帰してはいけない小児外来患者
その子を帰して大丈夫? 小児科医の診断過程をのぞいて確定診断へのプロセスを学ぼう!
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外来受診する子ども(~16歳)のうち、帰してはいけない患者は誰なのか。発熱、腹痛、食欲不振、嘔吐…、よくある症状の中に潜む、まれだが重篤な疾患を見逃さないためにはどうするのか、いかにしてミスを防ぐか、に迫る。第2章では、東京都立小児総合医療センターの専門各科が臨場感溢れる45症例を提示。初期診断から確定診断に至るまでのプロセスと思考過程を追体験することで、実践的な対応を学ぶことができる。
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- 序文
- 目次
- 書評
- 正誤表
序文
開く
まえがき
皆様,本書を手にとっていただきありがとうございます.
このようなタイプの本は,小児領域では初めて出版されます.もう1人の編集者である崎山先生から提案があり,東京都立小児総合医療センターの診療各科が全面的に協力して作成することができました.
私自身はしばらく一般小児科外来をしていませんが,以前は救急外来や一般外来をしていました.とくに当直をしていたときはいつも,本書のテーマには悩まされていました.患者を帰した後,心配になって眠れないことや,翌日ご自宅に電話したり,再度来られていないか翌日の外来で確認したりということもありました.何となく気がかりな患者を忙しい外来のなかで見逃していないかは,いつも心配なものです.それも経験や年齢を重ねると自信が出てくるのではなく,心配度は増していきました.
本書を読んでいただくことで,そのような不安が少しでも解消されることを願っております.
では,どうすればよいのでしょう.忙しい外来で,多くは初めて接する病気の子どもやご家族の状況をみて,本当に正しかったのか,ご家族は納得されているのかは誰でも心配することです.
通読すると気づかれると思いますが,本書では50近い疾患を集めているのに初期診断が「胃腸炎」という症例が多いのです.嘔吐を主訴として来院する子どもはとくに,急性胃腸炎が流行している時期には大変多いものです.そのなかで,どうしたら普通の胃腸炎でないと気づくことができるのでしょうか?小児,とくに乳幼児は自分の症状を訴えることができません.ですから成人と異なり,主訴が少ないのが特徴です.本書の記載をぜひしっかりと読んでください.問診をきちんととる,ご家族の訴えをきちんと聞く,看護師などとのコミュニケーションも重要,バイタルはおろそかにしない,身体所見はきちんととる,今後こうなったら違うかもしれないと予測して話しておく,思い込みを避ける,何となく普通と違うと感じていることを大切にする,などが書かれています.すべての病気を疑ってあらゆる検査をする人はいません.嘔吐の患者すべてに超音波検査,CTや髄液検査をする人もいないでしょう.疑っていなければ,せっかく検査をしても見逃すこともあります.
いずれにしても通常の急性胃腸炎の経過を知っていれば(本書では具体的な病気の説明までは記載していませんが),何かおかしいと感じられるはずですし,もしそれがわかれば問診を聞き直したり,バイタルを見直したりすることができます.また,ほかに適切な医師がいれば聞いてみる,とりあえず入院させる,しばらく外来で様子をみる,このような症状があればすぐ来院させるなどの対応を考えることは可能ですし,インターネットや教科書で調べることも可能です.何かがおかしいと気づけば,急ぐ必要があるのか,ゆっくり診断でもよいのか,虐待はないのかなども考えることができます.
ですから,考えるプロセスが大事なのです.本書にはそれをわかりやすく記載したつもりです.
ぜひ本書を最後まで読んでいただき,考えるプロセスを理解していただければ幸いです.また単に読み物としても面白いと思いますので,ご一読ください.
最後に,多忙ななかで本書を書き上げた崎山先生および著者らの努力に深謝いたします.
2015年3月
本田雅敬
皆様,本書を手にとっていただきありがとうございます.
このようなタイプの本は,小児領域では初めて出版されます.もう1人の編集者である崎山先生から提案があり,東京都立小児総合医療センターの診療各科が全面的に協力して作成することができました.
私自身はしばらく一般小児科外来をしていませんが,以前は救急外来や一般外来をしていました.とくに当直をしていたときはいつも,本書のテーマには悩まされていました.患者を帰した後,心配になって眠れないことや,翌日ご自宅に電話したり,再度来られていないか翌日の外来で確認したりということもありました.何となく気がかりな患者を忙しい外来のなかで見逃していないかは,いつも心配なものです.それも経験や年齢を重ねると自信が出てくるのではなく,心配度は増していきました.
