精神医学 Vol.67 No.2
2025年 02月号

ISSN 0488-1281
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 特集にあたって
  • 収録内容
  • お詫びと訂正

開く

特集にあたって
明智龍男(名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野/本誌編集委員)

 少子化,出生率低下など,わが国における子どもの絶対数の減少に対する危機的な状況への警鐘が鳴らされて久しい。そのような状況で子どもや子育て世帯への支援を一元的に担う政府機関として,2023年4月に「こども家庭庁」が発足したことは記憶に新しい。実際,子どもを取り巻く環境の厳しさに関係する社会的問題として,いじめ,虐待,不登校,ヤングケアラー,ひとり親家庭,貧困などの話題が連日のように新聞などでも報道されている。私自身,「トー横キッズ」と呼ばれる10代の男女が薬物中毒下と考えられる状態で飛び降り自殺をしたという記事を読んだときの衝撃を忘れられない。また自身が専門にしているサイコオンコロジーでも15〜39歳の児童・思春期・青年期・若年成人(Adolescent&Young Adult:AYA世代),なかでもA世代と言われる思春期・青年期の若者ががんに罹患することの影響の深刻さを診療の中で強く感じていた。それらの心配は的中し,若者の自殺数が上昇に転じた。
 2010年代は自殺者数が減少傾向にあったが,2020年以降は新型コロナウイルス感染症の猛威により,社会が感染対策中心に回らざるを得なくなり,社会経済的基盤が弱く不安やストレスに曝された若年者の自殺が増加傾向になったことは周知のことである。厚生労働省と警察庁によれば,2022年には小中高生の自殺者数が過去最高の514名となった。2023年も513名と高止まりを続けている。もともとわが国のAYA世代における死因の第1位は自殺である。逆に言うと,この世代の命を奪う最大の原因は自殺であることを示しており,その背景には社会環境のみならず精神疾患の影響が直接的にも間接的にも大きいことは論をまたないであろう。自殺する絶対数は中高年に比べると少ないが,それでもAYA世代の自殺対策において医学・医療の中で最も大きな役割を期待されているのは精神医学・医療ではないだろうか。このことは精神医学・医療にとっては大変重い未解決の課題である。
 精神疾患の好発年齢が若い世代であることはよく知られているが,AYA世代という観点からみてみると,成長過程や社会性が育まれている時期でもあり,一般成人とは異なる多様で複雑な要因が自殺の背景にあるのではないかと考えられる。一般的に自殺の原因としてはうつ病,アルコール乱用,統合失調症がよく知られているが,この世代には神経発達症や摂食症,またいじめや虐待,貧困の問題なども潜んでおり,より広い視点が必要なのではないかと思われる。ある意味,若者は,その時代の社会の問題点を背負わされている犠牲者なのではないかとも感じる。
 このような背景を受け,2023年6月には国を挙げて「こどもの自殺対策緊急強化プラン」が打ち出され,「若者の自殺危機対応チーム」の設置が推進されることになり,加えて同年12月に「こども大綱」が閣議決定された。本大綱には,「こどもまんなか社会」を目指すために,「全てのこども・若者が,日本国憲法,こども基本法及びこどもの権利条約の精神にのっとり,生涯にわたる人格形成の基礎を築き,自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ,心身の状況,置かれている環境等にかかわらず,ひとしくその権利の擁護が図られ,身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸せな状態(ウェルビーイング)で生活を送ることができる社会」を構築する,とある。一方,自殺予防に焦点をあてると,これら世代を対象とした研究はもともと少なく,エビデンスが乏しい状況にある。それでも「若者の自殺危機対応チーム」については,精神医学・医療が参画し取り組むべき最優先の事項の1つではないだろうか。
 今回の特集では,AYA世代という若い世代に絞って,その自殺の実態や対策について,第一線で活躍しておられる精神科医に加え,学校教育における精神保健に造詣が深い専門家にも筆をとっていただいた。精神保健の専門家が知っておきたいことをまとめ,また私たち精神保健に従事する職種にできることを考える機会としたい。

開く

医書.jpにて、収録内容の記事単位で購入することも可能です。
価格については医書.jpをご覧ください。

特集 若者の自殺対策──精神保健の専門家としてリスクをどう捉えて対応するか
企画:明智 龍男

特集にあたって
明智 龍男

10代の自殺の疫学と自殺予防──世界の動向もふまえて
二宮 貴至

児童・思春期の自殺企図の際の見立ての実際
西木 百合子・他

児童・思春期のうつ病──診断・評価に際しての留意点
山中 清里・他

神経発達症と自殺
山田 敦朗

早期精神病を抱える若者の自殺を防ぐために
山口 大樹・他

摂食障害(摂食症)と自殺
原田 朋子

児童・思春期・青年期の物質乱用と自殺
河邉 憲太郎

児童・思春期・青年期のうつ病に対する薬物療法について最低限知っておきたいこと
冨吉 研策・他

大学生の自殺予防──精神科医が知っておきたいこと
白鳥 裕貴・他

虐待と自殺
上野 千穂

性別違和と自殺関連行動
中山 浩

AYA世代のがんと自殺
岡村 優子

学校現場で求められる対応──スクールカウンセラーの立場から
窪田 由紀

自殺リスクのある児童生徒への緊急対応と自殺防止の支援──名古屋市の常勤スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの取り組みを通して
篠田 真希・他

医療者に対する自殺予防教育
佐野 智章・他

開く

いつも『精神医学』誌をご愛読くださり厚く御礼申し上げます。

『精神医学』2月号の表紙に、掲載されていないご論文タイトルが誤って印刷されてしまいました。
展望 「小児期トラウマに基づく幻覚・妄想」は3月号へ掲載予定でございます。
訂正してお詫び申し上げます。

関係者の皆様にはご心配とご迷惑をおかけいたしました。
今後このようなミスのなきよう十分注意してまいりたいと存じます。
引き続きのご愛読を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

『精神医学』編集室

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。