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第2749号 2007年9月24日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第33回〉
巨大な訪問看護サービス事業

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 1万2330人を雇用するニューヨーク訪問看護師サービス(Visiting Nurse Service of New York: VNSNY)を訪れたのは,およそ1週間の視察研修(リバティ・インターナショナル主催)の最後であった。今回は巨大な訪問看護サービス事業を紹介したい。

多職種から成る1万2千人のスタッフ

 VNSNYは,1893年にLillian D. Waldによって設立され,現在では米国最大の非営利ホームヘルスケア事業所となっている。VNSNYのサービスはニューヨーク市の5つの行政区とウェストチェスター,ナッソー郡をカバーし,1日平均約3万1000人の患者を対象とし,その範囲は新生児から高齢者まで及んでいる。利用者の5%は無保険者であるという。

 VNSNYの患者ケアは,術後のケアといった自立期から,依存,終末期のケアまでの連続体であると説明される。このことに対応して,サービスは,短期ケアから長期ケア,医療から非医療(支援)にわたり,連邦政府の認定したホームヘルス事業,長期ホームヘルスケア,ホスピスと緩和ケア,自費によるケア,HMOなどのヘルスプランによるVNSチョイスなどがある。

 VNSNYの雇用者の内訳をみてみよう。1万2330人のうち最大の集団は,ホームヘルスエイド(日本ならばヘルパーに相当するであろう)であり5777人(約47%)を占める。次いで,看護師(RN)が2505人(約20%)。そして,695人(約6%)のリハビリテーションスタッフ(PT・OT・STを含む),594人(約5%)のソーシャル・ワーカー,その他のクリニシャン(約1%)(栄養士,医師,心理士などが含まれる)の構成となっている。医師においては,ホスピス医としての精神科医も少数雇用している。

 雇用者の合計が100%に満たないため,残りの21%について尋ねたところ,それらは事務職員であるが,夜間の訪問ナースを送迎する警備員や英語以外の言葉を用いる利用者のための通訳者なども含まれるという。スペイン語,北京語・広東語,韓国語,フランス語,ロシア語など多様な言語に対応している。

看護師不足に対応しテクノロジーを駆使

 米国の65歳以上人口は12.4%(2000年)から19.6%(2030年)となり,実数では2倍に増加すると推計されている。ニューヨーク市の65歳以上の人口は,11.7%(2000年)から14.8%(2030年)になると予測されており,実数では93万7857人から135万人となり44%増となる。死因は,感染症や急性期疾患から慢性,退行性疾患に移行しており,個人や家族および社会資源の双方にとって,長期ケアの必要性や要求が高まっている。

 一方,米国では2020年までに34万人の看護師不足が見込まれている(だから,日本には外国人看護師は来ないだろうと考えている人もいる)。2006年の調査では,2011年から2020年までに看護師の半数以上が退職する意向を示している。看護専門職は進化し変容しており,現在では医師や医療チームにおけるコーディネーションが重要となっているため,コミュニケーション能力がますます求められる。また,連邦政府や州当局の法規制が多く,すべての活動に書類が必要となっている。可能な限り,仕事量と生産性をあげるためテクノロジーを駆使しなければならず,今や,看護師不足とテクノロジーは密接に関連している。

 VNSNYへの依頼は,63%が病院,13%が医師,14%がナーシングホームからであり,VNSNYの出張所を病院内に設けて連携を強化している。年に5000人くらいの医師から依頼が来るが,その9割は年5件以下である。訪問の依頼が多い医師は,往診医,家庭医,整形外科医,血管外科医などである。最近はコングリゲイトケア(高齢者集合住宅におけるケア)が注目されている。

 訪問看護師は,退院後に訪問依頼を受けてから24時間以内に初回訪問をして,Physical examinationを含む包括アセスメントをしてケアプランを立て,医師に報告して許可を受けることになっている。訪問看護師は1日平均6.5件の訪問をする。

 テクノロジーとの関係で注目されるのは,「Pen Tablet」と称されるQuality Score Card(質のスコアカード)の作成である。すべての患者データは入力され管理されており,例えば,糖尿病ケア・創傷ケア・心不全ケアの目標,実施されている割合が示され,再入院率が毎月報告される。

 財政の概要は,VNSNYの2006年報告からみることができる(表)。

 ニューヨーク訪問看護サービスの財務諸表(概要)
  2006年 2005年
収入の部    
 純患者サービス $700,626 $684,813
 メディケイド 209,572 196,396
 財成金その他 31,589 35,366
総収入 941,787 916,575
費用の部    
 給与手当 418,043 395,827
 福利厚生費 107,774 100,727
 契約サービス 284,705 293,935
 消耗品費 91,423 85,462
 原価償却 15,340 17,564
 貸倒引当金 7,488 7,434
総費用 924,773 900,949
事業収支 17,014 15,626
寄付 4,239 2,135
当期収支差額 $21,253 $17,761
    (単位:千ドル)

 わが国の訪問看護ステーションの規模と職員構成,テクノロジーの活用に思いをはせた夏の旅であった。

つづく

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