本書を読んでいただくことで,そのような不安が少しでも解消されることを願っております.
*
本書は最初に考えた診断が最終診断までに変わっていく形式で書かれていますが,最終診断の病気を解説するのではなく,なぜそうなったかのプロセスを大切にしています.すべての病気を知っている人はいませんし,すべてを経験することはもっとあり得ないでしょう.本書ではすべてを勉強してほしいと願っているのではなく,あくまでもどのようにすれば見過ごさないかに力点を置いています.では,どうすればよいのでしょう.忙しい外来で,多くは初めて接する病気の子どもやご家族の状況をみて,本当に正しかったのか,ご家族は納得されているのかは誰でも心配することです.
通読すると気づかれると思いますが,本書では50近い疾患を集めているのに初期診断が「胃腸炎」という症例が多いのです.嘔吐を主訴として来院する子どもはとくに,急性胃腸炎が流行している時期には大変多いものです.そのなかで,どうしたら普通の胃腸炎でないと気づくことができるのでしょうか?小児,とくに乳幼児は自分の症状を訴えることができません.ですから成人と異なり,主訴が少ないのが特徴です.本書の記載をぜひしっかりと読んでください.問診をきちんととる,ご家族の訴えをきちんと聞く,看護師などとのコミュニケーションも重要,バイタルはおろそかにしない,身体所見はきちんととる,今後こうなったら違うかもしれないと予測して話しておく,思い込みを避ける,何となく普通と違うと感じていることを大切にする,などが書かれています.すべての病気を疑ってあらゆる検査をする人はいません.嘔吐の患者すべてに超音波検査,CTや髄液検査をする人もいないでしょう.疑っていなければ,せっかく検査をしても見逃すこともあります.
いずれにしても通常の急性胃腸炎の経過を知っていれば(本書では具体的な病気の説明までは記載していませんが),何かおかしいと感じられるはずですし,もしそれがわかれば問診を聞き直したり,バイタルを見直したりすることができます.また,ほかに適切な医師がいれば聞いてみる,とりあえず入院させる,しばらく外来で様子をみる,このような症状があればすぐ来院させるなどの対応を考えることは可能ですし,インターネットや教科書で調べることも可能です.何かがおかしいと気づけば,急ぐ必要があるのか,ゆっくり診断でもよいのか,虐待はないのかなども考えることができます.
ですから,考えるプロセスが大事なのです.本書にはそれをわかりやすく記載したつもりです.
*
ガイドラインやEBMばやりの昨今です.私もいくつかのガイドラインやエビデンスを作る臨床試験を行ってきました.しかし診断が間違っていれば,ガイドラインは何の役にも立ちません.またガイドラインには,このような症状があれば診断するとは書かれていても,このような症状からどのような疾患を疑うかは書かれていません.ですから,診断へたどりつく筋道はきわめて重要です.ぜひ本書を最後まで読んでいただき,考えるプロセスを理解していただければ幸いです.また単に読み物としても面白いと思いますので,ご一読ください.
最後に,多忙ななかで本書を書き上げた崎山先生および著者らの努力に深謝いたします.
2015年3月
本田雅敬
目次
開く
第1章 小児科外来で帰してはいけない疾患
1 無知は救いようのない誤診を招く
2 主訴を適切に聴取しないと診断はできない
3 鑑別診断が念頭になければ,診察はできない
4 診断に至る基本的な思考回路を理解する
5 誤診するリスク(危険性)を過小評価するバイアス
第2章 ケースブック
あとがき
第2章 ケースブック 診断名一覧
索引
column
1 乳幼児の摂食障害と感覚過敏
2 全部脱がせて診察する(その1)
3 全部脱がせて診察する(その2)
4 お母さん,大丈夫だよ
5 診察の手順
6 停電しても診療できるか?
7 眼窩,鼻翼周囲に圧痛を訴える10歳くらいの女児はいませんか?
