誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた 感染症診療12の戦略 第2版
大ベストセラー書『誰風邪(だれかぜ)』がページ倍増の7年ぶり大改訂!
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『誰風邪(だれかぜ)』の愛称で親しまれる大ベストセラー書が、満を持して7年ぶりの大改訂。初版で圧倒的な支持を得た、プライマリ・ケア現場における「風邪と重篤な疾患との見極め方」に磨きをかけたのみならず、高齢者の風邪診療や薬剤耐性菌など診療現場を悩ませる重要課題にも明快に処方箋を示した。プライマリ・ケアの足元で感染症診療の定説が揺らいでいる今、日々の「風邪」診療における12の戦略が明日の医療を変える!
● 薬剤耐性菌の蔓延,超高齢社会の到来……新時代の風邪診療・感染症診療に求められる診療戦略とは?
岸田直樹先生(総合診療医・感染症医/北海道科学大学薬学部客員教授)が答えます。
【週刊医学界新聞 第3346号 〔インタビュー〕 新時代の“風邪”の診かた】
岸田直樹先生(総合診療医・感染症医/北海道科学大学薬学部客員教授)が答えます。
【週刊医学界新聞 第3346号 〔インタビュー〕 新時代の“風邪”の診かた】
著 | 岸田 直樹 |
---|---|
発行 | 2019年11月判型:A5頁:338 |
ISBN | 978-4-260-03963-5 |
定価 | 3,850円 (本体3,500円+税) |
更新情報
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序文
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まえがき──風邪診療から新しい医療の話をしませんか?
2012年に本書の初版を出版し,多くの方に手に取っていただきました。初版のまえがきでは「風邪の診かたなんてだーれも教えてくれません」なんて言っていましたが,この7年間で“風邪診療とその周辺”は大きく変わりました。その理由をここで書くのは本書を手に取っていただいた皆さんにはかえっておかしな感じがするのでやめておきます。というのも本改訂のゴールはそこにはないと感じるからです。
この7年の間に改訂という話が実は何度もありました。ところが,素直な気持ちとして改訂することに自分の中で大きな違和感を抱いていたので改訂を先延ばしにしていました。新しい論文・エビデンスをアップデートするのが“改訂”でよければ可能ではあります。しかし,初版を手に取った読者のなかには感じられた方もいると思うのですが,本書のゴールはそこにはありません。何より自分が一読者だった場合に論文をアップデートしただけのその改訂本を手に取ったらどうもおかしい,というか,そんなの実臨床では今はあまり役に立たないと思うと感じたからです。「どうするか?」の考え方がこれほど大切な時代はないと感じます。確かに「ここで改訂したってそこそこ売れるから印税が期待できるのでは?」という悪魔のささやきがあったことは間違いありません。しかし自分が納得できるものを出せなくて何を世に伝えたいというのか? そのようなささやきのほうが容易に勝りました。
さて,本書の改訂までに7年の月日が流れました。その間自分は何をしていたかというと,総合内科医・感染症医として常勤で勤めていた病院を退職し,総合診療医としては複数病院での総合診療科の回診や内科外来指導を,感染症医としては感染症コンサルタントとして耐性菌減少スピードを加速させるべく介入するプロジェクトを行っていました。こんなことをさせてくれるベースの病院を探しましたが,あえなく撃沈してしまい,2014年に仕方がなく自分で会社を立ち上げることにしました。多くの病院とかかわり,そこで「理想と現実」,「本音と建て前」で日々苦悩している現場の医療者に出会い,おかれた場所での良策を対立軸ではなく皆で練ってきた7年でした。多病院にかかわることで,正論を振りかざすことの無力さどころか,それは逆効果ですらあることを疑いから確信として感じることができました。また,2016年からは,変化を求められている医療者のトップを切っている薬剤師とともに「どのような薬剤師がなりたい薬剤師か?」を一緒に考えながら,客員教授として大学薬学教育に本格的に参入させていただきました。2017年には北海道大学でMPH(公衆衛生修士)の学生として生物統計,医療経済,行動科学,人口学などの学びと研究から学位をとらせていただき,2018年からは感染症疫学,社会人口学の数理モデル研究を継続したいと考え社会人学生をしながら,総合診療医としての回診や内科外来指導,感染症コンサルタントも続けさせていただいています。
