地域言語聴覚療法学

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言語聴覚士養成校において地域言語聴覚療法学を学ぶ学生のための本邦初のテキストが「標準言語聴覚障害学」シリーズの1冊としてついに刊行! 昨今の言語聴覚士を取り巻く状況を踏まえ、学生にとって必要な地域言語聴覚療法学に関する知識・技術・態度を解説し、今後の方向性を示します。また本書は学生のみならず、地域言語聴覚療法に関する知見を深めたい臨床家にも座右の書となる1冊。

*「標準言語聴覚障害学」は株式会社医学書院の登録商標です。

シリーズ 標準言語聴覚障害学
シリーズ監修 藤田 郁代
編集 半田 理恵子 / 藤田 郁代
発行 2019年03月判型:B5頁:232
ISBN 978-4-260-03637-5
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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地域言語聴覚療法学は,医療福祉環境の変化や学問の進歩を踏まえて近年新しく生まれた専門領域で,本書はその基本理念や臨床理論・技術を体系的に解説しています。内容は,日本言語聴覚士協会の「言語聴覚士養成教育ガイドライン」に沿っています。具体的には,教育・介護・福祉などで提供される言語聴覚療法のあり方や,各種の言語聴覚障害に対する評価と介入の理論と技術について,事例を示してわかりやすく説明しています。学生はもちろんのこと,臨床家にも役立つ内容となっています。

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 「標準言語聴覚障害学」シリーズの刊行開始は2009年3月であったが,それから10年が経過し,言語聴覚療法を取り巻く社会環境は大きく変化してきた.特に人口の少子高齢化,疾病構造の変化,人々の価値観の多様化は顕著であり,このような環境変化に応じて言語聴覚療法はそのあるべき姿を常に模索してきた.その方向性の1つは,言語聴覚障害のある人が地域社会において自分らしい人生を営むことを支援することであった.わが国の社会保障制度もこの方向で動いており,2025年を目途に地域包括ケアシステムの構築が進められている.このような状況において,言語聴覚療法が人々の健康と生活に貢献するには,地域での生活に視点を置いた活動と参加を重視したサービスの提供が不可欠となっている.このような観点からの言語聴覚療法は,「地域言語聴覚療法」と呼ぶことができる.
 地域言語聴覚療法は,「言語聴覚障害のある人とその家族が地域社会で自分らしい生活ができるよう,生活機能(心身機能・活動・参加)の維持・向上を目指して,言語聴覚士が専門的知識と技術をもって関連職種や地域住民と連携して行う活動」と定義される(第2章).これは新生児から高齢者まであらゆる年齢層の人々の地域生活におけるQOLを支援し,当事者の主体性と自己決定を尊重するものである.
 地域言語聴覚療法では,従来の医療施設で提供する言語聴覚療法を超えた知識・技術・価値観が求められるが,わが国ではその体系化はまだ途上にある.したがって,これまで地域言語聴覚療法に真正面から取り組んだ体系的で総合的なテキストはほとんど刊行されてこなかった.本シリーズにおいても刊行の必要性は強く認識されていたが,なかなか発刊に漕ぎつけることができなかった.しかし,地域における言語聴覚療法の先験的な実践報告が蓄積されてくると同時に,「言語聴覚士養成教育ガイドライン」(日本言語聴覚士協会,2018年)のコア・カリキュラムに地域言語聴覚療法が含まれたことを背景として,ようやく機が熟し,ここに『地域言語聴覚療法学』を発刊することができた.
 本書は,新生児から高齢者までを対象とした地域言語聴覚療法の総合的な解説書であり,執筆者には,地域言語聴覚療法に地道に取り組みつつ,そのあり方を追求してこられた臨床家の方々を中心にお願いした.先例となるテキストや理論が存在しないため,執筆者はご自分の経験を頼りに荒野を耕すような思いで一字一句を生み出されたことと思う.編集過程では,本書をできる限り体系的,理論的,実践的なものにするべく,原稿の内容について議論し,修正をお願いすることもあえて行った.これはまさに,道なき道を切り開いていく執筆者と編集者の共同作業であり,2018年の熱い夏は忘れがたいものとなった.ここに忍耐強く,真摯に執筆に取り組んでいただいた執筆者の方々に心から感謝申し上げる.
 本書の第1章では,地域言語聴覚療法学の「社会的背景と意義」についてリハビリテーションの歴史からひもとき,社会保障制度の変遷上,成人・高齢者への取り組みと小児への取り組みを分けて述べている.同様に本書では第2章に「成人・高齢者の地域生活を支える」,第3章に「小児の地域生活を支える」と章立てを分けた構成としている.各章において,医療・保健・介護・福祉・教育など関連する制度,他職種との連携のあり方を具体的に解説し,地域言語聴覚療法における言語聴覚士が実施する評価・訓練・指導の内容,さらに提供されるサービスの特徴を詳細に説明している.特に,障害別の事例の紹介は本書の核となるべき重要な部分である.第5章の「コミュニケーション機器による支援」と合わせ学ぶことで,地域言語聴覚療法の実際の支援活動を把握することができる.なお,第4章には地域言語聴覚療法の一領域として,「災害リハビリテーション」を位置づけ,解説している.
 本書は,リハビリテーションや社会福祉の長い歴史を踏まえ,できる限り普遍的な視点に立って,地域言語聴覚療法のあり方を解説するよう努めた.しかし,社会環境の変化や理論・技術の発展は今後も進むであろうことから,本書を時代の要請に応える真に実践的で理論的なものにするには,内容の更新が常に求められる.本書の発刊は,わが国の地域言語聴覚療法を体系化する第一歩であり,今後も多くの臨床家や研究者によってさらに内容が充実していくことが願われる.
 本書は,言語聴覚士を志す学生のテキストとなることを念頭に置いて著されているが,地域言語聴覚療法を実践している,またはこれから実践しようとしている言語聴覚士に役立つと思われる.また地域言語聴覚療法について知識を得たいと願っている関連職種,近接領域の学生や研究者の方にも有用であると思われる.
 最後に,本書の刊行にご尽力いただいた医学書院編集部の方々に深謝申し上げる.

