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ジェネラリストのための外来初療・処置ガイド

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本書は、臨床医が最低限行うべき初療・外来処置を1冊にまとめたガイドブック。豊富な写真・イラストを用いて、診断において見逃してはならない重要症候や、外来でできる治療手技をわかりやすく解説。小児から高齢者、頭のてっぺんから足の爪先まで-患者の年齢・部位を問わずジェネラリストに求められる初期対応を網羅した。これさえ読めば、もうどんな患者が来ても困らない!
シリーズ ジェネラリストのための
編集 田島 知郎
編集協力 千野 修 / 田島 厳吾
発行 2016年02月判型:B5頁:312
ISBN 978-4-260-02420-4
定価 8,800円 (本体8,000円+税)

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 超高齢化の先頭を走っているわが国には,医療の望ましいあり方を世界に示す役割が課されている.しかしながら,臓器別診療のベースがいまだ強固であり,病院もオープンシステムで運営されていない状況にある.そのようななかで,特定領域の専門医でも開業すると病院診療にかかわらない,いわば“半専門医”になるなど,医師の力をフルに活用しきれないことが隘路になっている.理想の医療のあり方は,「いつ,どこで起こるかわからない急病や外傷に,できるだけ早く適切に対処してもらうことができ,そこ(あるいはその地域)で診療が完結すること」だが,このイメージから遠いのがわが国の現実だ.
 また医師の臨床の守備範囲の狭さも大きな問題である.現に首都東京でさえ,例えば異所性妊娠の破裂で適切な診療を受けられず命を失う例が何年かに一度はある.数年前には女医すら犠牲となる例さえあったのだ.若い女性の下腹部痛で命にかかわる疾患として,西欧先進国の医師であれば,診療科にかかわらず真っ先に脳裏に浮かぶのがこの病態である.こうした弱点がわが国の医療にあることをふまえて,臨床力を広げるために本書を役立たせてほしいと願っている.
 本書タイトルの枕詞「ジェネラリストのための」には,外科医よりも優れた胆嚢摘出術が行える者さえいた米国のGP(general practitioner)のイメージが残る一方で,わが国では内科系中心に養成されつつある総合診療医の姿をみて,私自身禁じ得ない微妙な思いがあり,その反映でもある.総合診療医については,中核病院での医師不足を補うだけでなく,開業医の半数を入れ替える,あるいはTPPの延長線上で米国と同様の守備範囲を備えたナースプラクティショナー制度導入などの論議にもつながってほしいと願っている.
 診療において,患者が診療室に入ってくる様子,あるいは医師が患者に近づきながら得られる情報は貴重である.それに基づいて最悪の事態,病態を想定して,最優先すべき行動が何であるか,次に何が起こりうるかまで想像を広げ,そのうえで病態を絞り込むことになるだろう.各臓器の解剖学的配置・形態,それぞれの生理機能を考え合わせつつ,五感を駆使して全身状態を把握する,といった緊張感を伴う診療姿勢は基本である.具体的には胸部の打・聴診,腹部で行う触・聴診の幅を,頸動脈,あるいは四肢血流のチェックにも広げる,また直腸診によるDouglas窩,男性での前立腺の触知,女性での内診,さらに眼底鏡,耳鏡なども駆使できる心構えや技術があればなお望ましい.余談ではあるが触診では,痛くないところから触り始めることがコツであろう.
 筆者諸氏が心を込めて執筆してくださったことに感謝しつつ,医療が患者目線のものになることを後押しするために,本書が広く活用され,役立ってほしいと願っている.

 2016年1月
 田島知郎

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第1章 初療時の心構えと届出義務
 初療医に求められる患者目線の診療姿勢/医師による届出義務と法的責務/
 チーム医療,患者・家族との連帯姿勢の確立/ヒューマンケアの視点から-今さら孟子?

