地域医療構想のデータをどう活用するか
地域医療構想のデータを分析せず施設計画を立てることは羅針盤なしで航海するに等しい
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地域医療構想は、超高齢社会に対応するために、地域ごとの実態に即した医療提供体制を構築する観点から策定された。2025年を目前に控え、各病院はどの方向へ舵を切るのか迫られている。本書は、地区診断に基づく病院の将来像を見据えて施設計画を立てた先進事例の紹介を交えながら、地域の医療ニーズにどう応えるかを判断するために必要となるデータの考え方・活用の仕方を解説する。
著 | 松田 晋哉 |
---|---|
発行 | 2020年06月判型:B5頁:144 |
ISBN | 978-4-260-04252-9 |
定価 | 3,850円 (本体3,500円+税) |
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- 目次
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序文
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まえがき
地域医療構想の導入はわが国の医療政策の在り方の議論に大きな波紋をもたらしている.地域医療構想では,構想区域(多くは二次医療圏)ごとに機能別病床数の推計値が示され,それを参照値としながら各地域のニーズに合った医療提供体制を,当該地域の医療機関の自主的な判断を前提に構築することが求められる.ここで問題になるのが,機能別病床数の推計値の取り扱いである.筆者は,この推計値の基礎的検討を担当した.これまでもいろいろな機会で強調しているように,推計は全国一律の仮定のもとに行われたものであり,その値を金科玉条のごとく絶対視することは適切ではない.本書であらためて説明するように,一般病床については2013年度の各地域の傷病別・性・年齢階級別入院受療率が将来も続くことを前提に推計を行っている.今後,医療技術の進歩や情報公開による医療内容の平準化が進むことで全体として在院日数が減少する可能性を考慮すれば,一般病床全体の推計値は過大になっていると考えてよい.また,病床数推計の仮定では高度急性期・急性期の稼働率を70%台にしているが,病床稼働率を採算レベルで考えたとき,明らかにこの値は低すぎるものであり,その意味でも一般病床全体の病床数は過剰に推計されている.今後,一般病床については,それを必要とする患者の減少や診療報酬における評価,医師の働き方改革と専門医制度の影響を受けて,各地域の提供体制に応じて一定レベルに収束していくだろう(もちろん,それが適切なレベルであるかどうかは別途検討が必要である).
他方,慢性期に関しては「医療区分1の70%を入院以外でみる」「入院受療率の地域格差を減少する」という仮定の実現可能性について,各地域で慎重に検討されなければならない.本書で説明するように,そもそも在宅医療を支える診療所や介護事業者が不足している地域では,療養病床の機能を減らすことは難しい.そうした地域のほとんどは少子高齢化が進んでおり,これから在宅介護のサービス量を増やすことはおろか維持することも困難な状況になっていく.他方,東京都心部のように現時点で療養病床が不足している地域では,入院以外の慢性期ケアの提供量を増やしていくことが求められる.慢性期のケアを行う社会経済的条件には大きな地域差があり,それゆえに慢性期の在り方こそ地域医療構想調整会議で十分に検討されなければならない.
しかしながら,筆者の聞き及ぶところでは,急性期医療をめぐる公的病院と民間病院のヘゲモニー争いのようなことが生じている会議,あるいはそれを回避するための実のない議論に終始している会議が少なくないという.日本医師会は,地域医療構想の目的を「地域の実情に応じた課題抽出や実現に向けた施策を住民を含めた幅広い関係者で検討し,合意をしていくための過程を想定し,さらには各医療機関の自主的な取組や医療機関相互の協議が促進され,地域医療全体を俯瞰した形で実現していくもの」としたうえで,その意義を「各医療機関は,地域における自院内の病床機能をデータにもとづいて客観的に把握し,自院の将来像を描くことができる」1)としている.筆者も,それが本来の目的であると考える.そもそも国レベルでNational databaseなどのビッグデータの活用が進んだのは,社会保障国民会議における永井良三委員の以下の発言が一つの契機になっている.「(日本は)市場原理でも社会主義的でもない,そのために独自の制御機構が必要であるということがまず共通認識として持たれるべきだと思います.(中略)私の提案は,独自の制御機構として日本の医療の現状,必要性,ニーズ,そうしたものをリアルタイムにデータとして集積する必要があるということであります.(以下略)」2)
以上のことを踏まえれば,各地域で将来のあるべき医療提供体制を構築するための議論においてイニシアティブをとるのは,データの意味するところを現場感覚を踏まえて理解できる各地域の医療関係者が適切である.上意下達を原則とする行政組織の場合,いったん数字に示されたものがきちんと理解されずに現場に下りてしまうと,現状にそぐわないプログラムになってしまう可能性がある.それは行政側としても本意ではないだろう.地域医療構想で示されるデータは医療関係者以外には解釈が難しい部分が少なくない.この問題を解決するために導入されたのが地域医療構想アドバイザー制度だが,アドバイザーがその任務を全うするためにも,現場の医療関係者の理解が前提となる.もちろんこの職責を担う者は中立的な立場であるべきなのは言うまでもない.
