はじめに 在宅医療カレッジとは
「在宅医療カレッジ」は、2015年にスタートした医療・介護多職種のための学びのプラットフォームです。
その「キャンパス」はwebにあります。よりよい在宅医療・ケアを提供していくため、多職種が共有しておくべき知識について、それぞれのフィールドで活躍するトップランナーを「教授」に迎えて定期的なセミナーを開催し、Facebook上で登録されている1万人を超えるメンバーに、24時間の学びと交流の機会を提供しているものです。
その最大の目的は「スムーズな多職種協働を通じて、理想の在宅医療を実現すること」です。
多職種協働の重要性は介護保険スタート時から叫ばれています。しかし、施行から18年を経過した現在でも、これは大きな課題であり続けています。各地で「顔の見える関係づくり」が行なわれていますが、多職種協働は必ずしもスムーズに進んでいません。
集合知の結実といえるWikipediaによれば、協働(きょうどう、英:coproduction/cooperation)とは「複数の主体が、何らかの目標を共有し、ともに力を合わせて活動すること」と定義されています(2018年11月1日時点)。仲よくなっただけでは多職種のチームは機能しません。少なくとも「目標の共有」と「チームワーク」の両方が必要なのです。
専門職は自身の専門性を磨くことに専念する傾向があります。しかし専門性の殻に閉じこもっていては、多職種協働を通じてその専門性を効果的に発揮していくことはできません。専門外領域における課題の広がりと、自分以外の専門職の役割を理解しておく必要があります。また、共有された目標を達成するためには、課題意識の共有、課題解決に向けてのプロセスの共有も必要となります。つまり、単なる「顔の見える関係」だけでは、チームワークは発揮できないのです。在宅医療カレッジは、専門性の枠を越えた合同の学びの場を提供することで、在宅療養支援に必要な知識やスキルの全体像を俯瞰し、より効果的な役割分担、そしてそれぞれの専門職の役割を再定義することをめざしています。そのなかで、専門職は「自分が提供すべき専門性」ではなく「自分が求められている専門性」という視点で、自らの知識とスキルを磨いていくことが重要であると考えています。
しかし、在宅医療における「学び」には難しさがあります。在宅ではそれぞれの専門職が独立して仕事をしていることが多く、現場で同職種・他職種から学ぶ機会がそもそも少ないのです。自ら意識しなければ最新の知見に触れることが難しく、日々の業務のなかで、専門職としての成長が滞る可能性があります。成長が滞ると、自らの仕事の本来の目的を見失い、業務そのものが目的化してしまう危険もあります。
また実際の現場では、多職種協働の役割分担のなかで、専門外領域との接触機会そのものが少なく、自分が「知らない」こと自体に気がついていないケースも多いのです。
だからこそ、在宅医療カレッジは、
① 各専門職に「気づき」を通じて学びのモチベーションを刺激すること。
② 自主的かつ効果的な学びのためのナビゲーションを提供すること。
この2点にとくに留意してきました。
そして、各回の講義を担当していただく教授を招聘するにあたっては、単に「優れた専門家」というだけではなく「未来の課題解決のために全力で取り組んでいる情熱的かつ魅力的な専門家」であることを重視してきました。ここで発信されたメッセージによって専門職としての新しい生き方を見出した仲間も少なくありません。
しかし、このような直接対話型の教育プログラムには、さまざまな物理的制約が存在します。この制約を乗り越えて参加する仲間の多くは、実はすでに高いモチベーションをもっています。そして学びたい人は、自分の力で学ぶことができます。理想の在宅医療・ケアを実現するために本当に必要なのは、現時点で「学び」に対して消極的な人たちのスイッチを入れること。そしてそのための「気づき」のメッセージなのではないでしょうか。
ライブの現場に集うことができる幸運な100~200人程度が享受している素晴らしい講義を、より多くの人に届けることができれば、そしてそこに込められた教授陣の熱い思いを一点に集約することができれば、多くの消極的な専門職の固定観念と現状維持の固い殻を打ち壊し、成長のためのエネルギーを提供することができるかもしれない――。そんな思いで、これまでの講義のダイジェスト版として、現在と未来に活用できるメッセージに焦点を当てて本書を企画・編集しました。
まずは、読者それぞれが惹かれる冒頭のことば
key message に目をとめていただけたら嬉しいです。
本書を通じて、1人でも多くの仲間が、理想の在宅医療・ケアを実現し、よりよい未来を創るためのチームの一員となってもらえることを願っています。