訪問看護師による在宅療養生活支援を可視化する
希望実現モデル

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訪問看護師は、在宅療養者や家族の「どのように生活したいか/生きていきたいか」という希望実現に向けて、在宅療養生活を組み立て、支援する。本書は概念モデル「希望実現モデル」を提示し、そのような本人主体の在宅療養生活支援を可視化する。療養しながら生活する人々の希望実現は、個人の自己実現だけでなく、他の多くの人々の希望に道を拓き、社会変革につながっていく。訪問看護実践の意義と可能性をも可視化する一冊。

編著 川村 佐和子
発行 2024年02月判型:A5頁:224
ISBN 978-4-260-05337-2
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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 「希望実現モデル」(ひな形)データ配布のご案内

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本書で用いている「希望実現モデル図」を活用していただくために、ひな形のデータを配布いたします。
下記のリンクよりダウンロードのうえ、ご利用ください。(2024.01.26配信開始)

・希望実現モデル(ひな形)プリントアウト用[PDF・A3推奨・1頁]

・希望実現モデル(ひな形)入力用[PDF・A3推奨・1頁]
・希望実現モデル(ひな形)入力用[Microsoft PowerPoint・A3推奨・1頁]

※    希望実現モデルのご利用に関してご不明な点がございましたら、お問い合わせフォームより「希望実現モデルについて」と明記の上、お問い合わせいただけますと幸いです。

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はじめに──この本を出す経緯(着想)と思い,在宅療養生活支援の可視化の必要性について

 在宅療養者の居宅で看護を提供する「訪問看護」が制度化されてから30年を経過した。現在では,訪問看護事業所も全国で1万カ所を数えるほどに増加し,人工呼吸療法や疼痛管理などを行う在宅療養者や,ターミナル期の在宅療養者も珍しいことではなくなった。居宅に在る療養者に対する看護提供(在宅看護)の発展には目覚ましいものがある。
 訪問看護師や施設看護師など,在宅で看護を提供する看護師は,健康問題を抱え,それに対処しながら生活する人々の最も身近な看護職である。なかでも訪問看護師は,人々がそれぞれの生活を営む場において,それぞれ異なる生活の在り方や環境を尊重して看護を提供していくものである。すなわち,医療施設内において環境条件や目標を限定して提供してきた従来の看護が生み出す価値に加えて,新たな価値観に基づく看護を見いだし,提供している。その新たな価値観とは,在宅療養者本人や家族が持つ「どのように生活したいか」「どのように生きていきたいか」という希望を実現するために在宅療養生活を組み立て,支援していくという在宅療養者主体の価値観である。
 しかしこのような価値観に基づく看護は,それこそが本来的な意味での「在宅療養生活支援」であるにもかかわらず,ボランティア的な無償支援として提供されてきた。それらの看護の実践が可視化されておらず,制度の上で評価する枠組みがなかったことなどがその理由である。
 そこで筆者らは,そのように可視化困難な訪問看護,特に,自宅における在宅療養生活支援の可視化を図りたいという願いを,大胆にも抱くうになった。それはすなわち,在宅療養生活支援を客観視し,今後の看護をさらに科学化して豊かにし,人々にとってより有用なものに創造していきたいという願いである。
 本書はこのような考えを共有する看護師が集まり,6年間余りの討論を経て,執筆したものである。このグループは,在宅において療養する人々やその療養生活に深い関心を持ち,博士論文の課題として取り上げるなど,在宅療養者の生活の質向上のために,長年,研究を継続してきた看護師から成る集団である。

