総合診療 Vol.36 No.9
2026年 09月号
特集 救急・一般外来の“グレーゾーン”に挑む 曖昧な世界で決断せよ!
| ISSN | 2188-8051 |
|---|---|
| 定価 | 2,860円 (本体2,600円+税) |
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Editorial
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“ブルーか、レッドか”
坂本 壮(総合病院国保旭中央病院 救急救命科)
“ブルーか、レッドか”(古畑任三郎 シーズン2 「赤か青か」)。この言葉を聞いて、にやりとした方もいるかもしれない。三谷幸喜脚本の名作ドラマ『古畑任三郎』に登場する印象的な台詞である。詳細はぜひ作品をご覧いただきたいが、少なくともこの言葉は、単に2つの色のどちらを選ぶか、というだけの話ではない。目の前に示された選択肢の意味をどう読み解くか。何を根拠に判断し、その判断にどこまで責任をもつか。そこにこそ、考える面白さがある。
今、私たちは多くの「答え」に囲まれている。ChatGPTかGeminiか。どのAIを使うべきか。医学情報に限っても、OpenEvidenceのように、迅速に質の高い回答を示してくれるツールが登場している。たしかに便利である。しかし、その回答が目の前の患者にそのまま当てはまるかといえば、話はそれほど単純ではない。患者は千差万別であり、きれいに分類されるわけではない。特に日本は超高齢社会である。独居、老老介護、認知機能の低下、フレイル、介護力、本人の価値観、家族の思いなどを考慮し、同じ病名であっても、背景は大きく異なる。一方で、CTやMRIなどの検査には比較的アクセスしやすく、国民皆保険のもとで多くの人が医療を受けられる。この医療環境のなかで、新しい薬剤やデバイスを使うべきか、侵襲的治療を行うべきか、あえて行わないべきか。現場では、日々その判断を迫られている。
たとえば、超高齢者の脳梗塞に対して血栓回収療法を行うべきか、高血圧はガイドライン通りコントロールするべきなのか。これらの問いには、すでに一定のエビデンスがある。しかし、エビデンスがあることと、目の前の患者にとって最善であることは同義ではない。年齢だけで判断したくはない。けれども、年齢が最も強いリスク因子の一つであることも否定できない。70歳を「若い」と感じる時代に、どこからを高齢と考えるのか。治療によって何を得て、何を失うのか。その答えは、単純なYes/Noでは片づかない。
初めての場所へ向かうとき、私たちは地図アプリに目的地を入れる。たいてい近くまでは連れて行ってくれる。しかし、最後の数十メートルで迷うことがある。ときには、選んだ道が遠回りだったと気づくこともある。けれども、その道で思いがけず雰囲気のよいカフェや小さな書店に出会うこともある。医学におけるエビデンスやAIも、これに似ている。目的地の近くまでは導いてくれる。しかし、最後にどの扉を開けるかは、患者を前にした臨床家が考えなければならない。そして、たとえ選んだ道が最短ではなかったとしても、そこから学び、次の判断を深めることができる。
今回の企画を取り上げた理由は、読者のみなさんに「考え続けてもらいたい」からである。問いは二者択一のように見える。しかし臨床の現場で本当に問われるのは、どちらか一方を正解として選ぶことだけではない。そのあいだで揺れながら、根拠を確認し、患者の背景を見つめ、時には迷い、時には立ち止まり、自分ならどう判断するかを考えることだ。その過程にこそ、面白さと難しさがある。
古畑任三郎なら、きっとこう言うのではないだろうか。「最後に問われるのは、どちらの色を選んだかではない。なぜ、その色を選んだのかである。」と。本企画を通じて、読者のみなさまの好奇心がかき立てられ、少しだけかき乱されることを願っている。以上、坂本 壮でした。
収録内容
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医書.jpにて、収録内容の記事単位で購入することも可能です。
価格については医書.jpをご覧ください。
特集 救急・一般外来の“グレーゾーン”に挑む──曖昧な世界で決断せよ!
企画:坂本 壮
■Section 1:救急外来編
① BPPV疑い症例に耳石置換法を実施する? しない?
Pro|杉田陽一郎 Con|山本大介|髙橋佑太
② 尿管結石疑い症例に尿検査、腹部CTをオーダーする? しない?
Pro|中村聡志 Con|鎌田一宏
③ 敗血症患者にプロカルシトニンをオーダーする? しない?
Pro|伊東 完 Con|古谷賢人|伊東直哉
④ 誤嚥性肺炎で血液培養は採取する? しない?