さて,初版からこんな感じで自分も時間を費やしていたのですが,特にこの3年くらい,いち臨床医としてひたすらもがき苦しんでいました。日本や世界の医療をとりまくさまざまな事象,特にこれまでの大きな社会変化とこれから求められていくであろうことをMPH課程で体系的に学び,なによりその変化のなかで日々実践する臨床における葛藤とともにその答えを探し続けてきました。答えを探すべく藁にもすがる思いで本をむさぼり読みました。そして,すばらしい良書にたくさん出会いました。本を読めば読むほどもっと読む本が見つかり,「どこまでいけば答えにたどり着けるのであろうか?」に挑戦し続けてきました。そしてその答えにたどり着けた! のであればよかったのですが,残念ながらまだまだ道半ばであると感じます。
ただ,強く感じたのは,多様性が特徴の日本の感染症領域と,日本が迎えている未曾有の社会情勢から,新しい感染症診療戦略が生まれうるのを肌で感じました。まだまだ完成形ではないですが,その途中でも皆さんにご提示できるのではないかと感じました。これが何より“日本から”生まれうるものとなる,それを疑いではなく確信として感じ本書の改訂に踏み切りました。初版から7年の時間は自分にはとてもとても大きなものでした。本書を手に取っていただいた皆さんと,新しい感染症診療戦略に関して話をしたくてたまりません。
そしてこれも序章であり,何よりさらにその先に向かうものがあると強く感じます。このもっともよくある病気である“風邪”診療からさらにその先として,世界のどこにもない新しい医療の話ができるのではないか。世界が本格的に一つになろうともがいている今,東洋の辺境の島国日本が,孤立対立する社会に大きく貢献することができる。特に医療の側面でそのきっかけになることができる。日本が迎えている未曾有の少子高齢化人口減少の未来はピンチなどでは決してないどころか,そこから生まれる新しい医療が世界に貢献するほどの強みとなりうる。風邪診療から新しい感染症診療,何より新しい医療が生まれうる,そう感じます。本書が皆で新しい医療の話をするそのきっかけになれれば嬉しいです。
2019年10月
岸田直樹
2012年に本書の初版を出版し,多くの方に手に取っていただきました。初版のまえがきでは「風邪の診かたなんてだーれも教えてくれません」なんて言っていましたが,この7年間で“風邪診療とその周辺”は大きく変わりました。その理由をここで書くのは本書を手に取っていただいた皆さんにはかえっておかしな感じがするのでやめておきます。というのも本改訂のゴールはそこにはないと感じるからです。
この7年の間に改訂という話が実は何度もありました。ところが,素直な気持ちとして改訂することに自分の中で大きな違和感を抱いていたので改訂を先延ばしにしていました。新しい論文・エビデンスをアップデートするのが“改訂”でよければ可能ではあります。しかし,初版を手に取った読者のなかには感じられた方もいると思うのですが,本書のゴールはそこにはありません。何より自分が一読者だった場合に論文をアップデートしただけのその改訂本を手に取ったらどうもおかしい,というか,そんなの実臨床では今はあまり役に立たないと思うと感じたからです。「どうするか?」の考え方がこれほど大切な時代はないと感じます。確かに「ここで改訂したってそこそこ売れるから印税が期待できるのでは?」という悪魔のささやきがあったことは間違いありません。しかし自分が納得できるものを出せなくて何を世に伝えたいというのか? そのようなささやきのほうが容易に勝りました。
