医学界新聞

2019.10.28



Medical Library 書評・新刊案内


医療職のための症状聞き方ガイド
“すぐに対応すべき患者”の見極め方

前野 哲博 編

《評者》木澤 晃代(日大病院看護部長)

医師の思考はこうなっていた!病歴聴取の道案内

 編著者の前野哲博先生が研修医の頃,一緒に働いており,患者さんの診察にとても情熱を持った先生だなあと思っていました。まだ「チーム医療」といわれていなかった時代に,医師も看護師も関係なく,多職種で患者さんのことを診て(看て)いたことを思い出します。その時から前野先生の説明はわかりやすく,診察することや教えることを楽しんでいるように見えました。本書は,そんな前野先生の病歴聴取の技を医療職向けに伝授してもらえる虎の巻です。

 1,2章では,これからの医療職に求められる症状アセスメントを概念化し,段階的に読み進められるようになっています。患者の持っているぼんやりした情報をいかに効率的に絞り込んでいくか,コミュニケーションや聞き方の方略,ちょっとしたコツが書かれています。「『グラフを描けるように』情報を集める」「『合わないところはないか』考える」といった独自の切り口で病歴聴取を深めていきます。

 3章は「症状聞き方ガイド」として,病歴の聞き方の道案内が示され,各質問の意図と,患者の答えの解釈が丁寧に説明されています。さらに「医療機関を受診しない場合の対応」として,どの程度様子を見てもいいのか,患者目線での心配事についての配慮が書かれており,いまは受診しなくても大丈夫そうと判断した医療職へのアドバイスとなっています。また,医療職は患者の症状が軽減していると思っていても,患者自身が「ちっともよくならない」と感じることがあるため,「1日でも早く症状から解放されたい」患者の想いをよく聴くことの重要性も書かれています。

 4章は対話形式で,「症状聞き方ガイド」に沿って症例をアセスメントしています。さらに,医師が確認したい情報をそろえた伝え方,その後の医療機関での経過が簡単に述べられています。判断に続く検査・治療がどのようになっているかは,貴重な情報です。

 5章では,患者の症状を医学用語に変換し,医師にどう伝えるかが書かれています。医療職の質問は時として専門的になりがちで,患者には通じない場合があります。また,患者がうまく伝えられない症状を,医学的に変換する作業も必要です。これらは,看護師にもトレーニングが必要な作業です。

 6章の「症状聞き方ガイド一覧」では,症状に沿った聞き方と「緊急度判断チェックリスト」が網羅されており,PDFがダウンロードできるようになっているので,聞き方の練習にもフル活用できるでしょう。

 この本には,患者さんから質のいい情報を能動的にとった上で,論理的な考え方,平たく言うと,つじつまが合う考え方を,患者さんの状態を見ながら行っていく,有機的でダイナミックな方略が書かれています。全ての医療従事者および医療職をめざす方に,ぜひとも読んでいただきたい名著です。

 答えは患者さんが持っています。それをいかに効率的にあぶりだすか,意図的な質問と考える道案内で,デキる医療職をめざしましょう!

B5・頁152 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03695-5


快適!ストーマ生活
日常のお手入れから旅行まで 第2版

松浦 信子,山田 陽子 著

《評者》西口 幸雄(大阪市立十三市民病院病院長)

「つくった後」が本番のストーマ生活をサポートする

 本書の帯にも書かれているように,ストーマは「つくった後」が本番です。本書は,ストーマの基本から始まり,装具の選び方と交換手順,食事や入浴などの日常生活におけるポイント,注意したいストーマのトラブルなどが解説されています。各項目は平易な文章で書かれており,挿絵や写真も非常に多く,ストーマケアのさまざまなコツが提示されています。特に,手順については細かく場面を区切って書かれており,まだストーマケアに慣れておられない患者さんや介護者,若手の看護師にも大変わかりやすいと思います。

 日常生活事項(食事,入浴,衣服,睡眠,通勤・通学,旅行,外出,運動,性生活など)については,本書ほど具体的にわかりやすく解説されたものはありません。私も患者さんを指導していく上で,大いに参考にしたいと思います。

 ストーマ造設を専門とする医師の私としては,本書を若手の医師にもお薦めします。自分たちが造設したストーマがその後どのようにケアされ,日常生活を送っているのかがわかります。ストーマを造設された人がどんな苦労をしているのかを知る一端にもなり,よりよいストーマをつくろうと思うことでしょう。

 若手看護師にとっては,ストーマの基本から患者さんに対する指導まで学べる本です。ストーマケアというのは,いろいろなストーマを経験しなければ上達しません。「ストーマについて何もわかっていない」とか,「患者さんの生活のことをもっと考えなさい」とか,先輩看護師に厳しく言われることもあるでしょう。それを解決するには,「もっと勉強する」「もっと経験する」しかないのです。そのためにうってつけの本です。本書を読んで,自分に自信をつけてください。

 ベテラン看護師の中には,ストーマについて「今さら若いナースに聞けない」「勉強会に行く時間がない」という人もいるでしょう。そんなベテラン看護師にもぴったりです。ひそかに勉強できます。

 本書はストーマを有する患者さんとその介護者にはもちろんのこと,医師や看護師など医療者に必携です。「つくった後」が本番のストーマ生活をサポートするのに心強い一冊です。

B5・頁144 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03911-6


健康行動理論による研究と実践

一般社団法人 日本健康教育学会 編

《評者》藤内 修二(大分県福祉保健部参事監/健康づくり支援課長)

