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第3373号 2020年6月1日


Medical Library 書評・新刊案内


新臨床内科学[ポケット判] 第10版

矢﨑 義雄 監修

《評者》安達 洋祐(久留米大医学教育研究センター教授)

新しい時代の医学生のための教科書

ポケット判に一目ぼれ

 大学の書店で『新臨床内科学 第10版[ポケット判]』を見つけました。シンプルな表紙と優しい手触りに,久しぶりに胸が高鳴る「一目ぼれ」でした。早速,「序」を読み,編集コンセプトを見ました。「内科学の成書としての信頼性」を守って「コンパクトかつわかりやすく」まとめた「全面改訂」です。

 第1章に「主要症候」があり,65症候が96ページにわたって,定義・病態生理・初期対応・鑑別診断・治療方針に,90点の図表が添えられています。また,第2章以降の臓器系統別の章は,冒頭の数ページで「ざっくりわかる呼吸器疾患」のような形で,編集者が疾患群の全体像を解説していて,各章の手引きになっています。

スマートでわかりやすい

 内科の伝統的な教科書は「分厚い・重い・難解」というイメージがありますが,本書は少々違います。新しい時代の「医学生のための教科書」に変身しています。本文は疾患ごとに,定義・病態・診断・治療が短い文で簡潔明瞭に書かれ,重要な語句は橙色のゴシック体で強調されています。

 色塗りの箇条書きで疾患ごとに設けられている「疾患を疑うポイント」は疾患の症候からみた特徴が明快で,「学びのポイント」は疾患のエッセンスが一目瞭然です。随所に見られる「特論」では専門的な検査や治療が詳しく解説されています。

 「実習のポイント」は,診療参加型臨床実習で患者を受け持った医学生に対する指導医のアドバイス,「トピックス」は疾患を学んで基礎知識がついた医学生に対する専門医のレクチャーのようです。図表・イラスト・カラー写真が豊富で,索引が80ページと充実しているのも,本書の魅力です。

「One Team」637人が執筆

 本書の特長の一つは,類書にない充実した執筆陣です。「One Team」となって監修・編集されている安心感と信頼感があります。医学の本道である内科学の最新情報を効率よく把握できるように,各章の編集者が原稿を細部までチェックしています。14人の編集者の熱意と使命感がうかがえます。

 総勢637人の執筆者は,診療と教育の専門家です。医療の現場で患者の診療に携わり,臨床研修病院で研修医を指導し,大学病院で医学生を教育している医師が,各自の専門領域や得意分野を担当しており,日本の内科医の英知の結集です。

腰を据えて教科書を読破

 全国の医学生の皆さん。新型コロナウイルスの感染拡大で臨床実習が制限され,自分で勉強する時間が増えたと思います。この際,余裕ができた時間を,『新臨床内科学』を読む時間に使ってみませんか。

 本文が全部で1880ページ。1日10ページ読めば6か月,1週間に1章なら3か月で読破できます。第1章の「主要症候」は最後に読むのがいいかも。(過去問や選択肢に奮闘するより)典型的な疾患像や患者像(illness script)を頭に入れることがいかに大切か,実感できるでしょう。

 内科の教科書を読破すれば,大きな力と自信になり,医師になるための土台固めができます。学生時代に内科の勉強を怠けたことを反省している元外科医の「学問のすすめ」です。

A5・頁2002 定価:本体18,000円+税 医学書院刊
ISBN978-4-260-03807-2


プロメテウス解剖学アトラス 胸部/腹部・骨盤部 第3版

坂井 建雄,大谷 修 監訳

《評者》池上 浩司(広島大教授・解剖学/発生生物学)

進化しつづけるプロメテウス

 『プロメテウス解剖学アトラス』の『胸部/腹部・骨盤部』は初版が2008年,第2版が2015年の発行であり,初刊行から12年,第2版から5年の歳月を経ての改訂である。『解剖学総論/運動器系』『頭頸部/神経解剖』がそれぞれ2017年,2019年に第3版に改訂され,残るはこの1冊のみと待ちに待った待望の改訂版である。他の巻と合わせて3巻で1500ページ,他の解剖学アトラスの2倍以上と,圧倒的情報量を誇る邦訳プロメテウスの第3版(原書第4版)がここにようやく完成した。

 本書の特徴の第一は初版から続く圧倒的美しさのイラストであろう。人体はある種の芸術作品であると感じることが多いが,本書の図はそれをさらに強く感じさせてくれる。爽やかさすら感じさせるイラストは,勉強というよりも写真集を眺めるように学ぶことを可能にしてくれる。他のアトラスの2倍を超えるページ数故に可能となる,詳細な,それでいて簡潔な説明の数々はもはや「アトラスを超えた読み物」とも言えよう。とりわけ心電図の解剖生理学的解説,疾患例のみならず診察や治療術の例示,各種読影法などの臨床医学的内容は,解剖学を学ぶ低学年学生にとっては学びの目的を明確にし,臨床を学ぶ高学年学生や研修医にとっては臨床で遭遇するさまざまな問題の本質的理解の助けになるはずである。

