広報啓発の各事業を総合的に展開しています。ナースバンク窓口にみえる卒後4-5年目の看護師の迷いをキャリアアップにつなげ,働き続けられるよう,相談を充実させたいと考えています。