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第3247号 2017年11月6日


【interview】
福武 敏夫氏に聞く

病歴にこだわる神経診察
知識と推理で単純に

福武 敏夫氏(亀田メディカルセンター神経内科部長・内科チェアマン)
佐野 正彦氏(汐田総合病院神経内科)=聞き手


 神経学は眼球運動異常などの複雑な項目から始まる網羅的な教科書が多く,人名が冠された症候名や手技名が次々に出てくることから,“Neurophobia(神経学嫌い)”の内科医,総合診療医は少なくない。

 神経内科医だけでなく脳神経外科医や総合内科医にまで幅広く好評を博した『神経症状の診かた・考えかた――General Neurologyのすすめ』(医学書院)を著した福武敏夫氏は,まずは日常診療でよく遭遇する症候や病態をとらえ,どう診断に結び付けるかの道筋を知ることが重要だと言う。本紙では,神経内科専門医の佐野正彦氏がインタビュアーとなり,福武氏自身の経験を通じた神経診察のポイントを聞いた。


佐野 私はもともと総合内科系の医師でしたが,家庭医療専門医として往診をする中で神経内科に関心を持ちました。何となく往診しているだけで明確な診断はできていない患者や症状の説明がつかない患者がいて,実際には治療可能な神経疾患だった経験をしたのが神経内科へ転身したきっかけです。当院には平山惠造先生(千葉大名誉教授)が月に1度回診に来ており,これまで自分が神経症状を漠然と診ていたことにあらためて気付かされました。今日は福武先生に,神経診察のポイントを教えていただこうと思います。

神経診察は病歴に始まり病歴に終わる

佐野 そもそも非専門医が神経疾患に苦手意識を持ちやすいのはなぜでしょうか。

福武 神経疾患を診るのが難しい理由には2つのパターンがあります。

 1つは医師自身の知識不足。表面的な知識で誤ったキーワード設定をしてしまうと,間違った診断をしてしまったり,一生懸命調べてもいつまで経っても答えにたどり着けなかったりします。患者に余計な検査を行って負担を掛けてしまうこともあります。

 もう1つは,患者から必要な情報を聞き出せていないことです。神経診察の肝は病歴聴取にあります。「どのような人が,いつから,どこが,どのように」悪いのか,4W1Hを丁寧に聞くのは診断の基本ですよね。個々の疾患・病態にはそれを起こしやすい患者がいますので,年齢,性別,職業,体型などの基本的背景の把握は最重要です。病歴聴取に簡単で本質的な身体手技を加えれば,神経疾患のほとんどをカバーできます。

佐野 限られた診察時間の中で有効な病歴聴取をするのはかなり難しい技術だと思います。

福武 病歴はオープンに聞くだけでは必要な情報になかなかたどり着けません。「聞く」だけでなく,方向性を決めて「訊く」ことが必要です。

佐野 「こんな症状がありませんか?」と整理して聞き出していくのですね。疾患ごとに病歴聴取の引き出しを作るためにはどうすればよいでしょうか。

福武 まずは,頭痛,めまい,しびれといった外来や救急に最も多い症状について,第一に考慮すべきポイントを押さえることが重要です。

 例えば片頭痛は,伝統的に挙げられる片側性や拍動性は診断のポイントではありません。片頭痛は「頭痛+感覚過敏」の症候群なので,「暗い静かな所で横になりたくなる頭痛」と覚えるとよいです。POUND診断が流行しているようですが,誤診を生みやすいので注意すべきです。群発頭痛と片頭痛の鑑別なら,群発性か否かよりも痛みがあるときにどのように過ごしているか。片頭痛は寝込みますが,群発頭痛は耐え難い痛みで動き回ります。このことのほうが流涙云々よりも診断価値が高いです。

佐野 誤診の原因には病気の自然歴を知らないこともありそうです。教科書にはあまり書かれていないし,書いてあっても多数の情報の中で埋もれています。指導医も知らないので総合内科時代は困っていました。

福武 初学者は診断基準やガイドラインを重視しすぎる傾向があります。それらは情報を整理するには有用ですが,実臨床では病歴や患者背景を重視すべきです。そうでないと,どんなに勉強熱心でも的を外してしまう。

 例えば,総合内科の指導的立場にある人が,「側頭部の痛み」というキーワードで10歳児の鑑別に側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)を挙げていたことがありました。それは60歳以上の中高年に多い病気です。

佐野 症状に対して仮説演繹的に鑑別診断を並べる方法では,あり得ない鑑別まで挙がってしまうことがあるということですね。

本質的な身体手技を押さえる

佐野 福武先生は実際にどのような手順で診察をしているのですか。

福武 外来では,患者の入室から着席までの動きで歩行を見て,主訴と簡単な日時関係を聞いていきます。歩行と会話に明らかな異常がなければ,診察すべき範囲はかなり狭まります。多くの場合,問診と並行して腱反射を診て方針を決めます。

