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第3241号 2017年9月25日


【対談】

誤嚥性肺炎の予防・ケアをけん引する看護師の役割
「とりあえず禁食」「とりあえず安静」からの脱却へ向けて

前田 圭介氏(愛知医科大学 緩和ケアセンター講師)
永野 彩乃氏(西宮協立脳神経外科病院 摂食・嚥下障害看護認定看護師)


 肺炎は日本人の死亡原因の第3位で,特に高齢者の死亡率が高い疾患だ。中でも誤嚥性肺炎は多くを占め,救命できてもその後のQOLに大きな影響を及ぼすことは多い。患者のQOLを低下させない看護を実現するためには,誤嚥性肺炎の予防とケアに関する適切な理解が必要となる。その上で,看護師はどのような視点を持って取り組んでいけばよいのだろうか。

 本紙では,『誤嚥性肺炎の予防とケア――7つの多面的アプローチをはじめよう』(医学書院)を執筆した医師の前田氏と,摂食・嚥下障害看護認定看護師で急性期病院において多くの誤嚥性肺炎患者のケアを行っている永野氏による対談を企画。誤嚥性肺炎のエビデンスと看護師に求められる対応を議論した。


前田 誤嚥性肺炎は死亡者数が多いだけでなく,罹患に付随して患者さんが「食べること」への問題を抱えやすいために重要な課題となっています。「食べる機会」を奪われることで,最終的には「口から食べられない人」になり,QOLが低下するのです。予防と,罹患時に機能を落とさないケアが必要です。

永野 口から食べることができるかどうかはQOLに大きくかかわります。「食べたい」と思っている患者さんがしっかり食べられるような看護を提供したいという思いは強く持っています。

前田 近年,口腔ケアの概念が広まり,誤嚥性肺炎の予防とケアの取り組みは着実に進歩しました。しかし,支援は口腔ケアだけではありません。改善の余地があると感じています。「食支援」について看護師の率先した働き掛けを期待しています。

永野 排泄や点滴などのケアは,「全身」をみて行う必要があります。食支援でも全身をみるという看護の視点を持ったアセスメントを通じてかかわっていきたいですね。

前田 そこで今日は食支援を中心に,誤嚥性肺炎で生活機能を落とさないために看護師が果たす役割について議論していきましょう。

今知っておきたい,誤嚥性肺炎の2つのエビデンス

◆誤嚥リスク≠誤嚥性肺炎のリスク
永野 誤嚥性肺炎の原因と予防のエビデンスを知りたい看護師は多いです。まず,原因は何なのでしょうか。

前田 以前は「誤嚥リスク=誤嚥性肺炎のリスク」だと考えられてきたように思います。確かに誤嚥は誤嚥性肺炎の発症リスクの一つです。しかしながら,近年多くの研究が進んでおり,より複合的だとわかってきました。「言語聴覚士(ST)が誤嚥の危険を指摘し,経管栄養を施行した群」と,「危険を指摘されつつも経管栄養を拒絶し口から食べ続けた群」を比較したところ,口から食べ続けた群のほうが誤嚥性肺炎の発症率が低く,「STが食べ続けてよいと評価した群」と差がなかったという興味深い報告があります1)。つまり,「誤嚥リスク=誤嚥性肺炎のリスク」ではないということです。

永野 誤嚥リスクと誤嚥性肺炎リスクが異なることを意外に感じる看護師は多いと思います。

前田 医師も同様です。医師も誤嚥性肺炎を防ぎたいと考えていますが,「誤嚥リスク=誤嚥性肺炎のリスク」と判断しがちであることは多くの現場で見られる課題です。

 そこで,誤嚥性肺炎の予防に何が重要かというと,入院中のADL維持と口腔ケアです2)

永野 口腔ケアはもちろん,入院中にADLを保つというのは特に大事なキーワードですね。ADL維持は看護師の大きな役割の一つです。誤嚥性肺炎のリスク軽減に看護師の働き掛けが重要だと再認識しました。

◆禁食≠誤嚥性肺炎のリスク低減
永野 誤嚥性肺炎のリスクが高い人は,もともとの口腔機能やADLがあまり高くないため,たとえ数日間の禁食でも身体機能に大きな影響を及ぼすと感じます。口腔機能や生活機能の低下につながりかねない禁食は避けたほうが良いのではないのでしょうか。

前田 誤嚥性肺炎の予防に関して禁食の影響を評価した研究3)があります。胃瘻患者で禁食を継続した1年間と,ゼリーなどを食べた1年間を比較したものです。誤嚥性肺炎が少なかったのは禁食をしていない年でした。他にもさまざまな研究がありますが,食事摂取が誤嚥性肺炎を増やすというエビデンスはなく,食事をしたほうが誤嚥性肺炎は減ると考えられています。