8 溶骨性病変とBCG結核-国際的な発症の相違
9 昨日の体重を今日量ることはできない
10 帰してしまい緊急手術となった小児外来患者
1 無知は救いようのない誤診を招く
2 主訴を適切に聴取しないと診断はできない
3 鑑別診断が念頭になければ,診察はできない
4 診断に至る基本的な思考回路を理解する
5 誤診するリスク(危険性)を過小評価するバイアス
第2章 ケースブック
Case 1 | 日齢20男児 | 最悪を想定した対応が生命を救った! |
Case 2 | 日齢27男児 | 疑えば攻めろ! |
Mini Case 1 | 日齢15男児 | 当初あせもと思われていたが… |
Case 3 | 2か月男児 | 診断の最大のヒントは家族の話のなかにある |
Case 4 | 6か月男児 | 親の視線も主訴のうち |
Case 5 | 6か月女児 | 発熱を伴う四肢の不動をみたら |
Case 6 | 7か月男児 | 木の葉を隠すなら森の中? |
Case 7 | 8か月男児 | 基本に忠実な診療が見逃しを防ぐ秘訣 |
Case 8 | 9か月女児 | 小児のABCDの評価は正確に |
Case 9 | 11か月男児 | 過去に思いを寄せること,将来を予見することの大切さ |
Case 10 | 1歳男児 | 経過をみていく間に症状は変化する |
Case 11 | 1歳3か月男児 | ブロッコリーでむせる!? |
Case 12~14 | 1歳3か月男児,2歳男児,6歳女児 おかしいと思ったら迷わず採血 | |
Case 15 | 1歳6か月男児 | 乳児の急性胃腸炎の落とし穴 |
Case 16 | 2歳男児 | 血便から疑う疾患 |
Case 17 | 2歳女児 | 1歳男児ではないけれど |
Case 18 | 2歳女児 | 診断は1つですか? |
Case 19 | 3歳男児 | たとえすべてがそろわなくても |
Case 20 | 3歳女児 | 神経学的診察が大切 |
Case 21 | 3歳女児 | 頸を動かさないのも大切な主訴である |
Mini Case 2 | 3歳6か月女児 | よくある疾患のまれな経過 |
Mini Case 3 | 3歳8か月男児 | 放置された多数歯齲蝕がサイン |
Case 22 | 5歳男児 | 症状がなくても油断は禁物 |
Case 23 | 5歳男児 | 外傷は最悪の事態まで想定 |
Mini Case 4 | 5歳6か月女児 | 頭痛・嘔吐で神経学的異常所見はないが… |
Case 24 | 6歳女児 | 輸液で改善しない胃腸炎 |
Mini Case 5 | 7歳女児 | 精神疾患でよいですか? |
Case 25 | 8歳女児 | 事実に忠実であることが答えに通じる |
Case 26 | 9歳男児 | ランニング中の失神 |
Case 27 | 10歳女児 | にこにこしているが… |
Case 28 | 11歳女児 | 付随する症状に注意 |
Case 29 | 12歳男児 | ドプラエコーは補助診断 |
Case 30 | 13歳男子 | 血便・下痢=感染性腸炎? |
Case 31 | 13歳男子 | 経過の長い症例で確認すること |
Case 32 | 13歳女子 | 便秘は誰が困るのか |
Case 33 | 14歳男子 | 嘔気の原因は? |
Case 34・35 | 14歳女子,15歳男子 目に見えなくてもそこにある | |
Case 36 | 15歳男子 | “異常なし”と“正常確認”は似て非なるモノ |
Case 37 | 15歳女子 | 大事なことを見落としていませんか? |
Case 38 | 15歳女子 | 子ども自身の言葉に耳を傾けよ |
Case 39 | 16歳女子 | 思春期患者には思春期患者の問題がある |
Case 40 | 1か月女児 | 冷静に,しかし温かく |
あとがき
第2章 ケースブック 診断名一覧
索引
column
1 乳幼児の摂食障害と感覚過敏
2 全部脱がせて診察する(その1)
3 全部脱がせて診察する(その2)
4 お母さん,大丈夫だよ
5 診察の手順
6 停電しても診療できるか?
7 眼窩,鼻翼周囲に圧痛を訴える10歳くらいの女児はいませんか?
