誤嚥性肺炎の予防とケア
7つの多面的アプローチをはじめよう

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高齢社会で増加の一途をたどる誤嚥性肺炎。誤嚥性肺炎を予防し、最良の治療効果をもたらすために、ケア提供者が行うべきことは何か? 本書では、3つの柱(口腔ケア・リハビリテーション・栄養管理)+3つの工夫(食形態・ポジショニング・薬剤)+食事介助技術から構成される7つの多面的アプローチを紹介。あなたにできることがみえてくる1冊!
前田 圭介
発行 2017年09月判型:B5頁:144
ISBN 978-4-260-03232-2
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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はじめに

 本書は高齢者の医療や介護・福祉にかかわるすべての方に向けて執筆しました.高齢者や食べる問題を抱える方が誤嚥性肺炎を発症して入退院を繰り返し徐々に弱っていくこと,また,入院中に誤嚥性肺炎を発症して,入院した疾病ではなく肺炎を契機に身体機能や食べる機能がさらに低下する,時には命に影響することを私は実臨床で経験してきました.おそらく本書を手に取ってくださった方の多くが同様のケースを経験したことがあるのではないでしょうか.

 医学的な治療として,肺炎に抗菌薬(抗生物質)をどう使うかが議論されています.しかし,薬物治療だけではなく,もっと多くの側面から誤嚥性肺炎をケアすることで患者さんの予後がよくなることが少しずつわかってきました.また,誤嚥性肺炎の発症にも多くの因子がかかわっていて,1つの処置だけで予防が完結するものではないと考えられるようになってきました.本書では,「誤嚥性肺炎の予防と治療中のケアについて,多面的なアプローチを包括的に提供する」というコンセプトのもとに,そのほとんどのエッセンスを記載しています.
 
 本書で示す多面的アプローチは,絶対に欠かせない3つの柱(口腔ケア・リハビリテーション・栄養管理)と3つの工夫(食形態の工夫・ポジショニングの工夫・薬剤の工夫),そしてより安全に効率よく食べるための食事介助技術という7つの側面で構成されています.それぞれについて章を設けて解説しています.
 「誤嚥性肺炎を発症するかもしれないから(怖くて)口から食べることを敬遠する」,これは常に正しい選択といえるでしょうか? 多面的な評価とこれらすべてに配慮したケアを提供することが,誤嚥性肺炎の予防や治療に最良の効果をもたらすのです.最後の第10章には,臨床現場で使いやすいKTバランスチャートも紹介しています.KTバランスチャートは食支援促進のための多面的評価ツールであり,すでにツールの信頼性や妥当性が証明された科学的なツールでもあります.3つの柱・3つの工夫・食事介助技術をマスターし,KTバランスチャートを用いて多面的で包括的なケアをぜひ実践してください.
 誤嚥性肺炎の予防とケア,そして食べる支援は,高齢者医療と介護・福祉に携わる人々の熱意や知識,技術次第で結果が変わってきます.食べる障害をもつ人や今後食べる機能が低下するかもしれない人への多面的・包括的アプローチを関係者と連携しながらよりよいものにしていきましょう.そして,患者さんの元気で喜びあふれる心からの笑顔を引き出しましょう.きっとご家族も笑顔になることでしょう.それがケア提供者のさらなるやる気や仕事のやりがいにもつながります.すべてがシナジー効果を生みだすのです.

 本書は多くの関係者のお力添えにより完成いたしました.特に,KTバランスチャートの生みの親である小山珠美氏,補綴(入れ歯)のエキスパートであり口腔のサルコペニアをいち早く提唱された藤本篤士先生にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます.
 本書の執筆を始めた直後に起きた熊本地震では,多くの関係者にご支援をいただきました.震災後肺炎を予防するために私たちはチームをつくり,震源地の避難所で発震直後から2週間,多面的・包括的食支援を行うことができました.直接的に,また間接的にサポートしてくださいました全国の支援者の皆さまに深く感謝申し上げます.

 2017年8月
 前田 圭介

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はじめに

第1部 誤嚥性肺炎の予防とケアのための基礎知識
 第1章 誤嚥性肺炎の基礎知識
  ・誤嚥性肺炎とは
  ・誤嚥性肺炎の発症にはさまざまな要因が関与する
  ・誤嚥性肺炎の発症にかかわる要因,さらに詳しく
 第2章 3つの柱・3つの工夫・食事介助法についての総論
  ・誤嚥性肺炎の予防とケアにおける7つの多面的アプローチ
  ・食事介助技術を習得する必要性

第2部 誤嚥性肺炎の予防とケアの3つの柱
 第3章 3つの柱 (1)口腔ケア
  ・口腔ケアは口腔保清と機能的口腔ケアからなる
  ・口腔内細菌について
  ・唾液の役割を知る
  ・義歯不適合の影響
  ・義歯装着と清掃
  ・口腔保清
  ・ケア提供者が行う機能的口腔ケア(口腔のリハビリテーション)
  ・自立している方向けの機能的口腔ケア(1)
  ・自立している方向けの機能的口腔ケア(2)
  ・要介助者への口腔ケア
  ・禁食中の口腔衛生
 第4章 3つの柱 (2)リハビリテーション
  ・リハビリテーションとは
  ・誤嚥性肺炎の予防とケアとしてのリハビリテーション
  ・マンツーマンで行うリハビリテーション
  ・集団で行うリハビリテーション(1)
  ・集団で行うリハビリテーション(2)遊びリテーション
  ・日中の離床
  ・日中の起床
 第5章 3つの柱 (3)栄養管理
  ・脱水と感染症
  ・タンパク質と筋肉
  ・栄養量目標(カロリー)
  ・栄養評価方法あれこれ
  ・リハビリテーション栄養
  ・リハ栄養の実践(1)フレイル高齢者編
  ・リハ栄養の実践(2)要介護高齢者編
  ・リハ栄養の実践(3)寝たきり高齢者編

