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第3212号 2017年2月20日


目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第9回]液性免疫低下と感染症①

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科医幹)


前回からつづく

 今回から「液性免疫低下と感染症」について説明していきます。液性免疫は獲得免疫の一つであり,B細胞や形質細胞によって産生される抗体(免疫グロブリン)が担う免疫を指します。「液性免疫低下の感染症」は4つの免疫の壁の中で,最も注意を払うべき感染症と言えます。なぜなら,数時間単位で病状が進行し,命の危険にさらされることが多いからです。

 液性免疫低下を語る上で,脾臓摘出(脾摘)は切っても切り離すことができません。今回は脾摘患者における感染症を中心に見ていきましょう。

脾臓の役割とは1)

 脾臓は体内で最大のリンパ器官であり,血液の濾過・貯蔵をはじめ,非常に重要な免疫機能を担っています。特に,免疫グロブリンを産生するB細胞の約半数を脾臓が有するため,まさに液性免疫の「主役」と言っても過言ではありません。

 ここで少し復習をしましょう。自然免疫の一つである「バリア」をかいくぐって体内に侵入してきた微生物は,「好中球」や「マクロファージ」に貪食されます。その際,多くの微生物は補体や免疫グロブリン,また,脾臓由来のtuftsinやproperdinなどに覆われることで,より効率的に貪食されやすくなります。これをオプソニン作用と言います。ところが微生物の中にはこのオプソニン作用を受けにくいものがいます。そう,莢膜を有する微生物です。莢膜を有する微生物については,次のような覚え方がありましたね。

Some Nasty Killers Have Some Capsule Protection(ひどい殺し屋の中には,莢膜による防御を持つものがいる)」

S:Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)
N:Neiserria meningitidis(髄膜炎菌)
K:Klebsiella pneumoniae(クレブシエラ)
H:Haemophilus influenzae(インフルエンザ桿菌)
S:Salmonella typhi(腸チフス菌)
C:Capnocytophaga canimorsus(カプノサイトファーガ・カニモルサス)/Cryptococcus neoformans(クリプトコッカス・ネオフォルマンス)
P:Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)

 脾臓はIgMメモリーB細胞(IgM memory B cells)から自然抗体(natural antibodies)を産生することで,これらの莢膜を有する微生物を除去してくれているのです。

脾摘患者に要注意!

 脾摘患者では,①脾臓由来の免疫グロブリンやtuftsin,properdinによるオプソニン作用が受けられない,②IgMメモリーB細胞から自然抗体が産生されないことにより,莢膜を有する微生物に対する免疫が著しく低下します。

 では具体的に症例を見てみましょう。

症例
 62歳男性。20年前,胃がんに対して胃全摘出術および脾摘術の施行歴あり。予防接種は特に受けていない。今回は来院2日前から感冒様症状あり。来院当日に悪寒戦慄を伴う39℃の発熱および意識障害が出現したため救急車で搬送。全身状態不良。意識レベルJCS II-30,血圧84/55 mmHg,脈拍数124/分,呼吸数30/分,体温39.3℃,SpO2 95%。大量補液でも血圧は保たれず昇圧薬使用。

 頭痛,羞明,咽頭痛,呼吸困難,胸痛,腹痛,嘔気・嘔吐,下痢,尿路症状,関節痛・筋肉痛なし。口腔内乾燥,四肢に網状皮斑あり。その他,頭頸部,胸部聴診,背部,腹部に明らかな異常なし。白血球数13,000/μL,ヘモグロビン13.1 g/dL,血小板数46×103/μL,クレアチニン1.4 mg/dL,尿素窒素23 mg/dL,AST 64 IU/L,ALT 55 IU/L,PT-INR 1.80,APTT 56.3。尿中肺炎球菌抗原陽性。胸部単純X線写真で明らかな異常なし。

 症例は脾摘後患者の敗血症性ショックですね。このような病態を「overwhelming postsplenectomy infection;OPSI2)」と言い,日本語では「脾臓摘出後重症感染症」と訳されます。病名に「overwhelming(圧倒的な)」という形容詞を付けて重症感を強調しているのが印象的です。発症率は100人年当たり7件程度とされており3),最も多い起因菌はやはり肺炎球菌で全体の60%程度を占めますが,インフルエンザ桿菌や髄膜炎菌なども重要な起因菌となります4)。何より脾摘患者や脾機能低下患者では常にOPSIの可能性を考え,各種培養を採取した後,速やかに広域抗菌薬を投与する必要があります。

 この症例では直ちにバンコマイシンとセフトリアキソンを投与しました。結局血液培養からペニシリン感受性の肺炎球菌(Penicillin-susceptible Streptococcus pneumoniae;PSSP)が検出されたためペニシリンGに変更して治療を継続し無事回復されました。

OPSIを予防するには

 米国感染症学会(IDSA)5)および米国予防接種諮問委員会(ACIP)6)では,脾摘患者に対して肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,髄膜炎菌に対する予防接種を推奨しています。

●肺炎球菌
PCV-13およびPPSV-23
予定脾摘術:
 1)PCV-13を接種
 2)8週間以上あけてPPSV-23を接種(ただし手術の2週間前までに)
 3)5年ごとにPPSV-23を接種
緊急脾摘術:
 1)手術後にPCV-13を接種
 2)8週間以上あけてPPSV-23を接種
 3)5年ごとにPPSV-23を接種
●インフルエンザ桿菌
5歳以上であればHibを1回接種(未接種の場合)
●髄膜炎菌
2歳以上(未接種の場合)
予定脾摘術:
 1)手術前にMCV-4を接種
 2)5年ごとにMCV-4を接種
緊急脾摘術:
 1)手術後にMCV-4を接種後,8~12週あけて再度MCV-4を接種
 2)5年ごとにMCV-4を接種

 ちなみに,日本で脾摘患者に対する保険適応があるワクチンはPPSV-23のみです。また,髄膜炎菌については,日本は流行地域ではないこと,また,日本で使用できるワクチンMCV-4(メナクトラ®)は日本の分離株であるB型をカバーしていないことに注意が必要です。

 今回は「液性免疫低下と感染症」,特に脾摘患者のOPSIとその予防についてお話ししました。OPSIは数時間単位で病状が悪化していくため,早期診断と迅速で適切な治療が必要であることを強調しました。次回は,どのようながん種,化学療法によって「液性免疫低下」が起こるのかを解説することにしましょう。

つづく

[参考文献]
1)Lancet. 2011[PMID:21474172]
2)N Engl J Med. 2014[PMID:25054718]
3)Am J Med. 2006[PMID:16490477]
4)Br J Surg. 1991[PMID:1933181]
5)Clin Infect Dis. 2014[PMID:24421306]
6)MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2012[PMID:23051612]

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