医学界新聞

連載

2009.03.09

レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

〔 第12回 〕

感受性検査結果の読みかた・考えかた

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回よりつづく

今回は臨床現場で苦手な人が多いと思う細菌検査の流れやMIC(最小発育阻止濃度),感受性の読みかたについて勉強したいと思います。

■CASE

ケース(1)

 70歳の寝たきりの女性。尿バルーン留置しているが,尿路感染症にて入退院を繰り返している。2日前からの発熱,腰痛,膿尿にてER受診。カテーテル関連尿路感染症として,尿バルーン交換の上,抗菌薬投与開始し入院加療となった。尿グラム染色で小型のグラム陰性桿菌陽性だったため,レジデントは欧米の感染症マニュアルに書いてある通り,ピペラシリン2g×2で治療開始。血液培養,尿培養ともにグラム陰性桿菌陽性,その後,緑膿菌と判明したが効果に乏しく,感受性結果が返ってきた(表)。上級医はMIC値の低いシプロフロキサシン点滴に変更するようすすめた。シプロフロキサシンに変更し2日後に解熱し,「MICがSでもMIC値が低い抗菌薬を選ばないと効かないんだよ」と上級医。

 →なぜピペラシリンは効かなかったのか? そして何が起こったのか?

 ケース(1),(2)の感受性結果
  MIC ブレイクポイント
AZT アズトレオナム 4 S
PIPC ピペラシリン 8 S
IPC/CS イミペネム 2 S
MEPM メロペネム <=0.25 S
CTX セフォタキシム >=64 R
CAZ セフタジジム <=1 S
CFPM セフェピム <=1 S
AMK アミカシン <=2 S
GM ゲンタマイシン 2 S
MINO ミノサイクリン >=16 R
LVFX レボフロキサシン <=0.25 S
CPFX シプロフロキサシン <=0.25 S
ST ST合剤 80 R

ケース(2)

 80歳男性。ADL車いすレベル。認知症あり。総胆管結石があり胆管炎で入退院を繰り返している。外科的治療については全身状態から見合わせている。1日前から発熱,右季肋部痛にてER受診。胆管炎にて,抗菌薬投与開始し入院加療となった。2日目に血液培養から小型のグラム陰性桿菌陽性の報告があり,アンピシリン+アミカシンで治療開始したがシプロフロキサシン300mg×2に変更。その後,緑膿菌と判明し治療開始4日たつがCRP高値,37度台の微熱が続いており(発熱以外のバイタルサイン安定・胆道系酵素値は改善),感受性結果が返ってきた(表)。上級医はここは最終兵器といわんばかりにメロペネム点滴に変更するように勧めた。メロペネムに変更し1日後に解熱した。「MICがSでMIC値が同じならカルバペネム系抗菌薬を選ばないと効かないんだよ」と上級医。

 →なぜシプロフロキサシンは効かなかったのか? 何が起こったのか?

細菌検査の流れをおさえよう!
 血液培養,喀痰培養,尿培養をはじめとして,適切な感染症診療には治療開始・変更前後での細菌培養検査は非常に重要です。まずは細菌検査の大まかな流れについて見てみます。

図1 細菌検査の大まかな流れ
 細菌培養検査は大きく5つのステップに分かれています(図1)。

 (1)(2)については,受付初日で行われます。また,(3)は2日目,(4)(5)については3日目以降となります。

 ですから,検体提出2日目には分離培養のステップに入っているため,培養陽性の微生物がグラム陽性菌なのかグラム陰性菌なのか,球菌なのか桿菌なのかについてのおおざっぱな情報を得ることができます。2日目の細菌検査室は情報の宝庫ですので,連絡はこまめにされるとよいでしょう。

抗菌薬感受性試験法およびMIC測定,ブレイクポイント
(1)抗菌薬感受性試験法
 感受性の試験は,拡散法と希釈法に分かれます。
・拡散法――ディスク法として,(1)ディスク拡散法(CLSI準拠法),(2)E test法,(3)昭和ディスク法などがある。
・希釈法――(1)寒天平板希釈法,(2)液体培地希釈法(試験管法,微量液体希釈法)がある。

