第28回日本心不全学会学術集会開催
取材記事
2024.10.31
第28回日本心不全学会学術集会が10月4~6日,佐藤直樹会長(かわぐち心臓呼吸器病院)のもと,「原典に帰れ!――STANDING ON THE SHOULDERS OF GIANTS」をテーマに大宮ソニックシティ(さいたま市)にて開催された。医学界新聞プラスでは,ハートチームシンポジウム「シームレスな患者支援の実現に向けて」(座長=はなまるクリニック・山本英世氏,かわぐち心臓呼吸器病院・今野久美子氏)の模様を報告する。
◆シームレス介入における看護の役割とは
はじめに登壇した神戸大病院の石井裕輝氏は,補助人工心臓(VAD)を装着する患者のケアを担う多職種チームでの看護師の役割について解説を行った。VADは心臓移植待機症例のような重症心不全の患者に多く使用されるほか,日本では心臓移植の代替治療としても長期在宅治療での使用が2021年4月より開始されている。VAD患者は定期受診をしながら社会復帰も可能であるが,在宅療養には多職種連携によるサポートが不可欠である。発表の中で石井氏はVAD装着による治療の長期化や対象患者数の増大,復学・復職に向けた障壁の多さなどVAD診療が数々の困難に直面している現状に触れ,「啓蒙活動を続け,社会全体でVAD診療を支えていくことが必要だ」と強調する。課題が山積する中でチームのハブとして病棟と外来,地域との橋渡し役としての働きに加えて,移植・VAD管理のコーディネーターとしても動くことができる慢性心不全看護認定看護師が担う役割は非常に大きいとし,今後もシームレスな患者支援に貢献していく必要があると結んだ。
次に松元亮二氏(愛知医科大)が,NP (Nurse Practitioner)の立場から循環器診療に介入した経験をもとに発表した。ST上昇型急性心筋梗塞や心不全,肺炎など複数の疾患を併発する患者に対し,氏はNPとして疾患管理および薬物療法の調整,生活指導などの形で治療に介入。心機能の改善や禁煙の成功,患者本人の病態理解の促進といったポジティブな結果につながったことを振り返り,感染症科の従事経験をはじめ各科ローテーションによる総合的な知見が生かされたと分析した。発表の最後に氏は,包括的な健康アセスメント能力や熟練した看護実践能力などのNPに必要とされる能力は,「高度実践看護を可能にする経験と看護学の知識という土台の上に医学的知識・技術の研さんを積み上げることで涵養される」と説明。「NPとしての専門的教育や臨床実践を重ねることで看護学と医学を融合させた独自のコンピテンシーを発揮することが可能になり,領域や職種の壁を超えたシームレスな介入につながるはず」と締めくくった。
「途切れのない療養支援を実現するには,地域との連携の前に院内連携のシステムを整えることが重要である」。そう語ったのは,岐阜県総合医療センターの心臓リハビリテーション専従看護師である石原真由美氏だ。心不全患者は増悪と寛解を繰り返しながら外来や在宅でフォローされるため,病院よりも地域・在宅で過ごす時間が長くなりやすい。しかし,退院後のフォロー体制が不十分なために心不全が増悪し,再入院するケースが問題視されている。同センターでは退院時に病棟と外来,病院と地域が連携する継続的なフォローアップシステムを開始したことで,管理不十分による再入院数の減少や増悪時の早期受診体制の整備,再入院時の入院期間短縮につながったとした。また継続的なかかわりを持つことで患者の思いや希望を汲み,望んだ最期を迎えられるよう調整することも可能になると氏は述べ,入院から外来,地域への流れの中でのシームレスな患者支援の重要性を改めて強調した。
◆地域・在宅医療の中で心不全患者に安定したケアを提供するために
2024年の診療報酬改定で「在宅強心剤持続投与指導管理料」が新設され,重症心不全患者への在宅静注強心薬持続投与は今後増加していくと予測される。2019年以降,所属施設で5件の在宅静注強心薬持続投与症例を経験した岡本聡一郎氏(大分大病院)は,「強心薬離脱が困難な心不全患者にとって,生活の質を維持するために重要な選択肢の一つとなるのが在宅静注強心薬持続投与である」と述べた上で, 実際の症例をもとに導入までの適応検討や退院後のフォロー体制,退院時訪問などにおけるポイントを概説。安心して在宅静注強心薬持続投与を行うには病院・在宅スタッフの連携強化や在宅静注強心薬療法に関する教育・啓発活動がいっそう必要であるとの課題意識を示した。そして,在宅ケアの移行においては病院と地域の多職種間でコミュニケーションを増やし,情報共有の際は「バトンをつなぐ」意識で相手の立場になって考え,伝え方を工夫していくべきとした。
続いて,地域・在宅医療に携わる心不全療養指導士のグループであるCHFEホームケアネットワークの設立者であり代表を務める白川大樹氏(訪問看護ステーション立花畑)が登壇。訪問看護師にとって心不全増悪の徴候を見極めることは難しく,急変時には1人で対応しなければならないことが現場の強い不安につながっている現状を共有し,「地域・在宅から心不全パンデミックを抑止する」という活動目的に言及した。同団体は2023年3月に設立されて以降,ネットワーク内で各地域における心不全予防への取り組みの共有や心不全在宅医療に関する講義を実施しているほか,ネットワーク外の医療職者・介護職者に向けても勉強会の開催をしている。在宅で心不全を看護できる人材を増やすと同時に,在宅医療にかかわる他の職種とともに地域全体で心不全をサポートできる体制を構築していくためにも,心不全療養指導士である訪問看護師が軸となり心不全在宅医療・ケアを広めていく必要性を氏は参加者に共有した。
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