8 溶骨性病変とBCG結核-国際的な発症の相違
9 昨日の体重を今日量ることはできない
10 帰してしまい緊急手術となった小児外来患者
書評
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経験豊富な小児科医の思考プロセスを追体験できる一冊
書評者: 前野 哲博 (筑波大病院総合診療グループ長)
小児診療について,全国全ての地域・時間帯を小児科医だけでカバーすることは不可能であり,実際には救急医や総合診療医などの「非小児科医」が小児診療に携わる機会は多い。特に総合診療医には「地域を診る医師」としてあらゆる年代層の診療をカバーすることが期待されており,実際,2017年度から新設される総合診療専門医の研修プログラムにおいても,小児科は内科,救急科とともに必修の研修科目として位置付けられている。
このような小児診療に関わる非小児科医にとって,最低限果たさなければいけない役割は何だろうか? さまざまな意見があるかもしれないが,最終的には「帰してはいけない患者を帰さない」ことに尽きるのではないだろうか。たとえ自分ひとりで診断を確定したり,治療を完結したりできなくても,「何かおかしい」と認識できれば,すぐに小児科専門医に相談して適切な診療につなぐことができるからだ。
このたび,そんな非小児科医にとっても最適の本が発刊された。タイトルはズバリ『帰してはいけない小児外来患者』である。
本書は第1章の総論と第2章のケースブックから構成されている。
第1章では,筆者の豊富な診療経験と,臨床推論の理論的背景をもとに,一見軽症に見える「死の合図に該当」する疾患をうっかり見逃してしまうプロセス(=見逃さないためのポイント)が症例や図を交えてわかりやすく述べられている。その内容は小児診療のみならず,全ての診療に通じるものであり,ぜひ一読をお勧めしたい。
第2章はケースブックである。ここに提示されている40の症例は,ほとんどはありふれた訴えから始まる。ケースの紹介に続いて,外来担当医の考えた鑑別診断やそれに至る思考回路が示される。その一連のプロセス中で,危険な疾患が潜んでいることに気付いたポイントが「転機」として示され,さらに「教訓」としてその解説,そして「最終診断」「TIPS」の順に記載されている。
ちなみに,同じ医学書院からは2012年に,主に成人患者を対象とした『帰してはいけない外来患者』が発刊されている。私もその編集にかかわったが,両書とも症例の経過と医師の思考回路を通して危険な疾患を見逃さないためのポイントを解説するコンセプトは同じである。読者は,思わず見逃しそうになった経緯から,どんでん返し!で最終診断がつく経過まで,臨場感をもって学ぶことができるため,非常に興味深く,また記憶に残りやすい構成になっている。
一般的な教科書では,知識を学ぶことはできても,経験豊富な小児科医の「頭の中」,つまり思考プロセスを学ぶことは難しい。それを追体験できる本書は,小児科研修中の医師はもちろん,小児診療にかかわる全ての人にお勧めの一冊である。
子どもの重症疾患の診断過程が手に取るようにわかる
書評者: 五十嵐 隆 (国立成育医療研究センター理事長)
吉田兼好の「命長ければ恥多し」の言葉どおり,小児科医は誰しも臨床経験が長いほど臨床現場で「痛い」思いをした経験を持つ。私自身もプロとして恥ずかしいことではあるが,救急外来など同僚・先輩医師からの支援がなく,臨床検査も十分にできない状況にあり,しかも深夜で自分の体調が必ずしも万全ではない中で短い時間内に決断を下さなくてはならないときに,「痛い」思い,すなわち診断ミスをしたことがあった。かつての大学や病院の医局などの深い人間関係が結べた職場では,上司や同僚から心筋炎,イレウス,気道異物,白血病などの初期診療時の臨床上の注意点やこつを日々耳学問として聞く機会があり,それが救急外来などの臨床現場で大いに役立ったと感謝している。質の高い医療情報を獲得する手段が今よりも少なかった昔は,そのようにして貴重な臨床上の知恵が次世代に伝授されていたのだと思う。
今回,崎山弘先生と本田雅敬先生が編集された『帰してはいけない小児外来患者』を拝読した。本書では,見逃してはならない小児の重症疾患の実例が多岐にわたり丁寧に解説されている。初期診断時に重症疾患をどうして正しく診断できなかったか,そして,どのようなちょっとした契機により重症疾患の診断に気付かされたかが手に取るようにわかる。読んでいる途中で,昔のように自分が医局のこたつで上司や同僚から臨床上の貴重な知恵や注意点を伝授されている気がしてきた。
