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第3331号 2019年7月22日


Medical Library 書評・新刊案内


こころの回復を支える
精神障害リハビリテーション

池淵 恵美 著

《評者》今村 弥生(杏林大助教・精神神経科学教室)

著者の信念や迷いまでも織り込まれた,染みる一冊

 日本で精神科リハビリテーションの現場に身を置いている人,特に社会生活技能訓練(SST)関係者のほとんどは,今までに池淵恵美先生の著作・講演に学んで,自分たちの実践に役立ててきたと思われますが,この書評を書いている私もその一人です。そんな私がこういう言い方をすると,先輩におもねっているように聞こえるかもしれませんが,それでも,この本は読むべき本と表現せざるを得ない一冊です。精神科リハビリテーション関係者に限らず,病いからの回復を支援する人,リカバリーをめざしている途中に迷いが生じた人にとって,知っておくべきことがだいたい全部詰まった本です。

 ところで,この本は教科書としては典型的ではありません。まず図が著しく少ないことが目につきます。最近の教科書は図が多めのものが多い中,できるだけ「言葉」で伝えようとする姿勢に,リハビリテーションの技法より,人がなすことの意義を強調しているのだと思いました。本文はですます調で,語り掛けるようにつづられていて,専門用語が少なめで,日常生活の暮らし言葉が多く使われているのも非典型的ですが,おかげで精神医療の全ての職種の専門家と,ピアスタッフ,当事者家族も読むことができます。ただ,読み進めていくと,平易な文章は学術的な難しい事象をわかりやすく説明しているだけではなく,文章の中に著者の信念や迷いも織り込まれていることが伝わってきます。教科書の在り方として,著者の治療の不完全さや,情緒的な揺らぎを表現することは,意見が分かれるかもしれません。しかし,理論を組み立てながら,著者の思いがクッションのように置かれているから,理屈だけではなく精神科リハビリテーションの限界と可能性が読者に染みるように伝わってくる,魅力的な一冊になっています。本の内容を視覚以外で感じることができるならば,この本は懐かしさと暖かさが感じられるような,そんな本だと思いました。

 さまざまな形のリカバリーの型について,かなり多くの症例が上げられて紹介されていますが,リカバリーを達成した典型例だけではなく,煮え切らない事例もいくつかあることと,外来中断や引きこもりの人への治療計画,当事者同士の恋愛,支援者の心得という,よそではあまり見ない章に思いの外多くの紙面が割かれているのも本書の特徴です。また,後半の精神科リハビリテーションの研究の総説(第7章「精神障害リハビリテーションをゆたかにする研究」)もありそうでない,著者にしかできないことでしょう。個人的にはこの研究のまとめは,自分の仕事上非常に助かる章でした。EBMに基づいた部分や,意義のある研究紹介よりもむしろ,やはり著者の想い,語りの部分に引きつけられました。

 終章の「時代の精神を越えて」の中で著者は,リハビリテーション技術の中には時代とともに置き去りになったものもあるけれど,その中にはリカバリーのプロセスの本質が含まれていたものもあり,古いものと新しいものを両方見て,その中に本質を見いだす,流行だけにとらわれない姿勢が重要と論じています。リカバリーへと導く支援は,暗い航海の中に浮かぶ灯台の光に例えられています。今の時代,薬物療法も進化し,就労状況も整ったから,当事者の回復の航路はそんなに暗くなく,灯台の光くらいでは物足りなく感じることがあり,私もつい,新しい治療法や技法に飛びついて,もっと立派な支援をしようとしているところがありました。助け過ぎず,支援がうまくいかなくてもかかわりを続ける「伴走」のリハビリテーションから少し離れていたようです。

 リカバリーをめざす人への光の当て方がわからなくなった人が,この本がきっかけで,もう一度感覚を取り戻せるかもしれません。

 願わくは,私も小さな灯台の光でありたいと,思っています。

A5・頁284 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03879-9


今すぐ知りたい! 不妊治療Q&A
基礎理論からDecision Makingに必要なエビデンスまで

久慈 直昭,京野 廣一 編

《評者》松本 亜樹子(NPO法人Fine理事長)

