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[第4回]医療とデザインの可能性
『医療者のスライドデザインーープレゼンテーションを進化させる、デザインの教科書』より
連載 小林啓
2023.03.17
医療者のスライドデザイン──プレゼンテーションを進化させる、デザインの教科書
臨床や研究の現場では日常的にプレゼンテーションが求められるものの,発表時のスライドのデザインについて体系的に学ぶ機会はほとんどなく,スライド作成の手法に悩んだ方も多いことでしょう。また近年ではオンライン上での発表機会も増加しており,情報を正確に届けるための工夫を凝らす重要性が高まっています。
このたび刊行された書籍『医療者のスライドデザイン──プレゼンテーションを進化させる、デザインの教科書』では,効率的かつきれいで伝わりやすいスライドを作成できるような工夫が豊富な実例集とともに散りばめられています。本書を片手にスライドデザインのスキルを磨いてみませんか。
「医学界新聞プラス」では,実例を用いたスライド作成時のポイントの紹介など,本書の中から4つの項目を抜粋し,公開をしていきます。
デザインを医療に応用している事例は世界中にあります。デザインの考え方を知り、未来の医療のためにできることを考えていきましょう。
□ 医療の課題は山積み
課題を解決することがデザインの役割であれば、医療という現場には課題しかありません。医療費による財政の圧迫、少子高齢化、パンデミックなどのマクロなレベルから、通院しても痛みが治らない、外来の待ち時間が長い、医療の仕事がきつすぎるといった個人レベルの問題まで、長い医療の歴史のなかで未解決の課題がまだまだいくらでもあります。
また、現代は非常に変化が速く複雑な時代であり、新しいアイデアに柔軟に取り組むことで変化に対応していかなければいけません。ビジネスやもの作りの世界が積極的にデザインを取り込んでいるように、日本の医療もデザインの利点をもっと活用することが望まれます。
□ 治療アプリ®のデザイン
筆者の所属する株式会社CureAppでは「ソフトウェアで『治療』を再創造する」をミッションに、治療を目的としたスマートフォンアプリを開発しています。患者さんの生活に寄り添い、より健康な習慣を得ることを主な目的としているため、ユーザーの行動を深く知り、できるだけ負担をかけずに課題を解決できるデザインはとても大切です。見た目や機能の配置だけでなく、どうすれば負担なく日常的な習慣として使われるかなどの体験の議論も深堀りし、多くの患者さんと医療者に必要とされるデザインを日々追求しています。
□ 新しい聴診器
デジタル聴診器「ネクステート」は、聴診の音をデジタルで飛ばし、イヤーピースを着けなくても聴診を可能にするデバイスです。聴診器自体が古来の医療に革命を起こしたイノベーションですが、医療者のさまざまなニーズを熟知し、伝統的な機器とテクノロジーを融合させた優れたデザインです。イヤーピースによる耳の痛みからの解放、補聴器を装着したままの聴診、感染防護服ごしの聴診など、1つの大きなアイデアが現場にたくさんの恩恵をもたらしています。
□ 医療×デザイン×研究
デザインは新しいものを生み出すためだけのツールではありません。ものと人との関わりを調査し、アウトカムの違いを分析することで将来のより優れたデザインへとつなげることができます。
一例として、病院の産科ユニットの物理的なデザインが帝王切開の比率とどう関わるかに着目したユニークな研究があります。12の病院と分娩センターを対象に構造的な指標とスタッフの観察による指標をとらえ、複数のアウトカムとの関連を報告しています。こうした研究がもたらすインパクトは臨床現場の改善に直接つながり、さらなる発展が期待できる分野です。
(Plough A, et al.: Designing capacity for high value healthcare: The impact of design on clinical care in childbirth. Ariadne Labs and MASS Design Group, 2017)
□ 医療×デザインの機関
ロンドンに拠点を置くHelix Centreは、病院、医療系大学、芸術大学と連携し、デザインで医療課題の解決に取り組む機関です。その活動の幅は広く、救急のトリアージや糖尿病治療、小児医療、終末期医療、コミュニケーションのプラットフォーム作りなど、テクノロジーと医学研究をつなぐデザインを開発し、発信しています。こうした取り組みは民間企業のイメージが強いですが、病院や大学から展開されることは興味深く、国内でもこうした流れはたしかに存在します。
□ 私たちにできること
ここまで医療とデザインの可能性について紹介してきました。しかし、私たちは医療者でありデザイナーではありません。デザインは苦手、センスがないし自分の業務とは縁がないと考えている人もいるでしょう。しかし、デザインを作る側は医療者との関わりを求めています。なぜならみなさんは現場を知る当事者であり、解決したい課題を抱えるユーザーだからです。“Design is too important to be left to designers.”(デザインはデザイナーに委ねるには大きすぎる)といわれ、さまざまな分野の専門家との協働を必要としています。大切なことは、デザインという行為に興味をもってもらうことです。世の中にはデザインがあふれており、スライドを含め自らデザインもしています。多くの人がデザインの面白さを知り、よりよいデザインについて議論し、リテラシーとしてデザインの感覚を身につけることで、これからの医療がさらに素晴らしいものに変わると信じています。
よりよい未来の医療のために。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
医療者のスライドデザイン――プレゼンテーションを進化させる、デザインの教科書
プレゼンテーションで悩む、すべての医療者・学生へ
<内容紹介>研究や発表で使う「スライド」をよりきれいに、よりわかりやすく作るための指南書。一般的なデザインのルールはもちろん、医療職者が多用する「数字」「グラフ」「画像」「フローチャート」などに特化した解説も掲載。医療系スライドの多数の実例を示し、具体的な改善方法を提案する。汎用プレゼンテーションソフトで使用できるフォーマットやアイコンのダウンロード、実際の作成過程の動画付き解説などの付録も充実。
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