他方,地域医療構想の議論に際しては,国の社会保障財政の厳しさも前提条件の一つとして考慮されなければならない.提供体制を適正化することで支出の適正化につながるのであれば,制度の持続可能性を担保するために医療提供側もそれに協力することが必要だろう.しかしながら,これは筆者の私見ではあるが,国民が今のレベルの医療サービスを望むのであれば,明らかに医療保険の収入が足りない.わが国と同様の社会保険制度に基づいて医療を行っているフランス,ドイツ,オランダなどと比較すると,わが国は国民が負担する保険料や税金が低い一方で,給付範囲は広くなっている.先に挙げた国では保険財政の収支相等原則が維持されてきたため,医療保険の不足分を赤字国債で補填するというようなことはしていない.必要な医療費は原則,国民の保険料および税負担で賄うことが国民の合意事項になっている.こうした論点についてはすでに拙著3)で説明しているので,関心のある方は参照していただければと思う.
超高齢社会のわが国において,医療介護提供体制を質の面でも財政の面でも持続可能なものにしていくためには,客観的なデータを国民全体で共有し,各関係者にさまざまな不満は残るとしても,総体として「負担を分かち合うこと」に合意してもらうしかない.
本書は以上のような問題意識に基づいて,地域医療構想の基礎となった病床機能別病床数の推計を行った研究者の責任として,あらためてデータの考え方・活用の仕方について解説を試みたものである.
ただし,地域医療構想に関連して国が公開しているデータを分析し,その結果を地区診断や病院の施設計画に反映させることは必ずしも容易な作業ではない.また,その分析結果やそこから導き出される方針は,それがたとえ妥当なものであったとしても,現場で実際の患者の治療にあたっている医療職から納得が得られるとは限らない.視点の時間的スコープが異なるからである.地域レベルであるにせよ,施設レベルであるにせよ,マネジメントの担当者はデータ分析に基づいた10年単位の中期的なシナリオを複数持たなければならない.地域医療構想に関連して作成されている公開情報や公開ツールを用いて,自施設のある地域の状況について本書の記述に従って分析していただければ,おおむね実用に耐えうる地区診断と施設計画の方針作りができると思う.もちろん,その作業は簡単なものではないだろう.しかしながら,需要構造把握のための地区診断という作業抜きで自施設の計画を立てることはできない.羅針盤なしで荒海に船を出すようなものである.ぜひ本書で示したデータ分析にチャレンジしていただきたいと思う.
なお,本書の記述内容の一切は著者の責に帰するものであり,筆者の関係する厚生労働省や地方自治体などの委員会の見解とは独立しているものであることを最初にお断りしておく.
2020年3月 松田 晋哉
文献
1)日本医師会総合政策研究機構:地域医療構想の理解のために.日医総研ワーキングペーパー
No.341(2015年5月15日)
2)第9回 社会保障制度改革国民会議 議事録:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/dai9/gijiroku9.pdf
3)松田晋哉:欧州医療制度改革から何を学ぶか──超高齢社会日本への示唆.勁草書房,2017
地域医療構想の導入はわが国の医療政策の在り方の議論に大きな波紋をもたらしている.地域医療構想では,構想区域(多くは二次医療圏)ごとに機能別病床数の推計値が示され,それを参照値としながら各地域のニーズに合った医療提供体制を,当該地域の医療機関の自主的な判断を前提に構築することが求められる.ここで問題になるのが,機能別病床数の推計値の取り扱いである.筆者は,この推計値の基礎的検討を担当した.これまでもいろいろな機会で強調しているように,推計は全国一律の仮定のもとに行われたものであり,その値を金科玉条のごとく絶対視することは適切ではない.本書であらためて説明するように,一般病床については2013年度の各地域の傷病別・性・年齢階級別入院受療率が将来も続くことを前提に推計を行っている.今後,医療技術の進歩や情報公開による医療内容の平準化が進むことで全体として在院日数が減少する可能性を考慮すれば,一般病床全体の推計値は過大になっていると考えてよい.また,病床数推計の仮定では高度急性期・急性期の稼働率を70%台にしているが,病床稼働率を採算レベルで考えたとき,明らかにこの値は低すぎるものであり,その意味でも一般病床全体の病床数は過剰に推計されている.今後,一般病床については,それを必要とする患者の減少や診療報酬における評価,医師の働き方改革と専門医制度の影響を受けて,各地域の提供体制に応じて一定レベルに収束していくだろう(もちろん,それが適切なレベルであるかどうかは別途検討が必要である).
他方,慢性期に関しては「医療区分1の70%を入院以外でみる」「入院受療率の地域格差を減少する」という仮定の実現可能性について,各地域で慎重に検討されなければならない.本書で説明するように,そもそも在宅医療を支える診療所や介護事業者が不足している地域では,療養病床の機能を減らすことは難しい.そうした地域のほとんどは少子高齢化が進んでおり,これから在宅介護のサービス量を増やすことはおろか維持することも困難な状況になっていく.他方,東京都心部のように現時点で療養病床が不足している地域では,入院以外の慢性期ケアの提供量を増やしていくことが求められる.慢性期のケアを行う社会経済的条件には大きな地域差があり,それゆえに慢性期の在り方こそ地域医療構想調整会議で十分に検討されなければならない.
