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第3223号 2017年5月15日


めざせ!病棟リライアンス
できるレジデントになるための㊙マニュアル

ヒトはいいけど要領はイマイチな研修医1年目のへっぽこ先生は,病棟業務がちょっと苦手(汗)。でもいつかは皆に「頼られる人(reliance=リライアンス)」になるため,日々奮闘中!!……なのですが,へっぽこ先生は今日も病棟で頭を抱えています。

[第12話(最終話)]
人生のフィナーレ
その見送りは,“最期”にふさわしいですか?

安藤 大樹(岐阜市民病院総合内科・リウマチ膠原病センター)


前回よりつづく

 病棟から「先生,今モニターの波形がフラットになりました」とへっぽこ先生のPHSに連絡が入りました。誤嚥性肺炎後の廃用で長期入院していた92歳のAさんです。3週間前から徐々に状態が悪化しており,ご家族にもその事実は何度も説明しています。ご高齢の奥さんは認知症のため十分に理解できていなかったようですが,かいがいしくAさんのお世話をしていた三男ご夫婦にはしっかり理解してもらっていました。あいにく今日はどなたの付き添いもなく,ご家族が病棟に来られるのは30分後だそうです。「Aさん,頑張りましたよね。ご家族も受け入れられていたようですし,“大往生”ですよね」と,看護師さんも感慨深げです。

(へっぽこ先生) そうだよね。今日はいらっしゃらないけど,ご家族も最期までしっかり介護されていたし……本当に良いご家族だからねぇ。
(セワシ先生) ご家族のケアを含めて,へっぽこ先生もしっかりやってくれたよね。もしかしたら,主治医の僕より信頼されているかもしれないよ。よかったら,最期の説明と死亡確認やってみない? きっとご家族も喜ばれるよ。
(へっぽこ先生) え,でも今までそんなことやったことありませんよ。第一,そんな重要なことを研修医の僕がやっていいんですか?


 患者さんの死を家族に告げること――,臨床現場の医師にとって最も重要な場面の一つです。でも,実際に皆さんが接した死の場面は,思ったよりもあっさり(というより事務的)ではありませんでしたか? 人生の最期が決まる瞬間は生まれた日と同じくらい,むしろそれ以上に重く尊い日のハズ。でも,生まれる瞬間は皆で大喜びするのに,亡くなる瞬間はさらっと終わっていくのが現実です。本当にそれでいいのでしょうか? 今回は,実際に死亡確認をする場面の流れに沿ってお話ししますね。

ご家族を呼ぶ際の気遣いも忘れずに

 初めからベッドサイドにご家族がいらっしゃる場合はいいのですが,状態悪化時にご家族を呼び出すときには注意が必要です。「○○さんの状態が悪化しました! 急いで来てください!」なんて電話が突然掛かってきたら,誰だって取り乱しますよね。特に夜中にそんな連絡があったら大パニックです。かといって「大丈夫だとは思いますが,とりあえず来てください」では,来院後のトラブルの元です。「突然の連絡で申し訳ありません。○○さんの状態がかなり悪くなっており,亡くなられる可能性もあります。詳細は来院後に説明いたします。できる限りの対応をさせていただきますので,慌てず,気を付けてご来院ください」といった連絡をしましょう(可能であれば連絡は医師からすることが望ましいです)。

病状説明は全員がそろってから

 ご家族が一人来院したら説明,次の方が来院したらもう一回説明,では十分な急変対応ができません。また,個別の説明ではそれぞれの解釈も変わりやすく,ご家族がお互い精神的なサポートをするのも難しくなります。「皆さまが来院されたら説明いたしますので,そろわれたらスタッフにお声掛けください」という一言が重要です。説明する際は,その後のトラブル防止や精神的ケアのために,担当看護師や経験豊富な看護師に同席してもらうほうがいいでしょう。そして,つい忘れがちですが,スマートフォンや院内PHSなどの音は消しておいてください(特に年配の方の中にはこうした媒体に対して不快感を持たれる方もいらっしゃいます)。

