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第3235号 2017年8月7日


【対談】

生産性向上のために医師事務作業補助者をどう活用するか

西澤 延宏氏(佐久総合病院・佐久医療センター副統括院長兼副院長)
矢口 智子氏(金沢脳神経外科病院診療支援部副部長/NPO法人日本医師事務作業補助研究会理事長)


 「患者サポートセンター」の仕組みは全国の病院から注目されている。西澤氏と矢口氏に,患者サポートセンターの導入方法や乗り越えた壁,そこで働く医師事務作業補助者の活用と業務内容の確立に向けた課題をお話しいただいた。


矢口 患者サポートセンターの仕組みには驚きました。医師事務作業補助者と看護師が緊密に連携し,相互に内容を確認するシステムができていますね。

西澤 ここまでに約10年かかりました。当センターのように予定入院患者ほぼ全員の入退院を一元的にマネジメントする病院はまだ少ないです。

矢口 西澤先生が患者サポートセンターの前身となる「術前検査センター」を立ち上げたきっかけは何でしたか。

西澤 東海大のPFM(Patient Flow Management)を見学したことです。当時,東海大では入院前に患者情報を得る部門を,看護師を中心に作っていました。その方法を参考に,医師事務作業補助者によるオーダー代行を当院独自に取り入れました。

成功事例を積み重ねる

矢口 どの病院でも,入退院管理に患者サポートセンターがあるほうが良いと感じます。実は,当院も2011年に同じような仕組みを作ろうと麻酔科医が声を上げたことがありました。でも,いまだにそのような仕組みは作れていません。

西澤 軌道に乗るまでが大変です。うまくいかなかった理由は何でしたか。

矢口 「他職種に任せるのは難しい」と考える医師が多かったことです。

西澤 医師は権限を他職種に委譲するのが苦手ですからね。しかし,他職種ができる仕事を医師が行うのでは,医師の負担が大きい上に,医師が指示を出さないと他職種が動けないという非効率的な体制になってしまいます。医師の意識改革が鍵になります。

矢口 佐久総合病院では,どのように受け入れられたのですか。

西澤 同院には2001年から「日帰り手術センター」があり,看護師に術前管理の一部を担ってもらうという考え方が外科医にはありました。それを広げる形で,入退院管理を他職種に任せる流れができていったのです。

矢口 術前管理を任せるメリットを感じやすい外科から始めたのですね。

西澤 ええ。さらに医師事務作業補助者が業務を代行しやすいよう,医師間でばらばらだった術前管理の標準化に取り組みました。例えば,予定入院でのクリニカルパス使用のルール化。現在,当センターでは緊急入院を含めて,クリニカルパスの使用率は70%以上です。

矢口 標準化を行う上で,医師の反発はありませんでしたか。

西澤 当然,ありました。でも,入院前からMSWが退院調整を始めてくれたり,管理栄養士が食事管理をしてくれたりすることを知る中で,次第に「クリニカルパスを使って患者サポートセンターに任せるほうが,自分と患者さんのためになる」との実感が広まっていったのです。

手術件数増と低離職率で,病院経営的にも成功

矢口 佐久医療センターでは医師事務作業補助者と他職種の協働により,医師の負担軽減だけでなく,病院全体の業務効率化によって生産性が向上していると強く感じました。

西澤 地方の中核病院は医師の確保に苦心しています。その上,地域医療の維持のためには採算性の低い部門でも工夫して経営していかなければなりません。そのため,医師以外ができる業務を他職種が積極的に行い,医師の生産性を上げる必要があるのです。

 2014年に患者サポートセンターができてから,外来の医師の入院マネジメントは使用するクリニカルパスを選び,実施する検査などについての書類記入と最終確認が主になりました。本来業務である診療で患者さんに向き合う時間が増え,手術件数は5455件(2013年度)から,6403件(2015年度)に増加しました。

矢口 当院も医師事務作業補助者が手術・検査の日程調整を始めた2009年,前年の6.3%に当たる年間31件,手術件数が増加しています。

西澤 外科医にとっては,より多くの手術経験を積み,スキルと実績を上げることが働きがいになります。内科医も本来業務に集中できることでモチベーションが高まるでしょう。

矢口 さらに当院では医師からの伝達事項を含めた入院時説明などを医師事務作業補助者が外来で行うことで,結果的に看護師の負担も減らすことができています。佐久医療センターはいかがですか。

西澤 病棟看護師の残業時間は減少しましたね。従来,入院時マネジメントとして病棟看護師の業務だった病歴聴取などを,患者サポートセンターの看護師が入院前に担うようになったからです。事前のリスク管理により,「安心して業務に当たれる」と,看護部は患者サポートセンターを支持しています。看護師の勤務環境改善は数字にも表れ,当センター看護部の離職率は毎年5%程度と低く推移しています。病院経営的視点からも医師事務作業補助者と患者サポートセンターは当センターには欠かせません。

医師事務作業補助者のスキルアップが今後の課題

矢口 医師事務作業補助体制加算が増額されたこともあり,医師事務作業補助者の採用人数は増えています。今後は業務内容の確立が重要な課題になると考えています。

西澤 医師事務作業補助者はまだ発展途上の職種ですよね。部屋にこもって診断書を書くだけの病院もあれば,当センターのようにチーム医療の一員として,医師,看護師,患者さんとかかわる現場もあります。

矢口 チーム医療の一員としての役割を果たすためには,個々の医師事務作業補助者のスキルアップが重要です。日本医師事務作業補助研究会では,病院の特性や個人のスキルに合わせたキャリアパスモデルを作成するなどの取り組みを始めています。西澤先生は,医師事務作業補助者への教育体制についてどのように考えていますか。

西澤 現状は先輩や他職種からのOJT指導がほとんどです。今後は診療情報管理課や医事課をローテートし,現場と各部門を知りながらスキルを上げていく方法も取り入れるべきだと考えています。

矢口 多くの部署で経験を積み,医師事務作業補助者は医療職と事務職をつなぐ役割をも果たしていきたいです。

西澤 私は職員に充実感を持って働いてほしいので,医師事務作業補助者の役割が最終的に患者さんのためになるという実感を得られるよう,配置を工夫していきたいと思います。

矢口 医師事務作業補助者は医師の業務の事務的部分を担い,医師と患者,医師と他職種の架け橋になることが役割だと考えています。研究会では,この意図を込めて,「臨床支援士」という名称の提案や認定資格化の準備を現在進めています。

 チーム医療の中で「支援」という役割を確立し,院内の業務効率化を通して,医療の質向上に取り組んでいきたいです。

(了)


にしざわ・のぶひろ氏
1982年千葉大医学部卒。同年より佐久総合病院にて研修を行う。86年国立がんセンター外科。92年より佐久総合病院外科部長・呼吸器外科医長・研修医教育科医長を務め,2010年副院長・外科統括部長に就任。13年より現職。

やぐち・ともこ氏
山形県立新庄北高卒後,航空自衛隊に無線整備員として入隊,訓練係として隊員の教育に従事。2009年金沢脳神経外科病院長秘書,16年より診療支援部副部長。11年に日本医師事務作業補助研究会を立ち上げ,現在理事長を務める。