佐野 なぜ,まず腱反射を診るのでしょうか。

福武 反射の変化は神経機能障害早期の軽微な現れを示しますし,随意的コントロールが難しいため客観的に判定できます。また,診察に協力が得られない場合でも施行できます。問答しながらだと患者の気が反れてより判定しやすくなります。

 たかが腱反射と侮ってはいけません。そもそも,きちんと腱反射を診られている人は意外と少ないんです。私は以前3年間ほど専門医試験の面接員をしていましたが,診察手技は腱反射をきちんと診られていれば合格にしていました。腕橈骨筋反射を診るといっても,どれが腕橈骨筋か正確に言えない人はだめですね。機序もわからずに固有名詞ばかり覚えても役に立ちません。神経診察をシンプルに進めるためには,神経系の基本的解剖を理解することが近道です。私の場合,運動系,小脳系,感覚系,自律神経系という系統とそのレベルに分けて神経系の解剖を縦に単純に整理しています。

画像に頼りすぎない

佐野 画像に頼りすぎることにも注意しないといけないと感じています。最近,「足が痙性麻痺で階段の下りが苦手」という所見が明確にあるにもかかわらず,画像に異常がないためにどの病院でも心因性を疑われてきた多発性硬化症の患者がいました。

福武 所見がない場合もそうですが,何か所見あった場合に安易に結論に結び付けることも問題です。「ヘルニアがあるから,それによる痺れだ」とか。

 画像診断のピットフォールには,撮像部位選択の誤り,画像手段選択の誤り,読みの不足,短絡的判断,アーチファクトへの理解不足などがあります。例えば,症状から脳幹病変や低髄圧症候群を疑った場合は,初めから造影MRIをすべきですよね。脚に異常があるからと一様に腰から調べ始めたり,下半身の病気だからと胸髄以下で撮ったりというのではなく,神経症候をもとに頸髄のことも考えて検査しないと,病変は見えません。

他の疾患と間違われやすい疾患

福武 他科疾患の患者が神経内科に来た場合,その理由を考えることも勉強になります。例えば,脳梗塞と言われていたけど実際はパーキンソン病だった人。パーキンソン病の運動障害が一側に限られている段階で受診し,頭部MRIでラクナ梗塞などがみられると誤診されやすいです。リウマチや変形性脊椎症と間違えられている人も多いですし,その逆もあります(表1,2)。

表1 パーキンソン病と誤診されやすいパターン1)

表2 脳卒中と紛らわしい病態1)

佐野 パーキンソン病として治療しても一向によくならないと思ったら,別の疾患だったということもありますね。

福武 そうした例を共有することでお互いの科の診察レベルが高まります。

 特に重要なのは,原因が特定さえできれば治る病気です。例えば,発作性運動起原性ジスキネジアは10歳前後の小児に多く,抗てんかん薬が効果を持ちます。知らないと病気だと気付きにくく,教師などから悪ふざけと誤解されてしまう。脳神経外科や整形外科でも診る可能性があるので,ぜひ知ってほしいです。

佐野 神経内科には心因性を疑われてきた患者も多いですよね。先日は精神科の患者が,歩けなくなったと来院しました。腱反射は正常で,筋トーヌスは高度に低下。抗不安薬の過剰摂取を疑い,調整したところ良くなりました。

福武 神経内科では薬のチェックは最初にすべきことの一つです。外来患者の何割かは,薬を整理したらよくなります。関係ないかもしれなくても,鑑別を始める前に全部,徹底的に調べる。

 その他,心因性と間違えられやすい疾患にはパターンがあるので確認してください(表3)。

表3 心因性と誤診されやすいパターンと代表例1)

佐野 複数の病院で心因性を疑われてきた患者は医療不信があることが多く信頼関係構築が難しいです。心因性か器質的な病気かは病歴と身体所見で見分けられることが多いので,そうした患者ほど丁寧に訴えを聞くべきです。

福武 そうですね。まずはコモンな病気についてよく知ること,そしてよく診て,訊いて,患者から学ぶこと,さらにわからないことは調べ,考え,知識と組み合わせて推理することが神経診察の大きな流れです。

 そうした中から,新発見が生まれることもあります。例えば,大学院生が外来で見つけた症例ですが,皮質の小梗塞による一側肩麻痺例がありました2)。この報告以前は,肩が上がらない症例は皆,整形外科,脊椎外科疾患として扱われていたかもしれません。

「一症例」から「症候学」へ

佐野 福武先生が発見したCARASILについて,疾患概念確立に至るまでの経緯を教えてください。

福武 最初に論文を発表したのは研修医4年目のときです3)。両下肢のしびれを伴う腰痛の手術歴がある方で,30歳前にデメンチアが始まっていました。そしてその弟も酷似した症状と経過を示していたのです。慢性多発性硬化症や白質ジストロフィーではないかと言う声があったのですが,少し違うと感じました。類似した症例の報告はなかなか見つからなかったのですが,諦めずに調べ続けたところ「壊死性血管炎」などとした報告がありました。

