末梢神経障害
解剖生理から診断,治療,リハビリテーションまで
末梢神経障害の診断アプローチを双方向から徹底解説!
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末梢神経障害の臨床に必須の情報を網羅した、明日の診療がレベルアップする1冊。commonからrareまで重要な末梢神経疾患の特徴を幅広く解説することに加え、症候の種類・出現場所、どの神経に障害があるかといった所見から何を疑うべきかを解説し、双方向から疾患に迫る。双方向からのアプローチに欠かせない解剖生理、生化学、神経病理の“真に役立つ”知識を厳選。最新の治療、リハビリテーションまで充実の内容。
編集 | 神田 隆 |
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発行 | 2022年10月判型:B5頁:520 |
ISBN | 978-4-260-04939-9 |
定価 | 13,200円 (本体12,000円+税) |
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序文
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序
末梢神経障害はcommon diseaseである:こう言うと怪訝な顔をする方もたくさんおられるでしょうか.実は末梢神経障害は,日本でおよそ1,000万人の患者がいると推定される,まぎれもないcommon diseaseなのです.にもかかわらず,末梢神経障害を苦手としている脳神経内科医は決して珍しくありません.「いやー,末梢神経障害は難しくて」「いろいろ検査してもなかなか診断がつかなくて」.よく耳にする言葉です.
私は末梢神経障害の診断・治療が“易しい”というつもりは全くありません.数ある神経疾患の領域の中で,とっつきにくい,難しいものの代表の1つであろうとさえ思っています.しかし,末梢神経疾患の中には治療可能なもの,長期の治療戦略を考えないといけないもの,急いで診断・治療を完成させないと患者の人生を狂わせてしまうものが決して少なくありません.とっつきにくいからといって避けて通るわけにはいかないのです.この難しさを少しでも解消するにはどうしたらよいか.経験豊かなシニアの先生には,多面的なアプローチからもう一度末梢神経疾患の知識の整理をしていただく,これから医師としてのキャリアをスタートする医学生・研修医の諸君に末梢神経障害とはどのようなものかを掴んでもらう,そして何より,これから脳神経内科診療の第一線に立とうという若い医師に,末梢神経疾患の考え方を身につけてもらう,このような狙いをもってこの本は完成しました.
本書の特徴は,単に各疾患の特徴の羅列的な解説・治療法の一方向の概説にとどまらず,どんな症候が出てきたら何を疑うか,どこに症候が始まったらどんな疾患の可能性が高いか,「痛い」のが主訴なら何を考えるか,といった双方向性のアプローチにあります.そして,双方向性に疾患に迫るにはどういう基礎知識が必要か,疾患理解・病態理解に“真に役に立つ”神経解剖学,神経生理学,神経生化学の知識はしっかり盛り込んで,同時に,“役に立たない”知識は極力記載しない努力もしました.
また,末梢神経障害の診断に使われる検査手技についても,現在国内のトップを走る先生方にご執筆をお願いしました.画像検査,電気生理学的検査,病理検査,検体検査,いずれをとっても,“AがあればBの診断,そして治療Cの実施”というようなストレートな運用ができる疾患は末梢神経障害ではとても少ないのが現状です.しかし,それぞれの検査の限界,利点をしっかりとらえて“考える”診断をしていただければ,先生方の末梢神経疾患診断の技量は確実にアップします.この本をお読みいただいて,そこにいる末梢神経障害の患者さんの病態が,主治医である読者の目に“見える”ようになれば,編者として望外の喜びです.
Common diseaseであるにもかかわらず十分な診断・治療を享受できていない末梢神経疾患の患者さんは依然多数おられます.この本では,末梢神経疾患に造詣の深い整形外科,リハビリテーション科の先生方にもご寄稿をお願いしましたが,この2科にとどまらず,あらゆる臨床各科との連携が必要であるのも末梢神経障害の特徴です.末梢神経は全身に張り巡らされているのです.しかし,末梢神経疾患診療の中心を担う診療科は脳神経内科をおいてほかにはありません.この本を座右に置いていただき,先生方の末梢神経疾患の“いい臨床”の一助となることを念願しています.