(2)微量液体希釈法とMIC
 頻繁に使用される微量液体希釈法について簡単に見ていきます。これはMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)の評価が可能であり,MIC値を判定基準と照らし合わせて感受性を判定します。

図2 微量液体希釈法とMIC
 図2のようにプレートで複数の抗菌薬に対するMIC値を測定でき,自動化できるメリットがあります。またプレートにある抗菌薬のみ測定可能です。

(3)Breakpoint MIC
 MIC値のみではその抗菌薬が治療薬として適切かどうかはよくわかりません。そのため,MIC値から治療薬の有効性を判定するための基準=ブレイクポイント(Breakpoint)が必要になります。

 報告書に記載されている感受性結果(S:感受性あり,I:中間,R:感受性なし)の多くは米CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute:旧称NCCLS)のブレイクポイントに基づいています。日本独自のブレイクポイントも日本化学療法学会から設定されていますが,今回は触れません。

 米CLSIのブレイクポイントについては,(1)菌種別に詳細な規定が作られている(菌種と薬剤の組み合わせで判定),(2)感染臓器は考慮されていない,(3)感受性(S:susceptible),中間(I:intermediate),耐性(R:resistant)の3点表記,(4)合議制で決定されるため適宜更新される,(5)米国での標準的な抗菌薬の用法用量に従って設定されている,ことがポイントになります。

解説
 細菌検査の流れ,MIC値,ブレイクポイントについてまとめました。これらをもとに今回のケースのピットフォールについて考えてみます。

ケース(1)
 米CLSIのブレイクポイントで記載されたこの感受性報告書を読む場合の注意点ですが,
 (1)感染臓器は考慮されていない
 (2)薬剤間での比較は想定されていない(=いわゆる「感受性結果の縦読み」は絶対にしてはいけない!)
 (3)米国の標準的な薬剤投与法を想定しての基準である(=国内の保険適応用量がまったく異なる場合がある!)
は非常に重要なポイントです。

 このケースでは,緑膿菌による尿路感染症ですが,感受性のあるピペラシリンが一見効果がなかったようにみえます。

 米国の標準的な薬剤投与法を想定しての感受性検査結果であることに再度注意が必要です。βラクタム系抗菌薬――特にペニシリン系――は,“不気味なくらい”国内投与量が世界標準から少なく設定されています。そのため,投与量を考慮せずして,「MICがSの中でも数が小さい抗菌薬を選択しました!」と自信を持って話す医師がレジデント・上級医問わず多い日本の現状には大いに注意が必要です。

 余談になりますが,ペニシリン系抗菌薬投与量が少ないケースを見るたびに,米国の感染症医に,「日本でのペニシリン投与量では心内膜炎は治せないな」といわれたことを思い出します。

ケース(2)
 このケースでは,除去していない総胆管結石があり,そこへの持続感染の急性増悪が示唆されます。

 前回,前々回に“治療無効の場合の原因の対応”の中で「排膿ドレナージができていない,異物除去ができていない→外科的ドレナージ,デブリドマン,異物除去を行う」「免疫不全や糖尿病など宿主防御能の低下→健常者の感染症に比べて軽快にかかる時間が緩徐であることを理解する」がありました。

 このケースでも,患者さんが高齢であること,異物除去なしに治療を継続しなければいけないケースであること,バイタルサインが安定している,採血データも改善傾向であることなどを総合的に考慮すると,カルバペネム系のメロペネムに変更したことが本当に妥当であったか再考すべきです。

 感受性結果はあくまでin vitroの結果であり,重要な情報とはなるがそれがすべてではないことを知っておく必要があります。

Take Home Message

●報告書に記載されている感受性は一般的に米CLSIの基準による。
●CLSIの基準を臨床に適応するにはいくつかの要素を考慮する必要がある(感染臓器・抗菌薬の投与量・抗菌薬の投与経路など)。
●異なる抗菌薬に対するMICを直接比較して薬剤を選択することは絶対にしてはいけない。
●感受性試験はあくまでもin vitroのデータであり,これが臨床感染症のすべてではない!

(つづく)

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