「正しい情報」を求める方に。90人の専門家による患者にもわかりやすい専門書

 世界初の体外受精児ルイーズ・ジョイ・ブラウンが,2010年度のノーベル生理学・医学賞を受賞された故ロバート・ジェフリー・エドワーズ博士らによって誕生したのは1978年のこと。それから約40年,生殖医療の世界は日進月歩を続けています。その医療の恩恵にあずかる患者の立場からすると,技術の進歩は大変ありがたいことであり,そのおかげで念願の赤ちゃんを授かるカップルも多くいます。ただ一方で近年では,インターネットの普及とともに,不妊治療に関する玉石混交の情報が広がっており,それらに振り回される患者が増えていることも事実です。そうした中,「正しい情報はどこで得られるか」は非常に重要な課題となっています。

 この度発行された『今すぐ知りたい! 不妊治療Q&A』は,そうした患者の125問の「疑問・質問」に90人の専門家の先生方がQ&A形式で答えてくださっています。内容も「いつ病院を受診すればいいか」から,代替医療や法律など多岐にわたり,医学書でありながら患者が読んでも理解できるよう配慮され,できるだけわかりやすい言葉で書かれています。正しい情報を求めて検索を続ける方にとって,一つの解となるでしょう。ぜひ不妊治療のバイブルとして広くご活用いただきたいと思います。

B5・頁384 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03826-3


看護サービス管理 第5版

小池 智子,松浦 正子,中西 睦子 編

《評者》青山 ヒフミ(甲南女大教授・看護管理学)

定番のテキストだからこそ長く学べる

 看護管理学を学ぶためのテキストとして定番になっている『看護サービス管理』の第5版が発行されたのをご存じだろうか。明るい水色の表紙で,今までのものとずいぶん感じが違っている。

 20年余り前,1998年に初版が出たとき,『看護サービス管理』というタイトルの斬新さに驚いた記憶がある。なぜサービスという語を,わざわざ看護管理の間に挿入するのか。その疑問に関連し,本書の骨子を作られた故・中西睦子先生は,こう述べておられる。「本書のねらいは,看護サービス管理を看護専門職が取り組む1つの独立した専門分野として確立させ,看護管理というものについての展望を広げ,看護活動をつねに動いていく社会のなかで正当に位置づけるための枠組みを提供することである」。中西先生の狙いというか,読みは正しく,先を見通していたと思える。本書は,看護管理を学ぶさまざまな立場の人々に受け入れられ,版を重ね現在の第5版に至っている。

 今回改訂された第5版で,全面的に書き直された「第9章 看護キャリア開発」の現任教育の項を特に紹介したい。タイトルは「現任教育におけるキャリア開発――見えにくい看護の知の見える化の方法」(担当:陣田泰子氏)である。看護の基本的原理である「看護は実践の科学である。実践は認識に導かれる」という,後半の意外に認識されていないフレーズから,実践を導く認識の重要性を述べ,その広がりと深まりを促す方法「看護経験の概念化」について詳細に言及している。また,臨床の中で継続して行うことができる概念化の1つの方法として,ストーリー法が紹介され,個人,チーム,実践共同体の各段階での実践と,現任教育としての活用の可能性を述べている。

 初版以来,本書を看護管理学の授業や研修時のテキスト,参考書として活用しているが,その際実際に使うのは内容の一部だけである。ただ,そのとき受講生に伝えるのは,今後看護管理に関しわからない用語・理論が出てきたとき,あいまいな知識を確かめたいときに,辞書のように読み,確かめる使い方をしてほしいと。

 若い頃上司から言われた言葉で,今も折に触れ思い出す言葉がある。「仕事はあなたを支えてくれます。学ぶことはあなたの仕事を支えてくれます」。良書もあなたの仕事を支えてくれます。

B5・頁328 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03661-0

関連書
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