2022年8月
神田 隆
目次
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第I編 末梢神経障害の基礎
第1章 末梢神経系の構造と機能
1 末梢神経障害の臨床に役立つマクロ神経解剖学
2 末梢神経障害の臨床に役立つミクロ神経解剖学
3 末梢神経障害の臨床に役立つ神経生理学,生化学,免疫学
第2章 末梢神経障害の種類
1 障害分布による分類
2 病変の種類による分類
第II編 末梢神経障害の臨床①――診断と治療総論
第3章 末梢神経障害の診断ステップ
1 病歴聴取の重要性
2 神経診察
3 脳脊髄液検査
4 血液検査
5 電気生理学的検査
6 病理検査
7 エコー
8 CT,MRI
9 重症度の評価スケール
第4章 末梢神経障害か否かの鑑別
1 頸椎症
2 腰椎症
3 腕神経叢障害
4 腰仙神経叢障害
5 後根神経節障害
6 中枢神経系疾患
7 筋疾患
8 機能性神経障害(ヒステリー)
第5章 障害の出現場所からどの疾患を疑うか
1 上肢に限局
2 体幹に出る
3 島状の感覚障害がある
4 四肢近位部に障害が強い
5 脳神経障害が強い
6 球症状が出現する
第6章 障害分布からどの疾患を疑うか
1 単ニューロパチー
脳神経の単ニューロパチー
脊髄神経の単ニューロパチー
2 多発性単ニューロパチー
3 多発ニューロパチー
第7章 神経症候からどんなニューロパチーを疑うか
1 強烈な痛みが主症状
2 自律神経障害が強い
3 小径線維の障害
4 大径線維の障害(ataxic neuropathy)
5 感覚障害のみ
6 突然,麻痺が起こる
7 錐体路障害を合併する
8 小脳性運動失調を伴う
[note]末梢神経障害の検索が診断に有用な中枢神経疾患
第8章 合併する全身症候からどんなニューロパチーを疑うか
第9章 治療総論
1 痛み・しびれ感に対する治療
2 足病変(変形,壊疽)に対する治療
3 自律神経障害に対する治療
4 末梢神経の修復術,移植術,再建術
第III編 末梢神経障害の臨床②――疾患各論
第10章 Charcot–Marie–Tooth病と遺伝性運動ニューロパチー
第11章 遺伝性感覚・自律神経性ニューロパチー
第12章 家族性アミロイドーシス
第13章 遺伝性代謝性神経疾患に伴うニューロパチー
1 Fabry病
2 異染性白質ジストロフィー
3 副腎白質ジストロフィー/副腎脊髄ニューロパチー
4 Krabbe病
5 ポルフィリン症
第14章 その他の遺伝性ニューロパチー
1 遺伝性圧脆弱性ニューロパチー
2 ニューロアカントサイトーシス
3 CANVAS
4 Cockayne病
5 色素性乾皮症
6 Refsum病
7 脳腱黄色腫症
8 Niemann‒Pick病 typeC
9 タンジール病
第15章 自己免疫によるニューロパチー
1 Guillain‒Barré症候群
2 Miller Fisher症候群
[note]Bickerstaff脳幹脳炎
3 慢性炎症性脱髄性多発(根)ニューロパチー
4 多巣性運動ニューロパチー
5 自己免疫性自律神経ニューロパチー
第16章 パラプロテイン血症に伴うニューロパチー
1 MAG抗体陽性ニューロパチーとIgM MGUS陽性ニューロパチー
2 POEMS症候群
3 免疫グロブリン性アミロイドーシスによるニューロパチー
第17章 全身炎症性疾患に伴うニューロパチー
1 血管炎性ニューロパチー
[note]NSVN――限局性血管炎性ニューロパチー
2 膠原病に伴うニューロパチー
3 サルコイドニューロパチー
第18章 消化器疾患・血液疾患に伴うニューロパチー
1 セリアック病
2 C型肝炎
3 血友病
4 クリオグロブリン血症
5 ヘモクロマトーシス
第19章 代謝・内分泌疾患に伴うニューロパチー
1 糖尿病性ニューロパチー
2 低血糖性ニューロパチー
3 甲状腺疾患に伴うニューロパチー
4 下垂体疾患に伴うニューロパチー
5 尿毒症性ニューロパチー
6 ビタミン欠乏性ニューロパチー
第20章 悪性腫瘍に伴うニューロパチー
1 癌性ニューロパチー
2 悪性リンパ腫・リンパ増殖性疾患に伴うニューロパチー
3 多発性骨髄腫・骨髄腫関連疾患に伴うニューロパチー
4 抗がん薬によるニューロパチー