さて,本書の改訂までに7年の月日が流れました。その間自分は何をしていたかというと,総合内科医・感染症医として常勤で勤めていた病院を退職し,総合診療医としては複数病院での総合診療科の回診や内科外来指導を,感染症医としては感染症コンサルタントとして耐性菌減少スピードを加速させるべく介入するプロジェクトを行っていました。こんなことをさせてくれるベースの病院を探しましたが,あえなく撃沈してしまい,2014年に仕方がなく自分で会社を立ち上げることにしました。多くの病院とかかわり,そこで「理想と現実」,「本音と建て前」で日々苦悩している現場の医療者に出会い,おかれた場所での良策を対立軸ではなく皆で練ってきた7年でした。多病院にかかわることで,正論を振りかざすことの無力さどころか,それは逆効果ですらあることを疑いから確信として感じることができました。また,2016年からは,変化を求められている医療者のトップを切っている薬剤師とともに「どのような薬剤師がなりたい薬剤師か?」を一緒に考えながら,客員教授として大学薬学教育に本格的に参入させていただきました。2017年には北海道大学でMPH(公衆衛生修士)の学生として生物統計,医療経済,行動科学,人口学などの学びと研究から学位をとらせていただき,2018年からは感染症疫学,社会人口学の数理モデル研究を継続したいと考え社会人学生をしながら,総合診療医としての回診や内科外来指導,感染症コンサルタントも続けさせていただいています。
さて,初版からこんな感じで自分も時間を費やしていたのですが,特にこの3年くらい,いち臨床医としてひたすらもがき苦しんでいました。日本や世界の医療をとりまくさまざまな事象,特にこれまでの大きな社会変化とこれから求められていくであろうことをMPH課程で体系的に学び,なによりその変化のなかで日々実践する臨床における葛藤とともにその答えを探し続けてきました。答えを探すべく藁にもすがる思いで本をむさぼり読みました。そして,すばらしい良書にたくさん出会いました。本を読めば読むほどもっと読む本が見つかり,「どこまでいけば答えにたどり着けるのであろうか?」に挑戦し続けてきました。そしてその答えにたどり着けた! のであればよかったのですが,残念ながらまだまだ道半ばであると感じます。
ただ,強く感じたのは,多様性が特徴の日本の感染症領域と,日本が迎えている未曾有の社会情勢から,新しい感染症診療戦略が生まれうるのを肌で感じました。まだまだ完成形ではないですが,その途中でも皆さんにご提示できるのではないかと感じました。これが何より“日本から”生まれうるものとなる,それを疑いではなく確信として感じ本書の改訂に踏み切りました。初版から7年の時間は自分にはとてもとても大きなものでした。本書を手に取っていただいた皆さんと,新しい感染症診療戦略に関して話をしたくてたまりません。
そしてこれも序章であり,何よりさらにその先に向かうものがあると強く感じます。このもっともよくある病気である“風邪”診療からさらにその先として,世界のどこにもない新しい医療の話ができるのではないか。世界が本格的に一つになろうともがいている今,東洋の辺境の島国日本が,孤立対立する社会に大きく貢献することができる。特に医療の側面でそのきっかけになることができる。日本が迎えている未曾有の少子高齢化人口減少の未来はピンチなどでは決してないどころか,そこから生まれる新しい医療が世界に貢献するほどの強みとなりうる。風邪診療から新しい感染症診療,何より新しい医療が生まれうる,そう感じます。本書が皆で新しい医療の話をするそのきっかけになれれば嬉しいです。
2019年10月
岸田直樹
目次
開く
まえがき
風邪様症状への2つの基本アプローチ
1 風邪を風邪と診断する基本アプローチ
2 風邪に紛れた風邪以外を診断する基本アプローチ
風邪の経過
あなたの患者はどの症状ですか?
風邪診療実践編! ─よくある岸田外来の風景:アリストテレスを思いつつ─
高齢者の発熱のチェックポイント
新しい感染症診療“12”の戦略 ─日本から生まれる! 12種の戦略
第1章 風邪を風邪と診断するノウハウ
1 典型的風邪型(咳≒鼻汁≒咽頭痛)
2 鼻症状メイン型(鼻汁>咳,咽頭痛)
3 喉症状メイン型(咽頭痛>咳,鼻汁)
Column 溶連菌の咽頭炎にセファロスポリン系抗菌薬は本当に使わないか?
4 咳症状メイン型(咳>鼻汁,咽頭痛)
5 風邪とアリストテレスと私:患者説明のコツ
─自分と同じような風邪診療での失敗を繰り返さないために─
第2章 風邪に紛れた風邪以外を診断するノウハウ
1a 局所臓器症状不明瞭・高熱のみ型(熱+α,α≒0?)〈前編〉
1b 局所臓器症状不明瞭・高熱のみ型(熱+α,α≒0?)〈後編〉
2 微熱+倦怠感型
3 発熱+頭痛型
4 発熱+消化器症状型
5 発熱+関節痛型
6 発熱+皮疹型
7 発熱+頸部痛型
第3章 高齢者の“風邪診療”から生まれる 新しい時代の! 感染症診療“12”の戦略
戦略 1 未曾有の少子高齢化人口減少社会をふまえた戦略
高齢者を特別視しないアプローチ
戦略 2 高齢者に「典型的な風邪」はなぜいない!?