永野 誤嚥性肺炎予防や治療のため禁食指示が出る現場も多いようです。医師はどのように考えているのでしょう。

前田 実は,医師には考えと行動の不一致があります4)。誤嚥性肺炎治療中の絶食期間について,「十分な期間が必要だ」と考えている医師はわずか3.4%。しかし,実際の行動では一定期間禁食指示を出していると答えた人が25%でした。その約半分は3~7日,4分の1は1~3日の絶食を指示しています。

 「とりあえず禁食」という指示が出されるのは,治療中のケアも誤嚥リスクを元に対応してしまっていることが一因だと思います。

永野 たとえエビデンスがあっても,現場では「とりあえず禁食」の指示に対して看護師からの効果的なアプローチは難しいのが実情でしょう。その理由は目の前の患者さんへの口腔ケアや食事介助技術,効果的なADL維持の方法について,全ての看護師が自信を持っているわけではないからです。できるだけ多くの患者さんに食事をしてもらうには,看護師全員がケアのレベルを上げる必要があると思います。

前田 そうですね。病院として誤嚥性肺炎への対応力を上げるには,医師だけでなく看護師をはじめとする多職種が,食支援とADL維持にかかわる必要があるでしょう。

いかに生活機能を落とさないようにするか

永野 サルコペニアやフレイルで全身状態があまり良くない方は,誤嚥性肺炎になりやすい人です。そのような患者さんには,生活機能を低下させないケアが求められます。

前田 永野さんの言う通り,「生活機能を維持する視点」はとても大切だと思います。

永野 特に,誤嚥性肺炎で入院してきた患者さんには,最初の数日における看護師の介入が重要だと考えています。

前田 誤嚥性肺炎で入院してくる患者さんの多くは,発症前はADLがある程度保たれている場合が多いですからね。

 最近では医師・看護師などの医療者による不適切な治療やケアの結果,患者さんがサルコペニア状態になってしまう「医原性サルコペニア」という概念も生まれています。

永野 誤嚥性肺炎で起こりうるサルコペニアは,数日間禁食・安静にしたことで口腔機能やADLが低下してしまうことです。経口摂取の開始時にはさらに嚥下機能が低下しており,再び禁食指示が出されてしまうことがあります。こうしてますます口腔機能やADLが低下していくという流れはできる限り避けるべきです。

 誤嚥性肺炎の入院患者さんに対して,特に指示がなくても看護師が「とりあえず安静」にしてしまいがちだという話はよく聞きます。入院時は歩けていた患者さんを医療者が寝かせ続けてしまうことで,ADLが低下してしまうことに問題意識を持っています。

前田 「禁食」指示が出ていたとしても,「禁食=安静」ではありません。解決のために有効な考え方はリハビリテーション栄養だと思います。リハビリテーションは,セラピストの行うリハビリテーションではなく,「生活機能が落ちないように行う生活支援」のことです。また,栄養という言葉には栄養量だけでなく,「身体活動の確保」という視点が入っています。

永野 看護師は患者さんの生活機能の変化を一番把握している職種です。起床,移乗,排泄など全身のケアを提供し,1日のリズムを整え覚醒を促すことで身体活動を維持することなども考えていきたいです。

禁食解除のキーフレーズ!「唾液が上手に飲めています」

前田 臨床の口腔ケアについて聞きたいです。私が誤嚥性肺炎の患者さんを担当するときは,最初の食事の前に患者さんの口腔コンディションのチェックを兼ねて,看護師に口腔ケアを行ってもらいます。永野さんはどのような工夫をしていますか。

永野 「この人が食べられるようになるにはどうしたら良いか」を意識して取り組んでいます。具体的には,口腔内を清潔にする口腔保清だけでなく,口の隅々までライトで照らして粘膜や口の動きの状況を観察します。口腔機能を高める間接訓練を組み合わせた「機能的口腔ケア」を心掛け,実施しています。短時間のかかわりでも,このような2つの視点を持つことで患者さんのアウトカムは変わると感じています。

 禁食の患者さんの口腔ケアをしていると,食事を再開できるのではないかと感じる患者さんもいます。そのとき,看護師は医師にどう提案したらよいのでしょうか。

前田 唾液の嚥下状態をチェックし,「口腔ケアのときに,上手に唾液を飲めています」と報告するのがおすすめです。ケアに直接当たっている看護師の言葉だからこそ,医師の判断に与える影響は大きい。口腔機能を看護師が評価し,食事の再開につなげられる例もあると思います。

食事介助技術の習得はハンズオンセミナーで

永野 経口摂取をするとなれば,ケアは患者さんに「食事を出して終わり」ではありません。特に口腔機能や生活機能が低下気味で,誤嚥性肺炎のリスクが高い人に安全に食べてもらうためには,適切な環境整備と食事介助技術が不可欠だと思います。