今こそ,健康行動理論を学び,活用しよう

 最近,ナッジ理論が「ブーム」になっている。厚労省が2019年4月に発行した「受診率向上施策ハンドブック(第2版)」には,ナッジ理論に基づく実践がわかりやすく紹介されている。健診(検診)の受診に限らず,健康無関心層が無理なく健康な行動をとれるような仕掛けとして大きな期待が集まっている。

 このように健康政策において,健康行動理論に基づく戦略が紹介されると,多くの保健医療従事者がその適用を試みるものの,中途半端な理解に基づく実践では,なかなか成果が上がらず,結局,「この理論もだめだ」と諦めて,次のmagic bulletを探してしまうことも少なくない。

 新しい理論やモデルに基づく取り組みを始める際には,その理論やモデルが提唱された背景や経緯を学ぶとともに,どのような分野の保健行動や生活習慣の改善に向いているのか,その効果の限界について理解しておくことが必要である。また,効果的な展開のためには,関連する理論についても学ぶことが望まれる。

 これまで,こうした健康行動理論について学ぼうとする際に,適切なテキストが見当たらず,そのことが新たな理論やモデルの効果的な適用を阻んできた感がある。こうした意味で,本書は待望久しいテキストといえよう。

 本書は第1部で,個人レベル,個人間レベル,集団レベルという3つのレベルの理論・モデルについて,膨大な文献のレビューにより,歴史的な経緯から基本的な考え方まで解説しており,研究者にとって,貴重な成書になっている。

 第2部では,それぞれの理論・モデルを用いた研究と実践を解説している。特に,集団レベルの理論・モデルでは,飯能市のウォーキングの推進を例にアクションリサーチによるコミュニティビルディングの実践を,がん検診受診勧奨資材の開発と提供を例にソーシャルマーケティングの実践をわかりやすく紹介しており,自治体で働く保健師など健康教育の実践者にとって,優れた参考書になっている。

 また,ナッジ理論に代表される行動経済学の紹介では,その中心となる考え方である「ヒューリスティック」について解説されている。ナッジ理論を効果的に適用するためにも,そのベースとなる考え方を理解しておくことは有用である。何かを得るよりもそれを失うことに対する心理的な拒否感が強いという「損失回避」,未知なもの,未体験のものを受け入れたくない,現状を維持したいという「現状維持バイアス」,初期設定で好ましい選択を設定することで,好ましい行動を促す「デフォルトオプション」など,人間の行動特性を理解しておくことは,行動変容に向けたアプローチを行う際に有効であろう。

 健康増進計画の策定にはPRECEDE-PROCEED Modelのような集団のモデルを活用した事例が多く見られたが,データヘルス計画の策定に,健康行動理論を活用した事例は少ないようである。生活習慣の改善や健診の受診など好ましい保健行動をターゲットにするなら,もっと健康行動理論が活用されるべきであろう。本書の登場により,健康行動理論を学び,その活用につながることを大いに期待する次第である。

B5・頁280 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03635-1


看護現場学への招待
エキスパートナースは現場で育つ 第2版

陣田 泰子 著

《評者》大串 正樹(衆議院議員)

看護師の成長を促し,真のエキスパートへと導く方法論

 思いを言葉に。ナレッジマネジメントを端的に表現するならば,このフレーズが最もしっくりくる。私にとって臨床の師でもある陣田泰子氏の看護現場学は,まさに個人の思いを本質に迫りながら言葉へと引き出していく実践的なナレッジマネジメントであるといえよう。そして今回,あらためて陣田氏の『看護現場学への招待――エキスパートナースは現場で育つ 第2版』を読みながら,気付かされたことがある。この,思いを言葉にする現場学の取り組みには,3つの側面があるのではないだろうか。

 まず,看護という仕事の本質でもある,患者から思いを引き出す取り組み。陣田氏の看護の原点でもあり現場学の根底ともなる側面である。看護師としても教育者としても最も大切な視点であることは言うまでもない。

 もう1つは,看護師としての個々人の経験からその思いを引き出す,陣田氏の提唱する「看護の概念化」の取り組み。人を育ててきた経験から得られた実学的な側面でもある。自らの実践を意味のあるものにしていく上で,極めて有効な知の技法である。

 そして,第3の側面が看護という実践から科学的な客観性を引き出す取り組み。専門職として,また,とりわけ研究者としては避けては通れない側面である。しかし「価値」という領域に踏み込む看護であるからこそ,この3点目に陣田氏の苦悩も見て取れる。現場学が古典や多様な理論に依拠しながら,複雑な構造を呈していることも無関係ではなかろう。

 もちろん,陣田氏は看護管理者として,これらの取り組みを実践してきたわけである。臨床現場の組織での実践を前提とし,その対象となる看護師の年齢や経験も多種多様である。一人ひとりの看護師と接しながら個々のモチベーションを高めつつ,統合的でかつ,実践的な理論としての集大成が看護現場学なのである。つまり,現場学は単に個人の思いを言葉にするという個別平面的な理論ではなく,組織的に実践を高めていく相互立体的な多面的プロセスといえる。組織全体を俯瞰しながら,常に個々人の思いの部分にも深く入り込んでいく方法論であるが故に,その実践は容易ではないが,結果として各々の看護師の成長を促し,真のエキスパートへと導いていく。

 そして終章,内発的発展論に人間の「生」を重ねるところに陣田氏の看護師であり教育者であり,そして管理者である複雑な思いが垣間見える。それは陣田氏自身の経験に裏打ちされた哲学ともいえる深遠な思いではないだろうか。

 そんな陣田氏の思いがあふれている看護現場学だからこそ,看護師として,また看護管理者として成長の過程に,ふと立ち止まって本書に触れてみてほしい。それぞれの経験に応じた,新たな気付きを与えてくれることであろう。

B6・頁240 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03813-3

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