医学界新聞

連載

2017.09.04



ここが知りたい!
高齢者診療のエビデンス

高齢者は複数の疾患,加齢に伴うさまざまな身体的・精神的症状を有するため,治療ガイドラインをそのまま適応することは患者の不利益になりかねません。併存疾患や余命,ADL,価値観などを考慮した治療ゴールを設定し,治療方針を決めていくことが重要です。本連載では,より良い治療を提供するために“高齢者診療のエビデンス”を検証し,各疾患へのアプローチを紹介します(老年医学のエキスパートたちによる,リレー連載の形でお届けします)。

[第18回]ビタミンDをどう使う?

玉井 杏奈(台東区立台東病院 総合診療科)


前回よりつづく

症例

 高血圧,認知症,冠動脈ステント留置で施設入所中の84歳女性のご家族から,「ビタミンD(Vit D)が体にいいと聞いたのですが,母に飲ませるべきですか?」と質問を受けた。どう答えるべきだろうか。歩行器を用いた歩行が30 m程度は可能で,最近一年の間に一度転倒歴があり,腎機能は正常である。施設入所中なので,可能な限り検査や処方は絞りたい。


ディスカッション

◎高齢者のVit D補充にはどのような効果,リスクとベネフィットがあるか。
◎Vit D補充が有益と考えられる患者さんは?

 Vit Dはビタミンであり,体内で生成,活性化されるホルモンである1)。日光曝露によりコレカルシフェロール(Vit D3)が皮膚で生成され,それが肝臓で25(OH)Dへと水酸化されて血流に乗り,腎臓でカルシトリオールという活性型になる1)

 魚や卵などに含まれるVit Dの摂取量よりも,皮膚での日光曝露による生成量の方がはるかに多い1)。日照時間や日光曝露,日焼け止めの使用,皮膚の色素沈着,腎機能などがVit D合成と関連があり,Vit D欠乏はフレイルと関連がある1)。高齢者では日光曝露が減り,肝腎機能が低下することから,摂取量の持つ意味合いがより大きくなると考えられる1)

 適切な血清25(OH)D値に関しては専門家間で意見が分かれてきた。骨軟化症は25 nmol/Lで起こるとされるが,75 nmol/Lまでは血中PTH値の上昇が起きるため,75 nmol/L未満は相対的不足と考える専門家もいる1, 2)。2011年にInstitute of Medicineは,50 nmol/L(=20 ng/mL)あれば97.5%の人で体内の必要量を満たすと発表しており,最近の研究はそれに準じたものが多い3)

 またVit Dの受容体は非常に多くの細胞に存在し,ヒトゲノムの発現にもかかわる。Vit D欠乏は,骨代謝はもちろんのこと,心血管疾患,2型糖尿病,悪性疾患や神経精神疾患とも関連があることが観察研究において示唆されているが,Vit D欠乏がその原因か,はたまた結果なのか,明らかになっているとは言いがたい。一方で補充は安価で低侵襲であるため,その疾患修飾効果が期待されているのである4)

Vit D補充のリスクとベネフィット

全死亡率,冠血管死亡率,がん死亡率
 一般に血清25(OH)D値が低値であると全死亡率,冠血管死,がん死が多いことが用量依存的に認められる。一方で,Vit D欠乏が死亡率上昇の直接の原因なのか,あるいは単純に健康状態の悪いことを示すマーカーであるのかは,注意深く検討しなくてはならない5)

 因果関係があると示唆するデータとして,Vit D3補充により死亡率が6%低下したとするメタアナリシスが存在する5)。補充による死亡率改善の効果は,ベースの血清25(OH)D値が適正な群では認めず,より低値であるほど高い5)。とすれば,Vit D補充によりある程度は状態の改善が図れると推測できる。

 2011年のコクランレビューでは全死亡率改善を目的とした,対象を限定しないVit D投与に関し,明確に推奨できる根拠は不足していると結論付けている3)。がん死亡に関しても現時点では同様のようである4)

転倒
 多くのRCTやメタアナリシスにおいて,筋力やTimed up and go testなどパフォーマンス指標の改善,転倒リスクの低下などが報告されており,特にVit D欠乏群に介入すると利益が大きい1)。また,レジスタンス運動とVit Dを併用することで,相乗効果が狙えるようである6)

骨折予防
 Vit Dの補充による新規骨折の予防効果は,対象や補充量がさまざまでありやや結果が分かれている。傾向として言えることは,Caと併用することや,対象を施設入所者(骨折リスクがより高い)に限定することでその臨床的効果は明確となるようである7)