 本書の構成
 自宅に在る在宅療養者に対して提供する訪問看護(在宅療養生活支援)は,看護という枠組みの中にあることは言うまでもない。そこで本書の第1部では,看護そのものの枠組みから可視化を始めることとした。第1章では,看護の法的位置づけを確認し,その中で在宅療養者への看護(在宅療養生活支援)がどのように位置づけられているかを明らかにしている。第2・3章では,在宅療養者への在宅療養生活支援に焦点を絞って,実践を可視化するための基盤となる,訪問看護師の思想的特徴を解説している。
 看護業務はその提供過程と消費過程が同時間帯に起こるため,実態を客観化することは困難である。また,価値評価においても,診療の補助業務では医学的検査結果や症状の改善などの客観的な資料を用いて評価できるものの,それは看護業務の一部でしかない。看護師が目的とする人々の生活の質の改善や,看護師の支援がその改善のためにどのように有効に機能したかということを客観化することにもまた,大きな困難がある。そのため,看護の質向上を図るためには,まず看護提供過程を可視化しなければならないという課題が出てくる。
 そこで第2部では,在宅療養者への看護(在宅療養生活支援)提供過程を可視化するものとして「希望実現モデル」を提示する。第1部第1章で解説したように,看護師の業務は,保健師助産師看護師法の第5条に「療養上の世話又は診療の補助」と規定されている。近年になって,行政は「療養上の世話」を看護が主体的に行う業務として認め,その実態を「療養生活支援」とする解釈を示した(11頁)。この解釈に基づいて,看護の主体的業務を療養上の世話すなわち療養生活支援として把握し,健康問題への対処(診療の補助業務)も含め,在宅療養者の生活の質の向上を目指す支援プロセスをモデルの原型とすることにした。
 看護の質向上を図る上では,評価が必要になる。しかし,わが国における看護研究成果を概観したところ,在宅療養生活の質を測定する方法に関する研究は多くはなく,一つの方法に絞るまでに至っていないのではないかと考えられた。そこで,討論の結果,今回は目標管理的なプロセスを用いることとし,健康課題の安定性を確認したうえで,在宅療養生活支援計画の当初に,在宅療養者が求める療養生活上の希望を支援目標として配置し,その実現に向けて支援計画を立て,希望実現の度合いについて評価するという考え方を採用することとした。そのため本モデルの名称を希望実現モデルとした。
 第3部では,この希望実現モデルを実践に適用する際の具体例として,2人の在宅療養者の場合を示した。さらに,読者がそれぞれの在宅療養者に活用できるよう,本モデルのひな形をデータで配布する(x頁)。ぜひ広くご活用いただければ幸いである。

 希望実現モデルの社会的意義
 2023年2月に,国は「ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿(案)」を提言した。国は,「できる限り住み慣れた地域で,これまでの日常生活に近い環境で暮らし続けたいという国民の想いに応えるためには,(中略)在宅復帰・在宅療養支援等を含む(中略)地域で完結して提供される,地域包括ケアシステムが構築されている必要がある」(下線筆者),「こうしたシステムが構築されていることで,例えば要介護になって在宅を中心に入退院を繰り返し(中略),最後は看取りを要することになっても,生活の質(QOL)を重視しながら,必要な医療・介護を受けることができる」という在り方を描いている。希望実現モデルは,「ときどき入院,ほぼ在宅」を継続する人々の生活の質(QOL)を最後まで重視し,支えるモデルであり,国が描く在り方を具現化しようとするものと考えられる。
 看護師は,特に訪問看護師は生活の中で医療を提供するという職能を持ち,恒常的に医療を必要としつつ「ときどき入院,ほぼ在宅」の生活を営む人々を支えるに適切な職種である。本書がこの特徴を可視化し,住民の目に明らかにする第一歩として位置づけられると幸いである。さらに住民のみならず,複数の看護職や他職種から成る支援チームのメンバーにも在宅療養生活支援を客観的に示すことで,複数の意見を取り入れた計画や協働が容易となり,看護に対する他職種からの助言や協力,評価も得られやすくなり,地域包括ケアシステムに寄与することも期待される。
 希望実現モデルは,在宅療養者が,「その人らしく生きること」を支えるモデル作成の試みである。しかし,「その人らしく」という言葉は極めて抽象的であって,具体的な支援目標とすることには困難が大きい。グループで討論するうちに,一つ一つの細かい日常生活の在り方が蓄積して,「その人らしさ」を構成していくのではないかという結論に至った。つまり,日常的にある,または日常の少し先にある身近な希望「子どもの夕食を作りたい」とか「親の墓参に行きたい」「妻と公園に花見に行きたい」など(具体的に示される支援目標)を汲み取り,その実現を繰り返して,「その人らしい」生活を構築していくと考えてもよいのではないか。訪問看護師は健康課題(病気)があっても,その時々の健康状態を安定させ,悪化を予防しつつ,日常の一つ一つの希望を実現して,在宅療養者の生きていく力を強め,生きることに光を見つけていくことを支援する,前向きな支援者ではないだろうか。
 さらに,疾病が重度化し,障害が重度化している在宅療養者が具体的な希望を実現できることは,在宅療養者自身の喜びであるが,同時にそれを知ったほかの在宅療養者や人々がより高い希望を持つことにつながる。例えば,ALSを持ち,呼吸を人工呼吸器に依存し,重度障害者であった橋本操さんという女性がいた。橋本さんが患者会に出席することで,居合わせた同病者や支援者たち,そして人々は,橋本さんの健康状態であっても,「人工呼吸器につながれた貧しい日々」ではなく,「自由に社会参加する日々」の可能性があることに気づいたのである。そして特に病を持つ当事者は,自身の希望を膨らませたり,その後の生活に豊かさを感じたりするようになったという。また,橋本さんに会うことにって,支援者は現在,提供している支援の質を高めようと工夫し,実現を図ろうと努力するようになった。筆者にとっても,橋本さんの存在が一人一人の希望の実現や支援につながり,その結果が社会を変えていくさまを知る経験となった。このように希望の実現は,目前の一人に対する支援かもしれないが,その個人や社会にとっての意義は大きい。訪問看護師は個人の希望実現だけでなく,その実在が社会の変革の基礎になるように発展させることを期待されている。
 希望実現モデルは,在宅療養者が自身の生活を見つめ,その拡大や充実を確認し,自分らしく生きることの実現のために努力する計画でもある。また,希望実現のためにケアシステムを活用する支援モデルと言うこともできる。このモデル化はいまだ完成したとは言えないが,まず着手することの意義に応じて,ここに公開を考えたところである。これからの人々の生活を豊かにし,訪問看護の発展に寄与できれば幸いである。