 説明を始めるときのポイントは,最初に「これから残念な話をしなければなりません」といった一言を,落ち着いた口調で伝えることです。実際,“良い知らせ”を伝える場合より“悪い知らせ”を伝えるほうが,患者さんの不安レベルが大きく上がるとの報告1)もあります。最初にこの一言を伝えておくことで,ご家族に事実を受け止める“隙間”ができます。極力専門用語を使わずに説明するのは普段のインフォームド・コンセントと同様ですが,特に気を付けたい言葉が“急変”です。われわれが無意識のうちに使っているこの言葉,あらためて言うまでもなく業界用語です。話すときは声のトーンを極力落とし,いつもよりゆっくり話しましょう。あとは相づちやオウム返しを駆使して……って,もうわかっていますよね(第10話/第3215号参照)。

死亡確認に正解はない

 一般的には「呼吸停止(呼吸音の確認)」「心拍停止(心音の確認)」,「瞳孔散大・対光反射消失」を死の三徴候としていますが,これは法律的な決まりではありません。もちろん,心電図の平坦化も必須ではありません(心電図モニターのある環境なんて限られていますからね)。「何時何分に亡くなられました」といった死亡時刻の通達も,義務ではありません(これは,テレビドラマの影響だと思います)。結論から言えば“死亡確認に正解はない”が正解です。あえて正解を提示するとすれば“可能な限り患者さんの尊厳が守られ,かつご家族が死を受け止められるもの”です。個人的には,多少大げさで演技的でもいいのではないかと思っています。

 まず,聴診器,ペンライト,時計(携帯電話やスマートフォンで死亡時刻を確認するのは論外です!)を用意し,服装を正して静かに入室しましょう。初めて会うご家族がいる場合は名前と立場を伝え,死亡確認をする旨を伝えます。前述の通り死亡確認の手順に正解はありませんが,一つひとつの行為を“ゆっくり”“丁寧に”行ってください。確認が終わったら“一呼吸置いて”亡くなった事実を伝えます。伝える際は,「死亡確認をさせていただきました」といったわかりやすい言葉を使いましょう(そのほうが受け入れる側もスムーズです)。よく「ご臨終です」という言葉が使われることがありますが,“臨終”とは死を迎える“直前”の状態を表しますので,厳密には間違いです。また,死亡時刻を伝える義務はないと言いましたが,ご家族にとっては大切な情報ですので,個人的にはお伝えするべきだと思います。妻や夫など濃厚なキーパーソンがいるときは「もしよろしければお持ちの時計で確認させていただくこともできますよ」なんて言葉も効果的かもしれません。

 死亡確認後はご家族の中にさまざまな感情が渦巻き,病室が重い沈黙や嗚咽などに支配されることがあります。医療者にとって居心地のいい空間ではありませんし,「何か気の利いたことを言わなきゃ!」と焦ってしまうかもしれません。でも,何も言う必要はありません。黙礼だけでも結構です。とにかく,ご家族の反応を精一杯受け止め,共感的な態度を取ってください。

泣いても……いい?

 死亡確認後,少し時間を置いて,再度ご家族のところを訪ねてください。そうしないと「死んだ後は何もなしか!」と誤解を生みかねません。ここではできることなら“ご家族に掛ける一言”を用意していったほうがいいでしょう。「よく頑張られましたね」「最期は苦しくなかったと思います」「以前奥さまに対してこんなことをおっしゃっていましたよ」など,どんな言葉もご家族が死を受け入れる助けになります。こうした場面で医療者側が思わず涙を流してしまうことがありますが,これも個人的にはアリだと思います。死亡診断書を渡すときに「診断書には××という病名を書かせていただきました」と伝えてください。おそらく,ご家族は後から他の方々に死因を聞かれると思いますので。そして非常に大切なのが,残された方々に対する“Grief Care(悲嘆の見守り)”です。「大切な方が亡くなられると,少し時間がたってから体調を崩されることもあります。何かありましたら,遠慮なくおっしゃってくださいね」といった一言を伝えれば,きっとご家族の心の支えになると思います。

 一年間にわたり,拙文にお付き合いいただきありがとうございました。偉そうなことを書き連ねてきましたが,実はへっぽこ君は研修医時代の私です(ちなみに,セワシ先生は現在の私)。私自身の失敗を参考に,ぜひ皆さんは“頼られる人(リライアンス)”になってくださいね。

セワシ先生の今月のひとこと

人生の最期が決まる瞬間は,生まれた日と同じくらい尊いハズ! 多少大げさでもいいので,最期にふさわしい瞬間を演出しよう。患者さんの大切な人生のフィナーレを飾るための,確かな医者力(イシャヂカラ)を持ったリライアンスをめざしましょう。

(了)

【参考文献】
1)Sco Sci Med,2001[PMID:11676404]

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