庭に埋めたものは掘り起こさなければならない
壮大な勇気をもって「自分の傷」を見ようとした人の探求の書。
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自閉スペクトラム症により世界に馴染めない感覚をもつ著者。急性骨髄性白血病に罹患するも、病名が告知されなかったことで世界から締め出された感覚に。周囲の期待に応えて残る人生を終える予定だったが、白血病は寛解し、「生き残ってしまった」なかで始まる摂食障害と、繰り返し見る庭の夢。しかし、「もうそのやり方では通用しないよ」と告げに来るものが……。壮大な勇気をもって自分の「傷」を見ようとした人の探求の書。トラウマと回復についての示唆を与えてくれる。
シリーズ | シリーズ ケアをひらく |
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著 | 齋藤 美衣 |
発行 | 2024年10月判型:A5頁:216 |
ISBN | 978-4-260-05766-0 |
定価 | 2,200円 (本体2,000円+税) |
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序文
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この本を読もうとしてくださっているあなたへ
二〇二二年の春のこと。わたしは主治医の勧めでカウンセリングに通い出した。初回、カウンセラーから「なぜカウンセリングに通おうと思ったのですか」と聞かれた。そのときわたしは「合法的な安楽死がないから、仕方なく」と答えた。ひどい答えだと自分でも思った。でもこれが偽りない実感だった。
わたしは毎日やってくる「死にたい」に対峙する気力ももうほとんどなくて、つらくなく痛くなく早く死んでしまいたかったのだ。そのときわたしが一番欲しかったのが、合法的な安楽死だった。今思えば、わたしはぎりぎりでもうどうしたらよいのかわからなかった。
医療につながればわたしの話は病気や障害ということになった。カウンセリングにつながればそれは心の深いところの話になった。それらはもちろんそれぞれにわたしを助けてくれる可能性があったし、実際に助けてくれた(今も助けてくれている)。けれどもどちらも何かが足りない、と感じた。
この本は、なぜわたしに「死にたい」が毎日やってくるのか、その理由を探すために、目的地も見えぬなか歩み出した旅の記録だ。わたしには書くという作業が必要だった。必要というより必然だった。書くことを通してでしか、〈自分〉という未踏の地に足を踏み入れる勇気を保つことはできなかった。
そしてわたしはこの本を、半分はわたし自身のために書いたけれど、もう半分は今この文章を読んでくれているあなたのために書いている。これはわたしの物語だが、同時にあなたの物語でもある。
この本を書くことを通じて、わたしは何度も世界と新しく出会い直した。今もそれは続いている。「世界と出会い直す」ということは、「わたしと出会い直す」ということだ。この本を書きながら、わたしはわたしを何度も見つけ、確かめ、抱きしめた。この作業はわたしのものではあったが、同時にこの本を読んでいるあなたのものでもあると思っている。
どうか、世界と、自分と出会い直すこの旅に、あなたも伴走してもらいたい。今、そう願っている。あなたがいればとても心強いから。もしあなたがかつてのわたしのように、苦しさのなかでどうしたらよいかわからなくて途方に暮れていたとしたら、ぜひわたしと共に旅に出てほしいのだ。その過程で、もしあなたがなんらか「世界と出会い直す」ことができたならば、この記録を残してきた者として、これほどうれしいことはない。
目次
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この本を読もうとしてくださっているあなたへ
I部 世界との接点
1 ありふれた普通の措置入院
2 急性骨髄性白血病の経験
3 生きている実感の薄さと摂食障害
4 自閉スペクトラム症の自覚
II部 穿(うが)ちつづける
1 さみしい
2 死にたい
3 謝る、許す
4 自分を許す
5 時間とは何か
6 触れる
エピローグ
おわりに