 2024年1月
 川村佐和子


*厚生労働省:地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針(総合確保方針).令和5年3月17日一部改正.2023.

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はじめに──この本を出す経緯(着想)と思い,在宅療養生活支援の可視化の必要性について(川村佐和子)

第1部 在宅療養生活支援の可視化の背景
 第1章 在宅療養生活支援の法的位置づけ(酒井美絵子・川村佐和子)
   1 看護業務を規定する法制度
   2 訪問看護師の業務と特徴
   3 看護師の法的責任
 第2章 在宅療養者・家族に対する多面的理解(尾崎章子)
   1 在宅療養者への視座
   2 在宅療養者の家族への視座
   3 相互に影響し合う在宅療養者と家族
   4 在宅療養者と家族のQOLを高める
 第3章 在宅療養生活支援の基盤(秋山 智・中野康子・萩田妙子・原口道子・川村佐和子)
   1 在宅療養者と看護師の信頼関係
   2 訪問看護師の倫理的姿勢
   3 在宅療養支援における意思決定支援

第2部 希望実現モデル
 第1章 希望実現モデルを用いた在宅療養生活支援の可視化(川村佐和子)
   1 希望実現モデルとは何か
   2 希望実現モデルの構造
   3 希望実現モデルの前提条件
   4 希望実現モデルの構造の詳細
   5 在宅療養者の希望を実現する社会的意義
 第2章 在宅療養者の希望を知る(秋山 智)
   1 在宅療養者の「思い」と「希望」
   2 在宅療養者の希望を知るための基盤
   3 どのように在宅療養者の背景や現在の思いを知るか
   4 希望を把握する際の注意点
   5 家族や周囲の人の協力を得る
 第3章 在宅療養生活支援における情報収集とアセスメント(蒔田寛子・尾崎章子・中野康子)
   1 在宅療養生活支援における情報収集とアセスメントの特徴
   2 在宅療養生活支援のための情報収集
   3 収集した情報のアセスメント
 第4章 希望実現モデルにおける計画の変更または終了(川村佐和子)
   1 在宅療養者の健康状態の変化
   2 在宅療養者による変更の提案
   3 在宅療養生活環境の変化
   4 危険の回避
 第5章 希望実現モデルを用いた評価(蒔田寛子・川村佐和子)
   1 在宅療養者からの評価
   2 訪問看護師としての評価
   3 訪問看護事業所としての評価

第3部 希望実現モデルの活用例
 事例1 脳梗塞後に気管切開を受けた70代男性の「花見に行く」という希望を実現する(酒井美絵子・川村佐和子)
 事例2 ALSを持つ40代女性の「帰宅した娘を毎日出迎えたい」という希望を実現する(中山優季・原口道子)

おわりに
索引

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元来のありたい・あるべき訪問看護を文書化・可視化した画期的な書籍
書評者:福井 小紀子(東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科研究科長,在宅・緩和ケア看護学分野教授)