5 irAEとしてのニューロパチー
6 放射線によるニューロパチー
第21章 中毒性ニューロパチー
1 アルコール性ニューロパチー
2 薬剤性ニューロパチー
3 金属によるニューロパチー
4 有機物によるニューロパチー
第22章 感染症に伴うニューロパチー
1 Hansen病
2 帯状疱疹
3 HIV感染に伴うニューロパチー
4 HTLV‒1関連ニューロパチー
5 梅毒
6 ライム病
7 ジフテリア
8 Chagas病
9 レプトスピラ症
10 ポリオ
11 急性弛緩性脊髄炎
12 ジカウイルス感染と関連するニューロパチー
13 COVID‒19に関連するニューロパチー
第23章 局所病変によるニューロパチー
1 絞扼性ニューロパチー
手根管症候群
肘部管症候群
尺骨神経管症候群(Guyon管症候群)
橈骨神経麻痺
腓骨神経障害
足根管症候群
2 神経束の「くびれ」を伴う神経麻痺
第24章 末梢神経の腫瘍
1 神経線維腫(neurofibroma)
2 神経鞘腫(schwannoma)
3 神経線維腫症(neurofibromatosis)
第25章 ケースレポート
1 緩徐進行性の歩行障害と構音障害を呈した51歳男性
2 左右非対称の痛みを伴う下肢感覚障害のみを主訴とした43歳男性
3 長時間の肩関節屈曲外旋姿位での発声訓練で両側性腕神経叢障害を発症した18歳男性
4 20年以上にわたる末梢神経障害の病歴を有し,下肢痙性のため歩行不能になった77歳男性
第26章 神経変性疾患と末梢神経障害
1 Parkinson病と末梢神経障害
2 遺伝性脊髄小脳変性症と末梢神経障害
3 多系統萎縮症と末梢神経障害
4 ALS/SBMAと末梢神経障害
5 白質脳症をきたす神経変性疾患と末梢神経障害
第IV編 末梢神経障害のリハビリテーション
第27章 末梢神経障害のリハビリテーション治療
索引
書評
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改めて「末梢神経障害とは何か」から詳細な「疾患解説」まで
書評者:井上 聖啓(札幌山の上病院豊倉康夫記念神経センター長)
多くの方々にとって,末梢神経と中枢神経の区別は必ずしも正確に認識されていないのではないでしょうか。私が講義などでまず学生に言うことにしているのは,末梢神経系とはシュワン細胞,結合組織が神経細胞を包囲している箇所で,一方,中枢神経系とはオリゴデンドロサイト,アストロサイトが周りにある部分と教えています。
この定義に従えば,ニューロンの中には,中枢神経系の部分もあれば,同時に末梢神経系に属する部分もあることになります。例えば第1次感覚ニューロン,第2次運動ニューロン,自律神経節前線維などはそれにあたります。末梢神経というと“末梢の部分”という先入観でうやむやにされたり,二義的にとらえられたりしがちなのは残念なことであると同時に,神経系の理解を不十分なものとするゆえんでもあります。
この度,神田隆先生の編集,106名の執筆者による『末梢神経障害―解剖生理から診断,治療,リハビリテーションまで』が上梓されました。全体は500ページに及ぶものですが,「末梢神経障害の基礎」,「末梢神経障害の臨床(1)―診断と治療総論」までの200ページを私は,この本の前篇とし,後に続く「末梢神経障害の臨床(2)―疾患各論」を後篇として通覧させていただきました。
この著作はまず,その前篇に大きな特徴があります。この部分の多くは,これまで末梢神経の臨床,病理,生理などの第一線で活躍されてこられた方々による個性ある経験に支えられた記述から構成されています。深い味わいと貴重な言葉がにじむ箇所がたくさんあり,読み応えがあります。このような記述は英米の教科書には時にありますが,わが国の医学書にはあまり例がないようです。この本は多くの執筆者の合作です。お一人おひとりの経験の中からにじみ出た個性と確信に満ちた言葉でつづられているからこそ,読み物としても飽きずに,楽しみながら末梢神経疾患の理解につながる知識を自然と身につけることができるものと思います。
後篇は各論で,末梢神経疾患の一つひとつがそれぞれの専門家の手により丁寧に記載され,新しい知見を含めて文献を挙げながら解説されています。図,写真も豊富です。末梢神経疾患は整形外科でも大切な領域ですが,診療科の枠を超えて多くの分野から執筆者が選ばれている点も,編集者の幅広い見識によるものでしょう。