日本小児科学会は「小児科専門医は子どもの総合医である」と宣言した。そして,小児科専門医としての到達目標を掲げ,最近数年間は主として若手小児科医を対象とした小児科専門医取得のためのインテンシブコースを毎年開催している。本書を拝読して,本書のような切り口で初期診断時に見逃される小児の重症疾患について教育する方法も有効ではないかと深く感じ入った。
本書には,東京都立小児総合医療センターの職員が経験された貴重な実例の数々が示されており,まさに同センターの総力を挙げての壮大な仕事である。さらに,編集と執筆とを兼ねた崎山弘先生は同センターの前身ともいえる都立府中病院小児科にかつて勤務され,退職後も開業の傍ら同小児科で当直と夜間の救急外来を定期的に担当され,長い期間地域医療に絶大な貢献を果たしてこられた。同病院小児科では本書に記載されているような,すぐには診断できなかった重症疾患の症例検討会が,横路征太郎部長の下で施設外の関連する小児科医と一緒に定期的に開催されていた。おそらく本書の企画には,このときの症例検討会の精神が深く反映されていると私は勝手に推測している。
本書は日常の小児医療に従事する者にとって,臨床上の頂門の一針ともいうべき貴重な示唆を与えてくれる。臨床現場で小児医療に携わる者にとって本書は極めて有益であり,一人でも多くの関係者が手にとって愛読されることを祈る。
小児(救急)診療の楽しみが倍増する一冊
書評者: 市川 光太郎 (北九州市立八幡病院小児救急センター 病院長)
長い間,小児救急医療に携わってきたが,その多くは軽症疾患であり,重篤な疾患はまれであることは間違いない。しかし,なぜか,慢心な気持ちが沸けば沸くほど,重篤な疾患に遭遇してしまう皮肉な結果を嫌というほど思い知らされてきた。そこにはピットホールに陥りやすいわれわれ医療側の診療姿勢が見え隠れしているのだと思っている。いかにすべての患児家族に不安をもたらすことなく,的確な診断治療に直結するスキルを自分自身が養い,後輩たちに継承するかは小児救急医(臨床医)の永遠の課題と常々考えてきた。
本書を読み,この自らの問いへ答えてくれる本に出逢ったという想いに溢れ,もっともっと救急現場に立ちたいという気持ちになった。楽しみながら仕事をするという本質的な部分を感じさせる本なのかもしれないと感じ,嬉しくなった。
Pearl caseの40例はまさに「目から鱗」の症例が詳述されている。「教訓」としての「転機」の数々が示され,最後に「TIPS」が総括してくれ,考察能力の幅・深さの向上を支援してくれている。その考察プロセスの解説には共感するだけではなく,自分の不勉強さを思い知らされ,すぐさま臨床で考察の幅・深さが生まれるストーリーが流れている。教科書ではなく,小説のように読み流したとしても,その考えはおのずと自分自身の身に,考え方にフィードバックされて,まさに「深読み」のできる臨床医になれそうである。加えて,単なるcommon diseaseと流してしまう症例に輝石を見いだせ,救急診療を行う楽しみが倍増しそうである。また,必要時は似た症例を探すこともできるだろうし,巻末に「ケースブック診断名一覧」が掲載されていることから,繁忙な外来中でもサッと自分の診断の幅・深さの確認ができるよう工夫されており,とても現場で役立つことと思われる。
何よりも感服したのは,序章にあたる第1章である。「死の合図に該当」で表されているように,診療における診断プロセスの基本姿勢を,「無知は救いようのない誤診を招く」「主訴を適切に聴取しないと診断はできない」「鑑別診断が念頭になければ,診察はできない」「診断に至る基本的な思考回路を理解する」「誤診するリスク(危険性)を過小評価するバイアス」と5項目に分けて,症例を引き合いに,アカデミックに解説されていることが素晴らしい。まさに,救急現場に出る前に読むことで,背筋が伸び,襟を正しての診療姿勢を保てるであろう。ことさら,「誤診するリスク(危険性)を過小評価するバイアス」の内容における,「思い込みがあった」「アンカリング」「必要性」「慣れ」「稀有性」「時間的な逼迫」「担当者の心身の健康状態」「スタッフの連携不足」「利害関係」「限界を超えた多忙」の10ポイントは,日頃より感じて言葉や活字にしてきたことと自分ながら異口同音だと共感を覚えた。
まさに,経験を問わず,「子どもを診る機会のあるすべての医師」に読んで欲しい一書であることを確信した。