 本書は,日本の訪問看護・在宅看護の第一人者であり,我々にその道を開き,導いてこられた川村佐和子先生が編集・執筆された書籍である。すでにこの段階で,川村先生と同じ志をもつ訪問看護に思いを馳せるそのお仲間が我々読者に何を届けてくださるか,ワクワクしながら読み進めることができる書である。

 本書の「訪問看護師による在宅療養生活支援を可視化する 希望実現モデル」というタイトルは,まさに,地域や利用者から信頼が厚く,質の高い訪問看護を提供できている訪問看護師が,元来のあるべき・めざすべき訪問看護として,在宅療養者を支えるために最も大切にして行っている看護行為を表している。訪問看護は,在宅療養者自身が,どのように生活したいか,どのように生きたいか,という意思や希望を丁寧な対話を通して捉えながら,その意思や希望に沿って支援していく。そのような訪問看護だからこその醍醐味を「希望実現モデル」として,その考え方ならびに具体的な実践が,実例や制度内での解釈や具体的対応例を含めて,丁寧にわかりやすく書かれている。
 訪問看護師は,病棟看護師などよりも長期にわたり,在宅療養者とその家族との関わりが求められるという特徴をもつことから,「診療の補助」的な役割に加えて,「療養上の世話」的な役割がより大きく求められる。このため訪問看護師は,何を思想として,療養者とその家族のどこを大切にして(それは,本書の一番のメッセージである在宅療養者の希望を実現させることである),それを受けてどのように関わっていけばよいかを自律して考えながら実践することが求められる。本書は,その方法を具体的に指南してもらえる内容も書かれた書籍であるため,お勧めする読者対象は,新卒の訪問看護師はもちろんのこと,中堅の訪問看護師が一段高い実践をめざすために,そして,管理者やベテランの訪問看護師が希望を実現する訪問看護を事業所皆で展開していくために,すべての訪問看護師にお勧めできる書籍である。

 現在,訪問看護の事業所数は15000か所(全国訪問看護事業協会HP  2023年5月末時点)を超え,直近5年で約1.4倍と増加している(厚生労働省 訪問看護参考資料 令和5年5月18日)状況である。このように訪問看護事業所数と訪問看護師数が,その社会的ニーズから量的に着実に増えているいまだからこそ,質の確保・向上をめざした訪問看護の提供が一層重要になる。本書は,訪問看護の質を保つために,「希望実現モデル」として実践現場の訪問看護師が何をしたらよいかをつかむことができる書である。この本に書かれた実践が,より多くの訪問看護師によって繰り広げられていくと,日本の訪問看護・在宅医療・在宅介護はより希望に満ちたものとなることを,本書を読んで確信している。
 ぜひ1人でも多くの訪問看護実践家に本書が届き,より質の高い実践の展開に向けて本書が拠り所となることを期待する。

(「看護研究」 Vol.57 No.3 掲載)


訪問看護実践の意義と可能性をも可視化した1冊
書評者:習田 明裕(東京都立大学大学院人間健康科学研究科看護科学域 教授)

 本書で紹介する「希望実現モデル」は,訪問看護師が在宅療養者や家族の「どのように生活したいか」,「どのように生きていきたいか」という希望の実現に向けて,在宅療養生活を組み立て,支援する方法を可視化している。療養しながら生活する人々の希望の実現が,個人の自己実現だけでなく,家族や友人などの多くの人々の希望に道を拓き,社会変革につながっていく重要な要素であることも示唆しており,訪問看護実践の意義と可能性をも可視化したモデルと言える。
 編著者である川村佐和子氏は私の大学の恩師であり,出会った約35年前から難病看護,そして在宅看護の実践者であり,教育・研究者の第一人者である。本書はまさに川村氏の訪問看護に対する思いや願いの集大成の書籍と言える。