佐野 「これは何か変だ,いつもと違う」と思う気持ちは大切ですね。

福武 発表時には7例のみでしたが,発表後に全国で次々報告が上がり,17例で英文総説を書きました。辻省次先生(前・東大大学院神経内科学教授)の下に検体の集中を呼び掛け,小野寺理先生(新潟大脳研究所神経内科学教授)のチームが遺伝子変異を発見してくれました4)。皆さんも,遺伝子,抗体,画像,いずれであれ特徴を見つけたらそれに満足するのではなく,神経症候学の発展につなげてほしいです。

佐野 日常診療の惰性で「常識」的に物事を処理することが多いですが,「常識」を疑うことも重要なのですね。

福武 多数の症例の蓄積による解析などは大学や研究機関の役割ですが,医師個人が臨床の一例一例を大事にすることも症候学の発展に寄与します。

佐野 過去の症例報告では,症候がつぶさに観察され,記載されています。それが今の症候学の土台になっていることは間違いないと思います。

福武 新しい症候を見つけるのはなかなか難しいですが,既存の症候の病態機序を明らかにする可能性もあります。

 症候学には,病気の本質を見つけるまで系統的に狭めていく側面と,本質が見つかってから,それを広げる側面があります。例えばCARASILは,表現型が絞り込まれ原因遺伝子が特定された当初は劣性遺伝とされていました。しかし,ヘテロの場合は若いうちには発症しないだけで高齢になれば症状が出るのではないかと推測していたところ,実際に証明されました。

 疾患の全徴候がそろってないと「違う」と言うのでは進歩がありません。全部そろっているなら誰でもわかります。そろっていなくてもその疾患である可能性はあるし,調べる価値は高いのです。抗NMDA受容体脳炎がよい例です。

佐野 福武先生の神経症候との向き合い方にロールモデルはいるのですか。

福武 チャールズ・ミラー・フィッシャー先生は私が憧れる医師の一人です。80代になっても論文を著し,90代になっても若いレジデントと回診していたそうです。彼のエピソードに,単眼の失明で運ばれてきた患者の眼底をのぞき,塞栓を発見,その場でスケッチして,機序を予測した論文を書いたというものがあります。先生は心原性塞栓症やラクナ症候群をはじめとしたさまざまな病態について,患者の訴えをよく聞き,病歴を整理し,観察し,調べ,推理していくことで機序を解明して,脳卒中学を確立しました。

佐野 フィッシャーについての福武先生の論考5)に,「現在の神経学の主領域は特に運動と感覚の面に置かれているが,(中略)精神的・情動的側面の複雑さを探求することに挑戦させようとする神経疾患の終わりない一群がある」とあります。今後General Neurology(総合神経学)がターゲットとすべき重要な方向性だと思います。

福武 同感です。例えばヒステリーは,背景に強いストレスなどがあり,内分泌環境や辺縁系に二次的な大きな影響を与えるのではないかと思います。古典的な神経学を大切にした上で,それで理解できないものを切り捨てるのではなく,包摂していく必要があります。

佐野 神経症候学を発展させていくために私たちは何ができるでしょうか。

福武 一番大事なのは,気になった症例はできるだけ詳しく記録に残すことです。所見は徴候の+/-だけでなく,見たままを言葉で補う習慣を付けておくと,後で振り返って考えるヒントになります。そして,仮説を立てて身近なところから広めていくこと。症例数が集まらないと,検証できません。多くの人に関心を持ってもらうことが,症候学発展の第一歩です。

(了)

参考文献
1)福武敏夫.神経症状の診かた・考えかた――General Neurologyのすすめ 第2版.医学書院;2017.
2)Neurology.2003[PMID:14638987]
3)臨床神経学.1985[PMID:2933202]
4)N Engl J Med.2009[PMID:19387015]
5)福武敏夫.チャールズ ミラー フィッシャー――偉大なる観察者.BRAIN and NERVE.2014;66(11):1317-25.


ふくたけ・としお氏
東大理学部数学科中退。医学系予備校講師を経て,1981年千葉大医学部卒。同大大学院医学研究院神経病態学助教授を経て,2003年から現職。04年千葉大医学部臨床教授。『神経症状の診かた・考えかた――General Neurologyのすすめ 第2版』『標準的神経治療 しびれ感』(共に医学書院)など著書,編書多数。

さの・まさひこ氏
一橋大経済学部卒。石油開発会社で資材,調達,営業等を経験した後,2008年高知大医学部卒。王子生協病院にて初期・後期研修,近森病院神経内科を経て,13年より現職。病歴と身体所見で診断する神経内科医のアートに魅せられ,神経内科を研修する。家庭医療専門医・指導医,神経内科専門医。