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第3313号 2019年3月11日


Medical Library 書評・新刊案内


在宅医療カレッジ
地域共生社会を支える多職種の学び21講

佐々木 淳 編

《評者》藤沼 康樹(医療福祉生協連家庭医療学開発センター)

未知の学びへと誘われる在宅医療の出会いの書

 現代はフィルターバブルの時代である。インターネットの発達と検索テクノロジーの進歩により,知りたいことがあれば「何でも」調べられるようになった。何でも検索できるということは,実は「知りたいこと」以外の情報には接する機会が減っていると言えるだろう。自身が見たくない情報からは「居心地の良い泡で包まれたように遮断」されたまま暮らしているわけである。そんな中,かつて幅広い情報源であった雑誌,特に総合誌と呼ばれるメディアは,衰退の一途をたどっている。評者が雑誌を購入する目的は特定の(お目当ての)記事であることが多かったが,パラパラとめくっていると,これまで全く触れる機会のなかった情報や世界に出会うことがあり,新しい知への出会いが生じることがあった。それが魅力でもあった。かつての雑誌編集者は,自身の持つ哲学や思想,考え方を,多様な記事に通底させていたように思う。

 さて,わが国の重要な課題である在宅医療の世界で現在,現場での実践と社会への提言を両立させており,最も注目すべきプレイヤーの一人である佐々木淳医師の編集による本書は,そうしたかつての雑誌・総合誌の最良の部分――読者がこれまで知らなかった世界やフィールドと出会える場を演出する力学を持っている。つまり,ある特定の専門領域のノウハウを提供するというつくりではなく,認知症ケア,高齢者の介護技術といった専門医が疎いジャンルから,哲学や倫理のテーマに踏み込む当事者の語りなどまで包摂したバラエティに富んだ講師による多種多様なテーマに出会うことができる。

 とすると,編者がどのようなコンセプトに基づき,この本を編集したのかということに興味が出たのだが,それは編者自身が「はじめに」で述べているように,在宅医療にかかわる多職種と当事者たちが,学びのモチベーションを得て,成人教育・学習のキーである「自己決定型学習」がドライブされることをめざしているところにある。

 ここで留意すべきなのは,フィルターバブルの時代においては,自分で課題設定し,自分で調べて学ぶという自己決定型学習がかえって学びを狭める可能性があるということだと思う。つまり,そもそも問題設定が自らの関心事のみに制限されやすくなっている時代においては,思いもよらぬ問題や話題との「遭遇」が生じにくくなっているのではないかということである。

 編者が本書を「カレッジ=幅広い学問を提供する小さな大学」と名付けていることが非常に興味深い。つまり,編者から読者(学び手)へ,従来まで関心のないテーマであったり名前を知らない講師であったりしたとしても,それでもぜひ触れてほしい,知ってほしいという願いが感じられ,そして,その好奇心こそ多職種連携の基盤となる共通言語になり得るという通底するメッセージが,この「カレッジ」というタイトルに込められていると思うのだ。

 本書を手に取った方には当面の関心事の記事だけでなく,ぜひ他領域の記事もパラパラと読んでほしい。きっと,あなたにとって新しい,未来につながる「問い」や「課題」に出会うことができると思う。

A5・頁264 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03823-2


救急整形外傷レジデントマニュアル 第2版

田島 康介 著

《評者》千葉 純司(女子医大東医療センター教授・整形外科学)

多くの症例経験を積んできた著者ならではの非常に論理的なマニュアル

 藤田医大病院は,毎年日本で最も多くの救急搬送患者を受け入れており,その中で,中心的役割を果たしているのが,田島康介教授である。田島教授のより早く,より正確な診察,診療には,われわれ整形外科医も,畏敬の念を抱いている。

 欧米では「外傷学」,「外傷整形外科学」が確立されているが,この分野においてわが国は,医療後進国と言わざるを得ない。その中で,田島教授は優れた指導者として,常に後輩医師たちの指導に当たっており,本書は多くの症例経験を積んできた田島教授ならではの非常に論理的な内容の解説書となっている。