無症候性感染を知ることから見えてくる戦略
戦略 3 “免疫老化”によりアレルギー性疾患は減少
高齢者の鼻症状は薬剤性,喉症状はヘルペスやカンジダを疑え!
戦略 4a 肺への戦略①:明確な肺の持病がなくても“慢性肺臓病”があると考えよ!
戦略 4b 肺への戦略②:誤嚥性肺炎の考え方・抗菌薬の使い方の戦略
嫌気性菌カバーは必須ではないだけではなく,
化学性肺臓炎として抗菌薬を使わないという選択肢も
戦略 5 高齢者の急性の発熱・炎症所見は多職種でチェックせよ!
戦略 6 高齢者の発熱・炎症所見の原因を「一元的に考えない」
高齢者,受診のきっかけUTI
戦略 7 Escalation治療も抗菌薬適正使用の1つの戦略
column 尿路感染症(UTI)の新しい治療戦略 ─UTI,複雑性でも単純性─
戦略 8 早期内服治療,早期帰宅の戦略 標準治療から“抗菌薬治療しない”まで
戦略 9 重症感染症の長期内服治療,長期在宅治療戦略
狙いを定め,Escalation治療も駆使して抑え込む
column コモンな非重症感染症は早期内服帰宅・短期治療戦略へ
─感染症治療の定説が崩れる:shorter is better─
戦略 10 簡易懸濁法による内服抗菌薬治療戦略 「ルートがとれない!」
戦略 11 非重症なcommon diseaseでは
「R=耐性=抗菌薬無効」という呪縛から逃れよ!
戦略 12 高齢者Emerging Infectious Disease(新興感染症)を意識せよ!
第4章 インフルエンザ診療と外来診療での処方のノウハウ
1 外来内服抗菌薬
2 インフルエンザへの診療をどうするか?
─検査もしないし抗インフルエンザ薬も処方しないという選択肢も検討する─
column 患者さんから,こう質問されたらどう答えればよいですか?
「インフルエンザ,明日仕事を休んだほうがよいですか?」
column インフルエンザの新常識と正しい怖がり方
─「検査もしないし薬も飲まない」という選択肢も─
……患者・家族そして社会へのメッセージ
3 漢方薬の使い方
索引
風邪様症状への2つの基本アプローチ
1 風邪を風邪と診断する基本アプローチ
2 風邪に紛れた風邪以外を診断する基本アプローチ
風邪の経過
あなたの患者はどの症状ですか?
風邪診療実践編! ─よくある岸田外来の風景:アリストテレスを思いつつ─
高齢者の発熱のチェックポイント
新しい感染症診療“12”の戦略 ─日本から生まれる! 12種の戦略
第1章 風邪を風邪と診断するノウハウ
1 典型的風邪型(咳≒鼻汁≒咽頭痛)
2 鼻症状メイン型(鼻汁>咳,咽頭痛)
3 喉症状メイン型(咽頭痛>咳,鼻汁)
Column 溶連菌の咽頭炎にセファロスポリン系抗菌薬は本当に使わないか?
4 咳症状メイン型(咳>鼻汁,咽頭痛)
5 風邪とアリストテレスと私:患者説明のコツ
─自分と同じような風邪診療での失敗を繰り返さないために─
第2章 風邪に紛れた風邪以外を診断するノウハウ
1a 局所臓器症状不明瞭・高熱のみ型(熱+α,α≒0?)〈前編〉
1b 局所臓器症状不明瞭・高熱のみ型(熱+α,α≒0?)〈後編〉
2 微熱+倦怠感型
3 発熱+頭痛型
4 発熱+消化器症状型
5 発熱+関節痛型
6 発熱+皮疹型
7 発熱+頸部痛型
第3章 高齢者の“風邪診療”から生まれる 新しい時代の! 感染症診療“12”の戦略
戦略 1 未曾有の少子高齢化人口減少社会をふまえた戦略
高齢者を特別視しないアプローチ
戦略 2 高齢者に「典型的な風邪」はなぜいない!?
無症候性感染を知ることから見えてくる戦略
戦略 3 “免疫老化”によりアレルギー性疾患は減少
高齢者の鼻症状は薬剤性,喉症状はヘルペスやカンジダを疑え!
戦略 4a 肺への戦略①:明確な肺の持病がなくても“慢性肺臓病”があると考えよ!
