特集 医師のウェルビーイング
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医療の質向上・患者安全の観点から、医師の長時間労働やバーンアウトが問題視されている。医療者が良質なパフォーマンスを発揮するため「医療者自身のウェルネス/ウェルビーイング」が注目されるようになった。まず、ウェルネスは「毎日をよりよく生きるための健康維持・増進に向けた生活態度全般」を指し、身体的・精神的な健康を中心として健康を包括的にとらえた概念である。一方、ウェルビーイングは、ウェルネスを包含するさらに大きな概念であり、周囲との良好な関係性や仕事に対する満足感、仕事以外の生活の充実など「社会的に良好な状態」を含んでいる。
医療現場では、2020年以降のコロナ禍で、逼迫する医療体制の中、仕事にストレスを感じる医療者が増加し、体調不良やバーンアウトによる休職・離職は増加した。医療現場における労務管理の脆弱性が浮き彫りとなり、組織として労働者である医療者のウェルネス/ウェルビーイングを重視した取り組みを行うことが、いま多くの医療機関で喫緊の課題となっている。
2024年4月からは働き方改革の一環として、医師の時間外労働の上限規制が適用開始となり、長年、長時間労働を是としていた医療界にもメスが入ることとなった。また、SDGsに掲げられたDiversity、 Equity & Inclusion推進の中、病や障がいを持つ人も多様な働き方で組織に貢献できるような発想の転換が求められている。しかし、組織や個人に深く根付いた働き方に関する価値観や慣習は容易に変えられるものでもなく、混乱やコンフリクトが起きることは予想に難くない。
そこで本特集は、医療者自身が心身ともに健康で生き生きと働きながら、さまざまな取り組みを行うことで、患者や地域住民の健康、そして、組織の安定的な運営や活性化につながることを目指すものである。
ISSN | 2188-8051 |
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定価 | 2,860円 (本体2,600円+税) |
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Editorial
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仕事好きの管理職医師に捧ぐ
井上真智子(浜松医科大学地域家庭医療学講座/静岡家庭医養成プログラム)
あなたは管理職ですか? 仕事は好きですか? あなたの部下は健康で幸せですか…?
臨床中心だった生活から、教育・研究、管理業務、その他名前の付かない諸々の仕事が増えてきて長らく経つが、時々ハタと悩むことがある。私は「仕事好きの管理職」であるが、どうやらちょっと迷惑な時があるようだ。さすがに深夜や休日に頻繁にメールを送ることは控えているが、時に新しいプロジェクトや企画を、「これ面白そうだからやってみない?」と声をかけても、若干引いた目で、そーっと断られることがある。「No」と言うのは大事なことだが、「学ぶチャンスなのにもったいないな」とギャップを感じてしまう。
もちろん皆、向上心がないわけでも、仕事を適当にやり過ごしたいというわけでもない。むしろ真面目に誠意を持って日々働いている。キャパオーバーでバーンアウトしないように、やるべきこととやらなくてよいことを判断し、時間とエネルギーを適切に配分して行動している。つまり若い世代のほうが、自分事としてのウェルビーイング意識が高い。意識を変えなければならないのは、中高年世代なのだということを痛感させられてきたこの数年である。
しかし、若い世代のウェルビーイングを守ろうとするあまり、組織として出すべき成果を犠牲にしてよいのだろうか? やはり中高年世代の管理職が、諦観とともにカバーすべきなのだろうか?