前田 同感です。誤嚥性肺炎を起こしやすい人に対しては個別的な計画,評価を考慮したいものです。

永野 計画を着実に実行するには現場ならではの工夫が必要です。ケアの内容を事前に検討し,電子カルテ上だけに記録するのではなく,当院ではケアの場であるベッドサイドに食事や移乗などの注意点を掲示することにしています()。

 ベッドサイドの掲示(食事条件表)
看護師が食事介助の注意点や介助方法を理解し,安全にケアを行うためにベッドサイドに配置している。個別にポジショニングが必要な場合は図・写真を一緒に掲示し,質の高い看護を提供できるよう工夫をしているという。

前田 これは良い取り組みですね。個別対応のためにベッドサイドに情報を置くのは理にかなっています。

永野 実際にこの方式を導入してから,看護師のケアが均質化し,患者さんの満足度も高まりました。食事介助技術に関して,前田先生は多くのセミナーで講演されていますね。身につけるにはどうしたら良いですか。

前田 食事介助技術を身につけるにはハンズオンセミナーが最も効果的です。そして院内でもハンズオンで伝達する。

永野 食事介助技術は決して難しいものではありません。書籍でエッセンスを知った上で,私もハンズオンセミナーで経験しながら学びました。『誤嚥性肺炎の予防とケア――7つの多面的アプローチをはじめよう』では,食事介助技術がアプローチの1つとして実用的にまとまっていますね。姿勢保持などはとても参考になり学びが深まりました。

前田 本書の執筆ではシンプルに要点をまとめることを心掛けました。ハンズオンセミナーで永野さんが感じたことは何かありますか。

永野 介助する側だけでなく,介助される側の体験も有意義です。食事時の快適な姿勢や,介助される側はスプーンの動きがどう見えているのかなど体験学習はとても効果的でした。多くの看護師に食事介助に取り組んでもらいたいと思っています。

前田 患者さんの食べる量が増える実感があるので,食事介助はやりがいも大きいものです。現場では効率化を求められ,他職種に業務を任せていくという流れがあると思います。もちろん看護助手などの協力を得ることは重要ですが,特に誤嚥性肺炎リスクの高い患者への食事介助では,看護師に口腔機能の評価をしてほしい。評価は看護師にしかできませんから,さらに多くの看護師に食事介助技術を鍛えてもらいたいです。

永野 当院でも今,NSTのリンクナースを対象に毎月ミニレクチャーを実施しているので,リンクナースを通じてハンズオンセミナーで伝達していきたいと考えています。

前田 食事介助技術のスペシャリストを養成することも大切ですが,まずは現場の看護師の食事介助技術を底上げし,少しずつレベルアップしていくことが重要だと思います。

永野 本日の対談を通じて,誤嚥性肺炎を減らし患者さんのQOLをさらに高めるためには,看護師の取り組みがますます重要になると感じました。ケア,キュアに加え,予防にまでかかわれるからこそ,看護師に求められる役割は大きいのでしょう。

前田 看護師は生活支援という視点でケアを提供するからこそ,誤嚥性肺炎の予防とケアをけん引してほしいのです。医師からの指示は治療に関することが主であるため,看護師がめざす高いQOLは看護のケアで実現していかなければなりません。

永野 QOLに最もかかわるADLと食べる機能を低下させないためのケア計画を立て,実践していくべきですね。看護師として,責任を持ってケアに臨みたいです。

前田 高齢化が進む中,誤嚥性肺炎は実に重要かつ喫緊の課題です。看護師と共に患者さんのQOL向上のために取り組んでいきたいと考えています。

(了)

参考文献
1)Singapore Med J. 2005[PMID:16228094]
2)Lancet. 1999[PMID:10465203]
3)Gerodontology. 2004[PMID:15185991]
4)Tohoku J Exp Med. 2016[PMID:27885198]


まえだ・けいすけ氏
1998年熊本大医学部卒。2005年よりへき地病院,急性期病院,介護施設,回復期リハビリテーション病院等で診療,11年玉名地域保健医療センター摂食嚥下栄養療法科NSTチェアマン。17年9月より現職。誤嚥性肺炎の予防と治療中のケアについて,多面的なアプローチの包括的な提供をコンセプトに,『誤嚥性肺炎の予防とケア――7つの多面的アプローチをはじめよう』(医学書院)を執筆した。

ながの・あやの氏
2007年兵庫中央病院附属看護学校卒。国立循環器病センターSCU勤務を経て,11年より現職。14年にNST専門療法士,16年摂食・嚥下障害看護認定看護師を取得。看護学校入学前は,介護士としてオーストラリアのナーシングホームや日本のデイサービスに勤務していた。臨床でリハビリテーション栄養看護によるADLおよびQOLの維持・向上に尽力する。