 2019年2月
 編集
 半田理恵子
 藤田 郁代

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第1章 社会的背景と意義
 1 地域リハビリテーションの社会的背景
 2 地域リハビリテーションの概念
  A わが国の地域リハビリテーション
  B CBR
 3 リハビリテーションの歴史
  A 第一次大戦後~1970年代までの動き
  B 1980年代以降の動き
 4 わが国における社会保障制度の変遷
  A 成人・高齢者を中心とした動き
  B 小児への取り組み
 5 地域リハビリテーションの意義

第2章 成人・高齢者の地域生活を支える
 1 地域言語聴覚療法
  A 地域言語聴覚療法とは
  B 言語聴覚士の役割
  C 地域言語聴覚療法の実際
  D 連携
  E 利用者の特徴
  F 地域言語聴覚療法を提供する制度
  G 地域言語聴覚療法の特徴
 2 地域言語聴覚療法を支えるシステムと制度
  A 地域包括ケアシステムと制度
  B 医療関連のシステムと制度
  C 介護関連のシステムと制度
  D 福祉関連のシステムと制度
  E インフォーマル支援
 3 地域における連携
  A 関連職種と言語聴覚士の役割
  B 連携の種類
  C 連携の原則
 4 地域言語聴覚療法の展開
  A 展開プロセス
  B 情報収集と評価
  C 支援計画および訓練・指導・援助
  D 職種間連携
  E リスク管理
 5 地域言語聴覚療法におけるサービス
  A 地域包括ケアにおける言語聴覚療法
  B 介護予防における言語聴覚療法
  C 外来における言語聴覚療法
  D 通所における言語聴覚療法
  E 入所における言語聴覚療法
  F 在宅における言語聴覚療法
 6 地域言語聴覚療法の実際
  A 失語症
  B 次脳機能障害
  C 摂食嚥下障害
  D 発声発語障害
  E 認知症
  F 聴覚障害
  G 神経難病
  H がん
  I 吃音

第3章 小児の地域生活を支える
 1 発達・教育の支援
  A 基本概念
  B サービスの形態とシステム
  C 連携
  D 展開
 2 支援の実際
  A 乳幼児健康診査における取り組み
  B 外来における取り組み
  C 通所における取り組み
  D 就学後の取り組み
  E 特別支援教育における取り組み
  F 肢体不自由および重症心身障害への取り組み

