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第3223号 2017年5月15日


Medical Library 書評・新刊案内


リスクアセスメント力が身につく
実践的医療安全トレーニング

石川 雅彦,斉藤 奈緒美 著

《評 者》後 信(九大病院医療安全管理部長/日本医療機能評価機構執行理事)

著者の豊富な研修経験が体感できる

 医療安全管理の業務は,日々の地道で着実な業務の継続が重要であるが,多忙な医療現場にあって,スタッフの不足や,特に医師の協力が得難い場面もあるなど苦労も多い。わが国には8000を超える病院があり,その規模や特徴は,地域のニーズなどに応じて実にさまざまである。そこで,医療安全管理の内容も基本的な事項の他に,自施設でさまざまな取り組みが工夫されている。そのような活動を行うためには,全国的な研修による知識や技術の習得,情報交換,人的ネットワークの形成などの支援が有効である。

 著者の石川雅彦先生と斉藤奈緒美先生は,地域医療振興協会地域医療安全推進センターにおいて,“医療安全管理者養成研修”の企画,運営に長く従事されている。研修会では,全国からさまざまな規模,性質の医療機関の医療安全担当者が参加され,実りの多い研修となっている。両先生は,そのような研修を通じ,医療機関のニーズやそれに応える情報の内容,適切な媒体などを長いご経験から熟知されているお二人である。

 そしてこのたび,医療安全の書物を著されたと伺い早速手にとって拝見した。実践的な書物である。私なりに本書の特徴を挙げてみたい。

①「ルールが守れない,協力が得られない……」といったよくある悩みに答える「マニュアル遵守を促す」(p.3)「“対話力”育成トレーニング」(p.20)という項目が冒頭に記述されている。研修会において把握してこられたニーズを優先順位付けした上で,それに応える内容となっている。
②実際に発生した事例を活用して記述されている。日本医療機能評価機構が運営する医療事故情報収集等事業は,医療機関から法令に基づいて医療事故を報告していただき,分析して背景要因や再発防止策を示している事業である。同事業が公表している事例データベースから教育的な事例を多く見つけ出して活用されている。
③グループワークを目に見えるように学ぶことができる。施設内の医療安全の研修では座学が多くなり,一方向性の研修になりがちである。グループワークによる双方向性の研修を行うことは,職員の意識を高め,関心を呼ぶことにつながる。
④「“なぜ・なぜ”分析」などの事例分析が学べる。石川先生は,根本原因分析をはじめとする事例分析の経験が豊富であり,そのご経験から得た教訓が盛り込まれている。本書を読むと,あたかも研修中のような円滑な流れの中で分析が身につく感覚が湧く。
⑤院内で講義,研修をするためのスライドが提供されている。巻末にスライドをダウンロードするための手続きが示されている。本書の内容を職員に浸透させるために,少ないスタッフがスライド作成にかける時間を省くことができる。

 このような実践的な資料とも言える本書が,多くの医療安全関係者の手に届くことをとても喜ばしく思う。ぜひ手に取ってご覧いただき,日々の実務のお役に立てていただきたい。

B5・頁288 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03012-0


耳鼻咽喉科・頭頸部外科レジデントマニュアル

伊藤 壽一,大森 孝一 監修
楯谷 一郎 編

《評 者》香取 幸夫(東北大教授・耳鼻咽喉・頭頸部外科学)

耳鼻咽喉科診療の流れを臨床に即してコンパクトに整理

 耳鼻咽喉科の学会において京大耳鼻咽喉科・頭頸部外科の先生方の発表を拝聴して常に羨望することの一つに,各症例の治療経過の記録が適切に要約されていることが挙げられる。耳疾患から頭頸部腫瘍に及ぶいずれの領域においても,病歴,初診時所見,診断,保存的治療,手術といった一連の流れがとてもよく整理されているのである。その教室で行っている臨床指導(モーニングセミナー,イブニングセミナー)を凝集した本書を一読させていただき,なるほどこのようなセミナーを定期的に行い研修医や学生,メディカルスタッフをご指導されているのか,と感銘を受けている。

 内容に少し触れてみたい。本書は全8章と付録から構成され,最初の2章は診察の総論である。第1章は「所見のとり方」で,耳,鼻,口腔,咽頭・喉頭,頸部の診察について簡明かつ十分に要約されており,学生のOSCEから専門医の一般診療のレベルまで対応できる内容である。第2章は「主訴からみた診療の流れ」で,ここでは耳症状,めまい・平衡障害,鼻症状,頸部腫脹といった16項目の訴えに対して,「まずやるべきこと」「診療の流れ」「想定される主な疾患」が順に整理されている。耳鼻咽喉科・頭頸部外科で扱う疾病の症状が遺漏なく順に述べられており,新患外来や救急で診察を進める上でとても参考になる内容である。

 第3~7章は,耳,鼻副鼻腔,口腔・咽頭,喉頭,頭頸部の順に,「検査法」「疾患」「代表的な術式と周術期管理」がそれぞれ述べられている。コンパクトな体裁であるにもかかわらず,どの項目にも代表的な内視鏡,CT,MRIの画像所見やスキーム,図表が視認性よく挿入されていてわかりやすい。おのおのの章で検査,疾患,手術の項目が独立していることで,実際の診療の予習や確認に用いる際に探しやすいと感じる。第8章は,耳鼻咽喉科の治療のうち大きな比率を占める感染症に対する治療を独立して扱っている。特に抗菌薬の選択や投与法について実践的な記載が多い。最後の18ページは付録に費やされており,頭頸部癌,甲状腺癌のTNM分類や各疾患に対するガイドライン・指針に加え,耳鼻咽喉科専門研修プログラムが紹介されている。耳鼻咽喉科・頭頸部外科のキャリアパスを提示し,重要であるが専攻医が減少傾向にあるこの領域に,多くの学生や初期臨床研修医を招こうとする意欲的な記載である。

 全体を通して,本書は診療の予習に,また診療中に迷ったときにまず頼りになるコンパクトな教科書であり,自室や家で通読することでも効果的な勉強ができる一冊である。医師国家試験をはじめとする資格試験の対策にも有用と思う。京都大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の学生・スタッフ教育のエッセンスが集約された素晴らしい書であり,これから臨床に臨む多くの学生やレジデントに薦めたい。

B6変型・頁432 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02526-3

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