BRAIN and NERVE Vol.77 No.2
2025年 02月号

ISSN 1881-6096
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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日本社会では,孤立・孤独が静かに広がり,コロナ禍を経てその深刻さは増している。種々の研究からは,孤立・孤独が死亡率を上昇させ,認知症やうつ病のリスクを高めることが明らかになっている。英国では2018年に孤独担当大臣という専門ポストが設置され,本邦でも2023年に孤独・孤立対策推進法が成立するなど,いまや孤立・孤独は世界的な社会課題と言える。本特集は,孤立・孤独が私たちの心身や社会に与える影響を,社会科学,精神医学,神経科学の観点から紐解く試みである。孤立・孤独がなぜ深刻な問題なのか,そしてどのように対峙していくべきなのかを考えてみたい。

社会問題としての孤独・孤立 石田 光規
2020年代から孤独・孤立が社会問題としていっそう注目を集めるようになった。本論では,まず,孤独・孤立が注目されるようになった社会的な背景について解説する。次いで,2000年代に急速に普及した情報通信端末が孤独・孤立にどのような影響を与えたか検討する。最後に,孤独・孤立を解消することの難しさについて,2023年の調査結果を踏まえつつ論じる。

社会と心が作り出す孤立・孤独 浦 光博
孤独は現代の疫病として語られることがあるが,実は適応的な役割も持っている。日常生活で経験する一時的な孤独が慢性化することでさまざまな問題が生じる。本論では,心理学と神経科学の知見をもとに,対人情報処理の歪みが一時的な孤独を慢性化させる過程について考察した。また感情史の観点から,孤独という概念や孤独感がどのように形成されるのかを検討し,現代社会において孤独を生まない対人環境の条件についても探った。

孤立・孤独に関する疫学的知見 荒川 裕貴 , 近藤 尚己
孤立・孤独と死亡や脳卒中,心血管疾患,糖尿病,がんなどの疾病との関連を示す疫学的知見が蓄積している。望まない孤立・孤独を防ぐことは社会的健康の実現そのものでもある。これまでに地域の通いの場など,社会環境に介入して孤立・孤独対策に取り組んだ例が報告されている。孤立・孤独に苦しむ人を医療の現場から保健福祉や地域につなぐなど,自治体,企業,NPO等の多様な主体が協力して孤立・孤独対策を行うことが求められる。

社会的孤立および孤独感が認知症リスクに及ぼす影響に関する疫学的知見 二宮 利治
超高齢社会を迎えたわが国では,認知症者の増加を抑えることが喫緊の課題である。社会的孤立や孤独感は,認知症発症リスクを高める危険因子であることが国内外の疫学研究で示されている。社会的孤立による脳への刺激の減少や主観的なつながり不足による孤独感の状態が長期化すると,認知症の発症リスクが上昇することが報告されている。高齢者への社会的支援や孤独感の軽減が,認知症発症のリスク低減において重要であろう。

認知症と社会的孤立・孤独 下田 有紀 , 浦上 克哉
社会的孤立・孤独は認知症の修正できるリスクファクターとして報告されており,うつ病,聴覚機能や視覚機能の低下等ほかのリスクファクターとも密接に関わりを持つ。COVID-19は社会的孤立・孤独を悪化させ,最新の研究では社会的孤立・孤独が神経病理学的,また基礎医学的な観点から脳機能,遺伝子等に及ぼす影響も報告されている。本論では社会的孤立・孤独が認知症に及ぼす影響,さらにそれを予防する方法について解説する。

高齢者の孤立・孤独と不安・抑うつ 新村 秀人
社会的孤立は,他者との社会的接触が少ない客観的状態であり,孤独は,他者とのつながりが欠如して寂しいという主観的状態である。高齢者は,さまざまな喪失を体験する中で適応不安に陥りやすい。死別や経済水準,健康状態,孤独は抑うつのリスクとなる。社会的孤立・孤独と不安・抑うつは,「社会的孤立→孤独→不安・抑うつ」および「不安・抑うつ→孤独」という関連を示す。高齢者の孤立・孤独に対する心理社会的介入を概観した。