 これらに加えて本書では発生学の記載も豊富であり,その充実ぶりは特に完成した構造だけでは理解しづらい心臓のねじれ,消化管の配置や腹膜腔の複雑さ,女性と男性で異なる骨盤腔内外の構造などをその形成過程と併せて学べる「四次元アトラス」である。また初版から続いている本書の独自性の一つとして,腹部と骨盤部を分けずに一連の領域として扱っている点が非常に興味深い。これは解剖を行ったことがある者なら誰しもわかるであろうが,腹腔と骨盤腔には構造的な境界は存在せず,そこに収まる臓器は一続きであるように,非常に「make sense!」な分け方と言える。プロメテウスの著者らの哲学を感じる。

 さて第3版ならではの改訂について少し触れてみたい。冒頭の概観と発生学の章に血液の項が新たに加わった。これにより学習者が循環器系から呼吸器系までをシームレスに学べるようになった点は大きい。各臓器に目を向けると,骨盤底周囲のイラストが大幅に刷新されている。骨盤部の理解は学生にとって最も難しく,刷新および追加されたイラスト群はその難しい骨盤部の層構造を非常にわかりやすく見せてくれている。腹部においては腹大動脈から出る無対の三動脈の枝に関する大きなイラストが追加され,それぞれの血管のつながり(吻合)が一目でわかるようになった点が非常に大きい。

 細かい点について書評を書いてきたが,まとめると以下の一言に集約されるだろう。プロメテウスはさらに進化した! 初学者のみならず臨床現場で働く医師も,ぜひこの芸術的解剖書を手元に置き,空き時間などに眺めて人体の構造を脳裏に焼き付けていただきたい。

A4変型・頁498 定価:本体12,000円+税 医学書院刊
ISBN978-4-260-03927-7


腹痛の「なぜ?」がわかる本
痛みのメカニズムがみえれば診療が変わる!

腹痛を「考える」会 著

《評者》國松 淳和(永生会南多摩病院総合内科・膠原病内科)

いつも一番前に座っていた茶髪ロンゲの人

 私の,この本の「中の人」との最初の出会い……というか最初の衝撃についてまずは話したい。

 2017年の春,私が亀井道場[亀井三博先生(亀井内科・呼吸器科)主催による勉強会]に初めて講師として招かれた時のことだった。お決まりで前夜に亀井先生とお食事をするのだが,そこに「その人」は同席していた。初めましてと言って自分の茶色のボストンバッグを置こうと思ったその時であった。

 「土屋鞄……ですね」

 人は本当に驚くと声が出ないか,ありえない声を上げるかどちらかだと私は思っているが,後者だった。奇声に近かったかもしれない。

 「なんでわかるんですか!?」

 もうその後の食事会はソワソワしていた。さっきの衝撃もそうだが,何だこの違和感は。こういう時,臨床医はその違和感に正直になったほうがいい。考えるな。考えると大概わからなくなる。頭に引っ掛けて置くんだ。

 わかった。

 私は「この人」と会っている。過去に。厳密に言えば,見ている。私は思い切って聞いた。

 「先生って,あの,15年近く前にいろんな臨床の勉強会に参加してた人ですか? あの,いっつも一番前の真ん中の席にいて,茶髪・ロンゲの」

 「あ,そうです」

 がーん,である。15年近くの時を経てつながったのだった。

 「わぁ!! 当時は“ただ者じゃないな”って思ってましたし,そもそも性別もわからなかったんですよ! 先生だったんですね?」

 「あ,そうです」

 もはや性別などどうでも良かった。

 臨床家というのは,相手が臨床家だということが一瞬でわかり,そしてすごい臨床家をみるとゾクゾクして身動きが取れなくなるとともになぜだかとてもうれしくなるのだ。私は本当にうれしかった。

 この本が,「あの人」が書いたのだということもすぐわかった。頻繁に講演して回っているわけでもない,そもそも名乗ってもいない「あの人」が,こうやって“腹痛の科学”を文字にまとめたことは大きい。ゆっくり読める。

 この本の「中の人」は今は病理医をしているそうだが,この本を読んでわかるのは「解剖学に極めて精通している」ということである。帯というのは大抵出版社の考えた誇大広告だが,「まるでお腹の中が見えているかのようだ!」はまったく誇張ではない。

 そしてこの本のエッセンスを40字以内で述べよ。という国語の問題があったとすれば,模範解答はこうなる。

 腹痛には内臓痛・体性痛・関連痛があり,これらを区別するのが診断上大切である。(38文字)

 全ての腹痛に体性痛・関連痛を検討する姿勢は,もはや常軌を逸したこだわりでもある。

 この本は,じっくり通読するタイプの書だが非常にタフであり,通読しきるのは苦しいという感覚に陥る。ただ,頭から読まないとだめだと思う。「まずは準備運動」などという初章の謙遜したタイトルにだまされてはいけない。この章をきちんと読み,折をみて振り返り,じっくり読み進めることを勧める。

 研修医時代に休みを惜しんで参加した勉強会にいつもいた,“茶髪ロンゲ”のあの人の脳と立ち居振る舞いが,見えてくるかのような本だった。人のかばんを一目見てブランドを言い当てるような医者の書いた本なんて,どんなに高くても買う価値があるに決まってるじゃないか。

A5・頁266 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03836-2

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