第2章 救急医・総合医役も兼ねる外科の初療
 心肺蘇生法の実際/気道確保/輪状甲状靱帯切開・穿刺法/
 中心静脈カテーテル挿入法/ショック/意識障害/痙攣/副腎クリーゼ/
 電解質異常/食中毒/農薬服用/睡眠薬・覚醒剤・危険ドラッグ/胃洗浄法/
 急性アルコール中毒/高血圧状態/不整脈/クループ症候群/気管支喘息発作/
 過換気症候群/熱中症/低体温/熱傷/気道熱傷と一酸化炭素中毒/
 毒ガス中毒/溺水/劇症型感染症/クラッシュ症候群とコンパートメント症候群/
 蜂窩織炎とガス壊疽

第3章 基礎疾患のある患者での初療時の留意点
 糖尿病合併症のある患者における外科手術/抗血栓薬服用中の患者/
 出血傾向のある患者と血友病患者/虚血性心疾患・不整脈のある患者/
 透析を受けている患者/副腎皮質ステロイド薬服用中の患者/
 骨粗鬆症のレベルとリスク判断

第4章 皮膚・軟部組織領域,創傷部
 挫創処置と縫合の基本手技/広範囲剥皮創の処置/外来処置に使える皮弁術/
 新鮮熱傷,化学損傷の局所療法/動物の咬傷,虫の刺傷/
 皮膚の間葉系腫瘍/皮膚癌,悪性黒色腫/表皮嚢腫,皮様嚢腫/
 疣贅(いぼ),鶏眼・胼胝,ケロイド・肥厚性瘢痕/接触皮膚炎/
 帯状疱疹/薬疹/蕁麻疹

第5章 頭部・顔面・眼・耳鼻・口咽喉領域
 頭痛/顔面神経麻痺/三叉神経痛/頭蓋骨骨折/顔面外傷/
 眼外傷,眼内異物,眼窩骨折/眼痛/麦粒腫,霰粒腫,結膜炎/頬骨骨折/
 鼻出血/鼻骨骨折/耳痛/外耳道異物,外耳道損傷,鼓膜裂孔/
 耳介の挫創・血腫/耳介・鼻翼・口唇・臍のピアストラブル/
 顎関節脱臼,下顎骨骨折/歯牙損傷/唾液腺炎,唾石症/咽頭痛/
 口唇・口腔内・舌の挫創/異物症(異物誤嚥,下咽頭異物・魚骨異物)

第6章 頸部・頸椎領域
 頸部腫瘤・嚢胞・瘻/頸部リンパ節腫脹/
 甲状腺病変,甲状腺クリーゼ,甲状腺機能低下症/高カルシウム血症,テタニー/
 頸部刺創/頸椎の脱臼・骨折/外傷性頸部症候群

第7章 肩・上肢・手・指領域
 頸肩腕症候群,肩関節周囲炎(五十肩)/鎖骨骨折/肩鎖関節脱臼/
 外傷性肩関節脱臼/野球肩,野球肘,テニス肘/前腕骨下端骨折/
 舟状骨骨折,手関節捻挫/中手骨骨折/突き指,指骨骨節,手指の腱損傷/
 手指の挫創,指末節部の切断創/ばね指,de Quervain病/Heberden結節/
 ガングリオン/指輪の除去/トゲ,釣り針の刺入,異物の迷入/
 爪剥離創・爪下血腫,爪甲周囲炎・ひょう疽

第8章 胸部領域
 胸背部痛の原因病態/呼吸困難/喀血/胸水/気胸,血胸/心タンポナーデ/
 胸部外傷/肋骨・胸骨骨折/骨粗鬆症性椎体骨折(胸・腰椎圧迫骨折)/
 気道内異物/胸郭出口症候群/Boerhaave症候群/女性乳腺腫瘤/
 急性乳腺炎,乳腺膿瘍/腋窩リンパ節腫大/男性乳癌,女性化乳房症

第9章 腹部領域
 腹痛/心窩部不快感/急性腹症,腹腔内出血/消化管閉塞/
 上部消化管出血,吐血/下部消化管出血,下血/黄疸/腹水/
 腹壁腫瘤/腹部腫瘤/腹部鈍性外傷・穿通性損傷/消化管異物/
 腹壁ヘルニア,内ヘルニア,閉鎖孔ヘルニア/
 Sister Mary Joseph's nodule/ストーマ異状