 医療の対象は当然ヒトではなく人であり人間である。患者さんの人権尊重を医療行為の基本とすべきは言うまでもない。この姿勢から患者さんの信頼を得るあらゆる具体的行動が生まれる。診療技術の優劣が患者さんの治療成績や信頼関係に重要であり,高度な医療技術を維持する必然性もここから派生する。

 医師の世界,特に大学は,何か硬直したピラミッド型の閉鎖空間のように世間ではイメージされているが,本当は言うまでもなくダイナミックで激烈な競争社会である。医師であれば誰でも,自分のレジデント時代には良い意味でも悪い意味でもライバル意識をむき出しで切磋琢磨したことを思い出すであろう。レジデントに限らず医療界全体が他に遅れまいと必死になっている。これが国内だけならまだしも,今は世界と競争しなければならないので,油断しているとたちまち医療後進国になってしまう現実がある。もちろんこの競争が,医学を飛躍させ日本の高度な医療水準を維持している原動力なのであるが,その反面,過労死や倫理を逸脱した行為を多発させてしまっているのも事実である。

 これに加え整形外科などの外科系のレジデントには特殊な事情がある。ギプスの巻き方,メスの使い方,はさみの持ち方,糸結びの仕方などなどの職人的技術は,マンツーマンで教えなければ後世に伝わらない。土をこねて壺を形成し釜で焼いて不出来なら叩き割るというのとはわけが違う。失敗は許されないからどうしても体に覚えさせる厳しい指導になる。

 医療という荒海でレジデントたちが遭難しないためには,医師としての確固とした知識,技術,そして倫理,哲学の一日も早い習得が不可欠であり,それが患者さんのためであり,ひいては自分のためでもある。「整形外科外傷治療」は片手間でできるほど易しくはなく,厳然たる整形外科の専門分野であることに間違いないが,この本がレジデントたちにとって,整形外傷学のバイブルになるものと確信している。

B6変型・頁192 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03688-7


小児感染症の診かた・考えかた

上山 伸也 著

《評者》齋藤 昭彦(新潟大大学院教授・小児科学)

小児感染症の考え方を学びたい研修医,若手小児科医にお薦めの一冊

 今から約10年前,国内で小児感染症という領域がまだまだ途上で,小児科のSubspecialtyの一つとしての認識がとても低かった頃,著者の上山伸也先生は,国立成育医療研究センター感染症科の初代クリニカルフェローとして,感染症科の立ち上げに一緒に働いてくれた戦友である。日本で,米国式の小児感染症のコンサルテーションを中心としたトレーニングをまとまった期間,最初に受けた小児科医といっていいだろう。

 「抗微生物薬の適正使用」の概念は現在,国のプロジェクトとして重要な位置を占めているが,その当時,その概念は唯一の国立の小児病院でもほとんど重要視されていなかった。著者の上山先生は,その重要性を私と一緒に,同じ価値観を持ちながら,各部門で地道な活動をしてくれた先駆者である。彼はその当時から既に多くの知識を持ち合わせていたが,小児感染症の各領域で「わかっていないこと」がわかっている稀有な人物であった。また非常に勉強熱心で,論文を読み,その基礎知識の習得に日夜努めていた。そのような努力の積み重ねの集積がこの本であり,この本を読むとそれが伝わってくる。

 この本には,彼の教え方の上手さも垣間見ることができる。彼は,人に教えるのが大好きである。一緒に働いていたときは,研修医からの評判も大変高く,病院内のTeaching Awardを受賞した。また,私が以前代表世話人を務めていた日本感染症教育研究会(IDATEN)の夏冬に行われる合宿セミナーの責任者でもある。人にものを伝えるとき,知識があればあるほど,多くの情報を盛り込みがちになるが,彼はその中でも特に重要なことをまず伝え,相手によって提供する情報量を調節できる能力を持っている。この本では,彼のわかりやすい表現で,理解が難しい内容も平易に記載されており,彼の知識の整理の上手さが垣間見られる。