第3部 誤嚥性肺炎の予防とケアの3つの工夫
 第6章 3つの工夫 (1)食形態
  ・食形態の工夫
  ・調整食の一歩進んだ工夫
  ・食形態の指標あれこれ
  ・とろみ剤・ゲル化剤のあれこれ
  ・義歯調整と食形態
 第7章 3つの工夫 (2)ポジショニング
  ・ポジショニングの工夫
  ・要介護者の座り方
  ・頸部前屈位
  ・頸部拘縮に対するアプローチ
 第8章 3つの工夫 (3)薬剤
  ・薬剤の工夫
  ・悪影響を及ぼす可能性のある薬(1)唾液編
  ・悪影響を及ぼす可能性のある薬(2)その他
  ・よい影響をもたらす可能性のある薬

第4部 食事介助法
 第9章 誤嚥リスクを最小限にする食事介助技術
  ・食事介助技術
  ・食べる環境づくり
  ・食べる姿勢
  ・食器配置と食物認知
  ・食具操作
  ・セルフケア支援
  ・代償法
  ・重度認知症患者の食事介助
 第10章 食支援促進ツール(KTバランスチャート)
  1 食べる意欲
  2 全身状態
  3 呼吸状態
  4 口腔状態
  5 認知機能(食事中)
  6 咀嚼・送り込み
  7 嚥下
  8 姿勢・耐久性
  9 食事動作
  10 活動
  11 摂食状況レベル
  12 食物形態
  13 栄養

索引

COLUMN
 ・誤嚥性肺炎の診断方法
 ・食べたら誤嚥性肺炎が起こるのか?
 ・摂食嚥下運動のメカニズム
 ・リフィーディング症候群に注意
 ・摂食嚥下機能評価
 ・不顕性誤嚥の評価法
 ・評価者によるスコアの違い
 ・多職種チーム3種類

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専門性の枠を超えた実践的なアプローチを明快に可視化した書
書評者: 佐々木 淳 (悠翔会理事長/診療部長)
 在宅医療にかかわるようになって,誤嚥性肺炎の予防とケアの重要性を痛感するようになった。在宅で療養している高齢者の多くは,食事量の減少に始まり,低栄養・サルコペニア・フレイルをオーバーラップしながら,最終的には摂食障害や誤嚥性肺炎で亡くなることが多い。
 もちろんサクセスフルな老衰においても,生命力の低下に合わせて食事量は減少し,摂食機能も低下していく。しかし,実際のところは,より多くの高齢者が,不適切なアセスメントと不十分なケアの結果として,時に食事の楽しみを奪われ,低栄養や誤嚥性肺炎のリスクを増幅させられている。一度,誤嚥性肺炎を発症すると,再発のリスクはさらに高まる。本人のQOLは低下し,ケアはさらに難しくなっていく。
 与えられた生命力の中で,その人のQOLを最大化すること――これは医療やケアの本質的な使命であると思うし,誤嚥性肺炎の予防とケアは,間違いなく超高齢社会における喫緊の最重要課題である。

 誤嚥性肺炎をめぐる現状を考えてみると,問題は大きく2つあると思う。
 一つは,誤嚥性肺炎に対する適切な知識が不足していること。誤嚥性肺炎は食物誤嚥で起こると信じている専門職は少なくない。残念ながらいまだに肺炎の入院治療において一律に食事を止める病院も存在する。誤嚥性肺炎とは何なのか? 誤嚥性肺炎のリスクを減らすために何が重要なのか? まずは正しい理解が必要である。
 もう一つは,多職種によるチームケアが重要であるということ。誤嚥性肺炎の予防とケアは,それぞれの地域や施設における多職種連携の真価が問われる。ケースごとに,さまざまな専門職の知識やスキルを最適に組み合わせながら,それを患者の生活に落とし込んでいくことになる。それぞれの専門職がおのおのの専門性をしっかりと発揮できることは当然だが,自分以外の専門職の役割についても理解しておかなければならない。チーム全体で,目標や課題意識のみならず,課題解決のプロセスを共有しておく必要がある。

 誤嚥性肺炎の予防とケアには,医療・介護のみならず生活全般にわたる支援と工夫が必要であり,専門領域別の情報からは,その全体像を把握することが難しかった。
 しかし本書は,支援のあり方を「3つの柱」(口腔ケア・リハビリテーション・栄養管理)と「3つの工夫」(食形態・ポジショニング・薬剤)の6つに整理し,専門性の枠を超えた実践的なアプローチを明快に可視化している。また,最大の予防策となる日常の食事の支援については,食形態の選択から食事の介助法まで具体的なアドバイスが網羅され,あらゆる栄養状態・摂食機能の人の支援に応用できる内容となっている。単なる専門書ではなく,あくまで「生活を継続する」という視点が貫かれているのも素晴らしい。

 明日からのケアがきっと変わる。一人でも多くの専門職に手に取ってほしい。そして,地域や施設のチーム単位で(できればご家族も含め)本書を活用し,誤嚥性肺炎に対する理解と対応力を高めてほしいと思う。

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