書評者: 前野 哲博 (筑波大病院総合診療グループ長)
小児診療について,全国全ての地域・時間帯を小児科医だけでカバーすることは不可能であり,実際には救急医や総合診療医などの「非小児科医」が小児診療に携わる機会は多い。特に総合診療医には「地域を診る医師」としてあらゆる年代層の診療をカバーすることが期待されており,実際,2017年度から新設される総合診療専門医の研修プログラムにおいても,小児科は内科,救急科とともに必修の研修科目として位置付けられている。
このような小児診療に関わる非小児科医にとって,最低限果たさなければいけない役割は何だろうか? さまざまな意見があるかもしれないが,最終的には「帰してはいけない患者を帰さない」ことに尽きるのではないだろうか。たとえ自分ひとりで診断を確定したり,治療を完結したりできなくても,「何かおかしい」と認識できれば,すぐに小児科専門医に相談して適切な診療につなぐことができるからだ。
このたび,そんな非小児科医にとっても最適の本が発刊された。タイトルはズバリ『帰してはいけない小児外来患者』である。
本書は第1章の総論と第2章のケースブックから構成されている。
第1章では,筆者の豊富な診療経験と,臨床推論の理論的背景をもとに,一見軽症に見える「死の合図に該当」する疾患をうっかり見逃してしまうプロセス(=見逃さないためのポイント)が症例や図を交えてわかりやすく述べられている。その内容は小児診療のみならず,全ての診療に通じるものであり,ぜひ一読をお勧めしたい。
第2章はケースブックである。ここに提示されている40の症例は,ほとんどはありふれた訴えから始まる。ケースの紹介に続いて,外来担当医の考えた鑑別診断やそれに至る思考回路が示される。その一連のプロセス中で,危険な疾患が潜んでいることに気付いたポイントが「転機」として示され,さらに「教訓」としてその解説,そして「最終診断」「TIPS」の順に記載されている。
ちなみに,同じ医学書院からは2012年に,主に成人患者を対象とした『帰してはいけない外来患者』が発刊されている。私もその編集にかかわったが,両書とも症例の経過と医師の思考回路を通して危険な疾患を見逃さないためのポイントを解説するコンセプトは同じである。読者は,思わず見逃しそうになった経緯から,どんでん返し!で最終診断がつく経過まで,臨場感をもって学ぶことができるため,非常に興味深く,また記憶に残りやすい構成になっている。
一般的な教科書では,知識を学ぶことはできても,経験豊富な小児科医の「頭の中」,つまり思考プロセスを学ぶことは難しい。それを追体験できる本書は,小児科研修中の医師はもちろん,小児診療にかかわる全ての人にお勧めの一冊である。
子どもの重症疾患の診断過程が手に取るようにわかる
書評者: 五十嵐 隆 (国立成育医療研究センター理事長)
吉田兼好の「命長ければ恥多し」の言葉どおり,小児科医は誰しも臨床経験が長いほど臨床現場で「痛い」思いをした経験を持つ。私自身もプロとして恥ずかしいことではあるが,救急外来など同僚・先輩医師からの支援がなく,臨床検査も十分にできない状況にあり,しかも深夜で自分の体調が必ずしも万全ではない中で短い時間内に決断を下さなくてはならないときに,「痛い」思い,すなわち診断ミスをしたことがあった。かつての大学や病院の医局などの深い人間関係が結べた職場では,上司や同僚から心筋炎,イレウス,気道異物,白血病などの初期診療時の臨床上の注意点やこつを日々耳学問として聞く機会があり,それが救急外来などの臨床現場で大いに役立ったと感謝している。質の高い医療情報を獲得する手段が今よりも少なかった昔は,そのようにして貴重な臨床上の知恵が次世代に伝授されていたのだと思う。
今回,崎山弘先生と本田雅敬先生が編集された『帰してはいけない小児外来患者』を拝読した。本書では,見逃してはならない小児の重症疾患の実例が多岐にわたり丁寧に解説されている。初期診断時に重症疾患をどうして正しく診断できなかったか,そして,どのようなちょっとした契機により重症疾患の診断に気付かされたかが手に取るようにわかる。読んでいる途中で,昔のように自分が医局のこたつで上司や同僚から臨床上の貴重な知恵や注意点を伝授されている気がしてきた。