Pro|古谷賢人|伊東直哉 Con|伊東 完
⑤ 吐血患者、造影CTをオーダーする? しない?
Pro|藤森大輔|坂本 壮 Con|北井勇也
⑥ 85歳以上の超急性期脳梗塞に血栓溶解療法・血栓回収療法を施行する? しない?
Pro|山本大介|吉岡和博 Con|坂本 壮
⑦ 寝たきりの高齢者の大腿骨近位部骨折、手術する? しない?
Pro|藤井達也 Con|原田 拓
⑧ 軽症頭部外傷でCTを撮影する? しない?
Pro|國友耕太郎 Con|藤森大輔|坂本 壮
⑨ 神経学的異常所見のない外傷性くも膜下出血、入院させる? させない?
Pro|北井勇也 Con|橋本萌|原大知|鎌田一宏
⑩ CO中毒、高圧酸素療法する? しない?
Pro|竪 良太 Con|坂本 壮
⑪ 高カリウム血症に対してジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(ロケルマⓇ)を使用する? しない?
Pro|安藤万優子|坂本 壮 Con|竪 良太
⑫ 非糞石性の虫垂炎、手術する? しない?
Pro|西脇拓郎|船登智將 Con|里吉哲太|中野弘康
⑬ 急性胆囊炎、緊急手術する? しない?
Pro|里吉哲太|中野弘康 Con|西脇拓郎|船登智將
⑭ 自宅内で転倒して生じた下腿挫創、破傷風トキソイドを投与する? しない?
Pro|鈴木智晴 Con|藤井達也
⑮ 無菌性髄膜炎が疑われる患者、腰椎穿刺する? しない?
Pro|髙橋平安彦|鎌田一宏 Con|宮川 峻
■Section 2:一般外来編
① 高血圧、ガイドラインの推奨通りコントロールする? しない?
Pro|佐藤宏行 Con|官澤洋平
② 骨粗鬆症治療、中断する? しない?
Pro|平林秀崇|原田 拓 Con|藤井達也
③ 逆流性食道炎に対するPPI、中断する? しない?
Pro|羽角勇紀|吉田英人 Con|石田亮|小林功樹
④ ベンゾジアゼピン系薬長期内服患者、漸減中止する? しない?
Pro|塚原麻希子 Con|齋藤惣太|吉田英人
⑤ 血糖コントロール不良の独居の高齢者、インスリンを導入する? しない?
Pro|森武美帆 Con|本多寛之
⑥ 抗凝固薬内服中の繰り返す憩室出血、抗凝固薬の内服は永年中止する? しない?
Pro|原大知|鎌田一宏 Con|佐橋秀一|坂本 壮
⑦ 食事摂取量の低下しているフレイル患者にビタミン剤を経験的に処方する? しない?
Pro|小林尭広 Con|鈴木真紀
⑧ 健診で心房細動、循環器専門医に相談する? しない?
Pro|佐橋秀一|坂本 壮 Con|宗像源之
⑨ 超高齢者の健診で便潜血検査を行う? 行わない?
Pro|船登智將|西脇拓郎 Con|小林尭広
●Editorial
“ブルーか、レッドか”
坂本 壮
●臨床教育お悩み相談室|どうする!?サロン|31
理論も現場も、あると思います!──考えて動く臨床推論教育の実際
木村武司|佐田竜一|長野広之
●地域に根ざす泌尿器科医が贈る|新発想! 超プライマリ・ケア目線からの泌尿器疾患診療|9
プライマリ診療での慢性前立腺炎診療を考えてみる
松木孝和
●オスラーに学ぶ“平静の心”|医師と医学生に贈ることば|14
学びの姿勢
森島祐子|仁木久恵
●医学生のアトリエ2025作品紹介|2
【絵画】 R. E.
●構造式で語る医学|薬物の交差反応や意外な副作用を学ぼう!|21
構造が類似するNaチャネル遮断薬は中毒所見も類似
上田剛士
●What's your diagnosis?|285
カナヅチな海賊
大橋史矢|上田剛士
●臨床に役立つ 東洋医学のパール&ピットフォール|6
【パール】 鍼治療のデバイス「温故知新」
【ピットフォール】 鍼の品質にも目を向けよ!
鈴木雅雄|吉野鉄大、他(監修)
●総合診療医、病院を診る|経営も“一診入魂”|3
最初の一手:どこから治療介入するか~「トリアージ」と「Choosing Wisely」による止血処置~
高田史門
●アスクレピオスの杖|想い出の診療録|77
時計屋へ
福岡敏雄
●CKD診療の新しい潮流|“腹膜透析”という選択肢|6
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