しかしながら,筆者の聞き及ぶところでは,急性期医療をめぐる公的病院と民間病院のヘゲモニー争いのようなことが生じている会議,あるいはそれを回避するための実のない議論に終始している会議が少なくないという.日本医師会は,地域医療構想の目的を「地域の実情に応じた課題抽出や実現に向けた施策を住民を含めた幅広い関係者で検討し,合意をしていくための過程を想定し,さらには各医療機関の自主的な取組や医療機関相互の協議が促進され,地域医療全体を俯瞰した形で実現していくもの」としたうえで,その意義を「各医療機関は,地域における自院内の病床機能をデータにもとづいて客観的に把握し,自院の将来像を描くことができる」1)としている.筆者も,それが本来の目的であると考える.そもそも国レベルでNational databaseなどのビッグデータの活用が進んだのは,社会保障国民会議における永井良三委員の以下の発言が一つの契機になっている.「(日本は)市場原理でも社会主義的でもない,そのために独自の制御機構が必要であるということがまず共通認識として持たれるべきだと思います.(中略)私の提案は,独自の制御機構として日本の医療の現状,必要性,ニーズ,そうしたものをリアルタイムにデータとして集積する必要があるということであります.(以下略)」2)
以上のことを踏まえれば,各地域で将来のあるべき医療提供体制を構築するための議論においてイニシアティブをとるのは,データの意味するところを現場感覚を踏まえて理解できる各地域の医療関係者が適切である.上意下達を原則とする行政組織の場合,いったん数字に示されたものがきちんと理解されずに現場に下りてしまうと,現状にそぐわないプログラムになってしまう可能性がある.それは行政側としても本意ではないだろう.地域医療構想で示されるデータは医療関係者以外には解釈が難しい部分が少なくない.この問題を解決するために導入されたのが地域医療構想アドバイザー制度だが,アドバイザーがその任務を全うするためにも,現場の医療関係者の理解が前提となる.もちろんこの職責を担う者は中立的な立場であるべきなのは言うまでもない.
他方,地域医療構想の議論に際しては,国の社会保障財政の厳しさも前提条件の一つとして考慮されなければならない.提供体制を適正化することで支出の適正化につながるのであれば,制度の持続可能性を担保するために医療提供側もそれに協力することが必要だろう.しかしながら,これは筆者の私見ではあるが,国民が今のレベルの医療サービスを望むのであれば,明らかに医療保険の収入が足りない.わが国と同様の社会保険制度に基づいて医療を行っているフランス,ドイツ,オランダなどと比較すると,わが国は国民が負担する保険料や税金が低い一方で,給付範囲は広くなっている.先に挙げた国では保険財政の収支相等原則が維持されてきたため,医療保険の不足分を赤字国債で補填するというようなことはしていない.必要な医療費は原則,国民の保険料および税負担で賄うことが国民の合意事項になっている.こうした論点についてはすでに拙著3)で説明しているので,関心のある方は参照していただければと思う.
超高齢社会のわが国において,医療介護提供体制を質の面でも財政の面でも持続可能なものにしていくためには,客観的なデータを国民全体で共有し,各関係者にさまざまな不満は残るとしても,総体として「負担を分かち合うこと」に合意してもらうしかない.
本書は以上のような問題意識に基づいて,地域医療構想の基礎となった病床機能別病床数の推計を行った研究者の責任として,あらためてデータの考え方・活用の仕方について解説を試みたものである.
ただし,地域医療構想に関連して国が公開しているデータを分析し,その結果を地区診断や病院の施設計画に反映させることは必ずしも容易な作業ではない.また,その分析結果やそこから導き出される方針は,それがたとえ妥当なものであったとしても,現場で実際の患者の治療にあたっている医療職から納得が得られるとは限らない.視点の時間的スコープが異なるからである.地域レベルであるにせよ,施設レベルであるにせよ,マネジメントの担当者はデータ分析に基づいた10年単位の中期的なシナリオを複数持たなければならない.地域医療構想に関連して作成されている公開情報や公開ツールを用いて,自施設のある地域の状況について本書の記述に従って分析していただければ,おおむね実用に耐えうる地区診断と施設計画の方針作りができると思う.もちろん,その作業は簡単なものではないだろう.しかしながら,需要構造把握のための地区診断という作業抜きで自施設の計画を立てることはできない.羅針盤なしで荒海に船を出すようなものである.ぜひ本書で示したデータ分析にチャレンジしていただきたいと思う.
なお,本書の記述内容の一切は著者の責に帰するものであり,筆者の関係する厚生労働省や地方自治体などの委員会の見解とは独立しているものであることを最初にお断りしておく.