本特集はそんな葛藤の中で生まれた。医療の質・安全、産業保健、人間工学・行動科学、キャリアの観点から、バーンアウト予防やウェルビーイング向上に向けて、どの世代の方にも【保存版】としていただける内容となった。行き詰まり感のある管理職も、Well-being 1.0から2.0へのパラダイムシフトに向けて 1)、「組織で取り組めることはたくさんある」と気づかれるのではないだろうか。
コラムでは8名の方に、ご自身の体験をストレートに語っていただいた。趣味との出合い、子育て、介護、自身の病、自分や他者との関わりを通し、人としての変遷を経て医師としてもまた深みを増す様は、間違いなく読者に勇気を与えるものであり、また自身のウェルビーイングについて新たな視点で考える端緒となるだろう。
そして冒頭の「ゲストライブ」では、米国家庭医療界のパイオニアであるジャネット・サウスポール先生に、その生き様を伺った。40年以上にわたり「人」をケアするというブレない姿勢とたゆまぬエネルギー、そして職場でもキャリアでも大切なことは結局何か、読者へ熱いメッセージを語っていただいた。
サウスポール先生を私に紹介してくださったのは、ミシガン大学の故マイク・フェターズ先生だった。米国ではメンターやコーチを持つことはよくあるようで、「あなたにはサウスポール先生がぴったりでは」とご紹介していただいたのだ。身に余る光栄であり、お話しする度に力をいただいている。今回、そのエッセンスを読者の皆さんと共有できた。きっとフェターズ先生も、また一つ大好きな日本に貢献できたと言って天国で喜んでおられることだろう。
文献 1)Shanafelt TD : Physician Well-being 2.0 ; where are we and where are we going? Mayo Clin Proc 96(10) : 2682-2693, 2021. [PMID] 34607637
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特集 医師のウェルビーイング
企画:井上真智子
■総論
①医師のウェルビーイングの重要性──医療の質向上・患者安全の観点から
荒神裕之
②医師のウェルビーイングの重要性──産業保健、メンタルヘルス対策の観点から
安藤明美
■組織で取り組むウェルビーイング
①研修医や専攻医のバーンアウト予防
牧石徹也
②組織における心理的安全性とは?
加藤容子
③ヒューマンファクター・人間工学に基づくウェルネスへの取り組み──ロチェスター大学医療センターの実例より
貝塚幸子|竹内優貴
④医師として必要な労働時間管理の知識
柴田綾子
■個人で取り組むウェルビーイング
①医師のためのストレスコーピング、ストレスマネジメントの方法
浅井宏友
②個人でできるウェルビーイングへのアプローチ──今日から始める小さな目標の設定
平野早秀子
③コラム「私の趣味とウェルビーイング」
(1)ランニング
成島道樹
(2)筋トレ
横川直人
(3)音楽
兒玉 末
④医師のための運動講座
伊東知子
⑤コラム「ワークライフバランスとウェルビーイング」
(1)「子育てゾンビ期」の乗り越え方
大石 愛
(2)ズレて生きる自分を受け入れる
神廣憲記
(3)介護を通して再認識した私と家族のウェルビーイング
武田裕子
⑥キャリアとウェルビーイング──自分らしいキャリアのための考え方
浅川麻里
⑦コラム「病体験からのワークスタイルチェンジ、健康観の変化」
(1)病と仕事と家族と私
水谷民奈
(2)我病む、故に我あり、時々我なし──病気になるとはどのようなことか?
小田倉弘典
■ウェルビーイングを支える産業保健
①不調かなと思ったらどうする?──労働者として知っておきたい産業保健の知識
浜口伝博
②産業医の役割──管理者として知っておきたいこと
小川真規
今月の「めざせ!総合診療専門医!」問題
●Editorial
仕事好きの管理職医師に捧ぐ
井上真智子
●ゲストライブ
米国家庭医療界のパイオニアに聞く!──逆境を乗り越え、社会格差に取り組んだ勇気と生き方
ジャネット・サウスポール|井上真智子
●アスクレピオスの杖|想い出の診療録|50
“熱病”に“熱病”──“Every patient is your best teacher.”
矢野晴美
●What's your diagnosis?|258
トーマスはオオカミ少年
前川かく|明保洋之|佐田竜一
●オール沖縄! カンファレンス Ver.2.0|レジデントの対応と指導医の考え|89
その検査値、信じて大丈夫?
村井志帆|平良翔吾|鈴木智晴、他(監修)
●臨床教育お悩み相談室|どうする!?サロン|16
「褒めてやらねば、人は動かじ」ってほんとなの、五十六さん!?
木村武司|佐田竜一|長野広之
●臨床医のためのライフハック|限りある時間を有効に使う仕事術|15
問題解決1──日々の問題を解決していく方法は?
中島 啓
●ジェネラリストに必要な ご遺体の診断学|15
ご遺体の検査⑥ CT検査〈その2〉
森田沙斗武
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