その他
 糖尿病,うつ病,高血圧,呼吸器感染症,低出生体重率などの改善効果に関する介入研究は結果が分かれているが,介入期間を延長するか,Vit D欠乏群に限った場合には違う結果が出るのかもしれない4)

推奨摂取量と補充の用量

 米国などにおける大規模介入研究は主に天然型のVit D2およびVit D3の補充にて行われており,全死亡率の低下を目的とする場合は,Vit D3低用量(800 IU=20 μg未満)を毎日,Caと併せて投与するのが良いようである。実はVit D3以外のフォーマットでは明らかな効果は確認できない3, 4)

 本邦ではVit D3はサケ,マグロなどの魚やチーズ,卵黄などの食品,あるいはサプリメントの形で摂取可能であり,実は処方薬としては発売されていない。厚労省では若年成人に準じて男女とも220 IU=5.5 μg/日を目安量としているが8),これは日光による生成量を期待しての量である9)。それに対して海外の補充量の推奨は,日光曝露が最低限と仮定しており,高齢者に関してはこちらの値の方が適切なのかもしれない10)。現に,厚労省のデータでは,7歳以上の全年齢層において推奨摂取量をクリアしているとされた一方11),長野県の閉経後女性(平均年齢63.7歳,寝たきりは除外)での前向き研究では49.6%で血清25(OH)D値は50 nmol/L未満であった12)。より高齢の施設入所者などであれば,Vit D欠乏・不足はより多いと考えられ,コストの面からも血清25(OH)D値測定は必須とは言えず,直接補充を開始することも理にかなっている13)

Vit D単独の投与か,Caとの併用か?

 骨粗鬆症の予防・治療を目的にVit DとCaは併用されることが多い。Ca単独での補充は心筋梗塞および虚血性脳梗塞を増やす可能性がありそうである14, 15)。一方でCaとVit Dを併用した場合には,むしろ各リスクは低下する14)

 有害事象に関しては,本邦で医薬品として流通しているアルファカルシドールやカルシトリオール(いずれも活性型Vit D)の補充は,高Ca血症のリスクが3.18倍(95%CI 1.17-8.68, P=0.024)となるので注意が必要である3)。原則的にはVit D3はCaとの併用が望ましいといえるが,わずかだが腎結石のリスクが上がる3)

症例その後

 臨床的にVit D欠乏があると推定。転倒骨折リスクが比較的高く,日光曝露の機会も少ないと考えられることから,Vit Dの投与は適切と考え,ご家族にCaと併せてサプリメントを持参していただいてもよいとお話しした。

クリニカルパール

✓Vit D補充に期待されるアウトカムは複数存在するが,基本的にはVit D欠乏が推測される患者には補充が望ましく,Caやレジスタンス運動との併用が勧められる。
✓寝たきりではない施設入所者(欠乏の頻度が高く,フレイルで転倒骨折のリスクが高い)はよい適応である。


一言アドバイス

●Vit D欠乏症の治療としてはVit Dの補充が勧められる。しかし本邦で流通している活性型Vit Dは一部の肝疾患や腎疾患などを有する患者を除いて,Vit D欠乏症の治療薬としては一般的に用いないことが多い。(狩野 惠彦/厚生連高岡病院)

●サルコペニアにおけるVit D補充は,投与量や投与方法は確立されていないが,運動に補填する効果を期待して副作用が懸念されない場合は積極的に使用するよう心掛けている。(許 智栄/アドベンチストメディカルセンター)

つづく

【参考文献・URL】
1)Biomed Res Int. 2015[PMID:26000306]
2)Osteoporos Int. 2010[PMID:19957164]
3)Cochrane Database Syst Rev. 2014[PMID:24414552]
4)PLoS One. 2017[PMID:28686645]
5)J Nutr 2017[PMID:28539415]
6)BMJ Open 2017[PMID:28729308]
7)Cochrane Database Syst Rev.2014[PMID:24729336]
8)厚労省.日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要.
 http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf
9)厚労省.②ビタミンD.2-2.目安量の設定方法.
 http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042635.pdf
10)厚労省.「統合医療」情報発信サイト.海外の情報 ビタミンD.
11)厚労省.平成27年度国民健康・栄養調査結果の概要.
 http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou.pdf
12)J Bone Miner Metab. 2014[PMID:24061541]
13)Osteoporos Int. 2014[PMID:25023900]
14)J Am Heart Assoc. 2017[PMID:28522672]
15) BMJ. 2010[PMID:20671013]

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