2020年3月 松田 晋哉
文献
1)日本医師会総合政策研究機構:地域医療構想の理解のために.日医総研ワーキングペーパー
No.341(2015年5月15日)
2)第9回 社会保障制度改革国民会議 議事録:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/dai9/gijiroku9.pdf
3)松田晋哉:欧州医療制度改革から何を学ぶか──超高齢社会日本への示唆.勁草書房,2017
目次
開く
まえがき
第I章 地域医療構想の考え方
1.地域医療構想導入の経緯
2.地域医療構想の意義
3.コミュニケーションの重要性
1)メディアや国民に誤解されない情報提供
2)データに基づく冷静な議論と丁寧な説明
4.地域医療構想における病床機能別病床数推計の考え方
1)病床機能別病床数の推計方法
2)地域医療構想の策定プロセス
3)地域医療構想調整会議
4)都道府県知事による措置
第II章 厚生労働省の諸施策と地域医療構想
1.平成30年度診療報酬制度改定と地域医療構想
2.働き方改革・専門医制度と地域医療構想
1)フランスにおける医師の働き方改革
2)わが国における医師の働き方改革の議論
3)専門医制度との関係
4)若手医師の意識調査の必要性と国民への啓発
第III章 地域医療構想におけるデータ分析の考え方
1.地区診断のためのデータ分析の視点
1)地域の概況を検討するポイント
2)救急について検討するポイント
3)脳血管障害について検討するポイント
4)心疾患について検討するポイント
5)がん診療について検討するポイント
6)小児・周産期医療について検討するポイント
7)在宅医療について検討するポイント
8)肺炎について検討するポイント
9)骨折について検討するポイント
10)入院医療の提供状況を検討するポイント
11)構想区域の病床の機能分化・連携の課題と施策の検討
2.データに基づく地域医療構想の議論の進め方
1)DPCデータ
2)NDBデータ
3)消防庁データ
4)年齢調整標準化レセプト出現比(SCR)
5)病床機能別医療需要
6)人口の将来予測
7)傷病別入院患者数の推移の推計
8)外来医療計画
9)定量基準の導入
10)あるべき地域医療体制に関する概念図の作成
3.急性期後の医療提供体制を考える
1)SCRを用いた4地域の比較分析
2)東京都区東部医療圏(大都市部の例)
3)前橋医療圏(地方中核都市の例)
4)湯沢・雄勝医療圏(中山間地域の例1)
5)雲南医療圏(中山間地域の例2)
6)増大する慢性期の患者をどう受け止めるか
4.医療計画および地域医療構想の検討事例(福岡県京築医療圏をモデルとして)
1)医療資源の状況
2)DPCデータを用いた急性期入院医療の提供体制の把握
3)NDBを用いた医療圏内患者の受療圏の把握および地域医療指標の評価
4)地理情報システム(GIS)による分析
5)隣接医療圏のデータとの連結分析(悪性腫瘍を例として)
6)SCRの検討
7)介護保険関連の分析
8)人口学的分析
9)病床機能報告データを用いた分析
10)DPC研究班から提供されるデータの活用
11)領域ごとの自医療圏における医療提供体制の評価と課題抽出
12)地区診断のまとめ
コラム ライフコースアプローチ
第IV章 地域医療構想を踏まえた施設計画の考え方
1.仮想例(I病院)の概要
2.DPC公開データをもとに急性期医療における自施設の位置づけを検討する
3.病床機能報告のデータをもとに自施設の地域における位置づけを検討する
4.医療職の確保可能性の分析
5.今後の病床機能の選択
6.仮想例(I病院)の施設計画の実効性
第V章 機能選択および病床転換の事例
1.地域医療連携推進法人の事例:日本海ヘルスケアネット
2.公立病院と民間病院の統合事例:加古川中央市民病院
3.病棟のサービス付き高齢者向け住宅への転換事例:奈井江町立国民健康保険病院
4.一般病棟の地域包括ケア病棟への転換事例:起生会・大原病院
5.介護療養病床の介護医療院への転換事例:博愛会・宇部記念病院
6.都市部の医療・介護・福祉ケアミックス事例:豊生会・東苗穂病院
7.中山間地域の医療・介護・福祉ケアミックス事例:陽正会 寺岡記念病院
8.医療・介護・障碍児(者)福祉の複合化事例:大誠会 内田病院
第VI章 日本医療の近未来図
1.人口構造変化の影響を冷静に考える
2.急性期後の医療・介護提供体制の重要性を考える:ケアミックスの時代へ
付録 病床機能報告データを活用するための分析例
あとがき
索引
第I章 地域医療構想の考え方
1.地域医療構想導入の経緯
2.地域医療構想の意義
3.コミュニケーションの重要性
1)メディアや国民に誤解されない情報提供
2)データに基づく冷静な議論と丁寧な説明
4.地域医療構想における病床機能別病床数推計の考え方
1)病床機能別病床数の推計方法
2)地域医療構想の策定プロセス
3)地域医療構想調整会議
4)都道府県知事による措置
第II章 厚生労働省の諸施策と地域医療構想
1.平成30年度診療報酬制度改定と地域医療構想
