医学界新聞

2019.06.24



格差社会で求められる看護師の力とは
第12回日本看護倫理学会の話題より


写真 講演する勝原裕美子大会長
 日本看護倫理学会第12回年次大会(大会長=オフィスKATSUHARA・勝原裕美子氏)が6月8~9日,「格差社会の中で看護倫理を考える」をテーマに大阪市中央公会堂(大阪市)にて開催された。

 「私たちはこれまで,人々を取り巻く格差にどう向き合ってきたでしょうか」。会長講演に登壇した勝原氏は同大会テーマの意図について説明した。全ての人は平等に医療や看護を受ける権利を有するが,患者は性別や経済的状況,社会的地位など背景の違いによって差別を受けている現実がある。健康格差について氏は,患者の健康意識の差だけでなく教育や就労などの機会の不平等も原因となり,ケアの実践を考える上で避けて通れない問題との認識を示した。その上で氏は,「看護には多様な患者をあるがまま受け入れ向き合う力があるため,格差社会において看護師が果たす役割は大きい」と強調した。

患者とのコミュニケーションを生み出す看護師が必要に

 教育講演「現象学から見えるもの――看護師の語りから出発して」に登壇した村上靖彦氏(阪大大学院)は看護師の言葉と倫理に関し,近著『専門看護師のコンピテンシー』(医学書院)を引用しながら現象学の視点から解説した。

 氏は,鎮静などの治療上の都合や患者のコミュニケーション能力などのあらゆる理由で医療者と患者のコミュニケーションが簡単に断たれてしまう問題を指摘。必ずしも言葉の意味が通じなくても,医療環境において孤立しやすい患者に声を掛けてコミュニケーションを作り出すことや,患者の発するサインを読み取ろうと思いを寄せること自体がケアになると述べた。それを意識して患者とかかわることが,患者尊重につながる看護師の重要な役割になるとの考えを示した。

 他方,看護師は患者や家族にとって受け入れ難い状況に立ち会うことが多い。氏は,時に言葉はなくても見守るだけで意味のあるケアになると述べ,看護師には医療的な介入ができない場面にも立ち会う力があると考察。その力が「看護師の大きな倫理的価値である」と締めくくった。

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