第10章 鼠径部・会陰部・直腸・肛門・腰部病変
 鼠径リンパ節腫脹/鼠径部ヘルニア(鼠径ヘルニア・大腿ヘルニア)/
 外陰Paget病/直腸脱,脱肛/直腸内異物/糞便充塞/直腸・肛門周囲膿瘍,痔瘻/
 痔核・嵌頓痔核,裂肛/化膿性汗腺炎/毛巣洞(瘻)/尖圭コンジローマ/褥瘡/
 腰痛,坐骨神経痛/腰ヘルニア

第11章 泌尿器・外性器・産婦人科領域
 無尿・腎不全,尿閉/血尿,尿路結石/尿路外傷,尿道内異物/陰嚢水腫/
 精巣炎,精巣上体炎/嵌頓包茎/前立腺炎症候群/男性不妊症/性感染症/
 月経困難症/Bartholin腺嚢腫/卵巣出血(黄体の破裂),卵巣嚢腫茎捻転/
 女性器出血/異所性妊娠,切迫流産,胞状奇胎/正常分娩介助の概要

第12章 下肢・膝・足関節・足・趾領域
 下肢閉塞性動脈硬化症/静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)/
 下肢静脈瘤,下腿潰瘍/膝関節内血腫・靭帯損傷/
 膝蓋骨骨折,半月板損傷,ジャンパー膝/Baker嚢腫/アキレス腱損傷/
 足関節部の捻挫・骨折/第5中足骨骨折/足部の疲労骨折/痛風/外反母趾/
 胼胝,鶏眼/伏針/凍瘡,凍傷/趾骨骨折/陥入爪,爪郭炎

第13章 乳幼児・小児疾患
 熱性痙攣/麻疹,水痘,風疹,突発性発疹,伝染性紅斑(リンゴ病)/
 手足口病,伝染性単核球症,溶連菌感染症(猩紅熱を中心に)/伝染性軟属腫/
 鼻腔内異物/気道内異物・誤嚥/鎖骨骨折/上肢の骨折/肘内障/消化管異物/
 肥厚性幽門狭窄症/腸重積症,Hirschsprung病/臍炎,臍ヘルニア/
 鼠径ヘルニア,精巣水瘤(陰嚢水腫)/停留精巣,精巣捻転/
 肛門周囲膿瘍・痔瘻,裂肛/Perthes病,Osgood-Schlatter病

索引

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どんな患者が来ても迅速で適切な初療が行えるようになれる一冊
書評者: 小西 敏郎 (東京医療保健大教授・医療栄養学)
 評者自身のことで恐縮であるが,つい最近バングラデシュの首都ダッカ滞在中に,ホテルの階段で足を踏み外し転落した。最上段から10段も落下し,激しく右肩を床にぶつけ,肩関節が脱臼となった。元外科医とはいえ,古希を迎えての単身旅行,言葉が不自由な外国,しかも開発途上国であり,夜8時のことである。この話を聞いた友人全員が,さぞや治療に難渋したことであったろう,と大いに同情してくれた。

 だが実際は,駆けつけたホテル従業員がすぐに,私を招いた現地の外科医にスマホで連絡してくれた。彼は,直ちにホテル近くの緊急病院の整形外科医に連絡を取ってから,車で駆けつけて,そのクリニックに私を運んでくれた。整形外科医は苦痛で顔を歪める私に英語で問診しながら,視診・触診しただけで即座に診断し,単純X線,CT/MRIや血液検査をすることなく,無麻酔で整復してくれた。転落してからわずか30分で脱臼は整復され,激痛はたちまち軽減した。

 これが日本であったらどうだったろう。夜間に迅速に対応する整形外科医が常駐している病院は東京都内でも非常に少ない。昼間でさえ即対応してくれる病院は決して多くないのでは,と思う。これは整形外科だけの問題ではない。似たようなことは,外科でも産婦人科でも,日本のいたるところで起きている。ご存じないと思うが,わが国に滞在出張するある米国の会社役員は「日本で病院を受診しないこと,救急車を呼ばないこと」「韓国に行くか,時間に余裕があれば米国に帰国すること」と指示されているとの噂もある。驚くべきことであるが,きっと痛い目に遭った経験があるからであろう。誠に残念なことである。

 わが国の初診外来では,広い範囲にわたる疾患を診療できる医者は極めて少ない。たとえ診断はできても即治療,とまではいかないことが多い。私自身も「アッペを診療できない胃癌の専門医」と友人から皮肉られてきた。

