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第2715号 2007年1月15日


【連載】

はじめての救急研修
One Minute Teaching!

田中 拓
箕輪 良行桝井 良裕
(聖マリアンナ医科大学・救急医学)

[Case10]   発疹だけで救急なんて……?


前回よりつづく

この連載は…救急ローテーション中の研修医・河田君(25歳)の質問に救急科指導医・栗井先生(35歳)が答える「One Minute Teaching」を通じて,救急外来,ERで重症疾患を見落とさないためのポイントを学びます。


Key word
発疹,発熱

Case

 やはり冬は患者さんが多い。風邪から肺炎,心不全までさまざまな患者さんを診てへとへとの河田君のもとへ次の患者のカルテが届けられた。主訴は「発疹,発熱」。これまでの経験から「どうせ蕁麻疹か何かだろう」と高をくくった河田君は,患者を呼び入れた。

 患者は32歳男性。2日前から発熱があり,この日の日中から全身に発疹が出現したため受診。発疹に痒みはなし。全身倦怠感と頭痛あり。呼吸困難なし。嘔気・嘔吐なし。下痢なし。既往歴も特記すべきものなし。最近の海外渡航歴なし。身体所見ではバイタルサインは血圧120/80,脈拍100,酸素飽和度99%,体温は38.6℃。発疹は体幹を中心として全身に広がる紅斑。眼球結膜に黄疸なし,眼瞼結膜に貧血なし,咽頭発赤なし。髄膜刺激徴候を認めず。頸部リンパ節腫脹なし。呼吸音は両側清明,心音に雑音なし。腹部は平坦で柔らかく,圧痛も認めない。下肢に浮腫も認めなかった。

■Guidance

河田 全身に発疹があり,発熱しています。既往歴に特記するものはなく,身体所見も異常は認めません。

栗井 発疹と一言で言われても全然わからないよ。どんな発疹なんだい?

河田 え~と。赤い発疹がボツボツばらばらと……。

栗井 皮膚疾患は「皮膚科の言語で話すことが診療の半分」と言われることもあるくらいなんだ。皮膚の所見を口頭で伝えることは難しいけれど,主な分布部位,個々の発疹の大きさ,性状(色や形)は伝えないといけないね(Check Point1)。

河田 体幹を中心に全身に広がる紅斑です。境界は不明瞭です。大きさも大小さまざまで癒合傾向はありません。やや淡い色調をしています。

栗井 やればできるじゃないの。発疹は確かに緊急対応を要さないことが多いけれど,他の疾患同様,まずは緊急性から考えるのが基本だね。特に発疹を主訴に受診する場合,TEN(Toxic Epidermal Necrolysis;中毒性表皮壊死剥離症),Stevens-Johnson症候群,TSS(Toxic Shock Syndrome;中毒性ショック症候群),SSSS(Staphylococcal Scalded Skin Syndrome;ブドウ球菌熱傷様皮膚症候群),壊死性筋膜炎などは見逃してはいけない(Check Point2)。当然アナフィラキシーに伴う発疹では気道閉塞や血圧の低下の評価をまず行わないといけないね。

河田 口腔も診ましたが,粘膜の異常はありません。呼吸困難や呼吸音の異常,バイタルの変化も認めません。

 それから……そうだ,職業は公務員です。予防接種は麻疹,風疹,水痘,耳下腺炎ともに接種されています。サプリメントや漢方薬も含めて薬剤の使用はなく,シャンプーや化粧品も変わったものはありません。家族や友人にも同様の症状を持った人はいません。

栗井 ふ~ん。これといった決め手のない発疹のようだね。でも高熱が続いているのは要注意だし(Check Point3),話だけ聞いていても皮膚の話はピンと来ないから患者さんを一緒に診よう。

Disposition
 栗井先生が下着を脱がし,臀部を観察したところ,直径約10mm程度の黒色痂皮に覆われた丘疹を1個認めた。周囲が若干発赤しており,軽度の圧痛があった。詳しく病歴を聞いたところ1週間前に山の中で木材の伐採のボランティアに従事したことが判明。診断はツツガムシ病。すぐにミノマイシン投与が開始された。tsutsugamushiが寄生して生じる急性熱性疾患で,重症化するとDICや中枢神経症状,循環器症状を起こすこともある。

Check Point 1

皮膚所見の言葉
 皮膚の所見として色の変化を「斑」と呼ぶ。代表的なものは「紅斑」,これは血管拡張が主体となっているものであり,圧迫すると退色する。次に「紫斑」これは内出血を起こしているものであり,圧迫しても退色しない。そのほかに「白斑」「色素斑」などがある。隆起を伴う変化は大きさによって丘疹(0.5cm程度),結節(1-3cm程度)さらに大きいものを腫瘤(3cm以上)と呼ぶ。その他水疱,びらん(表皮に限局した組織欠損),潰瘍(真皮より深い組織欠損),痂皮などは比較的イメージが容易なのではないだろうか。

Check Point 2

発疹の鑑別診断
 本文で述べた疾患は見た目にも派手であり,重症感を伴うので逆に見逃されることは少ない。それほど重篤ではなくとも,薬疹は入院患者の2-3%,外来患者の1%に生じ,常に鑑別に入れるべきである。また四肢の限局した紫斑は血小板や凝固能の低下から生じることがあり,注意を要する。麻疹,風疹,水痘といった発疹を生じるウイルス疾患は,感染対策の必要性や合併症の可能性を考慮する必要があり,その皮疹の特徴を知っておく必要がある。またこれら以外の特定されないウイルス感染によってもさまざまな発疹を呈する。

Check Point 3

発疹のRed flags
 発熱,幼児/高齢者,免疫抑制状態,リンパ節腫大,全身の紅皮症,点状出血/紫斑,粘膜/口腔病変,低血圧,局所の疼痛,最近の薬剤開始(1-4週),関節痛,見るからに重症感など。

Attention!
●発疹のRed flags!(紅いばかりじゃないですぞ)。
●Head-To-Toe Examination! 注意すべき発疹では全身観察をしっかりと(口の中から陰部まで)。

次回につづく

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