2.働き方改革・専門医制度と地域医療構想
1)フランスにおける医師の働き方改革
2)わが国における医師の働き方改革の議論
3)専門医制度との関係
4)若手医師の意識調査の必要性と国民への啓発
第III章 地域医療構想におけるデータ分析の考え方
1.地区診断のためのデータ分析の視点
1)地域の概況を検討するポイント
2)救急について検討するポイント
3)脳血管障害について検討するポイント
4)心疾患について検討するポイント
5)がん診療について検討するポイント
6)小児・周産期医療について検討するポイント
7)在宅医療について検討するポイント
8)肺炎について検討するポイント
9)骨折について検討するポイント
10)入院医療の提供状況を検討するポイント
11)構想区域の病床の機能分化・連携の課題と施策の検討
2.データに基づく地域医療構想の議論の進め方
1)DPCデータ
2)NDBデータ
3)消防庁データ
4)年齢調整標準化レセプト出現比(SCR)
5)病床機能別医療需要
6)人口の将来予測
7)傷病別入院患者数の推移の推計
8)外来医療計画
9)定量基準の導入
10)あるべき地域医療体制に関する概念図の作成
3.急性期後の医療提供体制を考える
1)SCRを用いた4地域の比較分析
2)東京都区東部医療圏(大都市部の例)
3)前橋医療圏(地方中核都市の例)
4)湯沢・雄勝医療圏(中山間地域の例1)
5)雲南医療圏(中山間地域の例2)
6)増大する慢性期の患者をどう受け止めるか
4.医療計画および地域医療構想の検討事例(福岡県京築医療圏をモデルとして)
1)医療資源の状況
2)DPCデータを用いた急性期入院医療の提供体制の把握
3)NDBを用いた医療圏内患者の受療圏の把握および地域医療指標の評価
4)地理情報システム(GIS)による分析
5)隣接医療圏のデータとの連結分析(悪性腫瘍を例として)
6)SCRの検討
7)介護保険関連の分析
8)人口学的分析
9)病床機能報告データを用いた分析
10)DPC研究班から提供されるデータの活用
11)領域ごとの自医療圏における医療提供体制の評価と課題抽出
12)地区診断のまとめ
コラム ライフコースアプローチ
第IV章 地域医療構想を踏まえた施設計画の考え方
1.仮想例(I病院)の概要
2.DPC公開データをもとに急性期医療における自施設の位置づけを検討する
3.病床機能報告のデータをもとに自施設の地域における位置づけを検討する
4.医療職の確保可能性の分析
5.今後の病床機能の選択
6.仮想例(I病院)の施設計画の実効性
第V章 機能選択および病床転換の事例
1.地域医療連携推進法人の事例:日本海ヘルスケアネット
2.公立病院と民間病院の統合事例:加古川中央市民病院
3.病棟のサービス付き高齢者向け住宅への転換事例:奈井江町立国民健康保険病院
4.一般病棟の地域包括ケア病棟への転換事例:起生会・大原病院
5.介護療養病床の介護医療院への転換事例:博愛会・宇部記念病院
6.都市部の医療・介護・福祉ケアミックス事例:豊生会・東苗穂病院
7.中山間地域の医療・介護・福祉ケアミックス事例:陽正会 寺岡記念病院
8.医療・介護・障碍児(者)福祉の複合化事例:大誠会 内田病院
第VI章 日本医療の近未来図
1.人口構造変化の影響を冷静に考える
2.急性期後の医療・介護提供体制の重要性を考える:ケアミックスの時代へ
付録 病床機能報告データを活用するための分析例
あとがき
索引
書評
開く
量的分析と質的分析から施設計画を考えるための必読書
書評者: 二木 立 (日本福祉大名誉教授)
本書は,医師・医療関係者が,日本の医療改革の柱になっている「地域医療構想」について正確に理解し,公開されているデータと自院のデータを実際に用いて,自院独自の施設計画・経営計画を立てるための必読書です。
全体は以下の6章構成です。第I章「地域医療構想の考え方」,第II章「厚生労働省の諸施策と地域医療構想」,第III章「地域医療構想におけるデータ分析の考え方」,第IV章「地域医療構想を踏まえた施設計画の考え方」,第V章「機能選択および病床転換の事例」,第VI章「日本医療の近未来図」。
本書の魅力は3つあります。第1は,地域医療構想の中身を,歴史的経過を踏まえて正確に理解できることです(主として第I,II章)。地域医療構想や「必要病床数」については,今でもさまざまな誤解や混乱がありますが,松田晋哉氏は,「医療区域」ごとの「必要病床数」を推計する計算式を開発した方であり,その記述は正確です。
第2の魅力は「データ分析」(量的分析)だけでなく,第V章で,困難な条件の中で機能選択または病床転換を断行した8事例について,現地調査を踏まえた「質的分析」も行っていることです。両者を統合した「混合研究法」により,地域医療構想を立体的に把握できます。私は,8事例のうち,6事例が広義の「保健・医療・福祉複合体」であることに注目しました。
第3の魅力は,第III,IV章を丁寧に読めば,自院の施設・経営計画を作成できることです。ここはやや歯ごたえがありますが,読者の多くは「理系人間」と思われるので,じっくり読み込み,併せて厚生労働省の最新文書も読めば,得るものは大きいと保証します。