 このたび医学書院から,田島知郎先生(東海大学名誉教授)の編集で『ジェネラリストのための外来初療・処置ガイド』が出版された。この本は“もうどんな患者が来ても困らない,日常外来から当直まで,臨床医が行うべき初期対応を一冊にまとめた”本である(表紙帯より)。カラーの写真やきれいなイラストがふんだんの本書を開いてみると,「初療時の心構えと届出義務」「救急医・総合医役も兼ねる外科の初療」「基礎疾患のある患者での初療時の留意点」(第1~3章)に始まり,皮膚・軟部組織領域,頭部・顔面,頸部・頸椎,肩・上肢・手指,胸部,腹部,鼠径部,肛門,泌尿器・産婦人科領域,下肢・足,さらに乳幼児・小児疾患と,全身全ての部位・領域にわたる多種の疾患が網羅されている。まず初診時に必要とされる疾患の基本概念が紹介され,さらに特徴的な症状と診断のポイントが簡潔にまとめられているので,慣れない疾患でもすぐに正しく診断できる。そして全ての疾患に,緊急で必要な処置がわかりやすく書かれているので,どんな患者にも迅速で適切な初療を行えることは間違いない。

 ちなみに「外傷性肩関節脱臼」についてみると,私がダッカで受けた挙上整復法が3コマの挿絵付きでわかりやすく紹介されている。また脱臼修復後のリハビリについても,“早期運動開始による反復性脱臼は若年者に多いが,40歳以上の場合は拘縮を避けるために早期の運動がよい”(p.131)と薦められているので,私は安心して早期のリハビリを開始することができた。

 本書を救急診療部門だけでなく,一般診療を行っているクリニックや病院外来などに備えておくことをお薦めする。またNP(nurse practitioner,診療看護師)を志す看護師の皆さんにとっても必読で,座右の書となるであろう。
真のジェネラリストの在り方を問う珠玉の道標
書評者: 北川 雄光 (慶大教授・一般・消化器外科学)
 昨今,臓器別,領域別の専門分化が高度に進み,自らの専門分野で極めて高い診療能力を持ちながらも,ジェネラリストとしての守備範囲が狭い医師が増加している。現在,新専門医制度の発足を前に,基本領域として新設される総合診療専門医の医師像,研修プログラムのあり方が議論されているところである。“真のジェネラリスト”の医師像がいかなるものか大変注目を浴びているこの時期に,本書はそれに対する一つの具体的な回答を示す形で,絶妙のタイミングで出版されたと言えよう。

 本書は,領域横断的に,基本的な手技や比較的簡素な医療機器を駆使して“手を動かし,頭を使って”初療に当たる真のジェネラリストのあるべき姿を示してくれている。精緻な画像診断や詳細な血液分析結果に頼る前に,あるいは患者に触れる前から何かを察知する能力までも研ぎ澄ますことを提唱している本書は,「当直マニュアル」などのレベルをはるかに超えた,医師としての基本的素養,哲学を伝えてくれていると言えよう。明解な図や貴重な実地臨床における写真を的確に駆使して解説し,「コツとアドバイス」に込められたエッセンスは,まさに最前線の現場でしか得られないジェネラリストたちの生の声が伝わってくる。積極的にかつ興味を持って初療に取り組む若手医師の勇気と知識,技能を後押ししてくれる本書の編者田島知郎博士(東海大名誉教授)は,米国で長く外科研修を積んだ後,日米両国で世界最高レベルのsurgical oncologistとして指導的な立場で活躍されたジェネラリストの基盤を持ったスペシャリストである。米国の医療現場の待ったなしの救急,初療で培った編者の医師としての哲学,しっかりと手を動かして初療を行うことのできるジェネラリスト育成に対する熱い思いが伝わってくる。私自身もスペシャリストとしての到達点の高さは,ジェネラリストとしての基盤の広さに立脚して決まってくると信じている。

 本書は,初期臨床研修医,総合診療専門医のみならず全ての基本領域専門医研修を志す医師,そして現場の指導者たちがその“医師としての基盤”を生涯維持するために必携の名著である。

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