戦略 4b 肺への戦略②:誤嚥性肺炎の考え方・抗菌薬の使い方の戦略
嫌気性菌カバーは必須ではないだけではなく,
化学性肺臓炎として抗菌薬を使わないという選択肢も
戦略 5 高齢者の急性の発熱・炎症所見は多職種でチェックせよ!
戦略 6 高齢者の発熱・炎症所見の原因を「一元的に考えない」
高齢者,受診のきっかけUTI
戦略 7 Escalation治療も抗菌薬適正使用の1つの戦略
column 尿路感染症(UTI)の新しい治療戦略 ─UTI,複雑性でも単純性─
戦略 8 早期内服治療,早期帰宅の戦略 標準治療から“抗菌薬治療しない”まで
戦略 9 重症感染症の長期内服治療,長期在宅治療戦略
狙いを定め,Escalation治療も駆使して抑え込む
column コモンな非重症感染症は早期内服帰宅・短期治療戦略へ
─感染症治療の定説が崩れる:shorter is better─
戦略 10 簡易懸濁法による内服抗菌薬治療戦略 「ルートがとれない!」
戦略 11 非重症なcommon diseaseでは
「R=耐性=抗菌薬無効」という呪縛から逃れよ!
戦略 12 高齢者Emerging Infectious Disease(新興感染症)を意識せよ!
第4章 インフルエンザ診療と外来診療での処方のノウハウ
1 外来内服抗菌薬
2 インフルエンザへの診療をどうするか?
─検査もしないし抗インフルエンザ薬も処方しないという選択肢も検討する─
column 患者さんから,こう質問されたらどう答えればよいですか?
「インフルエンザ,明日仕事を休んだほうがよいですか?」
column インフルエンザの新常識と正しい怖がり方
─「検査もしないし薬も飲まない」という選択肢も─
……患者・家族そして社会へのメッセージ
3 漢方薬の使い方
索引
書評
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日本が直面する高齢者の風邪診療に
書評者: 倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)
今だから言えるが,一昔前は,風邪というのはエビデンスがあってなきような診療が当たり前だった。主たる切り口は,抗菌薬が必要か否かだった。私は感染症に強い病院で初期研修を受けたため,どちらかといえば珍しい疾患を診ることが多く,風邪診療にわずかな不安を抱えていた。
この本の初版が出版された2012年,風邪の医学書なんて目にしたことがなかった私は,即座に通読した。驚いた。知らないことが山のようにあった。そして,自らの不勉強を恥じた。風邪とは斯くも深い感染症だったのかと痛感した。
優れた感染症医には,優れた総合診療医が多い。この理由は,感染症であることを診断するためには,それに擬態する他疾患を見抜かなければならないからだ。最もコモンな感染症は,間違いなく風邪である。世界一のスピードで高齢化が進んでいる日本では,高齢者の風邪をどう診るかが重要になるのだが,この本の真骨頂は実はそこにある。最も患者数が多く,かつ最も書くのが難しいと思われるテーマを,岸田直樹先生は今回の第2版で大きく取り上げたのだ。高齢者の風邪について,100ページも割いている。
高齢者の風邪に対して,何でもかんでも「抗菌薬は不要」と切り捨てるべきでないこと。無用な抗菌薬を処方する医師に対して,エビデンスベースドな医師はそれを叩きがちであるが,行き過ぎると,慎重に鑑別を要する高齢者に対して「抗菌薬が不要な風邪」という誤断を下してしまうリスクがある。また,感染症の世界ではde-escalationが美的とされる風潮があるが,決して全てがそうではないことをロジカルに説明している。
ぜひ手に取ってもらいたい。芸術的とも思えるほど,極めて高い完成度である。
日々の風邪診療を変える素晴らしい一冊
書評者: 草場 鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長/北海道家庭医療学センター理事長)
風邪は毎日遭遇する大切な健康問題であるが,多忙な外来の中でその背後に広がる深みのある世界に思いをはせることはそう多くはない。本書はその風邪を入り口としながら,風邪,そして感染症の診かたを実にわかりやすく具体的に解説した素晴らしい良書である。
第1章では当たり前に思える風邪を主症状ごとに分類し,そのアプローチを明確に説明していく。第2章では風邪として扱われやすい<発熱+α>の症状を症状ごとに分類し,同じくそこに隠れているさまざまな疾患について鑑別診断のポイントを強調しながら解説する。第3章では高齢化が進む日本で重要となる高齢者診療において,感染症治療のスタンダードがいかに変化するかに力点を置きながら,12の指針を示す。最後の第4章はインフルエンザ診療に特化したノウハウが語られる。