第4章 災害への対応
 1 災害リハビリテーション
  A 災害リハビリテーションの基本概念
  B 法的根拠と地域連携
  C 災害時における言語聴覚士の役割

第5章 コミュニケーション機器による支援
 1 コミュニケーション機器と種類
  A コミュニケーション機器とは
  B 種類
 2 コミュニケーション機器の導入
  A 適合の原則と方法
  B 機器導入の評価とチームアプローチ
  C 関連する制度

参考図書
索引

Topics一覧
 発達障害のある子どもの支援

Side Memo 一覧
 ・エンパワーメント
 ・高齢化率
 ・地域保健法
 ・特別支援教育教員の免許制度
 ・介護予防(障害発生の予防)
 ・生活機能
 ・フレイル(虚弱)
 ・SPDCAサイクル
 ・機能訓練指導員
 ・リハビリテーション会議
 ・国際生活機能分類に基づく生活機能障害のとらえ方
 ・生活場面でのコミュニケーション評価の一例
 ・若年性認知症
 ・認定補聴器技能者
 ・介護用補聴器
 ・手元スピーカー
 ・補聴器相談医
 ・レスパイトケア
 ・社交不安症
 ・マス・スクリーニングテスト
 ・ASD児の評価
 ・職員配置の基準の厳格化
 ・保護者のサポート
 ・自閉症と情緒障害
 ・実態把握
 ・肢体不自由
 ・重症心身障害
 ・二次障害
 ・経管栄養
 ・療育
 ・医療型児童発達支援センター
 ・JRAT
 ・DMAT
 ・震災関連死
 ・被災地域限定の特例
 ・要配慮者

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地域での言語聴覚士の活躍の拡がりを示す
書評者: 長谷川 幹 (三軒茶屋内科リハビリテーションクリニック院長)
 脳卒中などを発症すると入院し,障害が残ったまま退院する。そこで,地域でのさまざまな医療・福祉関係者がチームを組んで障害のある人の支援をすることになる。

 子供の病気は発達障害,周産期の障害など幅広くあるが,子供を専門に診ているリハビリテーション病院は公立などに限定されていることが多い。教育も絡み,地域に生活している障害のある子に十分な対応ができているとはいえないのが現状である。

 また,超高齢社会に突入し,嚥下障害の高齢者が多くなり,その対応も重要である。

 このように小児から高齢者,さまざまな疾患による障害のある人に対する地域の体制づくりが大きな課題である。

 こうした中で,本書が登場したのは時宜にかなっている。言語聴覚士が国家資格になってまだ約20年という歴史から,地域で活動している言語聴覚士は少ないため,編集者の序で,「先例となるテキストや理論が存在しないため,執筆者はご自分の経験を頼りに荒野を耕すような思いで一字一句を生み出されたことと思う」と述べている。そのような思いを込めて挑戦している姿が思い浮かぶような本である。

 第1章の「社会的背景と意義」では,第一次大戦以降のリハビリテーションの歴史,わが国における高齢者~小児の社会保障制度の変遷などを大局的に述べ,第2章以降につなげている。

 第2章の「成人・高齢者の地域生活を支える」では,求められる地域言語聴覚療法に関して,地域包括ケア,医療,介護などのシステムと制度以外にインフォーマル支援に着目している。地域で言語聴覚療法をする際の情報収集と評価,支援計画などを基礎として,具体的な地域での介護予防,通所,在宅,介護老人保健施設などの場での言語聴覚療法について,そして,失語症,高次脳機能障害,神経難病,がん,吃音などのある人への地域での言語聴覚療法について,幅広く述べている。

 第3章の「小児の地域生活を支える」では,発達,教育の視点で乳幼児,通所,就学後,特別支援教育,重症心身障害児について,支援のシステム,他の職種の動きと言語聴覚士の役割,動きを詳細に述べている。

 第4章では最近組織化された災害時へのリハビリテーション体制と言語聴覚士の役割,第5章でコミュニケーション機器について述べている。

 このように地域での言語聴覚士の活動の場は極めて広く,評者も学ぶ点が多かった。歴史的にみてまだ未成熟な部分が多く,若い世代もこれを機に地域で挑戦し障害のある人とともに課題を解決していこうとすれば,言語聴覚士の活躍する場面が拡がりその内容が深化すると思う。言語聴覚士のみならず関連職種,学生などにぜひ読んでいただきたい本である。

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