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第3306号 2019年1月21日


【寄稿】

集中治療・救急医療領域で期待される薬剤師のリーダーシップ

安藝 敬生(長崎大学病院薬剤部/救急認定薬剤師)


 患者のQOLを改善する――。これは薬剤師が患者さんのケアを行う上で達成すべき成果(GOAL)との考え方があります。例えば,患者さんのアドヒアランスが低下していることが明らかで,病識・薬識の不足が原因の一つとすれば,計画的でオーダーメイドな服薬指導を行うことで結果的にその患者さんのQOLは改善するはずです。一方で,薬剤師にできる「患者のQOL改善」は,病識・薬識の不足によるアドヒアランス低下に対する服薬指導に限りません。

 集中治療・救急医療領域では,患者さんの緊急度や重症度が高く,多くの医療スタッフの個々の専門性を束ねた迅速かつ高度で安全な医療の提供が求められます。病態も多岐にわたる上に多くの合併症を来し,外科的な介入とともにさまざまな薬物療法が行われます。このような状況で,薬剤師が「患者のQOLを改善する」という成果のために,医師・看護師をはじめとした他の医療スタッフとは異なる薬学的な観点で何ができるでしょうか。

薬学的介入で必要とされる役割を考える

 例えば,循環不全や全身性炎症反応症候群に伴う多臓器不全での投薬,敗血症のように分布容積が過度に増大した状況での投薬となれば通常の薬物動態とは大きく異なり,変動に合わせて効果/副作用を最適化する,あるいは用法・用量へのこまめな介入や影響を受けにくい他剤への変更(薬剤選択)への関与が求められます。

 急性腎障害に循環不全を合併した患者さんに対し,オーダーメイドな持続的血液濾過透析の施行時は,残存腎機能から,投与される薬剤のクリアランスと持続的血液濾過透析の透析条件依存的なクリアランスを踏まえた用法・用量の最適化(投与設計)が求められます。また,複数の合併症を来し,既往疾患の治療継続も必要となるケースも存在するため,多くの薬剤を併用します。重症の患者さんでは消化管機能も低下しており,確実かつ調節性に優れた注射剤での投与が基本となるため,限られた投与ルート数で複数の注射剤を投与するルート設計には薬剤師のかかわりが強く求められます。

 さらには,薬剤はある病態の存在下では使用ができなくなる(禁忌)条件があり,このように急激に病態が変化する,あるいは合併症を来しやすい状況では,投与している薬が安全に使用可能かを継続して確認することも必要となります。

 薬剤師が薬剤師としての専門性を生かし患者さんのQOLに貢献するためには,チーム医療の一員として動くことが非常に重要です。看護師の観察力・情報力,医師の診断・診察・方針決定,臨床工学技士や理学療法士,管理栄養士等との連携なくして多種多様な患者さんにタイムリーで最適な薬学的介入は困難であると考えてよいと思います。

ABCDEバンドル実践に薬剤師がリーダーシップを発揮

 現在,当院高度救命救急センターで具体的に取り組んでいるテーマの一つにPAD(Pain;疼痛,Agitation;不穏,Delirium;せん妄)管理があります。近年集中治療による救命率が向上する一方,集中治療中や退院後に生じる運動機能障害,認知機能障害,精神障害は長期的なQOL低下や死亡率上昇に寄与することが示され,2010年に米国集中治療医学会よりPICS(Post Intensive Care Syndrome;集中治療後症候群)の概念が提唱されました。

 PICSには過剰な鎮静や不必要な安静など医原性の要因が関与すると考えられ,この発症因子を改善し予防していくためのABCDEバンドル()が示されています。

 ABCDEバンドルの内容(文献1より抜粋)

 具体的な流れは,鎮痛・鎮静レベルを評価しながら鎮静薬の減量・中断により患者を覚醒させ,自発呼吸を促し,これを繰り返す間にもせん妄の評価とリハビリは継続し,早期離床を図るものです。

 このバンドルの実践は一つの職種のみでできるものでは決してありませんが,当院では当初,エビデンスと実臨床の間に少なからず溝が存在していました。そこで,チームの中で薬剤師が中心となって果たすべき役割について,①十分な鎮痛(鎮痛薬の選択と用法・用量)とその評価,②不要な過鎮静の回避(鎮静薬の選択と用法・用量),③せん妄の適切なモニタリングとそのマネジメント,④薬剤による早期離床遅延の回避の4点を,救急看護認定看護師と綿密に協働し,課題を踏まえながら洗い出しを行いました。