私が最も感銘を受けたのは,松田氏の研究者としての誠実な姿勢です。特に「あとがき」(p.131)に書かれている次の記述には大いに共感しました。「地域によってはニーズの縮小が急速に進んでしまい,まさに撤退戦をいかに戦うかというような状況になっているところもある。そうした地域で頑張っている医療・介護の方々に,その場しのぎのような楽観的助言をすることはできない。(中略)研究者として,その場しのぎの軽々なことは言えないのである。事実を正しく伝えることが研究者の良心であると考える」。
もう一つ共感したのは,「あとがき」の最後の「新型コロナウイルス感染症と地域医療計画との関係」についての記述,特に「今回の新型コロナウイルス感染症の流行を契機として,地域医療計画,地域医療構想の本来の意義について,安全保障の点からも議論が深まることを期待したい」です(p.132)。この点は,できるだけ早く『病院』誌などで論じ,それを本書の「増補改訂版」に加えていただきたいと思いました。
地域医療の未来予想図
書評者: 仲井 培雄 (医療法人社団和楽仁芳珠記念病院理事長)
本書は地域医療構想の基礎データ策定に携わられた松田晋哉先生の著書である。2015年10月に地域医療構想の意義や歴史的背景等を記した『地域医療構想をどう策定するか』(医学書院)を出版されて5年が経つ。この間に社会医学研究の新知見や先行事例の経験値を集積されて,今一度「このツールやデータはこう活用していただきたい」という思いが続編である本書に込められている。
地域医療構想は,2025年をめどに医療提供の適正化による効率的な医療提供体制をめざしている。「地域医療構想」と「医師の働き方改革」,「医師偏在対策」を三位一体とした改革や「診療報酬改定」,「地域包括ケアシステムの構築」等と共に推進される。しかし,2019年9月26日に病床機能の見直しが必要とされた424の公立・公的病院が公開されると,将来の社会保障制度の議論よりも地域とのコミュニケーションの重要性が浮き彫りになった。どのような「まちづくり」をするかという基本構想が,地域医療計画や地域医療構想に反映されない限り,地域住民からの理解は得にくい。
これに対して松田先生は,データに基づく冷静な議論と丁寧な説明が重要だと説いている。地域医療構想策定の要である病床機能別病床数推計の前提条件を理解し,人口変化や医療施設・医療職の状況に鑑みて,地域医療アドバイザーと共に地域概況分析を行うことを薦めている。使用される各種データやツールには,DPCやNDB等に加えて年齢調整標準化レセプト出現比(SCR),地域別人口変化分析ツール(AJAPA)等がそろっている。これらを駆使した急性期・回復期の定量基準の導入,慢性期必要病床数と外来医療計画等のアイデアが盛り込まれており,424病院をはじめ全国の構想区域にエールを送られている。
日本は爆発的に高齢者が増える大都市部と,高齢人口は維持・減少して支える人口が減少する地域に大別される。松田先生は,いずれにおいても軽症急性期・急性期後の医療に加え在宅医療も支えられる地域包括ケア病棟と,同病棟を擁する急性期あるいは慢性期ケアミックス病院の活用を期待され,総合診療医や看護師特定行為研修修了看護師の活躍を予想されている。そして,各地域の先進事例や地域課題に真摯に取り組んでいる病院を訪問されて,社会的包摂を礎とする地域共生社会を見据えた人づくり・まちづくりが重要だと結論づけている。本書は構想区域内の各施設の計画立案にも随分と役立つであろう。
松田先生の夢は,超高齢社会に対応した地域包括ケア体制の創出において日本がアジア諸国のモデルとなることである。その第一歩として,コロナの時代にこそ必要な地域住民とつくる地域医療の未来予想図に,読者の皆さまと思いをはせたい。
データ分析は自院の将来構想を描くために必要不可欠
書評者: 望月 泉 (八幡平市病院事業管理者)
急速な少子高齢化の進展に伴い,医療介護需要の増大と疾病構造の変化が予測される2025年に向けて,構想区域ごとに協議の場(地域医療構想調整会議)で話し合い,将来の必要病床数や在宅医療等の需要を推計し,将来のあるべき医療提供体制の構築に取り組んでいく必要がある。同時に効率的かつ質の高い医療提供体制の確保の必要性が求められ,高齢化を見据えた,将来のめざすべき医療提供体制を実現していく上で,限られた医療資源の基では,病院・病床ごとに機能を分け,連携することが効率的であると考えられてきた。著者の松田晋哉氏は産業医科大学医学部公衆衛生学教室教授で社会医学者である。日本における医療制度改革分野でのオピニオンリーダーであり,地域医療構想における構想区域ごとに示される機能別病床数の推計値の基礎的研究も担当されてきた。