孤立・孤独と依存 松下 幸生
孤立・孤独問題は早世などとの関連が報告されている。依存との関連についての研究では,動物実験で思春期のラットを孤立させるとオスのみでアルコール消費量の増加がみられる。住民調査では,孤立・孤独は飲酒頻度の低いことと関連するという報告がある一方,孤独感が強いことはアルコール問題と関連していた。また,ギャンブルやゲームといった行動も孤独感やストレスと関連することが報告されている。

孤立・孤独と自殺 太刀川 弘和 , 白鳥 裕貴 , 相羽 美幸 , 川上 直秋 , 菅原 大地
孤立・孤独は以前から自殺の危険因子として知られていた。感染対策で孤立を強いられたコロナ禍で自殺者数が増加に転じたことから,自殺の要因としてあらためて強調され,孤立・孤独対策が推進されている。しかし,孤立・孤独が自殺につながる理由を明確に論じる総説は少ない。本論では,孤立・孤独がなぜ自殺に大きな影響を与えるのか,心理学,社会学,脳科学の立場から説明を試み,孤立・孤独予防が自殺予防に直結することを示したい。

幼少期の社会隔離と社会性の脳発達 九野(川竹) 絢子 , 森下 博文
孤独はメンタルヘルスに深刻な影響を与える。特に幼少期の孤独は,大人になってからの社会性に大きな影響を及ぼすことが知られている。本論では,幼少期の社会隔離経験が成人の社会性に与える影響やその神経回路機構について最近明らかになった知見を概説するとともに,動物モデルで明らかになった神経機構を精神疾患の病態理解や早期介入に応用していく可能性について考察する。

孤立・孤独が引き起こす親から子へのマルトリートメント(不適切な養育) 友田 明美
人間の養育行動は生命存続に非常に重要である。養育者が孤立すると,子育てが孤立状態となり,虐待やネグレクトなどマルトリートメントが繰り返されることがある。この状況でSOSを発する親が虐待を疑われると,心を閉ざし介入が難しくなる。公空間と私空間の隔たりが大きくなると孤立が深まり,状況が悪化する。また,親自身が過去に被虐待経験を持つ場合,社会制度を知らず,他者に頼れないため孤立しがちである。しかし,共同で子育てを行うことで,親の負担や不安を軽減し,孤立を防ぐことができる。人間は多くの人々が子育てに関わる共同繁殖の動物であり,社会全体で子どもを育て守る「とも育て®(共同子育て)」の認識が重要である。

脳科学の観点からの孤立・孤独問題 虫明 元 , 虫明 美喜
孤立・孤独の課題を身体-心理-社会モデルとしてのウェルビーイングとアロスタシスの動的適応原理に基づいて脳科学の観点から考察した。脳には,特に社会性に関わる複数のネットワークが知られており,孤立・孤独によって活動や結合性に影響を受けることで,身体,心理面にも影響するアロスタシス負荷となることが知られている。こうした負荷を軽減する予防的手段としての演劇的手法とその意義を検討した。

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特集 孤立・孤独

社会問題としての孤独・孤立
石田光規

社会と心が作り出す孤立・孤独
浦 光博

孤立・孤独に関する疫学的知見
荒川裕貴,近藤尚己

社会的孤立および孤独感が認知症リスクに及ぼす影響に関する疫学的知見
二宮利治

認知症と社会的孤立・孤独
下田有紀,浦上克哉

高齢者の孤立・孤独と不安・抑うつ
新村秀人

孤立・孤独と依存
松下幸生

孤立・孤独と自殺
太刀川弘和,他

幼少期の社会隔離と社会性の脳発達
九野(川竹)絢子,森下博文

孤立・孤独が引き起こす親から子へのマルトリートメント(不適切な養育)
友田明美

脳科学の観点からの孤立・孤独問題
虫明 元,虫明美喜


■総説
抗アミロイドβ抗体薬レカネマブによるアミロイド関連画像異常の病態と臨床像
冨本秀和,他


●原著・過去の論文から学ぶ
第11回 ウィリアム・ジェイムズの『心理学原理』とゲオルク・ノルトフの『意識と時間と脳の波』
虫明 元

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