こうしてみていくと,神田先生編集『末梢神経障害』の前篇の200ページは,これまでの末梢神経関係の成書にはない手法と考え方に立って編集された部分であり,最初から通して読まれることをお勧めします。後篇の300ページは座右に置いて事典的に活用されることに向いている部分でしょう。文献も充実し,索引は和名と英名で引けるようになっています。
ちなみに「末梢」を国語辞典で引いてみました。「(1)木の枝の先,こずえ (2)物のはし,末端。転じてとるに足らないこと。⇒末梢神経系」とありました。これはひどい! どうか神田先生編集の『末梢神経障害』,特にこの前篇は通読して,神経系を論ずる上で,末梢神経系の重要性と知識を再確認されることをお勧めします。末梢神経系への興味と理解はきっと神経学をより身近なものにしてくれることと信じます。
末梢神経障害の診療に,真に役立つ画期的な成書
書評者:三苫 博(東京医大副学長・医学科長/主任教授・医学教育学)
神田隆先生(山口大神経・筋難病治療学講座特命教授)が編集された本書は,末梢神経障害を,病態生理学を踏まえて包括的に理解し,実践の診療の役に立てることができるという点で,この分野のマイルストーンとなる成書です。神田教授の構想に従い,全国のエキスパートの先生方が分担執筆されています。
末梢神経疾患は,約1000万人の患者さんがいると推定され,日常高頻度で遭遇するcommon diseaseの一つです。common diseaseといえば,典型的な症状,明解な検査所見から,診断が比較的しやすいというイメージがあるかと思います。しかしながら,末梢神経障害は,診断,治療のアプローチが大変に難しい疾患です。神田教授は,「末梢神経障害は,AがあればBの診断,そして治療Cの実施という一直線の思考では対処できないためである」と,その特徴を喝破しています。
一般に成書は,各疾患の特徴が羅列してあり,また,近年では分子レベル・遺伝子レベルの所見も詳細に記載しています。もちろん,各疾患の病因・症状・鑑別診断・治療・予後という多岐にわたる記載は重要であり,本書でも第Ⅲ編に17章にも分けて詳細な記載があります。一方,本書には他の成書と全く異なる特徴的な点があります。第Ⅰ編に「末梢神経障害の基礎」として解剖学・神経生理学・生化学・免疫学を論じる章があり,末梢神経の病態を理解するために必要な基礎医学の概念が簡潔に整理されており,さらに,第Ⅱ編として「診断と治療総論」の章を設けていることです。この第Ⅱ編に末梢神経障害の症候学を解説しており,「末梢神経障害か否かの鑑別」,「障害の出現部位からどの疾患を疑うか」,「障害分布からどの疾患を疑うか」,「神経症候からどんなニューロパチーを疑うか」,そして,「合併する全身症状からどんなニューロパチーを疑うか」という問いを設定して,臨床推論の原理を明確に整理しています。また,この第Ⅱ編に記載されている検査の章では,「個々の検査の限界,利点」を考えて,検査結果を解釈する重要性を強調しています。この卓越した構成のために,読者は,第Ⅰ/Ⅱ編(基礎医学,症候学,検査・治療の総論)と第Ⅲ編(疾患各論)を行き来することができ,編者が強調する「双方向性の思考」を修得することが可能となります。
実践が強調される現在では,AならばBという安直なハウツーものが多い時代です。そのような時代の中でも,本書は上記のような骨太の哲学により,「真に役立つ成書」の意味を問い続けるものと思います。また,この精緻な構成は,編者の真摯な臨床への取り組みを思い出させます。編者は山口大脳神経内科教授時代には,ベッドサイドでの教育を重視され,「患者さんを徹底的に診るという古典的な神経学」を厳格に教育され,多くの学生,医師に多大な影響を与えてきました。神経学では,Charcot,Babinski,Holmesなど名著・論文が知られており,後に続く学究の徒は先人の観察と思索に驚きと畏敬を感じながら学びを深めていきます。本書もそのレベルに匹敵する成書であることを確信しています。
最後に,安直物のあふれる中で,このような真に医学,医療に貢献する本を企画,出版される医学書院の姿勢に,本邦の医学,医療に大きく貢献されてきた底力を感じました。