傷の声
絡まった糸をほどこうとした人の物語
自傷に関する最高の教科書。現在の精神科医療に不足している視点を教えてくれる。
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本書は複雑性PTSDを生きた女性が、その短き人生を綴った自叙伝である。過酷な家庭環境に育ち、複雑性PTSDを持つ著者が、「死にたい」気持ちがゆえにこれまで歩んできた、ふり幅の大きな人生を描く。なぜ自分を傷つけるのか、という疑問に回答をくれる最高の教科書。傷ついた人に必要なのは、権力や物理的力で抑え込むことではなく、ケアであるべきではないかという気づきとヒントを医療者に与えてくれる。
シリーズ | シリーズ ケアをひらく |
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著 | 齋藤 塔子 |
発行 | 2024年11月判型:A5頁:312 |
ISBN | 978-4-260-05782-0 |
定価 | 2,200円 (本体2,000円+税) |
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- 出版にあたって
- 序文
- 目次
出版にあたって
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本書の出版を前に著者が逝去されるという事態を受け、弊社では、深い悲しみのなか、本書出版の是非について思い悩み続けました。様々なご意見に耳を傾け、本書が社会に与えるインパクト、専門出版社としてなすべき役割について、時間をかけて慎重に検討を続けてまいりました。
「シリーズ ケアをひらく」では当事者の語りを大事にしてまいりました。本書もまた例外ではなく、当事者にしか書くことのできない貴重な内容を伝えています。著者は、長期反復的なトラウマ体験から生じる複雑性PTSDをかかえ、大きな苦しみのなか、自傷をすることによって生をつなげてきたことを綴っておられます。著者は、トラウマに向き合うという決意のもとに本書の執筆を開始されましたが、そこには自らの苦しみの源泉を明らかにし、回復を模索しようという未来に向けての意図もありました。
著者には、精神科の患者に向けられている社会の偏見を払拭したいという思いがありました。現代の精神科医療においては、時に患者を「判断能力がない者」とみなし、コミュニケーションを諦め、個別の状況に配慮することなくまずは物理的に制するといった事態が一部に存在しておりますが、そのことの根幹にも、精神疾患患者への偏見があると著者は感じていたからです。
たとえ理解不能であるかに思えても、患者にはそれぞれ背景や事情があって医療者の前に現れているのであり、その背景や事情に思いを馳せれば、患者に対する視線が違ってくるのではないか―。そうした考えに基づき著者が選択した方法が、ご自分のこれまでの人生を真摯に言葉にし、実名で世に届けるという書き方でした。
私たちは、本書が持つ社会的意義に鑑み、夫である齋藤航貴さんとも相談しつつ、このたび出版を決断するに至りました。本書が、この世を一生懸命に生きた著者の存在が確かにあったことを示す証になるとともに、本書を出版することで、著者の願いが社会に実現する一助になることを強く願っております。
株式会社医学書院
ご遺族の言葉
[解説] 命懸けで書かれた自傷の教科書
松本俊彦 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部・部長)
序文
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《家族への手紙》──この本を手に取ってしまった私の家族へ
お願いがあります。この本を一生読まないでください。好奇心だけで読み始めるのはやめてください。なぜなら、この本を読むとあなたが少なからず傷つくからです。もちろん、私はわざわざあなたを傷つける意図をもって書いたわけではありません。この本に書いてある傷は、私たちが既に持っていたものに過ぎません。ただ、それぞれ独立した道を歩み始めたり、この先幸せになろうと努力したりしている時に、かさぶたを剥がして生々しい傷を見せて、足枷となってしまうのは忍びないのです。
加えて、これは自分勝手な話ですが、私はあなたとの現状の距離感や関係性に満足しています。互いに苦しくて仕方なかった日々から、私は楽になろうとしているところです。この本を読まれると、やっと出来上がった私たちの距離感や関係性が、再び壊れてしまうような気がして怖くてたまらないのです。互いに互いをこれ以上傷つけ合いたくないのです。
それでもなお、です。それでもなお、明るみに出された傷がどんなものであっても、直視するのに耐えうる強さを自分が持っていると確信しているなら、一人の読者としてあなたがこの本を読むことを強制的にやめさせることはできません。もし読むという決断をしてしまった場合は、途中を飛ばすことなく、最後のあとがきまですべてを読んでください。中途半端に読むことで誤解してほしくないからです。
ここでこの本をいったん閉じて考えてみてください。くれぐれも、自分を大切に。私はあなたにこの先幸せな人生を送ってほしいと思っています。
塔子より
目次
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家族への手紙
I部 傷が傷を呼ぶ
第1章 私は身体拘束を生き延びたのか?
第2章 総合病院看護師時代
第3章 病院リタイア
第4章 葛藤の限界点
II部 飢え・渇き・入院
第5章 いろんな病院、いろんな入院仲間
第6章 生きるのが大変
III部 家族曼荼羅
第7章 不安定な母──爆発と優しさ
第8章 私は母の母
第9章 母と話す──支配と服従について
第10章 父との交流
column 家族の呼称
IV部 光を探して
第11章 「助けて」を巡って
第12章 「好き」が言えない
第13章 カウンセリングと通院の日々
V部 違和感と出口
第14章 兄と話す
第15章 最終話──強者の論理
おわりに
[解説] 命懸けで書かれた自傷の教科書(松本俊彦)
本書出版にあたって