いずれの章でも,感染症診療に関する豊富なエビデンスに加えて,著者自身の感染症診療の経験に基づく具体的かつ合理的なアドバイスが明確に示されているのが特徴であり,明日の診療から早速適応したいと思わせる情報が多い。また,親しみやすい語り口の中にも著者の葛藤を随所で感じられ,臨床医として共感できる部分も非常に多い。
プライマリ・ケア診療に当たる全ての医師にとって,ぜひ手に取って通読し,診察室の手の届く所に置いてほしい書である。風邪診療に潜むもやもや感はきっと一掃され,むしろ知的好奇心を持ちながら「風邪」の患者を迎えることができるはずだ。
書評者: 倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)
今だから言えるが,一昔前は,風邪というのはエビデンスがあってなきような診療が当たり前だった。主たる切り口は,抗菌薬が必要か否かだった。私は感染症に強い病院で初期研修を受けたため,どちらかといえば珍しい疾患を診ることが多く,風邪診療にわずかな不安を抱えていた。
この本の初版が出版された2012年,風邪の医学書なんて目にしたことがなかった私は,即座に通読した。驚いた。知らないことが山のようにあった。そして,自らの不勉強を恥じた。風邪とは斯くも深い感染症だったのかと痛感した。
優れた感染症医には,優れた総合診療医が多い。この理由は,感染症であることを診断するためには,それに擬態する他疾患を見抜かなければならないからだ。最もコモンな感染症は,間違いなく風邪である。世界一のスピードで高齢化が進んでいる日本では,高齢者の風邪をどう診るかが重要になるのだが,この本の真骨頂は実はそこにある。最も患者数が多く,かつ最も書くのが難しいと思われるテーマを,岸田直樹先生は今回の第2版で大きく取り上げたのだ。高齢者の風邪について,100ページも割いている。
高齢者の風邪に対して,何でもかんでも「抗菌薬は不要」と切り捨てるべきでないこと。無用な抗菌薬を処方する医師に対して,エビデンスベースドな医師はそれを叩きがちであるが,行き過ぎると,慎重に鑑別を要する高齢者に対して「抗菌薬が不要な風邪」という誤断を下してしまうリスクがある。また,感染症の世界ではde-escalationが美的とされる風潮があるが,決して全てがそうではないことをロジカルに説明している。
ぜひ手に取ってもらいたい。芸術的とも思えるほど,極めて高い完成度である。
日々の風邪診療を変える素晴らしい一冊
書評者: 草場 鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長/北海道家庭医療学センター理事長)
風邪は毎日遭遇する大切な健康問題であるが,多忙な外来の中でその背後に広がる深みのある世界に思いをはせることはそう多くはない。本書はその風邪を入り口としながら,風邪,そして感染症の診かたを実にわかりやすく具体的に解説した素晴らしい良書である。
第1章では当たり前に思える風邪を主症状ごとに分類し,そのアプローチを明確に説明していく。第2章では風邪として扱われやすい<発熱+α>の症状を症状ごとに分類し,同じくそこに隠れているさまざまな疾患について鑑別診断のポイントを強調しながら解説する。第3章では高齢化が進む日本で重要となる高齢者診療において,感染症治療のスタンダードがいかに変化するかに力点を置きながら,12の指針を示す。最後の第4章はインフルエンザ診療に特化したノウハウが語られる。
いずれの章でも,感染症診療に関する豊富なエビデンスに加えて,著者自身の感染症診療の経験に基づく具体的かつ合理的なアドバイスが明確に示されているのが特徴であり,明日の診療から早速適応したいと思わせる情報が多い。また,親しみやすい語り口の中にも著者の葛藤を随所で感じられ,臨床医として共感できる部分も非常に多い。
プライマリ・ケア診療に当たる全ての医師にとって,ぜひ手に取って通読し,診察室の手の届く所に置いてほしい書である。風邪診療に潜むもやもや感はきっと一掃され,むしろ知的好奇心を持ちながら「風邪」の患者を迎えることができるはずだ。
更新情報
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更新情報はありません。
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