 まずは,概念やエビデンス,全体像の教育,適切な痛みスケール・鎮静スケール・せん妄スクリーニング評価の標準化を行いました。次に,実患者さんで実施された評価をもとに,高度救命救急センター医師,受け持ち看護師と共に薬剤選択,用法・用量,非薬物療法の積極的な併用,そして振り返りを行っていきました。現在はこの評価を高度救命救急センターにかかわる医師,看護師,薬剤師,理学療法士全ての職種で共通に実施しています。個々の症例についてチームでバンドルを丁寧に実施することで,目に見えて早期離床が進むようになったとの実感があります。

薬剤適正使用を可能にするマネジメントの実行を

 さらに次のステップとして,専門家が不在でもこの日常的な評価によるアセスメントプラン,アクションが実行できるよう標準化の検討を行っています。高度救命救急センター医師,看護師,薬剤師,精神科リエゾン医師,理学療法士でマネジメントチームを立ち上げ,薬剤選択・鎮静薬と鎮痛薬の具体的な用量調節プロトコールを作成し,日々の問題点を抽出した情報共有,医療スタッフ向け勉強会の開催などを行っています。今後このプロトコールの運用が患者さんにどのようなアウトカムを及ぼしたか評価を行っていく予定です。

 集中治療・救急医療領域における薬剤師の役割は,ともするとベッドサイドばかり注目されるかもしれません。しかし,患者さんのQOL改善に向けた薬剤師の専門的なかかわりはベッドサイドに限りません。患者さんの病態が刻一刻と変動する環境では,薬剤選択・用量調節を適切に行うプロトコールの作成,プロトコールを動かすための情報の集約化,日々の運用マネジメントといった,薬剤師不在でも動ける薬剤適正使用のシステム作りへのリーダシップも重要と考えています。

今後求められる業務指針作成,エビデンス創出

 近年,集中治療・救急医療領域での薬剤師の活動による医療の質向上が示されるようなってきましたが,薬剤師のこの領域での歴史はまだ浅く,介入や教育の標準化も十分とはいえません。診療報酬の後押しもあり,薬剤師のICU関連業務への関与の割合は専任・専従合わせて29%2)で年々増加傾向にあるものの,かかわり方は各医療機関の機能や運営体制,人員配置等の環境によりさまざまであり,業務内容は試行錯誤の中で決められているのが現状です。現在,この課題を少しでも克服すべく日本集中治療医学会「集中治療における薬剤師のあり方検討委員会」において薬剤師の業務指針の作成に取り組んでいます。

 また,施設間を超えたOff the Job Trainingに加えてOn the Job Trainingの機会の充実も課題と考えています。そして何より重要なのが,チーム医療の一員として他の医療スタッフとコミュニケーションをとる力です。チーム医療とは,医師,看護師,薬剤師などの医療スタッフが患者個々の問題に対して共通の方針を持って互いの専門性を尊重し,能力を引き出し合い,最善の医療を提供するという,どの分野でも共通する取り組みです。患者の容態が多様で,時間単位で変化する集中治療・救急医療領域では,医療スタッフとの綿密なコミュニケーションがあって初めて,薬剤師が存分に力を発揮することが可能となるのです。

 今後,このような課題を少しずつクリアしながら,薬剤師のチームへの参画が患者さんのアウトカムにどう影響を与えるかに関するエビデンスの創出をはじめ,集中治療・救急医療領域の薬物療法や薬物動態に関する研究成果,医療安全への貢献をより明確に示していくことが期待されます。

参考文献
1)Chest. 2010[PMID:21051398]
2)日病薬会総務部.平成29年度「病院薬剤部門の現状調査」集計結果報告.日病薬誌.2018;54(9):1041-110.


あき・けいせい氏
2004年九大大学院薬学府修士課程修了。福岡徳洲会病院を経て,09年福岡大薬学部助教。10年より長崎大病院に移り高度救命救急センターの設立に関与する。11年に日本臨床救急医学会救急認定薬剤師第1回認定試験で資格取得。現在,日本集中治療医学会「集中治療における薬剤師のあり方検討委員会」委員として薬剤師の業務指針作成に携わる。集中治療・救急医療領域における患者アウトカム改善に関する薬学的な研究を進める。