医学界新聞

2017.06.26



Medical Library 書評・新刊案内


アクティブラーニングをこえた看護教育を実現する
与えられた学びから意志ある学びへ

鈴木 敏恵 著

《評 者》本田 芳香(自治医大教授・基礎看護学)

看護に求められる創造的思考を成長へと導くアクティブシンキング

 看護基礎教育では,教養科目と専門科目をどのように統合し基盤づくりをしているのか,いわゆる太い幹とそこから伸びる枝葉の伸ばし方が問われている。その中で,学生の主体的な学びを支援するための教育方法は,多様化・多義化されてきていると感じたことはないだろうか。文科省中央教育審議会(2016年8月)では,「主体的・対話的で深い学び」を実現するためアクティブラーニングの視点が学びの質向上に重要であることが示唆されている。

 本書は,著者が長年実績を積み上げてきたプロジェクト学習を基盤とする創造的思考としてのアクティブシンキングを通して,学生の主体性を引き出し,学習に取り組むための方策および未来に向けた看護教育の方向性を示した書籍である。

 第I~IV章では,新たな時代に看護に求められる創造的思考としてのアクティブシンキングと,アウトカムの意味を出すための次世代教育プロジェクト学習が大変丁寧に示されている。著者は,学習者自らが「知の果樹園」と気付き,意志ある学びを継続し成長していくことを叶える教育が必要であるという強い意志が感じられる。読者は,看護教育者として,あるいは看護実践者としてどのような人材を育てようとしているのか,何を教育のゴールにするのか,新たな看護教育の方向性を考える機会としていただければと思う。

 第V章では,看護教育におけるライフタイムマトリックスを活用した新たなカリキュラム構想について,学生の立場に立ち,学生がそれを系統的にとらえることを可能にするため再考性が不可欠であることが述べられている。いかに学生の主体性を引き出し,やってみたいと思うところまで動機付けられる教育ができるのかを考えるヒントが示されている。

 第VI章では,臨地実習での学習の場を生かすためのプロジェクト学習方法として実習ポートフォリオを取り上げている。ポートフォリオは「思考の追体験」を可視化する方法として,臨地実習では特に有効に使えるであろう。臨地実習は学生が最も成長する場である。看護教育にかかわっている者にとって,実習教育の楽しさ,わくわく感を呼び起こしてくれる内容が豊富に盛り込まれている。

 最後の第VII章では,次世代教育の新たなカリキュラム構想にプロジェクト学習を盛り込む提案がなされおり,今後の看護教育の発展性が示されている。

 建築家である著者は,建物の設計からその完成に至るまでのプロセスのように,プロジェクト学習を創り上げている。その点から,教育の普遍的な知を求めていると言えるであろう。学際的分野から教育にかかわる方には必読である。本書により,看護教育をさらに高度な次元にもっていくための次世代教育プロジェクト学習を理解することで,学生の主体的な学びへつながる新たな看護教育の方向性を切り拓くきっかけとなろう。

B5・頁248 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02385-6

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