本書は6章で構成されている。第I章は「地域医療構想の考え方」で,地域医療構想導入の経緯・意義,病床機能別病床数推計の考え方と続き,今までぼんやりとしていた地域医療構想についてあらためて頭が整理される。第II章は「厚生労働省の諸施策と地域医療構想」で働き方改革,専門医制度と地域医療構想のかかわりについてわかりやすく述べている。第III章は「地域医療構想におけるデータ分析の考え方」で本書の本丸となる。地域医療構想に関連して作成されている公開情報や公開ツールを用いて,自施設のある地域の状況について本書の記述に従って分析することが可能になると同時に,需要構造を把握し,自施設の計画を立てることができるようになる。一般臨床医にとってあまりなじみのない表やグラフが多数載っており一見とっつきにくい印象を与えるが,読み進めていくとデータ分析の面白さが実感され,すぐに応用できるようになる。私も地域医療構想アドバイザーとして地域医療構想調整会議に出席しているが,膨大な資料の報告に終始し,各医療機関が地域における自院内の病床機能をデータに基づいて客観的に把握し,自院の将来像を描くような議論にはなっていない。他院の病床機能に対し,何か意見を言うことははばかられ,活発な議論はできていないように思われる。ぜひともデータ分析に取り組む習慣を身に付けたい。その後の章では機能選択・病床転換の事例紹介があり,極めて興味深く,自院の将来計画を描く際の参考になる。
本書の「あとがき」で新型コロナウイルス感染症と地域医療計画との関係について述べられている。今までの5疾病5事業には新興再興感染症は含まれておらず,今回の流行時に混乱を来した。人の移動のグローバル化により,今後もわが国は新しい感染症の流行に直面する可能性がある。安全保障の観点からも議論が深まることを期待したい。
本書は病院長・病院管理者だけでなく,日頃患者さんの診療に忙しい臨床医にもぜひ読んでいただきたい。本書を傍らに置き,データ分析の手法から自院の将来構想を検討することもまた楽しみである。
書評者: 二木 立 (日本福祉大名誉教授)
本書は,医師・医療関係者が,日本の医療改革の柱になっている「地域医療構想」について正確に理解し,公開されているデータと自院のデータを実際に用いて,自院独自の施設計画・経営計画を立てるための必読書です。
全体は以下の6章構成です。第I章「地域医療構想の考え方」,第II章「厚生労働省の諸施策と地域医療構想」,第III章「地域医療構想におけるデータ分析の考え方」,第IV章「地域医療構想を踏まえた施設計画の考え方」,第V章「機能選択および病床転換の事例」,第VI章「日本医療の近未来図」。
本書の魅力は3つあります。第1は,地域医療構想の中身を,歴史的経過を踏まえて正確に理解できることです(主として第I,II章)。地域医療構想や「必要病床数」については,今でもさまざまな誤解や混乱がありますが,松田晋哉氏は,「医療区域」ごとの「必要病床数」を推計する計算式を開発した方であり,その記述は正確です。
第2の魅力は「データ分析」(量的分析)だけでなく,第V章で,困難な条件の中で機能選択または病床転換を断行した8事例について,現地調査を踏まえた「質的分析」も行っていることです。両者を統合した「混合研究法」により,地域医療構想を立体的に把握できます。私は,8事例のうち,6事例が広義の「保健・医療・福祉複合体」であることに注目しました。
第3の魅力は,第III,IV章を丁寧に読めば,自院の施設・経営計画を作成できることです。ここはやや歯ごたえがありますが,読者の多くは「理系人間」と思われるので,じっくり読み込み,併せて厚生労働省の最新文書も読めば,得るものは大きいと保証します。
私が最も感銘を受けたのは,松田氏の研究者としての誠実な姿勢です。特に「あとがき」(p.131)に書かれている次の記述には大いに共感しました。「地域によってはニーズの縮小が急速に進んでしまい,まさに撤退戦をいかに戦うかというような状況になっているところもある。そうした地域で頑張っている医療・介護の方々に,その場しのぎのような楽観的助言をすることはできない。(中略)研究者として,その場しのぎの軽々なことは言えないのである。事実を正しく伝えることが研究者の良心であると考える」。
もう一つ共感したのは,「あとがき」の最後の「新型コロナウイルス感染症と地域医療計画との関係」についての記述,特に「今回の新型コロナウイルス感染症の流行を契機として,地域医療計画,地域医療構想の本来の意義について,安全保障の点からも議論が深まることを期待したい」です(p.132)。この点は,できるだけ早く『病院』誌などで論じ,それを本書の「増補改訂版」に加えていただきたいと思いました。
地域医療の未来予想図
書評者: 仲井 培雄 (医療法人社団和楽仁芳珠記念病院理事長)
本書は地域医療構想の基礎データ策定に携わられた松田晋哉先生の著書である。2015年10月に地域医療構想の意義や歴史的背景等を記した『地域医療構想をどう策定するか』(医学書院)を出版されて5年が経つ。この間に社会医学研究の新知見や先行事例の経験値を集積されて,今一度「このツールやデータはこう活用していただきたい」という思いが続編である本書に込められている。