 この『希望実現モデル』は,患者やその家族の思いをできるだけ実現すべきといった夢物語的な啓発書ではない。まず,療養生活支援を,「希望実現支援」と「基盤となる療養生活支援」に分類し,心理学のマズローの欲求5段階説に照らし合わせて,各支援がどのような心理的欲求を対象としているかを明確にしている。
 川村氏によれば,このモデルは,療養者の希望を支援目標として設定し,その実現に向けた計画を立案し,希望の実現の度合いを評価するプロセスであると述べている。つまり,看護支援のプロセスと内容をより可視化し,理解しやすくするための重要な概念を提示しており,これまで十分に可視化されていなかった看護支援の内容と提供過程をモデルとして提示している。
 その中で,「基盤となる療養生活支援」は,医師の直接の指示を必要としない看護師の専門的かつ自主的な業務であることを強調している点も川村氏の一貫した立ち位置である。また,在宅療養者の希望の実現は,医療的なケアだけでなく,心理的・社会的な側面も含めて総合的に考える必要性を述べ,在宅療養者と家族とのコミュニケーションを通じて,彼らの希望やニーズを理解し,それを実現するための具体的なステップを踏むことを強調している。

 本書は,基本的に訪問看護師の在宅療養生活支援における「希望実現モデル」を提言し,その指南書であることは言うまでもない。
 一方,一般病院という施設看護においてもその多様性が言われている昨今,従来のように身体の回復をゴールにした一義的な目的では不十分である。さらに,地域包括支援という療養の場が地域・在宅へとシフトする中,たとえ一般病院という施設内に勤める看護師であっても,ケア対象者が在宅に戻ったことを念頭に置きながら施設内でのケアを展開する必要があり,その前提となる患者やその家族の価値観を尊重する「希望実現モデル」は,一般病院に勤務する看護師にも活用できるものと考える。
 また,看護基礎教育を学んでいく上で,ケア対象者を従来のような病いを治す「患者」という対象理解ではなく,病いを持ちながらも生きていく(希望を実現していく)「生活者」という視点で理解していくという点においては,看護学生にもぜひ読んでいただきたい名著である。
 私自身,この本から看護に求められるケア対象者の希望の実現という大きな責任・責務を感じる一方,それに関われることの看護職としてのやりがいと醍醐味を改めて感じることができた。

(「看護管理」 Vol.34 No.7 掲載)


「問題に」ではなく「希望に」取り組む
書評者:山内 豊明(放送大学大学院教授/名古屋大学名誉教授)

 ヒトが「生きている」ためには、pHを7.40に維持しなければならない。その上で、人間が「生きていく」ためにはどうあらねばならないのであろうか。それについては絶対的な画一的目標が前提として定められているわけではなく、こうありたいという各自の「希望」が目指すべきものであろう。この希望の実現にどう貢献するかこそが、生命を護り、生活を支える医療職のレゾンデートル(存在理由)であり、それを自律して行う任務と責任があることが、本書の第1部に明確に示されている。
 クライアントの希望の確認、現状把握、現状から希望への行程の設計と推進、障壁の低減、場合によっては目標とする希望についての善良なる現実的な再調整、これらが希望の実現に向けての作用機序と考える。これは太古の昔から人間の暮らしと共にあったケアという体験からも経験していたものであろう。良質な体験の結晶化がいわゆる経験知であり、それは経験的に使っているがなかなか言葉で説明できない知識である。それを形式知として可視化することは容易ではないが、これを可視化し、モデルとして体系化したものが第2部である。
 形式知として可視化されたものであっても、そもそもが高度に結晶化した経験知で、かなり抽象化されている。それを具象化して現実場面に照合するのは難しいこともあるが、それについて第3部で手ほどきをしている。

 本書のタイトルの冒頭には「訪問看護師による」「在宅療養生活支援を」とあるが、このモデルは必ずしも「訪問看護師」「在宅療養生活」に限定したものでもないと考えたい。暮らす際に、あえてよそ様の手を煩わせたいと思っている者はいないであろう。できることならばマイ・スペースで、マイ・ペースで過ごしたいものである。どうしても他人の目や手が密に必要な際に致し方なく一時的に利用せざるを得ないのが医療機関であり、その先には暮らしが待っているのである。医療ケアにおいては、展開する場も関わる者も連続的であり、たとえクライアント自身が医療機関で過ごす場面であっても、この希望実現モデルは作用していなければならないことは明白であろう。
 本書は、経験が豊かな医療職にとっては自らの経験知を形式知に相照らすことで、より洗練されたケアへと発展させる一助となろう。まだ経験が豊富ではない者にとっては、経験知のエキスを形式知を通して受け継ぐことができるであろう。看護職に限らず全ての医療職にとって根底に共有すべきモデルであり、必読の書として強くお勧めしたい。

(「看護教育」 Vol.65 No.3 掲載)

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