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第3270号 2018年4月23日


Medical Library 書評・新刊案内


看護学のための多変量解析入門

中山 和弘 著

《評 者》窪田 和巳(横市大助教・臨床統計学)

研究課題に合った分析手法を選ぶために

 多変量解析は複数の値から成るデータ(多変量データ)を扱う統計手法であり,看護研究においても活用される場面が年々増えてきています。これまで,統計手法をわかりやすく解説する書籍は多数出版されてきましたが,本書は看護学分野の教育研究者として長年従事してきた著者が,統計への苦手意識を持つ看護職や大学院生を指導してきた経験も踏まえ,読者の視点に立ったさまざまな配慮のもと書き上げられている印象を受けます。

 本書においてまず特徴的なのは,著者も「序」で述べていますが「すべての共通点としての重回帰分析に注目している」点だと考えられます。重回帰分析は,看護分野のみならず,保健医療分野で最も使用される統計手法の一つですが,各項において重回帰分析の要素を盛り込んだ具体的な事例の数々は,著者の言葉を借りれば「重回帰分析の奥深さ,ダイナミックさを感じ取る」ことができる内容になっており,読み応えがあります。

 また統計解析の実例場面では,統計解析ソフトSPSSの出力場面を用いて説明している点も特徴的と言えます。近年では,SAS,JMP,STATA,Rなどさまざまな統計解析ソフトが流通するようになりましたが,現在私自身がさまざまな統計相談(コンサルテーション)を受けている経験上からも,特に看護職からのコンサルテーションではSPSSが最も活用されている印象を受けます。統計解析結果により得られる図表や,その解説が含まれている点は,読者が実際にSPSSを使用した際に,画面上のどの部分に注目すればよいか確認が容易になることからも有益と考えられます。

 その他,①ベン図(集合の関係を図式化)をはじめとした図式の積極的な活用により,視覚的に理解しやすい配慮がなされている,②計算式を最小限にとどめ,かつそのほとんどが四則演算(足し算,引き算,掛け算,割り算)程度にとどめている,③著者がこれまで経験した大学院生とのQ&Aのコーナーを適宜設け,統計学の初学者が疑問を持ちやすい点についてその場で解決できる内容としているなど,これまで統計に対して苦手意識を持っていた読者層にとっても読みやすい配慮がなされています。

 本書はこれから看護研究に取り組む臨床看護職や看護学分野の研究者をはじめ,医師や薬剤師,理学療法士,作業療法士など,保健医療にかかわるさまざまな分野の方々にも必要とされる知識を習得することができる優れた著書だと言えます。特に,重回帰分析,分散分析,ロジスティック回帰分析,生存時間分析をはじめ,マルチレベル分析や構造方程式モデリングなど発展的な内容まで紹介されているため,本書を通じて,研究課題に合わせて適切な分析手法の選択ができる医療者が増えていくことを期待します。

B5・頁328 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03427-2


絵でみる脳と神経 第4版
しくみと障害のメカニズム

馬場 元毅 著

《評 者》山内 豊明(名大大学院教授・基礎看護学)

脳と神経の「実体」をつかむ,ゴールデン・スタンダード

 このたび,馬場元毅先生の『絵でみる脳と神経』が改訂され,第4版となりました。本書の初版発行は1991年であり,26年もの歳月を越えて読み続けられている名著です。

 人体は目にみえて手で触れることのできる揺るぎない「実体」のあるものです。その実体を読者の目に映してくれる比類なき秀逸なイラストは,まさに自らの目でみて手で触れている者の手によるからでしょう。そこに描かれているのはただの線の集まりではなく,人智の集積である学問的知見の裏付けがあるメディカルイラストレーションなのです。

 脳・神経というと,動いたり音を立てたりしているものではない分,その実体感をアピールしづらいシステムでしょう。しかしその精緻で巧妙な仕組みは,非常に規則的に組み立てられています。そのため,ひとたびある程度の解剖生理学的な理解に達してしまえば,目の前の現象を原理原則でほぼつかめるのです。その有力な手助けとなるものが,優れたシェーマであり,明快な説明文と言えるでしょう。

 難しいことを誤解なく正しくわかりやすく伝えることは,実に面倒なことです。難しいことを難しい術語で記述することは,ある意味,言葉の言い換えにすぎません。読み手が持ち合わせているであろう適切な受け皿に正しく落とし込んでこそ,「伝わった」という成果が得られます。著者の馬場先生は,それこそわが使命とお考えでしょう。読者を,そしてその読者である医療職者にケアを受ける患者さんのことを常に第一にお考えの馬場先生だからこそ,「伝わってこそ」の細心の記述と描画になっているものと思われます。

 ところが一方,学問では常に新たな仮説の提唱とその検証が絶え間なく続きます。それまで絶対的なものとして当たり前のごとく信じられてきたことに挑戦し,その挑戦を受けていくのが学問の宿命です。変わることのないと思われている解剖学的知見にもそれがみられます。

 その一例が髄液の循環です。概念が変われば対処や治療も根底から変わってくるものも少なくありません。人智がステップアップしていく中で,それを基に活動する者が正しくキャッチアップしていかなければ,患者さんが享受し得る利得を正しく提供し損ねてしまいます。

 その意味からも,既に得ている高い評価に甘んじることなく,常にその内容を誠実に見直し続けている馬場先生のお姿は私たち後輩のかがみです。

 揺るぎなき実体の描写と記述,たゆみなき学問への関心とその正しい普及,これこそ本書の本書たる魅力に他なりません。これからも本書がゴールデン・スタンダードであり続けることを信じています。

A4変型・頁264 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02783-0

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