 小児感染症は,成人のそれと比べわかっていないことが多く,既存のデータの少ない領域が多い。また,守備範囲が広いので,どうしても広く浅くなりがちである。そのような広範な範囲の内容の中でも,抗菌薬の使用に焦点を絞り,そこを深く掘り下げ,また,成人との違いを明らかにしながら,全て自分で執筆したことは素晴らしいの一言に尽きる。

 小児感染症の全般を学ぶための類書は他になく,これから小児感染症の考え方を学びたい研修医,若手小児科医にぜひとも読んでもらい,知識を深めてもらいたい一冊である。一方で,成人感染症を含めた感染症コンサルテーションを市中病院で実践しながら大活躍する著者のこれからのさらなる活躍を約束する一冊ともいえるであろう。

A5・頁448 定価:本体4,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03645-0


ERのクリニカルパール
160の箴言集

岩田 充永 著

《評者》坂本 壮(順大練馬病院救急・集中治療科)

今も昔も大切な160個のこと

 「ER診療に一片の悔いなし」,稀勢の里,いやラオウのようなコメントはとても私にはできない。もう少しきちんと病歴を聞けばよかった,バイタルサインの異変になぜ気付かなかったんだ,検査の前にやることがあった,理解しやすいように病状説明するべきだった,などなど,いくつも反省すべき点がある。

 ERは,限られた時間で緊急性の高い疾患や重症度の高い疾患を診る必要があり,診断エラーに陥りやすい場である。また,忙しくなると,夜間であると,自分自身のコンディションが良くないと,そのリスクはさらに上昇する。

 自身が陥りやすいエラーを把握しておくと,未然に防ぐことができる。この本には誰もが陥りやすいことがちりばめられている。岩田充永先生に自身の臨床現場を見透かされているような感覚をも持つ。先人の教えが重要であることは誰もが理解しながらも,その教えを受ける術がなければどうしようもない。また,だんだんと現場の上司の教えというのは煙たくなるもの。できれば間接的に,かつ端的に教えてほしい(ずうずうしい?!)。

 最新のエビデンスへは簡単に手が届くようになった。スマートフォン1つで論文検索,さらにはSNSやブログなどから有用な情報も入手可能だ。しかし,エビデンスは知っていても,それを目の前の患者さんに利用できるかをあらためて考えることを忘れてはいけない。さらに,エビデンスを利用する前にやるべきことはきちんとやる必要がある。例えば,脳梗塞の患者であれば,血栓溶解療法や回収療法などの適応がないかを考え,迅速に身体所見をとり,画像検査をオーダーするわけだが,そもそも脳梗塞ではなく大動脈解離であったら,低血糖であったら,これらの治療のエビデンスは当然ながら利用できない(cf. パール39,61)。言われれば当たり前だ。しかしこのようなそもそも的な話をしつこく教えてくれる人は,意外といないものである。

 正しいことを伝えても,受け入れられないこともある。コンサルテーションをしても理想どおりにはいかないことも珍しくない。そんな時,相手を責める前に,その原因が自分にないかを自問自答することが必要だ。日々の自身の言動を見直す機会ととらえるのだ。あ,これも本書のパールとして含まれている(cf. パール4)。やっぱり何でも書いてある(笑)。

 ER診療の大原則ABCD,そして平常心欠如のサインABCDを頭に入れ,欠如サインが出た場合には本書に目を通し,その怒りを静め,気を取り直して現場に戻ろう。そうすれば,エラーすることなく適切な対応ができるだろう。本書はポケットサイズでスクラブや白衣のポケットに入る。ちょこっと取り出して岩田語録に目を通せば,気が静まる6秒などあっという間に経過してしまう。ABCDがわからないって? 続きは本書で……。

B6・頁176 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03678-8

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