医学界新聞プラス

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取材記事

2025.05.09

4月18~20日,第122回日本内科学会総会・講演会(会長=大阪大学・竹原徹郎氏)が,大阪国際会議場(大阪市),他にて開催された。テーマは「いのち輝く内科学」。開会の辞の中で竹原氏は,先んじて開始された2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に言及しながら,18年ぶりであるという大阪での同総会・講演会の開催を宣言した。

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◆医療DXが描く未来

シンポジウム「医療DXの現状と課題」(司会=大阪大学・猪阪善隆氏,九州大学・中島直樹氏)では,産官学それぞれの立場の登壇者が実務的な話題を提供することで,医療DXの意義や現在置かれている状況,今後の展開に向けた課題・対策への理解が促された。

初めに登壇したのは厚労省医政局の田中彰子氏だ。氏は,「経済財政運営と改革の基本方針2022」により設置された医療DX推進本部(本部長=内閣総理大臣)が策定した「医療DXの推進に関する工程表」(2023年6月)に基づき進められている政策を概観した。マイナンバーカードの健康保険証との一体化による取り組みは,全国医療情報プラットフォームの構築,電子カルテ情報の標準化等,診療報酬改定DXを三本柱として進行中で,施策の推進に当たっては医療者や国民の理解と協力が欠かせず,丁寧に周知・広報を進めていると述べた。

続く佐竹晃太氏(日本赤十字社医療センター/株式会社CureApp)は,医療DXの一例として,プログラム医療機器(SaMD)である治療アプリを取り上げた。治療アプリとは,医師が処方し,スマートフォンなどの汎用デバイスにインストールして患者が使用するツールである。従来は十分に医療介入できていなかった患者の行動・考え方に介入することで治療上の効果を狙う。医療DXの本質は単なる効率化にとどまらず,新たな患者体験を構築することで医療の質を向上させることにあり,治療アプリはその実現を支える重要なツールであると氏は述べ,発表を締めくくった。

医療機関の間で患者の医療情報を共有するElectronic Health Record(EHR),患者と医療情報を共有するPersonal Health Record(PHR)の必要性を指摘するのは,大阪医療センターの松村泰志氏である。氏が提案するPHRは,医療機関の電子カルテから重要な診療データをPHRプラットフォームに送付することで,患者が情報を閲覧でき,自身の症状や計測データを入力する機能を持つもの。こうしたシステムを全国展開する際に必要となるPHRプラットフォームへのネットワーク接続,検査データ等を標準規格で出力する機能,セキュリティのための個人認証は政府の推進する医療DXによって整備されるため,その実現への期待感を語った。

最後に登壇した京都大学医療DX教育研究センターの黒田知宏氏は,“情報革命”であるDXに関しては,社会の全ての構成員がその変化を受け入れ,より幸福になれるよう設計する必要があると語る。向かうべき場所を見定め,人々を導くための道筋を設計することで,「みんなをそこへ連れていく」ためのスキルが,医療DXを先導する人材には求められる。DXの目的はITで人々を幸せにすることであり,関係者一人ひとりのユーザー体験(UX)を向上させるために,時にはしなやかにルールを変更する勇気も必要であると述べ,京都大学医療DX教育研究センターで行うDX教育の一端を紹介し発表を終えた。

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写真 会長講演を行う竹原氏