地域医療構想は,2025年をめどに医療提供の適正化による効率的な医療提供体制をめざしている。「地域医療構想」と「医師の働き方改革」,「医師偏在対策」を三位一体とした改革や「診療報酬改定」,「地域包括ケアシステムの構築」等と共に推進される。しかし,2019年9月26日に病床機能の見直しが必要とされた424の公立・公的病院が公開されると,将来の社会保障制度の議論よりも地域とのコミュニケーションの重要性が浮き彫りになった。どのような「まちづくり」をするかという基本構想が,地域医療計画や地域医療構想に反映されない限り,地域住民からの理解は得にくい。
これに対して松田先生は,データに基づく冷静な議論と丁寧な説明が重要だと説いている。地域医療構想策定の要である病床機能別病床数推計の前提条件を理解し,人口変化や医療施設・医療職の状況に鑑みて,地域医療アドバイザーと共に地域概況分析を行うことを薦めている。使用される各種データやツールには,DPCやNDB等に加えて年齢調整標準化レセプト出現比(SCR),地域別人口変化分析ツール(AJAPA)等がそろっている。これらを駆使した急性期・回復期の定量基準の導入,慢性期必要病床数と外来医療計画等のアイデアが盛り込まれており,424病院をはじめ全国の構想区域にエールを送られている。
日本は爆発的に高齢者が増える大都市部と,高齢人口は維持・減少して支える人口が減少する地域に大別される。松田先生は,いずれにおいても軽症急性期・急性期後の医療に加え在宅医療も支えられる地域包括ケア病棟と,同病棟を擁する急性期あるいは慢性期ケアミックス病院の活用を期待され,総合診療医や看護師特定行為研修修了看護師の活躍を予想されている。そして,各地域の先進事例や地域課題に真摯に取り組んでいる病院を訪問されて,社会的包摂を礎とする地域共生社会を見据えた人づくり・まちづくりが重要だと結論づけている。本書は構想区域内の各施設の計画立案にも随分と役立つであろう。
松田先生の夢は,超高齢社会に対応した地域包括ケア体制の創出において日本がアジア諸国のモデルとなることである。その第一歩として,コロナの時代にこそ必要な地域住民とつくる地域医療の未来予想図に,読者の皆さまと思いをはせたい。
データ分析は自院の将来構想を描くために必要不可欠
書評者: 望月 泉 (八幡平市病院事業管理者)
急速な少子高齢化の進展に伴い,医療介護需要の増大と疾病構造の変化が予測される2025年に向けて,構想区域ごとに協議の場(地域医療構想調整会議)で話し合い,将来の必要病床数や在宅医療等の需要を推計し,将来のあるべき医療提供体制の構築に取り組んでいく必要がある。同時に効率的かつ質の高い医療提供体制の確保の必要性が求められ,高齢化を見据えた,将来のめざすべき医療提供体制を実現していく上で,限られた医療資源の基では,病院・病床ごとに機能を分け,連携することが効率的であると考えられてきた。著者の松田晋哉氏は産業医科大学医学部公衆衛生学教室教授で社会医学者である。日本における医療制度改革分野でのオピニオンリーダーであり,地域医療構想における構想区域ごとに示される機能別病床数の推計値の基礎的研究も担当されてきた。
本書は6章で構成されている。第I章は「地域医療構想の考え方」で,地域医療構想導入の経緯・意義,病床機能別病床数推計の考え方と続き,今までぼんやりとしていた地域医療構想についてあらためて頭が整理される。第II章は「厚生労働省の諸施策と地域医療構想」で働き方改革,専門医制度と地域医療構想のかかわりについてわかりやすく述べている。第III章は「地域医療構想におけるデータ分析の考え方」で本書の本丸となる。地域医療構想に関連して作成されている公開情報や公開ツールを用いて,自施設のある地域の状況について本書の記述に従って分析することが可能になると同時に,需要構造を把握し,自施設の計画を立てることができるようになる。一般臨床医にとってあまりなじみのない表やグラフが多数載っており一見とっつきにくい印象を与えるが,読み進めていくとデータ分析の面白さが実感され,すぐに応用できるようになる。私も地域医療構想アドバイザーとして地域医療構想調整会議に出席しているが,膨大な資料の報告に終始し,各医療機関が地域における自院内の病床機能をデータに基づいて客観的に把握し,自院の将来像を描くような議論にはなっていない。他院の病床機能に対し,何か意見を言うことははばかられ,活発な議論はできていないように思われる。ぜひともデータ分析に取り組む習慣を身に付けたい。その後の章では機能選択・病床転換の事例紹介があり,極めて興味深く,自院の将来計画を描く際の参考になる。
本書の「あとがき」で新型コロナウイルス感染症と地域医療計画との関係について述べられている。今までの5疾病5事業には新興再興感染症は含まれておらず,今回の流行時に混乱を来した。人の移動のグローバル化により,今後もわが国は新しい感染症の流行に直面する可能性がある。安全保障の観点からも議論が深まることを期待したい。
本書は病院長・病院管理者だけでなく,日頃患者さんの診療に忙しい臨床医にもぜひ読んでいただきたい。本書を傍らに置き,データ分析の手法から自院の将来構想を検討することもまた楽しみである。