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第3360号 2020年2月24日


未来の看護を彩る

国際的・学際的な領域で活躍する著者が,日々の出来事の中から看護学の発展に向けたヒントを探ります。

[DAY 8]若手研究者支援のこれから

新福 洋子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻家族看護学講座准教授)


前回よりつづく

 日本学術会議若手アカデミーの副代表になってから,省庁の大臣や政務官といったポジションにある方々にお会いし,お話をさせていただくく機会が増えました。特に近年,日本の科学技術が世界において論文数などをベースにした評価で低迷したことで,危機感が高まりました1)。そうした背景もあり,若手研究者支援政策に関して,意見を聞かれることが増えました。「若手研究者に話を聞きたければ,ここに連絡すれば良い」という窓口の意味合いでも,若手アカデミーの存在意義を感じるようになっています。

 2020年1月23日,総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)で,「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ(案)」2)が提示されました。志や熱意を持って努力し,研究者キャリアに臨みたいという大学院生たちに,その可能性を活かすキャリアパスを用意しておくことが,先をいく者の責任だと思います。若手研究者には任期付きのポストが多いといった不安定さや研究費の競争が高まるにつれて,本来行いたい研究よりも,より評価される,すぐに成果が出る研究に取り組む傾向を引き出すような構造があります。しかしながら,科学の中でも未来のノーベル賞につながるような大きな成果は,研究している最中はそれがどう役立つかも不明であることがほとんどです。そうした自分の好奇心に基づいた研究,幅広い基礎研究ができなくなるような研究環境では,若手研究者のやる気の維持・向上も難しくなります。

 本パッケージの中には,博士後期課程の大学院生を含む研究者の待遇改善,ポストと研究費の増加,産業界へのキャリアパスの流動性の拡大,そして研究時間の確保を謳った研究環境の充実が含まれました。具体的施策にはダイバーシティの拡大も含まれ,女性研究者支援や,研究支援を行うURA(University Research Administrator)のキャリアパスの構築も入りました。つまりは,研究力強化には,多様な研究者やその支援者が,十分な時間の中で,自由に発想して研究を行えるような環境が必要だという若手研究者のメッセージが反映された形です。

 この案の策定に際し,竹本直一内閣府特命担当大臣や今井絵理子内閣府大臣政務官ともお会いする機会を得ました。われわれが若手研究者を代表して,こうした役職の方にお会いする意義は,若手研究者の実情とニーズを伝え,われわれはこれが最善の改善策だと思う,ということを伝えることだと考えています。

 こうした経験を踏まえわかったことは,「変わるか変わらないか,やってみないとわからない」ということです。現状が最善でないなら,どうしたら良くなるのかを考えて動くことで,それまでなかなか動かなかった政策も,本当に動く時には動いて変わっていきます。もちろん時代背景やタイミングなど,さまざまな要素があり,常に一筋縄で変わるものでもありません。しかしながら,日本の社会,世界にとって本当に大事なことは,相手にされない時から根気よくずっと,さまざまな場所で繰り返し発言していく,信頼されて発言の場を得るための努力をすることだと感じました。今後この案が施行され,豊かに楽しく研究する後輩を見た時に,本当に良かったと実感すると思います。その先には,人材を適切に育てる教育の質が問われると思っています。

今井絵理子内閣府大臣政務官(写真右)と筆者

つづく

参考文献・URL
1)豊田長康.科学立国の危機――失速する日本の研究力.東洋経済新報社;2019.
2)内閣府.研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ(案).2020.

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