日本小児科学会は「小児科専門医は子どもの総合医である」と宣言した。そして,小児科専門医としての到達目標を掲げ,最近数年間は主として若手小児科医を対象とした小児科専門医取得のためのインテンシブコースを毎年開催している。本書を拝読して,本書のような切り口で初期診断時に見逃される小児の重症疾患について教育する方法も有効ではないかと深く感じ入った。
本書には,東京都立小児総合医療センターの職員が経験された貴重な実例の数々が示されており,まさに同センターの総力を挙げての壮大な仕事である。さらに,編集と執筆とを兼ねた崎山弘先生は同センターの前身ともいえる都立府中病院小児科にかつて勤務され,退職後も開業の傍ら同小児科で当直と夜間の救急外来を定期的に担当され,長い期間地域医療に絶大な貢献を果たしてこられた。同病院小児科では本書に記載されているような,すぐには診断できなかった重症疾患の症例検討会が,横路征太郎部長の下で施設外の関連する小児科医と一緒に定期的に開催されていた。おそらく本書の企画には,このときの症例検討会の精神が深く反映されていると私は勝手に推測している。
本書は日常の小児医療に従事する者にとって,臨床上の頂門の一針ともいうべき貴重な示唆を与えてくれる。臨床現場で小児医療に携わる者にとって本書は極めて有益であり,一人でも多くの関係者が手にとって愛読されることを祈る。
小児(救急)診療の楽しみが倍増する一冊
書評者: 市川 光太郎 (北九州市立八幡病院小児救急センター 病院長)
長い間,小児救急医療に携わってきたが,その多くは軽症疾患であり,重篤な疾患はまれであることは間違いない。しかし,なぜか,慢心な気持ちが沸けば沸くほど,重篤な疾患に遭遇してしまう皮肉な結果を嫌というほど思い知らされてきた。そこにはピットホールに陥りやすいわれわれ医療側の診療姿勢が見え隠れしているのだと思っている。いかにすべての患児家族に不安をもたらすことなく,的確な診断治療に直結するスキルを自分自身が養い,後輩たちに継承するかは小児救急医(臨床医)の永遠の課題と常々考えてきた。
本書を読み,この自らの問いへ答えてくれる本に出逢ったという想いに溢れ,もっともっと救急現場に立ちたいという気持ちになった。楽しみながら仕事をするという本質的な部分を感じさせる本なのかもしれないと感じ,嬉しくなった。
Pearl caseの40例はまさに「目から鱗」の症例が詳述されている。「教訓」としての「転機」の数々が示され,最後に「TIPS」が総括してくれ,考察能力の幅・深さの向上を支援してくれている。その考察プロセスの解説には共感するだけではなく,自分の不勉強さを思い知らされ,すぐさま臨床で考察の幅・深さが生まれるストーリーが流れている。教科書ではなく,小説のように読み流したとしても,その考えはおのずと自分自身の身に,考え方にフィードバックされて,まさに「深読み」のできる臨床医になれそうである。加えて,単なるcommon diseaseと流してしまう症例に輝石を見いだせ,救急診療を行う楽しみが倍増しそうである。また,必要時は似た症例を探すこともできるだろうし,巻末に「ケースブック診断名一覧」が掲載されていることから,繁忙な外来中でもサッと自分の診断の幅・深さの確認ができるよう工夫されており,とても現場で役立つことと思われる。
何よりも感服したのは,序章にあたる第1章である。「死の合図に該当」で表されているように,診療における診断プロセスの基本姿勢を,「無知は救いようのない誤診を招く」「主訴を適切に聴取しないと診断はできない」「鑑別診断が念頭になければ,診察はできない」「診断に至る基本的な思考回路を理解する」「誤診するリスク(危険性)を過小評価するバイアス」と5項目に分けて,症例を引き合いに,アカデミックに解説されていることが素晴らしい。まさに,救急現場に出る前に読むことで,背筋が伸び,襟を正しての診療姿勢を保てるであろう。ことさら,「誤診するリスク(危険性)を過小評価するバイアス」の内容における,「思い込みがあった」「アンカリング」「必要性」「慣れ」「稀有性」「時間的な逼迫」「担当者の心身の健康状態」「スタッフの連携不足」「利害関係」「限界を超えた多忙」の10ポイントは,日頃より感じて言葉や活字にしてきたことと自分ながら異口同音だと共感を覚えた。
まさに,経験を問わず,「子どもを診る機会のあるすべての医師」に読んで欲しい一書であることを確信した。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。
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